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48:2013年3月5日

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2013年3月5日(火)3時21分

「なんでや、何がやねん!」
 藤堂は布団の中で小さく絶叫する。

 これからどうなるんやろう、その文字だけが頭にある。
 藤堂の心拍数はこの2日間、毎分120拍以下には下がらない。

 学科長をおろされるんか?

 入試委員をはずされるんか?

 テニス部をやめさせられるんか?

 罰金か?
 そうやぁー、罰金をとられるんや。

 でも金ならある。
 大丈夫や。
 知り合いがおる銀行に行ったらなんとかなる。

 今年の部活予算からは40万ほどちょろまかしといたし。

 いや、待て。
 先日、西崎祐実ともめた時は、その時は親に100万を包んだった。
 でも今回はもっと高いな。
 いくらや。
 いくらで手を打てるんや。
 いくらなんでも200万を超えたらキツいわ。

 そろばんを弾いている映像が浮かぶ。
 だが、藤堂はそろばんはできない。
 4つの球と1つの球が上下する、そんな映像だ。

 パチパチパチパチ、・・・・この映像はやめよう。

 こんなこと考えても解決にならへん。
 誰や? 誰がこの問題を起こしたんや。

 頭から布団をかぶる。
 足が出て寒かった。
 背と腰を丸めて足を布団に入れた。

「穂積がなんかしたんか、穂積里香。あの女、なんかやっとるぞ。萩原になんか吹き込んだんか? 森元になんか言ったんか? でも穂積は森元と親しくないはずや」
 暗闇の中、目を見開いてつぶやいた。
 顔の筋肉を最大限につかって目を開く。
 目の前は漆黒の闇。
 そこに何かを見たかったが、目が慣れてきて少し布団が見えるだけだ。

 いや、何かが見えてきた。
 見えたのではなく、頭に顔が浮かんできた。

「アイツや、学生課の高石や。アイツがなんか学生に言ったんや。森元と仲がよかったんかアイツ」
 思わず声に出す。

 しかし高石昇の顔はすぐに歪み消え、別の顔が出てくる。

「いや、増田や」
 増田信吾がこの件で一度も出てきていない。
 あれだけ俺の足を引っ張っていた増田が、何もしてへんわけがない。

「これは何かあるはずや」けど、増田は何か動いている様子はなかった。
 動いていなさ過ぎる。
 本当に何もやっていないのかもしれへん。
 いつもの増田やったら、もっと大袈裟に派手にやってるはずや。

 あぁ、そうかぁー、そうかもしれん。
 頭の奥からゆっくりと顔が現れる。

「永山義春が仕掛けたんちゃうか」アイツは・・、「アイツは、科学研究をやっとるからな」
 学生の精神を研究したのかもしれへん。
 それは可能性がある。
 この前も学科会議で、萩原のために、来年度の授業をなんとかしてやろうとか言うとったぞアイツ。
 訳分からんこと抜かしよって、会議で俺をバカにしとったんや。

 ・・・違う。いくらなんでも、それは無理筋や。
 誰かおらんか?
 問題を起こしそうな奴は。

 そうやぁー、わかったわ。
 水本や! 水本誠二が一番可能性が高い。
 きっとそうや。

 学科長になれへんかった腹いせを、ここにきて俺にぶつけよったんや。
 いつも俺は水本と内緒の話をしとったしな。
 それを使って、俺を潰そうとしたんや。

 けど、おかしい、早過ぎるな。
 何もかもが早く進み過ぎとる。
 これは昔から計画されとったんやないか?

 ずっと前から、ずっとこの時のために仕組まれとったんやないか?

 藤堂は、顔を布団へ押し当てた。
 目を瞑る。
 10秒。
 20秒。
 体が心臓の拍動を受けて揺れている。
 その感覚が失われてきた。

 その時だった。
 深い深い闇の奥に、一つの物体を見つけた。
 その物体に近づくと、それは振り向いた。
 振り向いたその顔は、見覚えのある形をしていた。

 そうか・・・、こいつか・・・。

 テニス部4年の岸本佳苗の顔がニヤリと笑って現れた。

 そうやぁ、岸本や。
 岸本は森元と仲がえぇからな。
 萩原ともよぉ喋っとった。
 ほんまにほんま。
 こいつ、監督である俺を最後にハメたんや!
 俺のおかげでテニスをできたのに、俺のおかげで主務をできたのに。

 やっぱりや。
 トップの人間というのは、最後には側近に殺されるものなんや。

 そうや、それが昔からの習わしや。


 藤堂は布団の中でずっとつぶやいている。
 呪文のように朝まで続いた。




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