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幼保一体化とか,子ども・子育て新システムとか

「私は専門ではないので」ということで言及しておりませんでしたが,福祉関係に片足をつっこんでいる身としては無関係ではありません.
今日は「保育」についてです.

昨年までは,まさに「私は専門ではないので」と言いつつ,ちゃっかり保育実習の巡回なんぞやっておりました.
学生からすれば「なんで◯◯(私)先生が来るんだ?」というところでしょうけど,実習先の保育所からすれば,誰であろうと実習生の大学の一教員なわけで.
てっきり私を保育の専門だと思って対応する実習先の方々もおります.
(実習に慣れている所では,たいてい専門外の先生も実習巡回に来ることを知ってはいますけどね)





過去の記事では,“学校教育” とか “大学教育” の改革について,市場原理主義や過激な民間参入,ビジネスライクな運営ではダメだ,という主張を繰り返し繰り返し,しつこいくらいに様々な視点で繰り返してきました.
実は,この問題は “保育” も同様なものがありまして.
なので,ここにも言及しておこうと思います.

実習巡回先で,園長先生や実習主任の方々とお話しする中で気づかされたこと.
そして,自身,一教育関係者として,きな臭さを感じていた「幼保一体化(幼保一元化)」に代表される保育・幼児教育問題です.

なお,ここで取り上げる「子ども・子育て支援新制度」に関する内閣府の説明資料がホームページにアップされています.
子ども・子育て支援新制度について
子ども・子育て新システムの流れの最新版です.気になる方は,こちらも参照ください.

さて,小難しい話はそれそこ専門の方のブログにお任せするとして,ここでは本件にまつわる「保育」に関する理念や心意気を取り上げたいと思います.

そうは言っても,まずは基本的なところをおさえておきましょう.

子ども・子育て新システム(子ども・子育て支援新制度)というのは,少子化対策と待機児童対策,それに伴う幼保一体化(幼保一元化)の検討と推進を目指しているものです.
都市部では待機児童の増加が問題になっていますが,その一方で幼稚園には定員割れがありまして.
そして地方はというと,少子化の影響もあって幼稚園だの保育所だのと言ってられず,軒並み廃園になるなかで “近い所に通わせる”,というのが現状.

そんなわけで,特に喫緊の課題である待機児童をなんとかするために,空きのある幼稚園の有効利用のため,幼稚園に保育所機能を付加してしまえ.という結構乱暴な話が持ち上がったわけです.
というのも,保育所は0歳から入所できますが,幼稚園は3歳からでないと入園できないからです.
※あと,結構重要なのが保育所は福祉施設なので,入所するためには“保育に欠ける(共働きしているとか,病気で保育できないとか)” という条件が必要です.
これに対処するため,幼稚園と保育所を一緒にする.これがいわゆる「総合こども園」というやつです.

ところが,幼稚園がこれに猛反発.
結局現在の案では,保育所に幼稚園機能を付加した「総合こども園」と,保育所機能がない「総合こども園」ができるということになっています.
後者ですが,これってつまり「幼稚園のままの総合こども園」ということでして.「総合こども園」にバージョンアップしたくない「幼稚園」に,選択の余地を与えているのです.
しかも,「幼稚園のままでいたい」という幼稚園は,そのままでもよいことになっています.意味無ぇ...
そんなわけで,4種類に大別して紹介されることが多いです.
これをまとめると,以下のようになります.
1)0歳〜5歳までの総合こども園(The 総合こども園)
2)3歳〜5歳までの総合こども園(ようは,幼稚園)
3)3歳〜5歳までの幼稚園(まんま幼稚園)
4)0歳〜2歳までの保育所(3歳未満のみの保育所)

でですね,ここで問題なのは,つまり現状の案ですと,
保育所解体
ということになるのですよ.

いえ,保育所解体が悪いと言っているのではありません.
この子供・子育て支援新制度の問題点というのは,保育所解体だけではなく,保育の理念や心意気も解体しようとするところにあります.
ある意味,保育関係者には幼稚園の頑固さを見習って欲しいくらいでもありまして,このままだと0歳〜5歳までの子供たちが,大人の都合と思惑の食い物にされてしまいます.

子ども・子育て支援新制度によって発生する最も危険なこと.
それが,保育と幼児教育を市場原理主義に曝そうとしている,という点です.

総合こども園として幼保一体にする.という考え方自体,私は否定しません.
しかし,そうであれば擁護と教育を目的とする保育所の,「福祉的機能」を最大限に維持,強化するものでなければなりません.

だいたい,幼保一体化というのは「保育所」を望む家庭が多いことによる「待機児童問題」への対処が本丸だったはずです(幼稚園は定員割れしてるんですから).

ということは,なすべきことは保育所の充実のただ一点にあるはずなのです.ところが,そのようにはなっていない.
だけならまだしも,この「保育所の充実」を目指すことに託つけて,
民間参入しやすい制度に変えよう(つまり規制緩和)
ということになっているのですからたちが悪いのです.

教育や福祉分野における市場原理が,どれだけたちが悪いのか,という点については,私の過去記事を読んでくれている人なら分かってくれるかと思います.

保育を市場原理でビジネスしたらどうなるか.考えただけでも恐ろしいではありませんか.
というか,既にその恐ろしい状況が,特に都市部(中でも東京)では発生しています.

親の満足度を高めるためのサービス
小さい敷地で大量に子供を預かる
それでいて少ない人数でカバーしようとする
しかも非正規雇用の保育士,未熟な保育士を雇ってコスト削減
駅前保育なるものが登場し,子供が悪環境下に曝されている
親のクレームや要求には教育的対処をせず,お客様として対応する

預ける親の側にとっては,安価で便利で気持ちいい,のでしょう.
保育所としても,そうした「お客様」を獲得するためのサービスを売りにしますし,そして当然,ビジネスですから利益も同時に追求します.
ライバルが現れたら,さらに,あの手この手で利益を出そうとします.

これ,最悪の保育ではありませんか.
そこに,子供の健全な発達を目指した保育がどこまで残っているか.

民間の保育所(総合こども園)でもう一つ怖いのは,事業主の都合で廃園になってしまう可能性が高いという点です.これはいろいろなところで言及されていますが,非常に不安定ということです.

また,利用者としても民間が増えてくれたところで面倒なところもありまして.
例えば役所に保育所やこども園を紹介してもらおうとした場合,役所は特定の民間業者を紹介するわけにはいかないので,連絡先の一覧を渡されるかホームページで公開するだけになります.
空き状況や入所の詳細について,役所は面倒をみてくれないというわけです.

ついでに言うと,そうやって市場原理に曝した保育所や総合こども園の経営を続けてしまうと,志ある保育士が減ってしまいます.とりあえずお金のための腰掛けアルバイトのような感覚で仕事をする人が増えてしまいます.
するとどうなるか.事故や事件,幼児虐待といったことが多発する可能性が高まるわけです.

まさにアメリカ式の保育です.
このままでは,アメリカのような悲惨な社会状況に追従することになってしまいます.

こうした一連のことは,前回の
英語教育について
でもそうですし,大学教育とその改革について述べた記事
反・大学改革論(学生はお客様じゃない)
こんな挙動の教員がいる大学は危ない
の内容と,ぴったり符合します.

教育・福祉については,日本は今,ほんとにヤバイ状態にあります.
私は保育の専門ではありませんけど...
まがいなりにも教育・福祉の専門家ではありますから,なんとかしないといけませんね.

※後日,懸念していた事が浮き彫りになった事件が発生しましたので,関連記事として書いております.
ベビーシッター事件から考える保育
慎重な待機児童対策を

子ども・子育て支援新制度や幼保一体化の問題点については,以下の書籍が参考になります.
保育関係の方や興味のある方は,ご一読をオススメします.