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体育学的映画論「銀魂(実写版)」

主観的なものだし,こういう作品を高評価する人もいるし,結局のところ本人が楽しめればOKだというものなのですけど.
やっぱり辛口の記事になってしまうのをご了承ください.

かつてもハリウッド版「ドラゴンボール」とか,「デスノート Light up the new world」に辛口評価をしている私ですが,なにも「マンガやアニメの実写化はダメだ」といった考え方をしているわけではありません.
井戸端スポーツ会議 part6「スポーツとニーチェとドラゴンボール」
体育学的映画論「デスノート Light up the new world」

そうじゃなくて,作品の持ち味や良さを消してしまう,もしくは逆撫でするような設定や脚本,演出が,これら実写化において発生することの危険性を問うているのです.

例えば,世間の評価は低いですが,私の評価が高いアニメの実写化として「Next Generationパトレイバー」があったりします.
大学院進学を考える人へ「実写版・パトレイバー」
(けど,そのNext Generationパトレイバーも,完結編である「首都決戦」の出来は悪いと思う)

例のドラゴンボールにしても,この銀魂にしても,どうしてこうなっちゃうんでしょうかね.
同様のコケ方をしたものとして,実写版「進撃の巨人」というのもあります.あまりの出来に,これまでずっと触れずにいましたが,あれも酷かった.

共通するのは,中途半端な原作再現です.
でも,マンガやアニメというのは実写では表現できないことをやっているのだから,実写にするにあたっては「実写」であることの持ち味を出さなければいけません.
でなければ,映像技術に自信がある学芸会になってしまう.
このあたりのことは,日本のゾンビ映画「アイアムアヒーロー」でも見られたことですので,■体育学的映画論「カメラを止めるな!」でも少し触れました.

もちろん,この「原作再現」は金をかければなんとかなる例もあります.ロード・オブ・ザ・リングとか,マトリックスとか.
シンプルなストーリー,退屈な展開を,圧倒的な映像で乗り切るテクノロジーが求められます.
でも,そこまでの予算と技術がないのなら,実写であることにこだわるべきです.

マンガやアニメは実写と比べて「身体性」が弱くなります.
例えば,キャラクターが殴り合っている時の痛みや,移動している時の速度感,物体のサイズ感などは,実写のそれとは大きく異なります.人は2階から落ちたり階段から転がり落ちると簡単に死にますが,アニメではそれはありませんよね.
逆に言えば,マンガやアニメはその実写(現実)とのズレを利用して面白さを表現しているのです.
簡単な逆パターンの例を挙げると,ダウンタウンとかウッチャンナンチャンのコントは面白いですが,これをアニメやマンガで忠実に再現しても面白くないでしょう.それは,実写であることによる身体性からくる距離感や没入感を利用したコントだからです.逆に言えば,マンガやアニメでは,実写ならではの身体性が弱い分,それ以外の表現が必要ということになります.

なお,タイトルにした「銀魂」ですが,さっきアマゾンプライムビデオで視聴を始めたんですけど,耐えられなくなって開始15分でやめました.
作品が嫌いというわけではありません.アニメの方は好きなんですよ.
だからこそ,その中途半端に頑張った感のある再現がどうしてもツラくなってくる.
なので,銀魂を例にして語ることは難しいんで,別の作品で具体的な部分を指摘してみようと思います.

例えば,近年稀に見る悲惨さをみせた実写版「進撃の巨人」で解説してみましょう.
この作品は,マンガとアニメでは許されている「これが本当(我々が生きているこの世界)ならこうするんだけど,これはアニメだからね」という読者・視聴者のある種の暗黙の了解を,無視して実写再現してしまったことにあります.
分かりやすいところでは,主人公たちは刃を手にして巨人の首元を切る白兵戦を挑むところにこの作品の特徴があるのですが,これは現実世界では必要ない作戦です.
原作同様,この実写映画でも大砲や銃がある設定なのですけど,実写ならそれで巨人の首元を砲撃すればいいだけの話です.
白兵戦をして許されるのは,それがマンガでありアニメだからです.実写で同じことをやったらバカになります.

通常,人間の身体能力から生み出される出力では,どんなに頑張ってもライフル銃やロケット弾以上の破壊力を出すことは出来ません.
実写の映像作品では,そこに映し出されている人間は視聴者と同様の「身体」があると考えてしまいます.それなのに,ライフル銃やバズーカ砲が効かず,サーベルの方が有効だと考えるのは無理があります.もしどうしても白兵戦をしたいのであれば,その有効性や必要性を徹底して説かなければいけません.
例えば,実写においても大砲やミサイルより白兵戦の方が有効だという説明のためには,人間であっても銃やミサイルを撃たれても死なないなどの世界観(私達が生きているこの世界の法則とは違う)の描写が必要でしょう.それがマンガ・アニメの原作を実写化する際に必要な手続きです.

私としては素直に,巨人の侵攻を砲撃やトラップを使って阻止する市街地での後退戦を主軸にとして,人間模様やなんやかんやを入れいくので良かったのではないかと思います.
で,どうしてもっていうのなら,クライマックスに弾薬も爆薬も尽きたところで白兵戦というところでしょうか.
ベタな展開だけど,巨人の正体とか世界の謎といったところにオチを用意しておけば,まだ見れるものになったのかもしれません.
そもそも,「進撃の巨人」の魅力は悲壮感に満ちた世界で,人間たちが必死に生き抜こうとする様と,それでも私利私欲に溺れる愚かさです.そこを描ければいいだけですから,実写でそれを忠実に再現してくれればいいんです.設定やアクションまで再現する必要はありません.

ところで,じゃあなんで私は実写版「Next Generationパトレイバー」を高評価しているのか? というところもお話しておきます.
大学院進学を考える人へ「実写版・パトレイバー」でも述べましたが,単純に描いているテーマが「分かる」「実感できる」からです.
多分,監督の押井守氏が描きたい「組織」とか「そこでの働く姿」についてのチャンネルが合うからでしょう.

評価が低い理由として「実写ではレイバー(巨大ロボット)がぜんぜん活躍しない」というものがありますが,私としては「それがテーマなんだからいいじゃん」というところ.
「パトレイバー」とは,ロボットが活躍するアニメではありません.
いかに二足歩行ロボットが現実世界では活躍しないのか? を問うた作品です.それがテーマと言っていい.
だから,シリーズの一番最初から「特車二課は警視庁のお荷物部署」だという設定をしつこく展開しているし,その理由もしっかり語っている.

むしろ,こういう点はアニメではなく実写の方が描きやすいんですよ.
巨大二足歩行ロボットが,実写になったらいかに無駄な車両装備なのかが実感できます.

パトレイバーのテーマは,ロボットによる勧善懲悪のアクションではありません.
大きな公的機関における一部所における,税金の無駄遣いと揶揄されながらもそれなりに仕事する人々の日常の姿もテーマのひとつです.
で,私としては,それが「大学」とか「大学院生活」と非常に類似しているから実感しやすいんですね.
のんびり暇してそうに思えるけど,実はそれなりに責任を問われることをしているし,特殊技能を求められる.シビアで残酷な判断が隣り合わせ,にも関わらずコメディーな展開が日常的に起こる.
こういうことって,アニメでやってもいいんですけど,やっぱり実写のほうが面白さが出てくるんですよ.
描かれたキャラクターではなく,生身の役者さんの方が伝わって来やすい.

ちなみに,一番気に入っているのはエピソード4の「野良犬たちの午後」です.
あれはいわゆる「「大学院感」がしっかり出ています.
きっと大学院生たちには分かるはず.