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大学生に自殺者が多いの知ってた?

教育機関における学生の自殺問題


「いじめ問題」における子供の自殺や,教育機関に勤めている教職員が自殺する,というニュースが世間を騒がせます.

その一方で,自殺者数がとても多いのに無視されがちなのが「大学生」や「専門学校生」の自殺です.


少し前に,このブログでも「大学生に自殺が多いから,そのうち新しい学校自殺ネタとしてニュースになるんじゃないか」ということを記事にしたところでした.
大学教職員は要注意|そろそろ「大学生のいじめ自殺」が取り沙汰されます


何年か前から,「いじめ自殺問題」をブログ記事にする機会が増えたので,毎年,警察庁が出す「自殺者統計」に目を通すようにしています.
特に,教育関係の部分に注目しているところです.


先日までずっと「大学改革」の記事を書いてきたところですが,今すぐにでも改革すべきポイントとして,この,

「学生の自殺」

は結構重要だと思うんです.

そして,先日から書いていた私が提案する大学改革案も,実のところこの「大学生の自殺」と少し関連するところがあります.


今回は,大学や専門学校に通う学生たちの自殺について考えてみます.





大学生と専門学校生の自殺


まず,以前の記事と同じものですが,2016年のグラフを以下に示します.
大学生の自殺者が明らかに多いことが分かります.
警察庁データ(2017年)より

年齢が高くなっているから当たり前だと考えてもいいのですが,そういう見解はちょっとドライ過ぎるでしょう.

それに,日本の大学進学率は約55%ですし,専修学校等(いわゆる専門学校等)の生徒数はもともと少ないので,自殺率として捉えるとさらに高い数値なのです.

ちなみに,今年発表された昨年(2018年)のデータでは,

大学生:324名
専修学校生等:104名
高校生:244名
中学生:97名
小学生:3名

となっています.


これを警察庁の統計と比較しやすいよう,「10万人あたりの自殺者」で自殺率を出してみました.
なお,自殺者が極めて少ない小学生は省いています.

大学生:11.2
専修学校生等:15.9
高校生:7.4
中学生:2.9

このように,大学生と専門学校生の自殺率が,中高生と比較してとても高いことが理解できたかと思います.

そうは言いましても,この11.2〜15.9という数字は「全体」から見れば高くありません.

日本人全体の自殺率(10万人あたり)は,16.5です.

まず,2018年度における年齢別の自殺率をお示しします.

〜9歳:0.0
10〜19歳:5.3
20〜29歳:17.2
30〜39歳:17.8
40〜49歳:18.6
50〜59歳:22.3
60〜69歳:18.1
70〜79歳:19.8
80歳〜:20.7

元データである自殺者数と一緒にグラフにすれば,このようになります.
もともと,自殺は年齢が高くなるにつれて多くなるものなのです.



「50歳〜59歳にピークがある」
というのも,日本ではずっと変わらぬ傾向です.


参考までに,職業別にいくつか抜粋してお示しします.

警察庁の統計は,職業別の人数が把握できるカテゴリ分けになっていませんので,細かく職業別の自殺率を算出できません(もしかるすと,職業別の自殺率を算出させないための配慮かもしれない).

まず,割合でいうと,有職者よりも無職の人の自殺率が高いです.

有職者:8490名
無職(学生含む):12530名
そのうち無職者(学生を除く,主婦・失業者・年金暮らしの人等):11759名

統計局が出している2018年の就業者数は約6,664万人で,無職者数は約3,500万人とされています.
ここから算出される自殺率は,

有職者:12.7
無職者:33.6

ということになります.
仕事に就いていない人が,圧倒的に自殺しやすいのです.

これは,失業率と自殺率に相関があると言われることを支持しています.


大学生の自殺率が11.2で,専修学校生の自殺率が15.9というのは,一般的に仕事をしている人と変わらないくらいと言えます.

また,18歳〜22歳くらいの人口の約80%が,大学生または専修学校生で構成されていますから,この年代の自殺率はこれくらいの値なのかもしれません.





学生の自殺の原因・動機


こうした学生(大学生・専門学校生)の自殺の原因や動機はなんなのでしょうか.

その原因や動機が明らかなものとして,以下のようになっています.

なお,自殺の原因や動機は,遺書等によって特定されたものです.
また,1件の自殺に複数の動機が重複しているものもあります.
例えば,家庭問題と健康問題を抱えていたことが判明した場合,それぞれにカウントされます.




主に学校問題と健康問題なんですね.
ちなみに,「健康問題」は日本人すべての自殺原因として最も多く,約50%を占めます.

2018年の自殺者21170人中,10423人が健康問題を苦にして自殺しています.


そう考えると,大学生の自殺理由に「学校問題」が飛び抜けて多いのは特徴的と言えるでしょう.

言い換えれば,学生の自殺予防は「学校問題(学生生活)」にそのポイントがあるとも考えられます.

私が「大学は,学生たちの自殺に注目したほうが良い」というは,そのためです.


では次は,「学校問題」の何が自殺の原因になっているか,細かく見てみます.
学校問題は,以下のように細目されています.


どちらの学生も,「進路の悩み」と「学業不振」で自殺しているんですね.



もっと言えば,過去記事でも書きましたが,小中高校生の自殺原因も同じです.

よく,「いじめ」が子供の自殺の原因ではないかと騒がれますが,実際のところ「いじめ」を苦にして自殺する子供は極めて稀です.


子供の自殺の主な原因として「学校問題」が大きいのはたしかですが(実際,中高生の自殺原因の約50%を「学校問題」が占める),その内訳は以下のようなもの.

2007年〜2016年の警察庁データを基に作成


やっぱり,「進路の悩み」と「学業不振」.
あとは中高生ですから「入試の悩み」が主な原因なのです.

子供や青年を自殺に追い込んでいるのは,

「学校の勉強ができない奴には将来が無い」

という,大人になったら皆が思い知る「どーでもいいよ,そんなもの」という認識なんです.


一方の大人たちは,その50%が「健康問題」で自殺しているのですから,つまり,

「不治の病に侵されて将来が無い」

と考えて自殺しているのと同じ割合で,子供たちは「学校の勉強」ができないことを,自分にとって「不治の病」と思い込んでいると言えます.


よく,

「バカにつける薬はない」
「バカは死ななきゃ治らない」

と言われますが,それとこれとは別でしょう.

バカだからといって死ぬ必要はないですし,死ななきゃいけないバカは他にいます.





大学や専門学校の勉強と「将来」を強く結び付けない


過去記事で「大学改革論」を書きました.

そこでは,大学における勉強として「単位取得」とか「テストの成績」という観点で学生を管理しなくてもいい制度に改革することを提案しています.

詳しくは,一連の記事を読んでください.
新・大学改革論|これからの時代に授業は不要
新・大学改革論|信頼性の高い学術コミュニティを用意する
新・大学改革論|地に足のついた,公平で合理的な,あまり嬉しくない改革


そこでは「大学」という場所を,

「就職してから必要に応じて通う」
「歳をとってからも通う」
「生涯に何度も複数の大学に通う」
「そもそも卒業しない」

という,日本社会におけるサポート・インフラとして運営させる方法が良いのではないかと述べました.

大学での勉強の成績が,そのまま将来のステータスにつながるような認識にならない改革です.


それに,授業やテストの成績が良いことと,鋭い学術性や就職成績とは,必ずしも相関しないことを多くの大学教員は体験しているでしょう.

テストや成績をチラつかせることで,勉強へのモチベーションを高めたがる教員は多いでしょうが,これが意外と学生にはプレッシャーになっているのです.
むしろ,勉強に対し真面目な学生ほど強くなる.


学生の自殺を防止するという意味でも,この「大学」「専門学校」における勉強というものを,今一度見直してみるのも良いかもしれません.



※今回使用したデータは,過去記事である,
大学教職員は要注意|そろそろ「大学生のいじめ自殺」が取り沙汰されます
と,
平成30年中における自殺の状況 付録(221KB)(警察庁「自殺」データ)
を使っています.


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