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F2後継機の国産開発断念に見える日本の研究者事情

先日出てきたニュースですが,あまり取り上げられていないので意外です.
これのこと↓
F2後継機の国産断念へ 防衛省、国際共同開発を検討(朝日新聞2018.3.5)
防衛省は2030年ごろから退役する航空自衛隊の戦闘機F2の後継機について、国産開発を断念する方向で最終調整に入った。今週中にも米政府に対し、日本が必要とするF2後継機の性能に関する情報要求書(RFI)を提出し、米企業からの情報提供を求める。防衛省は今後、国際共同開発を軸に検討を進めるが、米国製の最新鋭ステルス戦闘機F35Aを追加購入する代替案もある。
ちょうど1年前に「国産か?共同開発か?」ということで話題になっていたのですが,その決定がそろそろ出る頃だと思っておりましたところ,どうやら共同開発することで決定したようです.
国産を期待していた日本の航空機ファンや,ウヨク系の方々はがっかりしていることでしょう.

これについては,もちろん小野寺防衛相は否定しており,お定まりに産経新聞が報じています.
「国産断念との事実はない」F2後継機開発で小野寺五典防衛相(産経新聞2018.3.6)
小野寺五典防衛相は6日の記者会見で、航空自衛隊のF2戦闘機の後継機に関し、同省が国産開発を断念したとの報道について「現時点でどのような判断を行うかは何ら決まっておらず、国産開発を断念したという事実はない」と述べた。防衛省が米国や英国の企業に行った情報提供依頼(RFI)は「さまざまな情報を収集する一環で、決してこれをもって国内開発を断念したことが決まったわけではない」とも強調した。
そりゃそう答えるしかないですからね.
建前としてはその通りなのでしょうし.

ですけど,「国産は断念するらしいよ」って話題が出て来るにはそれなりの理由があるわけで,産経新聞以外の朝日・読売・毎日の見解は同じです.
例えば読売新聞はこんな感じ.
F2後継機、国産断念へ…採算面で疑問視する声(読売新聞2018.3.6)
防衛省は、航空自衛隊のF2戦闘機の後継機について、国産開発を断念する方向で調整に入った。複数の政府関係者が明らかにした。防衛省は国内防衛産業の技術力を維持する観点から国産開発の可能性を探っていたが、巨額の予算がかかることなどから、今後は国際共同開発を軸に検討を進める。
国産の断念はまだ決定していないけど,共同開発もしくはF35の追加購入でほぼ間違いない.つまり,国産開発は無いと言っていい.というのが進捗状況なのでしょう.

実際,2030年を目指しているのであれば,共同開発ですら怪しいものです.
ウィキペディアなんかで現代戦闘機を調べてみたら分かることですが,開発開始から就役までにはだいたい20年か,それ以上かかっています.
例えば,現在現役の戦闘機では,
F2(日本):計画1982年,初飛行1995年,就役2000年
F22(アメリカ):計画1985年,初飛行1990年,就役2005年
ユーロファイター(欧州):計画1983年,初飛行1994年,就役2003年
Su34(ロシア):計画1980年代,初飛行1990年,就役2007年
J20(中国):計画1990年代,初飛行2011年,就役2017年
といったところです.

そう考えますと,2030年にF2の後継機とするには今から「開発」してる場合じゃないとも言えるわけで,「F35の追加購入」が最も現実的な選択なのかもしれません.

って言うか,戦闘機を開発するには約20年ほどかかるというのが常識的なスケジュールなのだとしたら,2010年には計画開始してなきゃいけなかったはずなんですよね.

で,その「計画」と目されていたのが,X2計画(通称「心神」)です.
X2(wikipedia)
実際,ウィキペディアにも紹介されているように,「平成27年度概算要求では「F-2の退役時期までに、開発を選択肢として考慮できるよう、国内において戦闘機関連技術の蓄積・高度化を図る」ものとしている。」とされています.
2010年に提案されていた「i3Fighter(wikipedia)」にも,「F-2の後継機として2022年から2031年の間に初飛行予定」とされていました.
ということは,一応,2010年頃から計画は動いていたということにはなる.
今からはじめて,初飛行だけなら5〜10年くらいあればなんとかなりそうです.

ただ,X2はあくまで「将来の国産戦闘機に適用できる先進的な要素技術を実証するために開発されたステルス研究機(wikipediaより)」であって,次期戦闘機を開発するために作られたものではありません.
実際,「F2後継機国産断念」のニュースに対し,ネットでは「F2後継機の開発と,X2研究は別物だろ」といったコメントも見られました.

つまり,X2はF2後継機のためのプロジェクトではないことは百も承知の上で進んでいたものだったわけです.
逆に言えば,事実上,F2後継機開発は全くの手付かずでここまできたということ.
ということは,今年中に計画の目処をたてて,2019年開発開始,2030年頃に初飛行,2040年頃に就役という予定でしょうか.

ところで,上述している年度概算要求のところの,
「F-2の退役時期までに、開発を選択肢として考慮できるよう、国内において戦闘機関連技術の蓄積・高度化を図る」
という文章ですが,いかにも「お金をもらいたいための文章」だなぁって感じます.たぶん,これを書いた人もそんなつもりだったと思う.

私達も「研究計画書」とかで書くことですが,「我々が取り組んでいることは,単なる研究のための研究ではなくて,実はすぐに役立てられる研究なんですよ」ってことで,何の関係もない事と結びつけてアピールしなきゃいけない衝動にかられます.
昨今の日本の研究者が患っている病ですね.

おそらく,X2に携わっている研究グループや担当官僚も,そんなつもりで報告書や予算要求をしていたものと察せられます.
彼らにしたら,これはあくまで航空機研究のプロジェクトであって,次期戦闘機を作るためのものではない.けど,政府とか世論の期待に応えなきゃ仕事が無くなるからってことで,捻り出した理由が「もしかするとF2後継機になるかもね」っていうアピールだったんじゃないかなぁ.
もちろん単なる妄想ですけど,だいたい合ってると思います.

けど,私が危険視したいのは,そういう「なぁなぁ」のゆるい調子で次期戦闘機開発が進んでいたことそれ自体です.
そんなんだから,X2のウィキペディア記事の記述にもあるように,「防衛省内でF-2の後継機をどんな戦闘機にすべきか意見集約ができていない」ということになっている.
とにかく「なんとなく凄い戦闘機ができたらいいな」って感じで進めてきたんでしょうね.
誰もが生産的に動けていない.
これは,研究開発する上で,もっとも危ない状態です.