2018年6月30日土曜日

井戸端スポーツ会議 part 54「やっぱりスポーツは社会を投影する」

何度か「井戸端スポーツ会議」と称して書いてきたテーマに「その社会の有り様はスポーツに表出する.または,スポーツへの取り組み態度が社会に影響する」というものがあります.
例えば,以下の記事でそんなようなことを書いてきました.
井戸端スポーツ会議 part 9「スポーツ分析のような選挙分析」
井戸端スポーツ会議 part 25「戦争に負けた国(日本)がとるべき態度」
井戸端スポーツ会議 part 44「スポーツの精神が大切なわけ」

サッカー・ワールドカップに湧いている日本.
そこで,やっぱり日本の現状を象徴するかのような一幕がありました.
もともとサッカー・ワールドカップは,その国民性が現れると言われることもあり,今回の一件はとても興味深いものです.
その出来事とは以下のようなもの.
日本の“時間稼ぎ” 「フェアプレーに反する」 ポーランドで批判相次ぐ(産経新聞 2018.6.29)
サッカー日本代表が28日のワールドカップ(W杯)ロシア大会ポーランド戦終盤で時間稼ぎに終始したことに対し、ポーランドのサッカー界からは試合後に「フェアプレーに反する」などと批判が相次いだ。
主に1970年代に活躍した元代表選手のルバンスキさんはテレビで「最後の10分間はひどかった」と日本代表を酷評。決勝トーナメント進出のためにボール回しを続けた日本代表からボールを奪おうとしなかったポーランド代表にも「がっかりした」と語った。
また、同国サッカー協会のボニエク会長も同じテレビで「リードされている日本代表が自ら負けを選んだ。こんな試合は初めてだ」と指摘。「試合とは呼べない内容だった」と批判した。
どうしてそんな事態になったのかというと・・・,
日本が決勝T進出 警告の差でセネガル上回る(毎日新聞 2018.6.29)
同組のもう1試合でコロンビアがセネガルを1-0で降した結果、日本はセネガルと得失点差、総得点で並び、直接対決も引き分けだったが、警告数の差で上回って2位となり、2010年南アフリカ大会以来、2大会ぶり3度目の1次リーグ突破が決まった。
つまり,同時刻に行われていた試合「セネガル vs. コロンビア」において,セネガルはコロンビアに負けるだろうと予測し,危険なプレーに出される「警告」の数で勝負しようと考えたからです.

これが「フェアプレーポイント」と呼ばれるシステムです.詳細は以下の通り.
フェアプレーポイント、W杯で初適用 日本とセネガル(朝日新聞 2018.6.29)
28日に日本がポーランドに0―1で敗れ、セネガルもコロンビアに0―1で敗れた結果、日本とセネガルは勝ち点4、得失点差0、総得点4で全て並んだ。大会の規定では、次に順位決定の基準になるのは直接対決の結果だが、日本とセネガルは第2戦で2―2で引き分け。その次の基準となるフェアプレーポイント(FPP)が初適用された。
FPPは①イエローカード(警告)がマイナス1点②警告2回によるレッドカード(退場)がマイナス3点③一発退場がマイナス4点④警告を受けた上で一発退場がマイナス5点、と定められている。1次リーグ3試合での日本は警告4、セネガルが警告6で、減点が2点少ない日本が2位に入った。
「フェアプレーに徹しなかったチームが『フェアプレーポイント』によって予選突破するとは,これいかに?」
という想いがサッカーファンにはあるのでしょうね.
いえ,私もそう思います.

はっきり言って,今回の日本代表チームがとった戦略は誉められたものではありません.
スポーツの勝負としては最悪の判断です.

もちろん,これには擁護したり称賛する意見もあるわけでして.
今回の采配はルール違反ではないとか,これが問題なら,こういうルールになっていることを批判するべきだとか.
勝つことに徹するのが,最高峰の舞台であるワールドカップであり,プロスポーツ選手・監督の在るべき姿だろうという声は多いものです.
っていうか,日本国内のネットニュースの論調を見る限りでは,これがかなり多いんです.

ただ,それを言い出したらスポーツの魅力はなくなっていくんですよね.
「ルールに反していないからOK」というのは,まともな人間の考え方ではないし,それがスポーツでまかり通るようになったらお終いです.

これを本記事のタイトルに重ねて言い換えるならば,現在のサッカー日本代表,そして日本社会も「ルールに反しない中で,強欲な手法により利益を得ようとする」状況にあることを示唆しています.

「どうしても本戦に進みたかった」という気持ちは痛いほどわかるし,言い訳としても成り立ちますが,そうやって得た勝利は,今後の日本のサッカー・レベルを衰退させる転機になった可能性があります.
なぜなら今回の一件は,日本のサッカー少年たちの心に「勝ち上がるための方略」のお手本として,しっかり刻まれたであろうからです.

常々,学校教育における「部活動」の勝利至上主義が批判されています.
勝つためには下劣な作戦や戦略もいとわず,選手の安全や人権を損なう行為・判断がなされる場面が多いからです.
その最たる例が,あの「高校野球・甲子園大会:松井秀喜選手全打席敬遠問題」だったりするのでしょう.

日本のスポーツ界全般で言われているのが「ジュニア時代には高いパフォーマンスを発揮するが,それ以降が衰退する」というものです.
諸外国と比べて,各スポーツ種目の競技人口はとても多いのに,そこからトップレベルの選手が現れる数はとても少ないんです.
しかも,トップレベルの選手が出てきたとしても,得てしてそういう選手は,海外留学によって芽が出ていたりする.

あと,審判やレフェリーに対する態度もいただけないですね.
昔から日本のスポーツ界の課題として言われていることですが,この点はまだまだ後進国です.
ヨーロッパ出身の人からもお聞きしたところ,日本のスポーツ現場で驚くのは,審判やレフェリーに対し文句を言う選手や指導者が多いことです.
間違ってほしくないのは,「文句,罵倒」と「抗議,異議申し立て」は違うということ.
そして,文句言うにしても節度と程度があることです.
「文句言うくらいなら,抗議すればいいのに」というのがその人の話でしたが,日本の指導者や選手に,この違いが理解できているかどうかが極めて怪しい.

審判に対する暴行も横行していますし,そもそも,プロ野球ではそういった風景が「珍プレー」としてテレビで笑いをとっていた時代もありました.
指導者が審判やレフェリーを尊重する態度をとっていないから,ベンチで「あの審判はバカだ」などと生徒・選手の前で口走っているのかもしれない.
それだけならまだ良いのですが,試合中にも面と向かってクレームや文句を言い出す指導者もいます.
その結果,生徒・選手も審判やレフェリーを尊重しなくなり,文句言ったり暴行する生徒・選手も出てくるのは当然のこと.
それもこれも,勝利に対する手段を選ばない態度と,それを是認する社会的風潮が生んでいます.

自戒の念も込めて言えば,端的に言って,現代日本のスポーツの戦い方は「せこい」んですよ.
姑息で付け焼き刃な戦略を立てて,勝つためのその場しのぎのプレーに終始.
結局,その試合では勝つけど,成長が頭打ちになってしまう.
そのスポーツ種目の醍醐味を味わうことや,より高いパフォーマンス・ステージへの展望は二の次になり,逆に,「勝つことがスポーツの醍醐味」とか「競技力を高めればスポーツが楽しくなる」などと言ったりする.

私が思うに,今回のワールドカップでの日本のパス回し戦略を擁護する声が少なくない現状は,「勝つためにどうすればいいのか?」をスポーツ教育で徹底してしまう癖がついてしまった,日本社会の成れの果てだろうということ.

つまり,なんだか「パフォーマンス・アップ」を簡単に捉えているようなんだけど,その視野は狭く,スパンも短い.
しかもその狭い領域での短いスパンで,スコア(お金とかステータスとか)を稼ぐことに躍起になっている.
まさに現代日本でしょう.

しかもその戦略の何が哀しいって,「他人の能力や判断に依存して利益を得る」というものだからです.
そしてこれも,現在の,それもかなり以前からの日本の国際的立場と同じではありませんか.
「良い子」を演じていれば,ご褒美が得られるだろうというメンタリティ.それが性根まで染み付いた.

いえ,昔はそれをそれとして受け取られないよう隠してやっていました.
でも,現在は堂々と「仕方ないじゃん」ということにしている.
どっちが良い悪いの話で言えば,どっちも悪いんですけど,強いて言えば後者には意気地がない.
最近はどっかの国の大統領に,自国の拉致被害者奪還のお膳立てをお願いしてましたね.

だいたい,今回話題になっているプレーは,下劣以外の何物でもありません.
なぜって,もしセネガルがコロンビアから1点取って追いついたら,日本のグループリーグ敗退が確定するわけですよね.同時刻に行われていた試合なので,既に確定した試合結果を元にした戦略ではないのです.
つまり,あの場面での「時間稼ぎのパス回し」というプレー選択とは,「セネガルはコロンビアに勝てない」ことを表明・宣言したことと同義ということになります.こんな無礼なことがあっていいわけがない.
完全に「スポーツへの侮辱」であり,サッカーをバカにした行為なのです.

ほら,そこにはサッカーの醍醐味とか,より質の高いプレーを発揮したいという情動がないでしょう?
そういう戦略を是認する社会に,将来はないと言っても過言ではありません.
これはサッカー日本代表の選手・監督ではなく,その代表チームを作り育て,送り出している我々の問題です.

サッカー日本代表には,決勝トーナメントで良い結果を出してくれることを期待したいのは山々なのですが,戦績よりも前に,あの「時間稼ぎのパス回し」を払拭するような姿を見せてほしいものです.

2018年6月17日日曜日

歴史的ということらしい米朝首脳会談(の補足)

歴史的ということらしい米朝首脳会談から一週間が経とうとしています.
会談のすぐ後に書いた記事が以下でした↓
歴史的ということらしい米朝首脳会談
その後,いろいろと続報が入ってきたので,これを交えて会談を再検証してみたいと思います.

上記の記事の趣旨としては,その冒頭に書いたとおり・・,
(今回の会談について)我々としては,アメリカと北朝鮮の間で交わされる話に一々反応していてもしょうがない.両者はお互いにとって都合がいいことを話し合うわけですから,その他の国々の将来について考慮するわけがありません.
肝心なのは,この会談が日本にどのように影響するのか? ということ.そこだけ考えてればいいんです.
ということで,その上で今回の会談については,
今後,日本にとって本当に危険なのはアメリカからの要求だと私は思います.
そりゃもちろん,アメリカは今までも危険な国でしたが,今後の北朝鮮問題では,明確に日本と韓国を「囮」もしくは「餌」として使ってくることは目に見えています.
(中略)
「北朝鮮の暴走」をロシア,中国,そして北朝鮮自身が押さえ込み,逆にアメリカはそれを望むという構造が始まった.
実際,今までもそうだったわけですけど,これまでと違うのは,アメリカがそこで日韓をこれまで以上に「餌」として利用するようになったことにあります.
もちろん絶対的な自信があるわけじゃないですが,子供の頃から見聞きしてきた国際政治に関するニュースのパターンから察するに,上記みたいなことになるのだろうと私なりに心構えをしているところです.

政治的駆け引きの当事者(国家元首とか官僚とか)ではないので,私達としては裏事情のみならず,表事情すら分かりません.
ですから,物事の評価は私達の身に降り掛かってくるものやリスクからでしか判断できない.
であれば,今回の会談の結果は日本や日本人にとって非常にヤバいものではないかと捉えたくなるわけです.

過去記事にもしましたが,「この話の裏には日本が大逆転するシナリオがある」とか「今回の合意は罠を仕掛けたようなもの」,もしくは「ジャブを打っただけ」などといった,自分の世界観に沿ったような希望的観測はしないほうがいいでしょう.
「じゃあ,代わりは誰かいるのか?」の愚
まだ言ってる「じゃあ,代わりは誰かいるのか?」
我々一般人は一般人らしく,そのまま受け取ればいいんです.
あっち(政治家)だって,そのまま受け取られることを前提で話してんだから.余計な詮索するだけバカバカしいと思いますよ.

逆に,これまでの国際政治において,報道されていることとは異なる流れになったものなどあったのでしょうか? マスメディアによって「情報」や「雰囲気」は捻じ曲げられることはあっても,「事実」は変えようがない.
例えば,日本は戦中に朝日新聞(笑)などが「情報」を捻じ曲げて報道したとされていますが,玉砕(全滅)や転進(撤退)といった「事実」の報道はされていたわけで,それによって「日本は追い込まれているな」と読み取った人もたくさんいたんですよ.
いわゆる「大本営発表」とその報道によって,日本は世論誘導されたと言われていますが,いくらなんでも全てのジャーナリストを統制できるわけじゃないし,国民皆が騙されるわけじゃないから,多くの人が「報道されている情報は嘘だ」と気づいていたわけで.
大本営発表(wikipedia)
報道されている情報の枝葉を取り払って「幹」を眺めてみれば,多分それが最も客観性のあるものですよ.

さて,今回の米朝首脳会談にまつわるニュースがこの週末にも出てきました.
前回記事で述べたことを補間するようなものだと思いますので,いくつか紹介します.
例えばこちら.
トランプ氏、安倍首相に「日本に2500万人のメキシコ移民送れば君は退陣」(AFP通信 2018.6.16)
欧州連合(EU)の職員によれば、トランプ大統領は欧州にとって深刻な問題となっている移民問題に言及した際、安倍首相に対し「晋三、君はこの問題を抱えていないが、私なら日本に2500万人のメキシコ人を送り出すことができる。そうすれば君はあっという間に退陣することになる」と語った。
恫喝ですか? そうですか.
G7サミットは米朝首脳会談の前,6月8日9日に行われていました.
で,恫喝した結果,こうなったんですかね?
“非核化”費用は日韓で支援を~トランプ氏(Yahooニュース:NNN 2018.6.12)
初の米朝首脳会談を終えたトランプ大統領が会見し、北朝鮮の非核化にかかる費用はアメリカではなく韓国と日本が支援すべきとの考えを示した。
そして,我が国の首相はこんな事を言い出しました.
北非核化で首相「日本が費用負担するのは当然」(読売新聞 2018.6.16)
首相は「核の脅威がなくなることによって平和の恩恵を被る日本などが、費用を負担するのは当然」と語った。「拉致問題が解決されなければ経済援助は行わない」とも述べ、経済援助と非核化費用の負担は区別して考える意向も示した。その上で拉致問題の解決に向け、「最終的に私自身が北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長と日朝首脳会談を行わないといけない」との決意を改めて表明した。
恫喝されたから「費用負担するのは当然」などと言い出したんじゃないか? などと解釈したいわけでないのです.

事実1:アメリカのトランプ大統領は,日本を意のままにできると恫喝した
事実2:アメリカは北朝鮮の非核化を日韓にやらせるつもり
事実3:北朝鮮の非核化費用は,日本も出すべきと安倍首相は考えている
という,ただそれだけのこと.
それ以上のことを推察しても,本当のところは知りようがないですから.

我々一般人は,それをそのまま受け取ればいいと思います.
つまり,別に「アメリカに恫喝されたから,日本は非核化の費用負担をさせられる」わけでも,「もともと日本は,北朝鮮にとって財布のような存在である」というわけでもない.
「北朝鮮の非核化費用は,日本も出すべきと安倍首相は考えている」ということを,どのように捉えるのか? ということです.

ところで,安倍首相が「費用負担は当然」だと考えていることは別に自由だとしても,それだと困った点が一つあります.
安倍首相は2018年1月にこんなことを言っている.
対話のための対話は意味がない 安倍晋三首相が強調(産経新聞 2018.1.26)
安倍晋三首相は26日午前の参院本会議での代表質問で、朝鮮半島情勢をめぐり「(韓国)平昌五輪の成功に向けて最近、南北間で対話が行われていることは評価するが、その間も北朝鮮は核・ミサイル開発を継続している」と述べた、その上で「北朝鮮が非核化の約束をほごにして、核・ミサイル開発を進めてきた経緯を踏まえれば、対話のための対話では意味がない」と強調した。
ということは,日本の安倍首相は,日朝間における非核化交渉を進める以前に,さらには今回の米朝会談より以前に,もともと非核化の費用負担は日本がすべきだと考えていたことになります.
ってことは,つまり「日本が費用を出してあげるから,非核化してくれ」という日朝会談をするつもりだったってことでしょ? 対話のための対話ではなく,お金を出すための対話がしたかったということ.それってどうなのよ?
もちろん,これは「安倍首相がトランプ大統領に恫喝された結果」ではない場合の推測ですけど.

米朝会談はアメリカと北朝鮮だけでなく,その周辺諸国の思惑が交錯するところでもあります.
中国もその一つです.
前回記事でも述べましたが,北朝鮮問題については,中国とロシアが猛烈に関与してくることは間違いありません.それも,どっちかって言うと支援側で.
実際,そんなタッグを組んでいる様子がわかるニュースがありました.
米韓軍事演習中止の要求、習氏が正恩氏に促す 5月上旬(朝日新聞 2018.6.17)
中国・大連で5月上旬に開かれた中朝首脳会談で、中国の習近平(シーチンピン)国家主席が北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長に対し、米韓合同軍事演習の中止を米国側に求めるよう促していたことが分かった。中国外交筋が明らかにした。今月12日の米朝首脳会談の場で、トランプ米大統領は正恩氏の要求に理解を示したとされ、中国の思惑が反映された形だ。
これについては,私の推察では,アメリカ側にも「北朝鮮を対象とした軍事演習」を続ける理由が薄れてきたというのが実際のところだと捉えています.
むしろ,軍事演習を辞めたほうが,北朝鮮が韓国と軍事衝突してくれるかもしれない,といったところでしょうか.先に南北で紛争を起こしてくれた方が,アメリカが介入しやすいですから.

だとすると,中国がこのタイミングで「タネ明かし」をしたのも,北朝鮮と通通の関係を公表するためのものでしょう.
仮にそうじゃなくても,そうであることが分かる公表です.
北朝鮮側としても,それを明かされたところで困らないのでしょうし,中国としても今はアメリカと経済戦争の真っ最中ですから,アメリカに中指立てる目的で公表した可能性もある.

なお,ロシアはすぐに動いていました.
ロシアのプーチン大統領は14日、北朝鮮序列2位の金永南最高人民会議常任委員長とモスクワで会談し、9月に極東ウラジオストクで開く「東方経済フォーラム」に金正恩朝鮮労働党委員長を招待した。
これからしばらくは,ロシアと中国が北朝鮮を支援して,南北軍事衝突を回避する入れ知恵をし,且つ,アメリカが簡単に介入してこないように威嚇する状態が続くものと思います.

最後に,冒頭でも示しましたように,前回記事では「今後,北朝鮮は日韓に対し優しくなるだろう」という話をしましたが,それを示す可能性のあるニュースが入ってきたので紹介しておきます.
北朝鮮最前線の長距離砲撤去問題 南北が協議開始(聯合ニュース 2018.6.17)
韓国と北朝鮮の軍事当局が、軍事境界線(MDL)付近に配備された北朝鮮の長距離砲の撤去問題について協議を始めたことが17日、分かった。複数の政府筋が明らかにした。
(中略)
北朝鮮側は韓国側が提示した案に対する立場を表明したとされる。「相互主義」を掲げ、韓国軍と在韓米軍も同一の措置を取るべきだとしながらも韓国側の提案に拒否感を示さなかったという。
ほらね.やっぱりこういう流れになる.
前回記事で述べましたが,これは北朝鮮がアメリカに恫喝されたわけでも,融和されたわけでもないと思います.
南北の軍事衝突の危険性を低下させて,アメリカが軍事介入してくる口実を減らしているものと推察されます.もちろん,そこは私の個人的な推論ですけど.

そう考えると,近い将来行われるであろう日朝首脳会談も,少しは日本側に花を持たせてくれる可能性も高いですね.
首相、総裁選への意思表明は「セミの声がにぎやかな頃」(朝日新聞 2018.6.16)

ただ,一方の北朝鮮メディアはかなり批判的なようでして.
北朝鮮「拉致問題すでに解決」 国営ラジオで日本を批判(朝日新聞 2018.6.16)

とは言え,実際に会談したらどうなるか分かりませんから.
日本にとって北朝鮮問題について「進展があった」と解釈されるものを提供してくれる可能性はあると私は予想しています.

逆に,全く日本にとって実りのない会談だとすると,それはそれで厳しい現実を突きつけられるものになるでしょう.
ちなみに,そっちの可能性のほうが私は高いとみていますけどね.

だって,「南北軍事衝突からのアメリカ介入」の可能性は結構高いけど,日朝軍事衝突の可能性は極めて低い.っていうか,ほぼゼロでしょ?
北朝鮮としては,日本は放置プレイしとけば問題ないと考えるのが普通でしょうから.
あり得るとすれば,日本に対する工作活動が沈静化する可能性はあります.
下手に手を出して,余計なトラブルを起こさない方が良いと考えるのが自然というものです.

2018年6月14日木曜日

歴史的ということらしい米朝首脳会談

最近のニュースがこれ一色です.
なので本ブログでも取り上げてみることにしました.

歴史的とされる今回の米朝首脳会談ですが,誰にとって「歴史的」なのか,そこが私には興味深いところです.
ちなみに,この米朝会談は「北朝鮮にとって有利な内容で合意した」などと評価されるのを目にしますが,そんなことはこの際どうでもいいのではないかと思います.
なぜなら,アメリカにしたって自分たちに都合のいい条件で合意したに決まっています.

我々としては,アメリカと北朝鮮の間で交わされる話に一々反応していてもしょうがない.両者はお互いにとって都合がいいことを話し合うわけですから,その他の国々の将来について考慮するわけがありません.
肝心なのは,この会談が日本にどのように影響するのか? ということ.そこだけ考えてればいいんです.

会談直後のニュースがこちら.
北朝鮮有利で合意したという解釈は,以下のような点から導かれています.
北朝鮮、非核化を約束 声明に具体策盛らず(毎日新聞2018.6.12)
両首脳は米国が北朝鮮に「安全の保証を提供」し、北朝鮮は「朝鮮半島の完全な非核化に対する揺るぎない約束を再確認」する共同声明に署名した。しかし、日米韓が求める北朝鮮の「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化(CVID)」は言及されず、非核化協議のスタート地点に立ったとの位置付けにとどまった。
あれだけ「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化(CVID)」に拘っていたのに.
あっさり抜け落としたんですね.

「完全な非核化」と表現されていますが,でもこれは例の「CVID」ではなく,「CVIDになることを目指す(ただし,時期については今後検討)」という,極めて曖昧で適当な内容なのです.
その一方で,「CVIDになることを目指す」ことに合意する代わりに,北朝鮮は「安全の保証」を受け取ったわけでして.
つまり,北朝鮮としては「非核化に向けたポーズ」さえしていれば,アメリカからの軍事行動を回避できることを意味します.故に北朝鮮大勝利ということ.

上記のニュース記事にはこうもあります.
会談後の記者会見でトランプ氏は「完全非核化には技術的に長い時間がかかる」と述べた。両国は今後も合意の履行のための協議を継続することになっており、来週にもポンペオ国務長官やボルトン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)が非核化の詳細について、北朝鮮側と協議するという。
(中略)
トランプ氏は記者会見で、非核化に向けた具体的なスケジュールや方策が定められなかったことについて「時間がなかった」と述べた。ただ、金委員長が会談で、ミサイルエンジンの実験場を破壊すると約束したと説明。「これは大きなことだ」と指摘した。
結局のところ,トランプ大統領は中間選挙に向けた「外交成果」が欲しかったということでしょうか.その見方をしている人は結構多い.
中にはトランプがノーベル平和賞を狙っていると邪推する向きもあります.

もちろん北朝鮮は非核化なんかしないわけで.
今後は隠蔽と時間稼ぎの手段を考えることに全力を注ぐだけ.
「非核化するのに予算が足りない」「作業するための人員が割けない」などと言い訳することは容易に想像できます.
(もちろん,そうやって非核化するために何かしらに取り組んでいることをもって,北朝鮮の安全は保証される)

そもそも,アメリカは朝鮮半島を非核化させたい差し迫った理由はありません.
あくまで,アメリカ本土に到達できる弾道ミサイルが問題になっているわけです.
だからトランプは記者会見で「ミサイルエンジンの実験場の破壊」という点をアメリカ国民向けに強調したのだと思います.

案の定,アメリカは半島の「非核化」に積極的ではないようで.
“非核化”費用は日韓で支援を~トランプ氏(Yahooニュース:NNN 2018.6.12)
初の米朝首脳会談を終えたトランプ大統領が会見し、北朝鮮の非核化にかかる費用はアメリカではなく韓国と日本が支援すべきとの考えを示した。
―Q.非核化への費用は誰が支援する?
トランプ大統領「韓国と日本が支援するだろう。彼らは支援しなければならないと分かっている。アメリカが支援する必要はない」
トランプ大統領はこのように述べ、北朝鮮の非核化には韓国と日本の積極的な関与が必要との考えを示し、アメリカはその費用を支援しないと述べた。
たぶんこれは,北朝鮮が「是々云々の理由で,非核化できない」と言い出してきた時に,その理由を日本と韓国の支援が適切ではないからだと言い訳したいためでしょう.
っていうか,繰り返しますがアメリカは朝鮮半島を非核化する差し迫った理由がないですからね.
「韓国と日本に対処させる」というのが最も妥当・正当な判断でしょう.
そこで軍事衝突を発生させれば,その時にアメリカは遠慮なく韓国と日本の支援を口実とした軍事行動が起こせますから.

なお,アメリカが北朝鮮に軍事攻撃を加える可能性は非常に低いと私はみています.
そして今回の米朝会談によって,その可能性は極めてゼロに近くなった.
金正恩の暗殺を狙った「斬首作戦」もできないでしょうね.国交正常化に向けて握手した国家元首を暗殺するというのは,さすがに現代では難しいミッションです.

そもそも,アメリカが北朝鮮を軍事攻撃することによって,韓国と日本の都市が大ダメージを喰らうことは容易に想定されていました.
世界的な経済都市を抱えていて,さらに種々の文化遺跡を擁する日本と韓国に甚大な被害を出しながら,それでも北朝鮮を攻撃する理由がアメリカには無いのです.それに,日本と韓国にはアメリカ人をはじめ,たくさんの国の人達がビジネスや観光客として在留しています.
そこが中東とは大きく違う点です.

ちなみに,北朝鮮としては,可能であれば韓国を併合させたいと考えているでしょうから,壊滅的被害を与える最優先ターゲットは日本の都市に決まってます.
北朝鮮が相手(つまり,アメリカ軍)を打ち負かせることができない自覚は当然あるでしょうから,となると相手に攻撃を思い留まらせる課題を与えればいいわけです.それが「日本の都市を破壊する」というもの.これは現時点の北朝鮮の軍事力でも十分に可能と考えられています.

よく,ウヨク系の人たちから「北朝鮮なんて日本の自衛隊でも十分に勝てる.ましてやアメリカ軍なら1日で戦闘は終結する」といった評価がされますが,ターン制ゲームのチェスや将棋じゃあるまいし,こっちが攻撃したと同時に相手も反撃できる条件にあるのだから,こちらの被害も予定しておかなきゃいけません.
そりゃあ軍事的な戦闘に「勝利」はできるのでしょうけど,無傷じゃない.その被害範囲に耐えられるだけの覚悟が日本にあるのか,ということ.
無いでしょう?

北朝鮮問題における最大の難点は,その周囲に日本と韓国という軍事的に脆弱な経済都市があるということです.
アメリカには,現在の日本と韓国の経済的役割を犠牲にしてでも得たい「極東の安定」なんぞありはしない.
日本と韓国が発展途上国であれば,簡単に攻撃の決断をするかもしれませんけどね.

逆に言えば,日本と韓国に経済的役割(ようするにATMとしての機能)がなくなれば,アメリカや反北朝鮮勢力としては北朝鮮を潰しにかかるチャンスということになります.
だからトランプ大統領は「北朝鮮の非核化にかかる費用は日本と韓国が出せ」と言っている.

私の予想としては,今後,アメリカは日本と韓国に北朝鮮問題に関する無理難題を強烈に押し付けてくると思います.
そして,何かの拍子に軍事衝突を起こすよう仕向けるはずです.私がアメリカ側ならそうするから.
きっと今後は,北朝鮮の軍が「勝手に暴走した」というトラブルや事件が頻発するでしょう.
トランプ大統領が発言した「在韓米軍の撤退」や,今日の「米韓軍事演習の中止」っていうのも,そのスケジュールの一環ではないでしょうか.これで北朝鮮の軍が暴走しやすくなりますからね.

つまり,今回の米朝首脳会談とは,北朝鮮としてはアメリカの軍事的圧力を回避して,金正恩体制の維持を得て合意.
一方のアメリカは,北朝鮮に軍事的圧力をかけない代わりに,アメリカ向けの弾道ミサイル配備を頓挫させることで合意.今後は北朝鮮のことは日本と韓国に対処させて,そこで軍事衝突が起きたら介入してやろうという算段かもしれない.
逆に北朝鮮としては,日本と韓国との関係をうまくやることによってアメリカの介入の口実を作らせないことが方略となります.具体的には,日韓に向けた軍の暴走だけはなんとしても防がにゃならん.

もっと端的な話として言い換えれば,アメリカは日韓と北朝鮮の間で軍事衝突が発生するよう裏工作し,北朝鮮はその挑発に乗らないように日韓との友好ムードを見せる努力をするはず.
だから,今後,北朝鮮は日本と韓国に対し「とても優しくなる」し,一方のアメリカは日本と韓国に「とても厳しくなる」というのが私の見立てです.

冒頭,「肝心なのは,この会談が日本にどのように影響するのか考えること」と述べましたが,今後,日本にとって本当に危険なのはアメリカからの要求だと私は思います.
そりゃもちろん,アメリカは今までも危険な国でしたが,今後の北朝鮮問題では,明確に日本と韓国を「囮」もしくは「餌」として使ってくることは目に見えています.

最後にロシアや中国についてですが,彼らも非常に難しい局面になっていると思います.
というのも,彼らにとって北朝鮮とは,西側勢力と対峙するための緩衝地帯として位置づけているわけですから,アメリカに制圧されることがあってはならないわけです.
つまり,アメリカが軍事介入して当然だと受け取られるような事態は避けたい.
なので当然,今後は北朝鮮への支援は強化されるわけですけど,それによって北朝鮮に「日韓に向けて高圧的態度がとれる」と思わせてはいけないわけで.

となると,ロシアや中国としては「平和的支援」と銘打って,北朝鮮の経済面を改善することを狙うと思います.
実際,今さっき入ってきたニュースがこちらです↓
9月の正恩氏訪ロ招請=プーチン氏、北朝鮮序列2位に(時事通信 2018.6.14)
プーチン露大統領に金正恩氏の親書 露国連大使「制裁緩和は当然」(産経新聞 2018.6.14)

「北朝鮮の暴走」をロシア,中国,そして北朝鮮自身が押さえ込み,逆にアメリカはそれを望むという構造が始まった.
実際,今までもそうだったわけですけど,これまでと違うのは,アメリカがそこで日韓をこれまで以上に「餌」として利用するようになったことにあります.

2018年6月9日土曜日

井戸端スポーツ会議 part 53「サッカー日本代表2」

「2」というくらいですから,「1」もありました.
もう4年前なんですね.
井戸端スポーツ会議 part 3「サッカー日本代表」
前回大会の時に書いた記事でした.2014年になります.

サッカー日本代表に関する話題がないものだから,すっかり今年がワールドカップの年であることを忘れていた今日このごろ.
ところでどこで開催するんだっけ? あぁロシアか.

そんな感じだったところに,代表監督であるハリルホジッチの解任劇によって,一気にサッカー日本代表のニュースが増加.
関心が高まって良かったですね.
むしろ,日本サッカー協会としてはサッカー・ワールドカップの話題作りのためにワザと燃料投下したのではないかと思うくらいです.だとすれば非常に高度なテクニックですね.

サッカー日本代表が普段どんな評価を得ていたのか知らないんですけど,ここ最近の体たらくぶりにサッカー・ファンが怒り心頭であることが窺われます.
直近の話題としては,5月31日のガーナ戦で惨敗し,昨日(6月9日)のスイス戦でも完敗だったとのことで.
ワールドカップ直前のこの状況で,ワールドカップに出場できなかったガーナに手も足も出なかったことから,日本代表を見限るコメントに溢れかえっている状態です.

まあまあ,皆さん落ち着きましょう.
過去記事でも書いたことを繰り返すことになりますが,あれからたった4年しか経っていないし,メンバーや新戦力も大きく変わっているわけじゃないので,同じことが言えると思います.
そんなわけで,詳細は■井戸端スポーツ会議 part 3「サッカー日本代表」を読んどいてください.

まず,「日本代表はアジア枠だからワールドカップに出場できているだけで,世界にはもっと強いチームがいる」というのはその通りです.実際,ガーナの方が日本代表より強いのでしょう.もしかするとスイスより強いかもしれない.
でも,そんなことを言い出したらキリがありません.サッカー・ワールドカップのルールに則って出場できているのだし,これはチャンスなのでそれを活かすことを考えればいいだけのこと.

しかもサッカーは,他のスポーツ種目と比べて大番狂わせが起きやすいとされています.
逆に,テニスやラグビー,バスケットボール,あとは格闘技なんかが番狂わせが起きにくいですね.
一般的に,「ミス」をしないことが競技の前提となるスポーツ種目では,選手の実力差・技量差が表出するので番狂わせが起きにくいのです.
例えばテニスでは,得点することに有利なサーブ側がゲームを取るのが普通で,それを崩せばブレークと呼ばれる状況になります.選手の能力が拮抗している場合,このブレークはサーブ側のミスやアクシデントによって起こることが多いのです.バレーボールでもそうですよね.こちらはサーブ側が不利になるので,それをひっくり返した方が勝利することを意味します.

一方のサッカーでは.ボールキープにしてもトラップにしても,パスもシュートもミスすることが普通です.だから,自分の能力を出し続ける中で,相手のミス待ちをするスポーツではないんですね.お互い,常にミスをしているのですから.
言い換えれば,サッカーではミスをできるだけ減らすことよりも,ミスすることを恐れずに,ゴールの確率が高いと考えられる「最適解」のプレーを繰り返す,いわば「パチンコ」みたいなプレースタイルが求められるんです.

お互い得点できる確率が低い中で,その最適解だと考えられるプレー(つまり,ゴールマウスまでのボール運び)を何度も展開できたかどうかで点差と勝敗が決まります.
故に,実力が高いとされるチームであっても,たまたまミスが続いてしまうと前評判とは違う結果が現れてしまうこともあるわけで.
ましてや代表選手が集まるような国際試合では戦力差に大きな偏りがなくなりますから,大番狂わせが発生するというわけです.

なので,サッカー・ワールドカップは日本代表がどれほど弱かろうと,優勝できてしまうかもしれないスポーツなのです.
もちろん代表選手は頑張ってプレーしないといけないことに違いはありませんが,もしかすると優勝できるかもしれないのですから,温かく見守っていこうではありませんか.

世界トップレベルで活躍する代表チームはまだまだ先のこと.
地道に気長にいきましょう.

なお,サッカー日本代表チームにおける根本的な戦力向上については,過去記事に書いているのでそっちを読んでください.
井戸端スポーツ会議 part 3「サッカー日本代表」
井戸端スポーツ会議 part 7「ジュニア世代の育成」

ところで,私もそれらの記事を読み返してみたんですけど,なんだか現在のサッカー日本代表を取り巻く状況は,そこで述べていたことから遠退いているように思えます.
むしろ,日本人は日本代表チームを貶めているのではないか,そんな気分にさせられるんですよ.

そういう意味では,やっぱりサッカー日本代表はマズイ状態なのかもしれませんね.
だけどそれは,彼らサッカー選手がというよりも,我々日本人が,という意味で.
スポーツは,その国の今を映し出します.
サッカーも例外ではありませんから.


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2018年6月8日金曜日

体育学的映画論「万引き家族」

例のパルム・ドール受賞作.

今日が公開初日.
ちょうど都内で仕事があったので,その帰りにレイトショーで観てきました.

ネットでは,本作の監督をした是枝裕和氏がウヨクから嫌われていることもあって,「きっと反日サヨク映画に違いない」と,公開前からネガキャン三昧だったことでも有名な作品です.

実際に観た感想としては,全くもって反日でもサヨクでもない映画です.
ウヨクの皆さんも,安心してご覧頂けることと思います.

【以降,ネタバレと思われる内容を含みますので,ご注意ください】
とは言うものの,私としては本作の予告映像以上の「ネタ」は無かったと捉えていますので,以下を読んでから本作本編を観てもらっても大丈夫だと思いますが.
(だって,予告で物語の全容は全て開示されてますから)

さすがパルム・ドール.丁寧な作りです.
どうしてそんな展開になるんだ.
そうじゃないだろ.
なぜこんな行動をとる?
・・といったツッコミ所が見当たらず,日本における貧困層の暮らしを舞台とした家族ドラマを描いています.

公開前は「貧乏生活のために万引きをすることを肯定しているのではないか」という(映画を見もしないで)批判がありましたが,本作ではそんなことを描いているわけじゃありません.
むしろ逆で,万引きを肯定してはいけないことに目覚めていく少年・祥太の姿を撮っているんです.
さらに言えば,そのための押し付けがましい演出がないのも素晴らしい.

それだけに展開が単調に映るので,レイトショーということもあってか,私の周囲の観客数名はいびきを掻いて寝落ちしていました.
さすがパルム・ドール.一般大衆にはハードルが高い.

唯一の「押し付けがましい演出」は,柄本明さんが演じた売店のジジイが少年に対してとった言動ですが.
それ以外の部分が徹底して抑制されているので,売店のジジイがとった「万引き少年に対するさりげない行動」がとても際立つんですね.

少年・祥太役の子役も良かったですが,なんと言っても安藤サクラさんの怪演でしょう.
池脇千鶴演じる取調官との対話が特にすごい.取調官の言っていることが事実なだけに,その事実を突きつけられて苦しむ「母親になりたかったわけではないが,本当はなりたかった女」の姿を見事に表しています.
あの取調官との対話で,彼女がそれまでに劇中で見せてきた少年・少女との関わりが一気に思い起こされ,観ているこちらは胸をえぐられる.

人の心はシンプルじゃないんです.それをシンプルに描いています.

少年はダメな大人である「オジサン」のところに顔を出す.オジサンと他人になることを望み,毅然として乗り込んだはずのバスの窓から「お父さん」を見るため後ろを振り返りたくなる.
女の子の方は,あの家族と過ごした時に教えてもらった数の数え方を口ずさみながら,彼らに拾ってくれたアパートの玄関前で一人遊んでいる.
そんな子供たちの姿をみせて終劇.

本作では終始,大人は目に見えるモノ・耳に聞こえるモノを求めたがり,子供はそれを見せないし言わない.
安っぽい作品では,登場人物に「本当に大事なものは,目には見えないんだ」などとセリフを吐かせたがりますが,さすがパルム・ドール.それを全て映像で語る.

最近,児童虐待のニュースが世間を騒がせていますね.
死亡の5歳、ノートに「おねがいゆるして」両親虐待容疑(朝日新聞2018.6.6)
日本の格差社会問題だけでなく,そういう点でもタイムリーな映画になりました.
私も以前,近所で途方に暮れる少女と関わったことがあるし.
幼女に興味はないですよ
なんだか親近感の湧く映画です.

印象的だったシーンは,夜,家族が団欒しながら隅田川の花火を音だけ鑑賞するために夜空を見上げるところ.
あそこに日本の貧困層の孤立と疎外感が強く表現されています.
彼らも自分たちが社会的に落ちぶれていることを知っている.それを知っているだけに,表に出てきて花火を見ようという気分にならない.理由は,「一度見に行ったことがあるけど,大雨が降って大変な目にあったから」とお婆さんは言いますが,それは己の過去への暗喩であろうと解釈できます.
昔は華やかな表舞台で楽しんでみたけど,痛い目を見て今に至っている,ということ.
私達は花火大会を「音」だけ聞いて楽しむ身分です,という卑屈と自虐.
これは同時に,表に出てきて花火大会を楽しんでいる人たちには彼らの姿が見えないことをも意味します.

本作はまさに,こうした「世間から見えにくい家族」にスポットライトを当てたものであり,このシーンで上空から家屋を映しているショットは,本作のテーマそのものを表現しているように思えます.


ところで,先日,大学の体育・スポーツ実技系授業で久しぶりに学生を叱りつけました.
普段から「注意」とか「指摘」する程度のことは頻繁にあるのですが,時間をとって学生を集合させて叱るのは何年かに1度あるかないかです.
クラスをチーム分けして,バスケットボールの試合をやっていたんですけど,そのうちの1つのチームの雰囲気が悪いったりゃありゃしない.バスケ経験者でこの授業を「優越感にひたりたくて履修してきた奴」と,それとは対象的な「運動音痴」が混在するチームです.

普通なら,バスケ経験者が運動音痴の学生にいろいろ指示を出したりサポートに回って,むしろそうしたサポート・プレーに全力を注いだり,相手チームを含めた総体における楽しさや面白さを見出そうとするのが体育の教育意義だったりするのですが,そうはならないタイプの人間がやっぱりいる.
自身が得意な活躍できるスポーツ種目で,周囲に対し優越感を得るためにプレーするタイプの人間.それでも黙ってプレーしてればいいのですが,運動音痴や未経験者を露骨に見下しながらゲームをする輩は,「スポーツする」という人間性が低いと言っていい.

で,件の叱りつけた学生たちは,まさにそれをやっていたんですね.
一見,運動音痴の学生のためを想って出しているパスに見えるんだけど,その出し方や態度がそうでないことは明らか.
点差が開いてきても「こっちには未経験者がいるから」と言いながら,自分が点を取りに行こうとはしない.あくまで「俺は後方でサポートしているんだよ」という見せ方をする.わかりますよ,自分が全力で点を取りに行ったとして,そこでミスしたり実力の程が知れるのを恐れているんです.全力プレーした結果,負けることを怖がっている.
だんだん相手チームも面白くなくなってきて,こういうチームによる試合はお通夜のようになっていきます.
「面白くないのは他人のせいじゃない.自分から面白くないゲームにしているんだ」ということを分かってもらうのが体育の意義だと思います.
そういう意味では,今回の一件は履修学生にそれを再確認する場になったかもしれないし,そうであることを願いたいところです.

人間の社会活動とは,過去記事でも述べたように「スポーツ」そのものなのです.
人間はスポーツする存在である
「お金稼ぎ」や「ビジネス」といったことも,お金・所得というスコアを獲得するために,皆がゲームしていることと言えます.

スポーツにおいて「初心者」や,どうししても上手くなれない「運動音痴」がいるのと同様,所得獲得ゲームにおいてもそうした人々がいます.
逆に言えば,初心者や運動音痴がいるからこそ,そこそこ上手い人や平均人,運動センスの良い人が存在し得るとも言えます.
その上で,ゲームを楽しむためのコツとは,あらゆる人が楽しくゲームに関与できる配慮や仕組みをつくることです.そうでなければ,結局そのゲームそのものが楽しくなくなっていきます.参加することが苦痛になっていくのです.

話が逸れてきましたが,そんなことを「万引き家族」を見ていて考えさせられました.
少なくとも,楽しくないゲームをしている人に対しては,柄本明が演じた「売店のジジイ」のような存在が不可欠です.そこに人間社会というスポーツ・ゲームを楽しくするエッセンスがあるはずです.

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