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Deus ex machinaな未来(1)

このブログのタイトルを冠した記事になりましたが,これは最近出版された書籍に啓発されたものです.
ユヴァル・ノア・ハラリ著『ホモ・デウス』がとても面白いのでオススメしておきます.
なお,この著者は2年前に世界的ベストセラーとなった『サピエンス全史』を出版したことで知られています.
   

その『サピエンス全史』が非常に面白かったので,昨年から私は,飲み会や授業,世間話の機会に『サピエンス全史』から引っ張ってきたネタを話していました.
体育・スポーツ学という領域からしても,とても興味深い考察ができるからです.


『サピエンス全史』が世界的ベストセラーになったのは,著者のその興味深い考察もさることながら,最新の人類学と人間科学の研究結果を統合して紹介したことにあります.

分かりやすい例を挙げれば,皆さんも以下のような図を見たことがあるかと思いますが・・・,
図:教科書のウソ 人類の進化を表す“あの図”は間違いだったよりhttps://logmi.jp/152154
我々ホモ・サピエンスは,左から右へと徐々に進化して現在に至るという見慣れた図.

しかしこれは今の人類学では否定されており,例えばウィキペディアでは以下のように表現されています.
「人類の進化」wikipediaより
このように,ホモ・サピエンスは約20万年前からホモ・エレクトスから枝分かれした人類の一つであり,一時期(約3万年前まで)はネアンデルタール人やホモ・エレクトスが一緒に地球を闊歩していた時代があったと考えられています.

なお,上図にはありませんが,ネアンデルタール人やホモ・エレクトス以外にも多種多様な人類がいたことが分かっています.


ちなみに,これもウィキペディアに載っていますが,我々ホモ・サピエンスはネアンデルタール人の遺伝子を少し持っている(混血している)ことが分かっていますし,ジャワ原人や北京原人といった聞き覚えのある種族も,ホモ・エレクトスの一種として現在は分類されているんです.

これはちょうど,我々ホモ・サピエンスの中にも白人,黒人,黄色人種といった違いがあることと同じと考えてもらえればいいでしょう.


こういう研究結果はここ20年くらいでバンバン出てきたので,一般にはまだ普及していないのです.
ホモ・エレクトス(wikipedia)
ネアンデルタール人(wikipedia)
ジャワ原人(wikipedia)
人類の進化(wikipedia)


また,人類の進化を語る上で,以前はミステリーとして注目されていた「ミッシング・リンク」も,そんなものは「無い」んです.

分かっていることは,それまでうだつの上がらない種の一つであったホモ・サピエンスが,ある時期から覚醒して今の「ヒト(ホモ・サピエンス・サピエンス)」となり,同時代に生きていた人類である,ネアンデルタール人,ホモ・エレクトス,ホモ・フローレシエンシスといった種を滅ぼして現在に至るとされます.


現在の我々サピエンスが,どうして地球中を覆うほど繁殖したのか?
そして我々サピエンスはどこに向かっているのか?
といったことが『サピエンス全史』で述べられています.

興味のある人は,ぜひこちらも御一読ください.


話を『ホモ・デウス』につなげると,『サピエンス全史』においてハラリ氏は,我々サピエンスがこんなにも躍進を遂げたのは,人類史において3つの革命があったからだとします.

「認知革命」「農業革命」「科学革命」です.

その中の最後の「科学革命」は,今から約500年前(西暦1500年頃)に起こったとされ,それまで別々のものであった「科学」と「テクノロジー」が結びつき,「科学が発展することで,テクノロジーが向上する」という,今の私たちが当然のものと捉えている知的活動が人類に齎されます.

こうして科学が発展してきた現在,私たちは科学によって鬱病を軽減できる薬を作り,セックス以外の手段で生殖できるようになり,莫大な量のデータを瞬時に分析できるようになりました.

これが意味することは,今後の人類にとって非常に重要だとハラリ氏は述べます.


気分や思考が外的刺激(薬や磁気刺激など)によってコントロールすることができるようになることは,これまで人間に幸福感や生きる価値を与えていた「宗教」からその役割を取り去る可能性があります.

これによって人間は,宗教ではなく,科学とテクノロジーによって苦痛から開放され,人生の意義を感じるのです.

また,インターネットやビッグデータ解析に代表されるような,莫大な量のデータを短時間で分析できるようになってきたことは,「自分の考え」よりもデータ分析結果を基に判断する未来が考えられます.

もし将来,自分の発言や行動と,その時の心拍数や発汗,ホルモン分泌などをウェアラブル装置で常時データを取得・記録できるようになったとしましょう.
ハラリ氏によれば,このようなデータが入手できるようになると,その時人は,その判断を「自分の意志」ではなくデータを基にして決めるようになると述べます.

例えば選挙などの投票行為において,人はしばしば自分自身が置かれている社会的状況や考え方(本音)とは矛盾する判断をすることがあり,それは「昔からの支持政党だ」とか「なんとなく」で決めているものでした.

しかし,データ分析が容易になった世界においては,自分がどのような状況・環境に置かれるとストレスを感じたり幸福感を感じるのか解析できるようになります.
そして,過去の自分の発言や行為の記録から,自分自身も認識できていない,自分にとって本当に最適な政策を打ち出している政党や政治家はどれかを選択できる可能性があるわけです.

最初はウェアラブル装置とタブレット端末から始まるでしょうが,そのうち身体に埋め込まれるようになるであろうことが推測できますよね.


『ホモ・デウス』では,科学革命を経た人類ホモ・サピエンスが,今後も現在と同様の価値観によって科学を突き進めていくことで,いつしかホモ・サピエンスであることを捨て,「ホモ・デウス(神)」へとアップグレードする時代の到来を予測しています.

こう聞くと,SFものでよくある「超人」とか「強化人間」と同じものですが,現在の科学研究結果から,十分にそれが可能である未来を描いていると言えるでしょう.


ハラリ氏が指摘するのは,それが単なる「強化人間」やサイボーグといったものではなく,これまで人類が多種多様な宗教によって作り出していた「神」という存在と機能を,人類自らがその身に取り込む未来です.

この『サピエンス全史』と『ホモ・デウス』の話は面白いですから,このブログでもう少し続けてみたいと思います.

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