2017年10月14日土曜日

高知と映画(全体とは部分の総和以上のなにかである)

どうして高知の映画の話題なのかと言うと,私が高知出身だからです.
知らない人がいたらと思い,念のため.

先日,こんなニュースがありました.
「0.5ミリ」の安藤桃子監督が高知に映画館オープン(映画.com 2017.10.7)
安藤サクラ主演の「0.5ミリ」などで知られる映画監督の安藤桃子氏が企画・運営する映画館「ウィークエンドキネマM」が10月7日、高知市内でオープン。父で映画監督、俳優の奥田瑛二、エッセイストの安藤和津ら奥田ファミリーも応援に駆けつけた。(中略)安藤監督は外観、内装から、作品選び、配給まで全面プロデュース。映画館前の通りには出店で賑わう中、呼び込み、チケットのもぎり、上映前には作品紹介の“前説”も。「ザ・トライブ」の上映の際には、通りかかった10代の若者グループに丁寧に説明し、勧誘に成功。「目標は高知の映画人口を増やすこと。映画をきっかけに町が賑わいを取り戻せたら」と言葉に力を込めた。今後は、トークショーやイベントなども企画しているという。
映画そのものの凋落もありますが,過疎化が進む高知では映画館が軒並み潰れているのが現状でした.
なぜ安藤監督が高知で映画館を始めたのか? というと,以下のような理由なのだそうです.
安藤監督は13年、「0.5ミリ」を高知で撮影したことがきっかけで移住。その際、04年に廃館になった高知東映の存在を知り、復館できないものかとの思いを強くした。
なんと,高知に移住されていたんですね.
父、奥田は07年11月から約4年間、山口県下関市で自身のミニシアター「シアターゼロ」を運営しており、奥田ファミリーで映画館を経営するのは2館目となる。「シアターゼロ」の立ち上げも手伝った安藤監督は「父が下関の映画館で苦労する姿、喜ぶ姿を見てきた。独立プロで映画を作ってきた人間としては、映画の入り口から出口までやってみたいとの思いが最初からありました」と話した。
奥田は「僕は映画人として、監督をやって、興行もやり、全てを経験したけども、奇しくも親子で、新たに映画のシステム全体を経験する人が生まれることはうれしい。僕が下関でやってきたことを受け継いでくれたかなと思うと、感無量です」と喜んでいた。
お父様である奥田瑛二氏も,山口県で同じことをやっていたのだそうです.
私は体育・スポーツ科学の研究者・教育者・指導者をやっていますけど,安藤氏が語る「入り口から出口までやってみたいとの思い」というのは分かる気がします.
部分部分を突き詰めていくのも良いですし,今時,効率よく生きていくにはどうしても「部分」を扱わざるをえないという現実がありますけど,やっぱり「全体」を扱う楽しみはあるものです.研究は研究,教育は教育,指導は指導という具合いに分断させて活動している同業者は多いものですが,これらを連結させることは魅力的です.

高知新聞にはこんな記事も載っていました.
高知市街に10/7に映画館が開業 安藤桃子さん運営(高知新聞2017.9.21)
「街中に映画館を再興したい」との4年越しの情熱を実らせた。「何かが起きる劇場にしたい」と思いを膨らませている。(中略)桃子さんが代表を務める会社が運営し、上映本数は月6~8本が目標。東京からゲストを呼んだり、奥田瑛二さんが活弁士を務める無声映画を上映したりする構想もある。
「高知のお客さんが求める作品を探りながら、これぞという作品があれば上映したい」と桃子さん。「少々アバンギャルドな作品も挑戦します」と、いたずらっぽく笑った。
「何かが起きる企画にしたい」というのは,見通しの甘さからくる失敗フラグとも言えますし,一昔前の私なら「こりゃダメだな」と思っていたことです.
でも,大人になってからはそんな取り組みも有りかなと考えるようになりました.
この安藤監督ですが,年齢も私と違わない人ですし,いろいろと注目しておきたい人です.

ところで,安藤監督は「少々アバンギャルドな作品も挑戦します」とのことですが,高知ではアバンギャルドな作品を好む下地はあるようですので,挑戦のし甲斐はあると思われます.
実は今夏,高知で珍しい映画の取り組みがありました.
「神様メール」で知られるベルギー映画界の鬼才ジャコ・ヴァン・ドルマン監督が手がける『キス&クライ』を,日本で唯一公開したのが高知県立美術館だったんです.

「キス&クライ」はただの映画ではありません.舞台でもあるのです.いえ,映画を舞台にしているとも言える・・・.と言っても難しいですね.
どういうことかというと,今まさにそこで舞台をしつつ,それを映画として上映するという奇妙奇天烈な作品だからです.つまり,観客は舞台を見ながら,同時にその舞台を映画として見ることができる.しかも,作品時間は90分間と非常に長い.

詳細は以下をどうぞ.
ホール事業:「キス&クライ」-KISS CRY-(ベルギー)(高知県立美術館)
全篇90分にも及ぶ長篇映画を創り出せるのは、計算し尽くされた緻密な動きの構成と、ドルマル監督率いる最高の映画スタッフの布陣の賜物。ミシェル・アンヌが考案した手の踊り“ナノ・ダンス”は、見えない主人公の視線や気配を感じさせ、優しく語りかけるナレーションが相まって、直感的な解釈を際立たせてくれます。メディアに“記録”して再生可能にする「映画」に対し、限られた時間に劇場へ足を運ぶ観客の“記憶”にのみ共有される「舞台」。相反した手法が見事に融合した珠玉のスペクタクルは、観劇する者のみに贈られる至上の時間となるでしょう。
こういうの,私は好きですよ.見れてないけど.
「舞台を映画にしてしまえ」っていう企画を本気出してしまった結果ですね.

この「舞台と映画の融合」の似た取り組みに,監督・三谷幸喜,主演・竹内結子の『大空港2013』というのがあります.
約100分の映画ですが,それを全てノンストップのワンカットで撮りきっているんです.これも非常に面白い.
最近話題になったものとしては,ドイツの『ヴィクトリア』っていう映画があります.

これらはどちらかと言うと「映画で舞台をやった」という趣旨ですが,前述のキス&クライは「映画を舞台でやった」というところ.
いずれも作品としては映画ではありますが,舞台の魅力も併せ持っているわけです.

舞台では視点や焦点,視野・画角といったものは観客に委ねられます.「見るところ」は見る側が決めているんです.一方,映画ではカメラに頼ることになります.カメラが撮っているところが「見るところ」なんです.
その点,「映画で舞台」をやったり,「映画を舞台」でやることによって,舞台や映画において前提となっている「見るところ」が観客の前で解体されてしまう.そこに,こういう手法の魅力があるのだと思います.