2012年11月8日木曜日

秋の思想

今日は書籍の紹介です.
河原宏 著『秋の思想』

著者の河原宏先生は本書を執筆中に亡くなられており,その遺稿をまとめる形で出版されたものです.
その遺稿をまとめた一人である中野剛志氏が,とあるインターネットの動画で紹介していたので購入してみました.

販売直後に購入したのですけど,急ぎ読むタイプの本ではないようで,ゆっくりと今日までかけて読み進めてきました.

10人の歴史的人物を取り上げ,河原先生なりの視点で人物像を解説するというもの.
特に参考になったのは「三島由紀夫」の章です.
他の人物をあまり知らないから,というところもありますが.

以前に読んでいた小説,三島由紀夫『豊饒の海』シリーズの完結編である『天人五衰』の解釈について,本書が大変参考になったのです.

普通に読んだだけでしたら,そのストーリーとクライマックスにただ衝撃を受けてポカーンとなっていただけでしたが.
三島由紀夫が「天人五衰」に込めた想い,というところが垣間見えたような気がします.

この「天人五衰」を書き終わったあと,三島由紀夫は有名な「三島事件」を起こし,自殺します.
それだけに,この「天人五衰」で表現していることは,三島由紀夫が自殺に至るまでの「考え」を汲み取るヒントがあるとされています.


「豊饒の海:天人五衰」のネタバレ部分もあるので,以下,注意して読んでください.

「天人五衰」の舞台となったのは戦後日本(1970年~1975年),高度経済成長に向かうまっただ中.
ちょうど,三島由紀夫が自殺した時代です.

河原先生は述べます.

第四巻「天人五衰」は表題もそうだが,中身も偽物の孤児安永透と,財力にまかせて彼を養子とし,なんとか転生した本物の主人公に仕立てようとする本多繁邦の目をそむけるような情態に,腐食した現実を表意している.金の力で,どこまでも偽を真に,ホンネをタテマエに作り変えようとするのがその現実だった.

ただ何も考えず小説を読んでいた時には気づかなかったのですが.
つまり,戦後日本の正体を,三島由紀夫はこのように表現したのですね.

第一巻から第三巻までを読んでいれば,登場人物と出来事やテーマの連続性に気づかされ,小説それ自体にある連続性以上の衝撃を受けます.

戦後,日本は「本物」や「当然あるべき姿」を見失っている.
戦後復興を遂げ,世界をリードする経済力はつけたかもしれない.
しかし,「国としてのあるべき姿」を金の力で無理やり取り繕っているのが,戦後日本.
それは「本当のあるべき日本の姿」ではない.

そういうヒントを得た時,物語のラストで綾倉聡子が松枝清顕について,
「その松枝清顕さんという方は,どういうお人やした?」
と主人公(本多繁邦)と読者の両方を混乱させるところの意味が,なんとなくですが伝わってきました.

つまり,こういうことではないでしょうか.

あの時代(明治~大正)のことを,日本人はすでに忘れている.
あれだけ正統で,皆が愛してやまなかった戦前の日本について,日本人は無視を決めこんでいる.
それは私(三島由紀夫,そして分かっている人)にしてみれば,
「何をトボけているんだ,知ってるはずじゃないか!あの日本のことだ!」
と言いたくなるようなこと.
でも,どうやら多くの日本人は本当に知らないようだ(もしくは,知らないふりしかできないのか).

そんな戦後日本の姿に,三島由紀夫が選んだのは,市ヶ谷駐屯地における憲法改正とクーデターを促す演説.
そして割腹自殺だったのでしょう.