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49:2013年3月5日

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2013年3月5日 17時20分

「まあ、そんなわけで、今、奴は謹慎処分になっとるんよ」
 永山義春はニヤけている。
 フェイスタイムのビデオ画像でも、その表情を捉えることができた。

「へぇー、意外と早い失脚でしたね。もっと慎重に進むタイプだと思ってたんですけど」
 橿原一如はマグカップでコーヒーを飲みながら、ウェブカメラを直視しないようにニヤけた。
 だいぶ笑いを堪えたつもりだが、きっとこれもフェイスタイムで表情が伝わっているんだろう。

 最近、永山と橿原は内線電話ではなく、Appleのフェイスタイムを使って通信している。
 その方が相手の表情も分かって話が盛り上がりやすい。

「でも永山さん、藤堂には確実にXデーがあると見込んで3年ですが、奴が大学に奉職して5年ですかぁ。そう考えると長かったなぁ、よく耐えたなぁ、と思えるんですけどね」

「まぁ、そこが奴のミスターサタンたる所以なんやけどね。ただ、今回のことで、ミスターサタンはチャンピオンを追われることになるんよね。引退かもしれんよ」

「たしかに、謹慎処分ですからね。かなり重い処分だと思うんですけど。これって、もう辞任勧告と捉えられるんですか?」

「いや、たぶんそこまでは無いんじゃない。それに、辞任しなければならないほどの事件かというと、そういうわけじゃないからねぇ」

「たしかに。でも、学生に脅迫みたいなことしてるわけでしょ。来年からはどうするんですか? とてもじゃないですけど、教壇に立つこと出来ないんじゃないですかね。僕なら無理っすよ」

「でも、そこがあいつのあいつたる所以なんよ。何食わぬ顔でまた復帰してくるんじゃない? もちろん、学科長とか学内委員なんかの役職は剥奪されるやろうけどね。ただねぇ、あいつみたいなのを、そのまま雇ったままにする青葉大学もそんな大学なんよ」

「ま、そうですかね」

「今回の件で興味深いのは、清水先生の時とは違って、周りの人間が何一つ策略もせず、貶めようともしていないのに、勝手に自爆しまくっていたということなんよ。これは非常に興味深かった」

「そうです。例えばそこに地雷原があったとして、その地雷を飛び石のように踏みまくって渡ったようなもんですよね。ちょっとは普通の地面を踏めよ、と」

「もうさぁ、俺らが予想した通りの、まさに『こう動くはず』というプログラムに沿った通りの動きをしてくれたよね。これは見事よ。イチゴ大福を置いといたら、勝手に食べて勝手に喉に詰まらせて死んだのと同じだよね」

「だってですよ、そうは言っても『学内の秘密情報をバラした』というのだけなら、こんな大事にはなっていないですからね」

「そうなんよ。秘密情報をバラすだけなら、たぶん訓戒とか、次から要注意人物になるとか、そんな程度よ」

「まぁ、もともと要注意人物なんですけどね」

「いや、大学としてはそこまで要注意人物の扱いにはなってなかったでしょ。そこがまた問題、という、これは3年間ずっと橿原君と内線とかフェイスタイムで話してきたことに行き着いてしまうんやけどね。無能だからこそ雇ってみたけど、あまりにも無能過ぎて困ってる、っていうやつだよ」

「やっぱり、危ないダメな思想や考え方のもとで行動すると、それはやっぱり一定の結果へと回帰していくんだと思うんですよね。大学にも同じことが言えますよ。グローバル化とかビジネススキルとかキャリアサポートとか顧客満足度、あと、発信力とか。もうね、目の前のことしか考えない、詰み将棋で言えば、3手詰、下手すりゃ1手詰の振る舞いなんですよ。5手、9手のことは考えられないわけですね。そうしたものの権化が、藤堂道雄なんですよ。こういう結果になるってこと、十分に予想できたじゃないですか。奴が公式、非公式に言っていること、やってること。全部何から何まで間違った思想や考え方から生まれていることは透け透けですよ。それなのに、そんな奴を『なんとかなる』と目の前のことに都合が良いからってゴーサインを出してるんでしょ。イカれてる。狂ってますよ」


 その後、藤堂の謹慎は無期限延長になった。2013年度の授業は受け持たないとのこと。




50:2013年3月9日