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アインシュタインにタイピングさせるな


最近は社会学者であるピーター・ドラッカーのマネジメントに関する書籍がゾロゾロ出てきて,ひとつのブームになっています.
最近ブームに火がついた,といったような人ではなく,昔から高名な学者だったのですけど,なんか最近になって名前を見る機会が多いのです.

うちの大学でも,その経営哲学についてドラッカーから学ぼうという動きがあり,ただブームに乗っているだけなんじゃないか?という疑問を持ちながらも赴任初年度の私は付き従っております.

周りがあまりにも「ドラッカーはこう言っている」って言うもんだから,「一応どんな思想の社会学者なのかは知っておこう」ということで私も関連書籍を買って読みました.
ピーター・ドラッカー著『マネジメント』を読むのはめんどくさいと思ったので,Amazonとか書店で売れ筋として有名なものでいいやと思い,岩崎夏海 著『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』を購入.
だいたい分かりました.

経営者としての基本,マネジメントを考える上での理念を理解するにはドラッカーのマネジメント哲学は非常に参考になります.
ただ,「とても良いこと言うてますなー」とは思いましたが,基本は基本.それ以上ではありません.
マネジメントについて研究するなら必須の知見ですけど,実際じゃあどーすんだ,となると「それは各自が考えろ」となるわけでして.

別に批判しているわけではありません.
現代社会における経営哲学やマネジメント理論を構築するために必要不可欠なことを学べます.なんてったって,「現代経営学」と「マネジメント」の生みの親なのですから,そりゃそうです.

とは言え,現在進行である現代の経営学やマネジメントについての考えなのですから,そこで得られる知識というのは現在進行の社会そのものが体現しているものとも言えます.
つまり,別にドラッカーのマネジメントをわざわざ読まなくても,そこらへんの社会学者や経営者,作家が書いたマネジメントに関する知見でも事足りるとも言えるのです.

これを例えるなら,相対性理論という自然科学の基本を学ぶのに,わざわざアインシュタイン 著『光の伝播に対する重力の影響(他 関連論文)』を読まなくても,一般的な科学・物理学の読み物や雑誌を読めば済むことと一緒です.

人文学の色が強い大学ですから,原典を大事にしようという色が強いのかもしれませんが,そんなに肩肘張って学術的に取り組まなくても,マネジメントや経営っていうのはもっと泥臭い作業の連続だ,と生意気なことを言ってみたい私です.

アインシュタインで思い出したんですが,ドラッカーもいいですけど,彼より1世紀前を生きた経済学者にデヴィッド・リカードという人がいまして.
リカードも仕事をする上で重要なことを言っています.
「比較優位性の原理」
です.

今の日本の大学経営はドラッカーから始めるよりも,その100年前のリカードから始めるべきです.
「比較優位の原理」というのは,“アインシュタインにタイピングをさせるな” という比喩で有名な経済学の理論です.
ここにアインシュタインと秘書がいます.実はアインシュタインは秘書よりもタイピング(書類作成)が速いのですが,だからといってアインシュタインが秘書の代わりに書類作成をしてはいけない,というものです.
アインシュタインは研究に,秘書は書類作成に打ち込むことで,研究室という組織全体の仕事が向上するのです.

今の日本の大学は教員と職員の仕事がごっちゃです.
教員は教育と研究を,職員は事務と経営をするべきなのです.

例えば,教員は入試とかカリキュラムに手や口を出すべきではありません.
どんな大学を作るか?は経営者の考えることであって,教員は受け持った学生や与えられた授業を通じて教育に打ち込むべきなのです.

「うちはこういう大学を目指します.教員の皆さんは,そうなるよう仕事してください」と職員が言えないと,いつまで経っても大学のためにならない仕事(というか作業)を言い訳しながら続ける教員をのさばらせてしまいます.
「大学の職員力」なんて最近では言われていますが,こうした根本を問うものに出会うことがありません.
付け焼き刃な職員力の改善をしたところで,現状のまま進めれば職員のストレスと負担が増えるだけになってしまいますから.