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柔軟性について

昨年,ストレッチングを紹介した授業がありました.
以下はその時に出た学生からの質問と私の回答(得点)です.


Q.体がかたいと,ケガをしやすい以外に,どんなことが起きるのですか?

A.何も起きません.条件がそろえば爆発します.(1点)


回答は皮肉ですよ.
大学1年生ですが,まだこういう質問文を書いてきます.


“「体のかたさ」 とケガの関係は一方向的ではない”,ということを取り上げたのですが,あまり伝わっていない学生もいるようで.

体はかたすぎても,柔らかすぎてもケガをしやすい(可能性がある).

これは一般の方々に話してもビックリしてもらえるので,地域開放授業(よく「公開講座」と呼ばれている)でも使っています.
やわらかいほどケガをしにくい,と思われているようですので.

ためしに以下のテストをやってみてください.
関節弛緩性テスト(General Laxity Test)といいます.
日本のスポーツ医学者が開発した簡便なテストです.

判定基準に該当した場合は1点を加算していってください.


1.手首
【判定基準】
母指が前腕につく.
左右両方がついたら1点.片方のみであれば0.5点.


2.肘
【判定基準】
肘が15度以上,過伸展する.
肘を伸ばしてみて,逆方向にまで伸びている状態.
左右両方が該当したら1点.片方のみであれば0.5点.

3.肩
【判定基準】
背中で互いの指が触れる.
左右両方が触れたら1点.片方のみであれば0.5点.


4.膝
【判定基準】
膝過伸展10度以上である.
膝を逆方向に曲げることができる.
左右両方が該当したら1点.片方のみであれば0.5点.

5.足首
膝屈曲位で背屈した際,床と下腿のなす各が45度以下になる.
左右両方が該当したら1点.片方のみであれば0.5点.

6.脊柱
前屈をすると,手のひら全体が床につく.


7.股関節
股関節を外旋して足が180度以上開ける.


得点を総計してみましょう.
何点以上あればどーのこーのというわけではないのですが.

4点以上あれば「関節弛緩性の疑い有り」ということで,
「そんなあなたは体が柔らか過ぎで危ないですよ」
と言えば,かなり興味を持ってもらえます.

1点以下であれば「体がかた過ぎ」ということにして,
「そんなあなたは体がかた過ぎです危ないですよ」
と言うことにしています.

ニュアンスとしては,「体がやわらかい」というよりも「ゆるい」ということなんでしょう.
ゆえに関節の弛緩性を試験しているのです.
弛緩性であって柔軟性ではありません.

このテストで「全部該当してしまった.私はどうすればいいの?」という人もいるのですが,そんなに心配しなくても大丈夫です.
「体力トレーニングをすればケガは予防できます」
と言ってトレーニングへのモチベーションにつなげています.

「全部該当しなかった.私はどうなるの?」という人も当然いて,そんな人には「ストレッチをやりましょう」と言ってストレッチングへのモチベーションにつなげています.

「2点だったよ」という人には,
「その点数をキープするためにも体力トレーニングとストレッチングをやりましょう」
ということで (以下略)

これをやれば,およそ15分,時間をかせぐことができます.
私としては一発ネタとして重宝しているテストです.
重宝はしているけど,重要ではないといったところでしょうか.


以下,学術的なレビューではない私見です.

実際,柔軟性とケガの関係は証明されていないところが多く,「ケガ予防のためにストレッチングを」というのは短絡的過ぎるのではないかとも言われています.
関節弛緩性テストでの評価にもあるように,「かた過ぎてもダメだし,やわらか過ぎもダメ」 というのが直感的にも理解できるところです.

この「かた過ぎてもダメ,やわらか過ぎもダメ」の基準ですが,これはその人の競技種目や運動レベルによるのだと思います.
バレエ・ダンサーや体操選手は柔軟性が高くないと勝負にならないので,柔軟性はパフォーマンスを決める重要な要素です.
でも,走るだけのランナーやスプリンターは柔軟性が必要とは言えない.
サッカー選手や野球選手,テニス選手なんかだと,個人のプレースタイルによるのではないでしょうか.必要な柔軟性や関節可動域は個々人で異なるのではないか,ということです.
一律に 「これだけ必要/不要」 という基準があるわけではないと思います.

では,サッカー選手や野球選手には柔軟性トレーニングやストレッチングはいらないのか?というとそうではない.

私としては,ヒトがストレッチングをやる目的というのは2つあって,
1.柔軟性を高めるため
2.コンディションを一定に保つため
なんだと考えています.
「ケガ予防のため」が入っていないのがミソ.

どうもこの話題というのは,
柔軟性は必要か?と,
ストレッチングは必要か?
が,ゴチャ混ぜになって議論されている気がします.

柔軟性も必要だし不要,ストレッチングも必要だし不要なんです.
どちらも条件次第なんですよ.

その人にとって必要な柔軟性や関節可動域まで達したら,柔軟性を獲得するためのストレッチングは不要になるのではないか,ということです.
過度に柔軟性トレーニングをやってしまうと,関節の弛緩を招いてケガの危険性を高めてしまうかもしれませんからね.

必要十分な柔軟性を持っている人は,最適な柔軟性をキープするためのメンテナンスとしてのストレッチングをやるべきです.
ピークパフォーマンス時の柔軟性を維持するとか,左右差をなくすとか,そんなところ.

こうした適切なメンテナンスによってケガの危険性が小さくなるのではないかと思うんですね.
強度が高い,つまり“よく効くストレッチング”をやればケガの危険性が小さくなるわけではないのではないか,ということです.
ちょうど,レーシングカーのサスペンションをコースに合わせて調節するような感じでしょうか(余計に分からなくなった?).

では,その個人にとって必要十分な柔軟性というのはどれほどか?
それがわかれば苦労しないです.
それに,この仮説が正しいかどうかもわからないですし.

いつか柔軟性とストレッチングの議論に終止符が打たれる日はくるのでしょうか.

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