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授業評価アンケート論 2025|番組制作者の方,本当にごめんなさい

先日,とあるインターネット報道番組の制作者の方からご連絡がありました.
番組内でコメンテーターやゲストと共に,テーマに沿って議論するという番組です.

そこに出演して議論に参加してくれる大学教員の方を探しているとのこと.
テーマは,教員に対する他者からの評価はどこまで必要なのか? というものを予定しているそうです.

どうやら,このブログの記事の一つである,
を見てお声がけ頂いたとのこと.

なので,私はこのテーマと議論の場に相応しい人物をご紹介するつもりでした.

その人物は,時折このブログ内でも登場する私の先輩教員で,まさにこの授業評価アンケートなどを用いた「学内教員向けの授業改善活動」にも携わったこともある人です.
しかも現在は管理職に就いているので,人事や大学当局の視点でも語れるという人.
で,このブログのような,特に上記記事にあるような「教員評価に対する問題意識」も持ち合わせている人.

もう,これ以上相応しい人はいないでしょう.
ぜひ番組に!

...と思って昨夜長時間にわたり交渉したのですが,頑なに拒否されました.

というのも,やっぱり身元がバレるとヤバい,ということです.
匿名・顔伏せ・声変えで出演できるようなのですが,危険なことはしたくないようでして.

番組配信までの時間がなくなっている中での,このタイミングで「ご紹介できません」の連絡となってしまうことに,大変申し訳無い思いです.

他に適切な方が見つかっていればいいのですが...
ともかく,番組がどんなものになっているか楽しみです.


ちなみに,上述した先輩教員からうかがったエピソードを記事にしたものもあります.
よかったらこちらもどうぞ.


昨夜遅くまで..,っていうか明け方まで

ところで,その番組出演交渉ですが,ついつい「教員人事」とか「授業評価アンケート」の問題点についても語ってしまい,結局明け方までダベることになってしまいました.
アラフォー農家とアラフィフ教員が何してんだというところです.

実は,もともと今回のインターネット報道番組の件は,私に向けて来たものでした.
でも,私はすでに農家になっているし,大学教員だったのも6年前までで,今現在の大学における教員評価や授業評価アンケートの実態を語るには不適切だと思いましたので,お断りしたんです.

でも今回,その先輩教員と今現在の様子について熱く語ってしまいましたので,その断片をちょっとお話したいと思います.

今も昔も変わっていないよ

授業評価アンケートのクソっぷりは,今も昔も変わっていないそうです.
まあ,私も6年前まで授業評価アンケートとか授業改善活動とかに触れていたわけですから,少なくともそこから現在までは,同じことをずっと繰り返していることが確認できました.
コロナ禍を挟んで何か変わったことはあったのですか?とお聞きしたのですが,特に何もないとのこと.

さて,ではこの「授業評価アンケート」という活動の問題点は何なのでしょうか?

このブログを読んでくれている人の多くは大学教員が多いと思いますので,自明のことかもしれませんが,知らない人のために代表的な点をリストアップしますね.


(1)文科省から補助金をもらうための活動であるため,実際のところ形式的にしか取り組んでいない.まじめに取り組むだけ無駄,骨折り損,誰も得しないって思っている.

(2)評価される教員としてはシンプルにストレスが溜まる.頭が悪い癖に学生ウケだけは良い教員が,ここぞとばかりマウントとってくるのでウザい.

(3)形式的にしか取り組んでいない割に,任期制教員の契約更新に際して,ここぞとばかりに「不更新の理由」に使われる.そんな話が独り歩きして,特にメンタルの弱い任期制教員にとっては要らぬ精神攻撃となってノイローゼを発症させる.

(4)一念発起してアンケート結果を見てみるものの,得るものがない.「マイクの使い方が適切だったか 4.6点」とか言われても,ハァ?ってなる.

(5)FD(ファカルティ・ディベロップメント)とかで,「授業評価アンケートの解釈の限界」みたいな話を聞かされる.必ずしも授業の教育効果を評価できているわけではないとか,それ致命的じゃんって思う.

(6)授業の質というよりは,科目の人気,教員の魅力に測定値が引っ張られる傾向がある.


そんな感じです.

もちろん,こうした授業評価アンケートについて,「せっかく取り組んでいるんだから,何か役に立てる方法はないだろうか」と模索されているようです.
それは私が大学教員だった頃にも,FDとかで配布される資料で見ることがありました.
他大学での取り組み,みたいなやつで.

じゃあ,うちでもやれや,って思うんですが,結局,面倒なのでしょう.やらないですね.
だって,文科省からお金をもらうためにやってることだから.
可能な限り,低コストな活動として流したいのが本音なのです.


必ずしも良い授業が高評価になるわけではない現状

例のインターネット番組の方からの依頼は,「必ずしも良い授業が高評価になるわけではない現状.授業評価アンケートをどう受け止めているのか?」という点をしゃべってほしいというものでした.

これについて最も典型的な話は,上述したリストの(3)が当てはまりそうです.

実際に私が当人からうかがった話です.
任期制教員の契約更新で,授業評価アンケートの結果を持ち出してきて「来年度は契約なし」を通告されたそうなんです.
でも,その人はアンケート結果は平均以上の点数だったそうです.

「私は高得点をとっているのに」と訴えたそうですが,そこで言われたのが,「本学の専任教員には,あなたより高得点の先生がたくさんいます.本学は,学生からの授業評価が極めて高い先生を採用したいと考えているので,今回の件は....」といった調子で契約更新せずの判断を言い渡されたそうです.

でもさ,これ納得できないじゃん?
だって,この人の評価は「平均以上」だったんですよ.
平均以下の先生が他にもたくさんいるわけ.
おそらく,それってテニュアの先生たちがたくさん(あくまで推測だけど).

つまり,授業評価アンケートの結果って,若手の任期制教員の契約切りの根拠作りにしか機能していない可能性があるんです,少なくとも日本では.


もっと言えば,これは例の先輩教員からうかがった話ですが,驚くべきことに,授業評価アンケートで学内トップだった任期制教員が,契約切りになったケースもあるそうです.

その大学は,学生からの評価,授業技術の高さを重視しています,って学内外に吹聴しているところなのに.
これじゃ,ぜんぜん辻褄が合わないでしょ.

なんでこの人が契約を切られたのか? ですが,おそらくは学内の政治的な理由なのだそうです.


ストレスを与えて働かせようとする思考がムカつく

では最後に,私の「授業評価アンケート」に対する最も訴えたいことを.
それは,この活動の背景というか根底には,
「ストレスと不安感を与えれば,人間は今よりもクオリティの高い労働をするようになるだろう」
という思考が見えるんです.

それが単純にムカつきます.

これは,ここ十数年にわたって教育関係者全般に向けられたものです.
小中高大の先生たち.なかでも特に大学教員は,一般の方々から見ればお高くとまっているように感じるのだと思います.
そんな奴らをもっと働かせるための方法として,授業評価アンケートが採用された可能性があるんじゃないかと.

ですが,そういう思考で労働させると,どこかで歪が生じます.
まずは小中高の先生が悲鳴をあげてしまいましたね.
ちょっと以前には幼稚園・保育園の先生も.
最近は,医師の先生も悲鳴をあげています

なんだか「先生」と呼ばれる人たちの労働環境が劣悪なものにさせられている気がします.


授業評価アンケートを実施するようになって授業の満足度が改善しているって言うけどさ...

あとついでにもう一つ.

この授業評価アンケートは,だいたい2000年頃から始まった活動です.
ちょうど,私が学生だった頃なんですよ.
なので,私は2回生だったか3回生くらいの時から,授業評価アンケートを学生の立場で書いたことがあります.

この授業評価アンケートに関する研究レポートみたいなものによると,授業評価アンケートを実施するようになって,学生の授業の満足度が向上しているという報告もあるようなんですね.
なので,これをもって「授業評価アンケートには一定の意義があるのだ」という主張もされているようですが,私はこれには懐疑的です.

私と同年代以上の方々なら,これを聞けばきっと合点がいくはず.
授業評価アンケートが全国的に始まったのが2000年頃ということですが,この時期に同時に大学内の環境も変わったところがあります.
思い出してください.

ノートパソコン,インターネット,プレゼンソフト(パワーポイント)とプロジェクター,デジタルカメラ,デジタルビデオカメラ.
こういったものが,2000年頃から爆発的に普及,発展したことを覚えておいででしょう?

私の考えはこうです.
大学の授業の満足度が改善している要因の大部分は,こうした環境の改善なのではないか? と.

かつては,板書もせずに立て板に水の如く話し続ける先生がたくさんいました.
しかし,パワポの登場により,たくさんの教員がプロジェクターで授業の要点を映写しながら行うということが普通になりました.
むしろ,パワポで映写しながら話す方が楽で便利だからです.

写真やビデオ映像も,昔と比べて遥かに簡単に映写できるようになっています.
板書だけ文字だけの授業よりも,写真やビデオ映像を交えた授業の方が理解度や満足度が高まりやすいことは容易に考えられるはずです.


一般的な教員であれば,「分かりにくい授業をやってやろう」とか思ってません.
学生が理解しやすい授業になることを目指しているものです.

授業の満足度が改善してきているのは,こういう「分かりやすい授業を準備するインフラが整ってきているから」ではないでしょうか.


授業評価アンケートなんかもうやめて,先生たちの授業準備を容易にする環境整備に切り替える必要があると思っています.


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