2013年10月13日日曜日

PIAACとPISAの結果の考察

かなり昔の記事ですが,
学力低下
において「大人の学力みたいなものを測ればいいのに,というか,それを測って考察しないと子供の学力を云々することはできない」と言っていたら
PIAAC:国際成人力調査
でも紹介したように,OECDがそんなことを計画してやっておりました.

んで,先日,
待ちに待ったその結果が発表されました.

結果を前に言っておきたいのは,私が数年前からずっと主張していることをもう一度,
「今の日本の教育は悪くない.学力も低下していない.というか,もっと教育現場にいる人の言うことを聞いてくれないでしょうか皆様」
です.

さて今回は,PIAACの結果をうけて私なりに,そして,タイトルにあるような,皆さんが実は気にしているであろうPISAとの相関も含めて,面白可笑しく考察してみます.

文部科学省が出している結果・考察は,
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/data/Others/1287165.htm
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/data/Others/__icsFiles/afieldfile/2013/10/08/1287165_1_1.pdf
を御覧ください.

まずはシンプルな国際ランキングから.日本はどの位置につけているのか,左図を御覧ください.

めでたいことに,結構な差をつけて日本がトップという結果です.
しかも,本当に他国とは「差」をつけておりまして,統計学的に見ても2位以下に「有意差」をつけているのだそうですよ(詳細は文科省の結果考察を).

通常,このような「ランキング」にすると,実はその「差」は僅かなものであって,意味のある差(有意差)はみられないことが多いのですが.
実際,「数的思考力」では2位のフィンランドは3位,4位のベルギー,オランダと「差はない」という結果です.

例えば,体重65kgの人と64.5kgの人に「差がある」とは言えないでしょ?コーヒーを飲んだり,トイレに行ったらランキングに変動があるような「差」ですからね.
そのようなわけで,今回の日本の1位というのは「圧倒的ではないか,我が国は」と表現してよいものなのです.

このPIAACは16歳〜65歳の人を対象にしております.
ですから当然,「どの年代が優秀なのか?」という点は気になるところです.

文科省の結果・考察にも出ていますが,それがこの下図2つです.

別に,我々の世代(20代後半〜30代半ば)が優秀なんだと自惚れたいわけではありません.
OECD各国とも同じような結果ですし,その平均値も同じような傾向を示しています
要するに,このPIAACというのは20代後半〜30代半ばが,最も点数が高くなるテストなのであり,そうしたものを測定しているということが示されたわけです.

詳細に読み取っているわけではないので強くは言えないのですが,日本の特徴としては「数的思考力と読解力の両者とも,50歳頃から急激に低下する」ということです.
これはおそらく,その時期の方々が押し並べて「頭が悪い」わけではなくて,ヒトという生物的に低下が免れないものなのだと思います.

私の専門であるスポーツ科学でも同じことが言えます.日本人の「筋力(体力)」も50歳頃を境に急激な低下をみせるのです.
運動習慣やトレーニングの影響を受けにくい「握力」を例に,上のものと似せてグラフを作ってみました.
データ元は文部科学省のものです.
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001030954&cycode=0
2012年度の新体力テストより作成
※16歳〜19歳の値および男女の値を平均している
これは偶然ではないと思います.
50歳が一つのターニングポイントなのは,体力も知力も同じなのかもしれませんね.

※あと,「握力」のところで一つ解説をつけとくと,グラフのように10代の握力が弱く,30代でピークになる,というのは普通でして,昔から変わらない傾向です.これをもって「最近の子供は体力がない」というのは間違いです.意外と知られていませんので驚く人がいます.

私が学生時代,スポーツ科学では高名なとある先生が仰っていたことを思い出します.
「30歳前後が最も面白いアイデアや馬力を持っている時期だね.バリバリ動けるのはその時期で,その時に思い付いたことや疑問に感じたことを形にするのが,あとの研究生活だよ」
というものです.まさにそうしたことを数値で見ているようです.

では,こうしたPIAACで測定した値ですが,何かと議論されることの多い「子供の学力」とはどのような関係性を持っているのでしょうか?

今回は,PIAACにおける16歳〜24歳の結果と,2003年〜2009年までのPISA(いわゆる,OECD生徒の学習到達度調査)の結果との関係性を考察してみることにしました.

2003年〜2009年までのPISAの結果を平均し,それをPIAACの値とで相関をとりました.
なぜかというと,2003年〜2009年当時の子供たちが,今回のPIAACにおける16歳〜24歳の部分に相当するからです.

このやり方が良いか悪いかと言えば,そんなに良くないと思いますが.
PISAとPIAACで,評価したい事がそもそも違いますしね.片手間に趣味の範囲でやったことなので,その旨どうかご了承ください.
それらを以下に示しております.

まずはPISAの「読解力」と,PIAACの「数的思考力」の結果です.

そりゃそうなのかもしれませんが,「PISAの読解力」と「PIAACの数的思考力」の相関性は弱い( R二乗値=0.133)ことがみてとれます.

一方の「PIAACの読解力」との相関性はというと,こちらも微妙( R二乗値=0.414).
理由はその道の専門じゃないのでわかりませんせんけど,PISAの読解力,つまり子供の読解力の測定とPIAACの読解力は別物なのかもしれません.

実際,テスト内容はぜんぜん違いますし,これらのテストの名前も英語にすると異なるものです.
PISAの読解力はReading literacyですが,PIAACの読解力はLiteracyですので.

いずれにせよ,PISAで測定される子供の読解力は,PIAACで測定される大人の読解力や数的思考力との相関性は弱いことはわかりました.


では,次はPISAの「数学的リテラシー」とPIAACの結果をみてみましょう.
これはどうなのでしょうか?


まずはPISAの「数学的リテラシー」と,PIAACの「数的思考力」.
R二乗値は0.564と低くはないので,子供の頃の数学的リテラシーは,大人になった時の数的思考力と関係はあるようです.

さらに強力な関係が見いだせるのがPIAACの読解力です.
なんと,R二乗値が0.735という高さ.
ピシっ!と斜め45度になっております.
子供の頃の数学的リテラシーは,大人になってからの読解力との関係が強い可能性があります.
専門的に詳しく分析しないといけませんので,あんまり強引には言えませんが,そんなような傾向のようですね.

最後に,PISAの科学的リテラシーとの関係性をみておきましょう.
まずはPISAの「科学的リテラシー」とPIAACの「数的思考力」.

お次はPIAACの「読解力」との関係.
「科学的」っていうもんだから,PIAACの数的思考力との関係性が強いものだと思っていたら,どうやらこちらもPIAACの「読解力」との関係性が強いようです.
つまり,子供の頃の科学的リテラシーは大人になってからの読解力(literacy)につながる可能性が高いわけですね.まぁ,たしかにそんな感じはします.

義務教育後の,拡大解釈すれば「大人に求められる」能力というのは,以下のようにまとめることができるかもしれません.
大人に求められる「読解力」は,子供の頃の数学的リテラシーと科学的リテラシーの影響を強く受ける.
一方で,子供にとっての読解力は,大人になってから求められる読解力とは質が異なる可能性がある.
大人に求められる「数的思考力」のためには,やはり子供の頃の数学的リテラシーに依存する可能性がある.
そんなようなところでしょうか.
また気が向いたら別の分析をしてみようとは思いますが,教育学とか社会学の人の専門的な分析が出ることを期待しております.

データの出典元は,以下のOECDのサイトです.
http://www.oecd.org/pisa/aboutpisa/(PISA)
http://www.oecd.org/site/piaac/(PIAAC)