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教育系ドラマ「3年A組―今から皆さんは、人質です―」を見たよ

テレビを持っていない私は,世間に出回っている映像コンテンツを見るためにはネットの動画配信サイトを使っています.
Huluは契約している動画配信サイトの一つです.

日本テレビの2019年最初の連続ドラマとして,日曜夜10時に「3年A組―今から皆さんは、人質です―」っていうのをやっていたそうです.
テレビで放映したあと,すぐにHuluでも配信していたようなのですけど,「連続ドラマ」より映画を優先的に見ることが多い私は,「3年A組」は後回しにしておりました.

けど,やっぱり「教育系ドラマ」はある種の義務として見ておくべきだろうと思い,全話を放映したあとに,まとめて見ました.
教育系ドラマは,「3年B組 金八先生」とか「学校があぶない」とか,あとは「中学生日記」なんかも含め,その時代の教育問題と社会的な歪みを鋭くえぐり出す良作が多いのでハズレが少ない.
たぶん,教育現場を舞台にしたドラマは,脚本家とか監督といった製作者の伝えたいメッセージを具現化しやすいのだと思います.「教員」と「生徒」という関係は,日本人にとって分かりやすく共有しやすい構造を持っているのかもしれません.
最近だと(といっても6年前だけど),「35歳の高校生」あたりが意外と良かったですね.
なお,私は教育系ドラマと学園ドラマは明確に分けていますが,その違いと定義については割愛します.

もちろん,教育系ドラマも視聴率を稼ぐために一般大衆向けとして作られているのですから,演出とか脚色に無理があるのも否めないですが,「問題意識」についての共通理解を促す上ではとても強力です.
その点,「3年A組」はかなりぶっ飛んだストーリーでしたが,これくらいの方がドラマとしての面白さがあるので良かったと思います.

【以降,ネタバレを含みつつ書いていきます】

主人公の美術教師である柊一颯は,赴任した高校で発生した女子生徒の自殺の真相を世に知らしめるため,担任していた3年A組の生徒全員を人質として,学校に立て籠もる事件を起こします.
細かい話や設定は,ウィキペディアなんかを読んでください.
3年A組―今から皆さんは、人質です―(Wikipedia)

「生徒の自殺の原因を突き止める」っていうのが,なんとも世相を反映しておりますね.

結局,柊先生が結論づけた,女子生徒が自殺した原因は「大衆」でした.

自殺した女子生徒のことを知りもせず,その周囲の人間関係や環境・事情を詳しく知ろうともしない,未確認情報をもとに面白おかしく弄んだ,無責任なネット民による誹謗中傷.
それが,現代の教育現場で猛威をふるっていることをテーマとしたドラマです.

もちろん,そうしたネットでの誹謗中傷の遠因をつくった人物たちもドラマ内で糾弾されています.
でも,それを「自殺の直接の原因」と断じることはできません.
人が自殺という判断をするまでには,たくさんの材料があります.決して単一のものではないのです.
この「3年A組」では,昨今の流行でもある「いじめ」が自殺の原因ではないかというストーリー展開をとっていますが,そのクラスの「いじめ」という現象には,非常に複雑な事情が絡み合っていることが描かれていました.
っていうか,実際の教育現場ではさらに複雑ですが.

そこに,現代の教育現場には「SNS」という増幅装置が絡んできていることがテーマとなっていました.
ネットによる誹謗中傷は,救いの手を払いのけ,罪のない人を陥れ,再生・更生しようとする人を切り捨てる能力を持っています.
なにより問題なのは,この恐るべき力は,絶対に反省などしないし,むしろ事態の悪化を好むところです.それは,この力が個人の意思や判断によるものではなく,集合体による空っぽの力だからです.その空っぽの力に,人は大きく傷つき,絶望を植え付けられます.
ドラマの中でも言及されているように,柊先生が命をかけて訴えた,無責任なネットでの誹謗中傷が解決することはありません.
もともと「解決」するような話でもないわけですから.

だからこそ,柊先生は生徒に「自分の頭で慎重に考える」ことを繰り返し熱心に説いています.
少しでも多くの人が,せめて目の前にいるこの生徒たちが「自分の頭で慎重に考える」ことができれば,今よりはマシな社会になってくれるだろう,という「祈り」を捧げた10日間を描いたドラマでした.

私はこのブログで,大きなテーマとして「教育」を綴ってきたところがありますが,その最初期から訴えていることと,「3年A組」で映像化されたことが非常に近似していることに感動しました.

最終話での「最後の授業」をする柊先生を演じた菅田将暉さんの迫力,凄かったですね.
彼は自分の言葉が「大衆」に届かないことを十分に分かっている.
なぜなら,そこは空っぽだから.
けど,伝えなければいけない,叫ばなければいけないからカメラの前に立った.

刑事の「なぜ生徒のためにそこまでする必要がある?」との問いに,彼は「教師ですから」と返しました.
でもそれは,実は多くの「教員」が普段の業務でやっていることと同じなのです.
爆弾が仕掛けられた学校で伝えるか,普通の授業で伝えるかの違いです.
あとは,それを聞いた側の受け止め方次第になります.
空っぽの人には伝わりません.
でも,準備ができている人には伝わります.期待できます.
けど,全ての人に伝えることはできない.
だから教員は,皆に伝わらないことを承知で,それでも必要があると感じているから叫ぶのです.
それこそ,子供向けのヒーローのように,凡庸で,野暮な,クサい理想論を,生徒や世間からバカにされようと,笑われようと叫ぶのです.


最後に,このドラマの内容と関連した過去記事を以下に並べてみました.
どれも「3年A組」を見る上で参考になるかと思いますので,興味がありましたらどうぞ.