2010年12月2日木曜日

AT


アスレティックトレーナー(AT)でもオートマ免許(AT)でもありません.
無酸素性作業閾値(Ananerobic Threshold: AT)のことです.

先日,大学院時代の先輩から電話があり,勤めている施設(健康運動教室などを行なっている)の利用者から 「自分のATを測定したい」 と言われたそうです.
設備が無いその施設としては何か概算・推定することができる方法はないか?と質問を受けました.


「ありません」
と答えました.

無いので.

と同時に,ATに関する知見がまだまだ世間には浸透していないので,ここでちょっと紹介したいと思います.

実はこの “AT” という概念ですが,最近は使わなくなってきています.
“無酸素性作業” という作業そのもの自体がありえないのです.
常にヒトの身体活動には酸素の利用が伴います.

たしかにエネルギー供給過程には有酸素系と無酸素系がありますが,それはあくまで「供給過程」,つまり「エネルギーの生産方法」に有酸素系と無酸素系があるだけのことで,ヒトという一生命体が生み出す活動・作業に有酸素・無酸素の区別があるわけではありません.

ちょうど,日本の電力供給を火力・水力・原子力などで同時にまかなっていることと同じです.
電気をあまり使っていない時は水力で,たくさん使い始めたら原子力が稼働する,ということがありえないことと一緒です.


無酸素性作業閾値の測定方法としてLT(乳酸性作業閾値)を用いることが多いのですが,最近はこれについても少しばかり解釈が変わってきています.
「 LT = AT 」として解釈されることが多いのですが,これは乳酸が産生され始めるポイントは無酸素性作業が始まったことを示すものと思われていた経緯があるからです.
しかし,実際には乳酸の産生は無酸素性作業が始まったことを意味しません.

上の図を参考にして読んでください.
酸素摂取量は運動強度に対して直線回帰を示すことは周知の事実です.
つまり,有酸素作業能力は最大運動強度下において初めてピークを迎えるわけで,もし無酸素性作業閾値なるものが存在するのであれば,酸素摂取量はLT (AT) 付近でピークを迎えなければおかしいことになります.

そうならないということは,別の要因がLTを決定することになります.
その要因とは,使用する筋線維のタイプです.

運動強度が低い場合,そこでは遅筋線維が優位に活動を行っています.
遅筋線維は有酸素性エネルギー供給を主に使用しますので,遅筋線維が優位に活動する運動強度では乳酸の蓄積は起こりません.

運動強度が高まってくると,速筋線維が活動を始めます.
速筋線維は解糖系エネルギー供給を主に使用しますので,ここから乳酸の蓄積が始まるのです.

すなわち,LTは無酸素性作業が開始された運動強度というよりも,速筋線維が活動を始めた運動強度という解釈の方が理にかなうのです.

スポーツ科学では「LTが改善する」という表現をよく耳にしますが,これは遅筋線維での活動でまかなえる運動強度の水準が高まったことを意味するのです.

無酸素性作業やATという表現はまだまだ利用されていますが,徐々に使わない方向に変わってくるはずです.