2014年2月5日水曜日

子供の学力は社会の鏡

9―3÷1/3+1=? 新入社員の正答率4割
「9―3÷1/3+1」(1/3は、3分の1)の答えは?
ある大手自動車部品メーカーが、高卒と大卒の技術者の新入社員をテストしたところ、正答率は4割にとどまった。中部経済連合会が3日に発表した、ものづくりの競争力についての提言に、能力低下の事例として盛り込まれた。
 この大手部品メーカーは毎年、同様の算数テストを行っており、1980年代の正答率は9割だった。
 基礎学力の低下のほかにも、中経連が会員企業に行った調査によると、企業が学生に求める能力と、実際の能力に差が広がっている。企業が採用の際に重視する能力は「コミュニケーション」がトップの87%。一方、学生に低下を感じるのもコミュニケーションが59%と最も多かった。
 こうしたギャップから、特に中小企業で、若手社員の離職につながるケースが増えている。中経連は今後、「ゆとり教育で希薄化した初等教育の充実を図る」「授業にディベートを採用し、コミュニケーション能力を養う」ことなどについて、国や教育機関に改善を求めていく。
(答えは「1」)
朝日新聞社2月4日

 前々回の記事,
計算方法が分かれば良い・・・,のかな,どうだろ
で取り上げていたこととよく似た事例がニュースになっていました.

やっぱり最近の20歳前後の人はこういう傾向にあるのでしょうか?
ただ,この事態が件の「ものづくり」の現場において問題になるのかどうか,それは別に分析しなければならないのでしょうけど.
「能力低下の事例として盛り込まれた・・・」と書いていますが,本当に能力が低下しているのかどうか,あと,記事の後半にあるコミュニケーション能力が “養われていない” のかどうか,それは彼らが30歳や50歳になってからでないと分かりませんからね.

ある種の学力,とりあえずここでは「基礎学力(計算力)」としておきますが,そうしたものは低下(変化,シフトと言ったほうが適切かもしれないが)している可能性はあります.
この点について今回は論じてみましょう.

ところで,「コミュニケーション能力の低下」というのは,毎年,毎回,毎時代取り沙汰されることです.
逆に,若者のコミュニケーション能力が上がっているという時代・民族・社会集団を聞いたことがありません.

つまり,これは人類の風物詩です.

「もうそろそろ,“世代間ギャップ”ってことで一件落着..,しないにしても,楽しむ程度で済ませませんか?」という気持ちになりますが,まぁ,これを商売にしている人もいるのでしょうから,ムキになって突っ込むのも野暮ってもんでしょうか.

さて,
PIAACとPISAの結果の考察
で紹介しましたが,日本の20歳前後の人の数学的思考力は国際基準でみても優秀です(ちなみに,全年代で優秀です)
が,PIAAC(国際成人力調査)で計測された点数というのも,技術力とかものづくりを反映するかといえば怪しいわけでして.
実際,日本と同様に敗戦後もその「ものづくり」によって復活したイタリアやドイツのPIAACの成績は振るいません.

だから,なんですけど,
基礎学力と,ものづくり技術力との関係調査が急務だと思われます.
どこか誰かやってくれないですかねぇ.

例えば,PIAACのようなテストと基礎学力(算数や理科の問題)テストを,国内で職種別に行なうわけです.
これで,ものづくりや技術力に基礎学力がどれだけ貢献するかわかります.
たしかに予算が大変ですけどね.

そんなこと言ってはいますが,私自身その必要性は無いとは考えております.
教育自体がそうなのでしょうが,こういう「ものづくり」だとかPIAACで測っている能力って,社会全体で育まれ,受け継がれていくものなのではないでしょうか.

先ほどから話している日本人の数学的思考力というのにしたって,社会全体で育まれ,受け継がれているものなのです.
典型例を示しましょう.「お釣り」です.

日本では出店や小さなお店であっても,お金のやり取りをしっかりやります.つまり,だいたいの金額ではなく,正確なお釣りが返ってくるのです.
レジや電卓などを使わないお店,しかも(地方観光地にありがちな)店員が高齢者であっても,正確で素早くお釣りが返ってきます.これに驚く外国人のエピソードは枚挙にいとまがありません.

さらに,実際に日本人の多くがやっていることに「お釣りの調整」があります.これは,購入する側が,お店側からもらう「お釣り」のお札や硬貨の量を最小限にしようと調整する行為です.
例えば,代金が650円であれば,手元に千円札と100円玉,それに50円があるなら,1150円を店員に渡しますよね.なぜなら,その金額を渡せば,お釣りが500円玉1枚になるからです.
こういう購入者側の行為も,外国の方々からすると奇異な行為に映るのだそうです.

これは,「相手の負担をなるべく軽減しよう」という,(今ブームの)「おもてなし」の精神でしょうし,そうした日本の社会が数学的思考力を育み,PIAACの成績もどの年代であっても高く維持されているのではないでしょうか.
こうして考えると,他にも示唆される志向と行為,そこから生まれるものづくりやテクノロジーというのはあります.

時間にルーズではない日本人だからこそ,高度な電車・新幹線のタイムスケジュールのシステムをどうしても求めてしまい,結果,作ってしまうこと.
なるべく目立たないように,奇抜に見えないようにしたがる日本人だからこそ,超小型のポータブル電化製品を作り,それが市場で売れること.
きれい好きな日本人だからこそ,ウォシュレットを開発し,それが「おいおい,これっていくらなんでもオーバースペックじゃね?(笑)」とならず,何の問題もなく受け入れられること.
などなどです.

調査や科学的根拠があるわけではないのですが,「ものづくり」にしても,会社や工場・研究所の内部で育まれ,受け継がれている技術・技能があるのでしょう.
基礎学力も大事なのかもしれませんが,こうした,「その集団」の中で求められる能力に合わせて人間は育っていき,いわゆる「基礎学力」とは異なる技術・技能を受け継いでいくのではないかと思うのです.
(繰り返しますが,基礎学力が不要と言っているのではありません)

ゆえに,冒頭のような記事や昨今の大学生については,そうすると以下のように考えることもできるのです.
若者の基礎学力が低下しているのは,大学や企業そして日本社会が,若者に高い基礎学力を求めていないから
大学については,当事者の私が言うんだから間違いありません.
大学は高い基礎学力を学生に求めていません.誤解してもらっては困りますが,高い基礎学力が無くても良いと考えているわけではないですよ.
少子化と大学数増加,これに「大学間での学生数確保」の競争という状況が加わることで,大学は受験者に学力を求めなくなりました.
至ってシンプルな理由です.これで大学生の学力が低下しないわけがありません.

詳細は■学力低下に書きましたが,これは「今まで不合格になっていた受験者が合格するようになった」ということで,「大学生の学力が低下」していることを示していますが,だからと言って「子供の学力が低下」していることを示しているわけではないのです.

これが企業,そして社会にも同じことが言えるのでしょう.
「大学生が勉強しなくなった」と言われ始めて久しいのですが,それがいつ頃から言われているのかは不明です.
それでも,なんとなくですが,ここ20〜30年くらいが顕著なのでしょうか?ちょうど私の年齢と一緒ですかね.バブル時代くらいからかな?

では,この間の企業や社会は,社員に何を求めたのか?そこが重要です.
すなわち,ちょうど私達が物心ついた時期,そして社会というものを見つめていた時期(1990〜2000年くらい)のビジネスマンは,基礎学力の高い人が重用され,高い基礎学力が求められる業務内容に見えたのか?ということです.

少なくともそれを見つめていた当事者の一人である「私」には,そうは映りませんでした.
私自身覚えていますし調べたら出てくるはずですが,
「学力の高さよりも,発信力が大事」
「難しく考えるよりも,分かりやすさ」
「良い製品を作ることよりも,販売戦略とプレゼンが重要」
という謳い文句やスローガンが飛び交っていたはずです.
(残念ながら今もそう)

このような方針に重点を置く企業,そしてそのような企業で構成されている(と子供の目には映る)日本社会に参加していく若者や大学生が,いわゆる「基礎学力」を磨こうとするのでしょうか.ちゃんと勉強しておかないと社会に出て困る,などと発想するでしょうか.
よほど勉強が好きな子供でも無い限り,基礎学力が大事だから頑張ろうなどとは思いませんよね.

むしろ,大学なんかでは「ちゃんと勉強してしまうと,就活の妨げになる」などと考える学生が増えるのは当然で,あろうことか教員も「授業よりもキャリア教育」などと言い出す始末です.
すなわち,社員や国民に高い基礎学力や学術能力を必要としないのが今の企業であり,日本社会なのです.意識的にせよ無意識的にせよ,子供の目からそのように捉えられていることの帰結,それが現在の「学力低下」と騒がれていることの構造ではないでしょうか.

で,結局何が言いたいのかというと,多くの当事者は “自覚” していないのでしょうけど,
若者や子供に高い基礎学力を求めていないくせに,「子供の学力が低下している」などと騒ぐのは片腹痛い
ということです.
さらに言えば,だから
誰かこの問題を解決しろ
というのはキビシいです.シュールです.
もう少し現状を落ち着いて眺めてみてはいかがでしょうか?と提言したいわけです.

教育問題というのは,その社会全体を俯瞰しないと見えてこないものです.
誰か特定の人たちが努力すれば改善したり,解決したりするものではありません.
もっと言うと,「いじめ問題」と同様に,“解決” するような問題ではないのです.

そんなわけですが,とりあえず私ができることは,ゼミ生が教員を目指そうと,食品会社に内定してようと,学術的な思考力を求める授業を展開するだけです.


PS
おまけですが,
冒頭のニュース記事にある計算の一部「 3 ÷ 1/3 」の答えは「9」になるのですけど,
では,「 1/3 × 3 」の答えはなんでしょうか?
答えは「1」です.

そんなの当たり前でしょうが,と言われるかもしれませんが,ここからが面白いところです.
これを電卓でやってみてください(エクセルではダメ).
【手順】
1÷3を計算する
答えは=0.3333333・・・・
そのまま,これに3をかける.すると,
答えは=0.9999999・・・・
ということで不正解が算出されるのです!
電卓では「 1/3 × 3 」が計算できない!
※電卓の性能によっては正解をはじき出すかもしれないけどね.
まぁ,それだけ.
ネタとしてご利用ください.