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警察をお世話する

警察のお世話になったことは少ないのですが,警察をお世話したことがあるというのは結構レアだと思います.
今回はそんな話をしてみます.

今から10年くらい前のことです.私が大学の助手をやっていた時,所属する研究室に警察学校から「体力トレーニング法」についての依頼がきたことがあるんです.
なんで私達みたいな研究室に警察の方々が体力トレーニングの相談をしにきたのか不思議でしたが,まあ,面白そうだからここは一つ引き受けてみようということに.
※この話は学会で発表もしたので機密事項じゃありません.

相談を受けているうち,話題がそれぞれの出身高校のことになりました.そしてなんと,相談を持ち込んできた警察官と我々の先生が同じ高校出身で,しかも年もかぶっており,なんとなくお互いを知っていたということが判明.
「あっ,あの時のお前か!」ということで,突然先輩風を吹かしだす先生.
「あっ,どうも先輩」と,突然下手に出始める警察官.
もの凄い偶然ですね.

さて,話は警察の方の相談です.
なんでも,新しく着任した学校長が体力トレーニングを重視したいということなんだそうです.だから,ここは一つ大学の力を借りようということになったんだそうです.
話を聞いてみますに,それまで学校で行われていた体力トレーニングは,教官各々が考えたプログラムを毎度試行錯誤しながらやっているとのこと.
あとは,自主トレとして生徒各自に任されているということでした.

いや,別にそれでもいいんじゃないの,と思ったのですけど,先方さんとしては,もう少し体力トレーニングをシステマティックにしたいとの要望です.つまり,「しごき」としてのトレーニングだけでなく,体力向上がしっかりと把握できるものにしたいのだそうです.

別に相手が「警察」だからというわけじゃないのですが,我々としても適当なことはできないと思い,まずは現在どんなトレーニングがされているのか下見をすることにしました.

いや,なかなか大変そうな感じでした.生徒さんが.
これ以上がんばらせる必要があるのかと言うほど.
とは言え,より効果的なトレーニング・システムを構築すれば,長期的には生徒のためにもなるわけですし,ここは一つ協力しようということになったわけです.

なお,警察にはJAPPAT(ジャパット)という専門の体力検定があります.
ネットでググれば色々出てきます.実際に見学させてもらいましたが,結構実践的な体力評価方法だと思います.かなりアナログチックですけど,全国的に普及させるためにはこういうのが良いんじゃないでしょうか.
ちょうど,自体重のみで行なう「サーキットトレーニング」みたいなテストです.

この体力検定の成績向上が大事だということなので,研究室としても「サーキットトレーニング」を提案した次第です.
体力トレーニングの原則の一つ「特異性の原則」からすれば,私としてはJAPPATをテストではなくトレーニングとしてやればいいんじゃないのかと思ったのですけど,そこは口出ししていません.助手ですから.

いえ,実は先生にもそれを進言したんですが,先生も「それだと,せっかく依頼してもらっているのに,なんだかパッとしない」ということだったので.

「日々のトレーニング状況を記入していくことで,現在のトレーニング効果や最適なトレーニング負荷が分かる」というエクセル関数を組んだファイルもプレゼントしました.
今ではスマホでもポピュラーな「トレーニング日誌アプリ」みたいなものです.我ながら,時代を先取りしていました.
そうは言いましても,専門アプリではなくエクセルシートですから,関数を組んだ私以外の人が扱うのが難しいわけで,半年くらいは利用方法について警察学校の方とメールのやり取りしていました.
あれから後どうなったか知りませんが,なんらかの形で発展してくれていればと思っています.

さてさて,警察学校を訪問・見学した後ですが,今後協力していくということもあって,学校長や教官数名を交えて,近くの繁華街で懇親会を開いてくれました.
※警察の方と一緒に飲むのって違反じゃないですよね?別に危ない取引してるわけじゃないし.

校内では強面だった教官の方も,居酒屋ではとても気さくに話してくれます.
30代半ばかなと思う女性教官もいたのですけど,この人がまた非常に美人でした.きっと生徒からも人気があったこと思います.ところが,飲むと途端にキャピキャピ女子になってしまいました.「まだ独身です」という理由が少し分かった気もします.きっと生徒たちはこのことを知らずに卒業しているはずです.

ところで,ここでもやっぱり私はこの質問をしています.
「皆さんのお仕事で,最もツラいことは何ですか?」

「やっぱり,◯◯(その地域を代表する繁華街)の駐在勤務でしょうね」
という一人のつぶやきに,一同,うなずいています.

「若い頃,そこで勤務していてこんな無線連絡が入ったんですよ.飲み屋の前で,巨漢の外国人が酔っ払って刃物を持って暴れているって.とりあえず駆けつけるじゃないですか.でも,そこからどうすればいいのか困るんですよ.まずは声をかけてみるでしょ.でも,外国人だし,全然通じてないなって分かるんです.私達,警察官じゃないですか.ここで私達が何もしないわけにはいかないから,まあ,行きますよね,取り押さえに.でも,めちゃくちゃ怖いですよ.もちろん応援を呼ぶんですけど,応援が来るまでに何かあったら大変だし,あれはツラいですね」
私「そういう時って,拳銃で威嚇できないんですか?」
「いやぁ,ちょっとそれは無理ですね.問題になるかもしれませんから.しかも,威嚇のために警告しようにも,外国人で言葉通じてないわけでしょ.やっぱり問題になります」
(今はだいぶ緩和されているようですが,ご存知のように,かつて警察官の銃発砲のハードルは非常に高かったことを覚えている人も多いでしょう)
私「そんな時,取り押さえに行くのって,やっぱり若いもん順なんですか?お前が行け,みたいな」
「いえ,そこは連携がありますから.役割分担で取り押さえますよ」

逆に,一番楽な勤務は,田舎の駐在勤務とのこと.
「パトロールして終わり,っていう日が続くんです.まあ,それが一番いいですね」

懇親会もお開きになろうかという時,まだ20代前半だった私に向かって学校長がこう言います.
「もしその気があるなら,我が社に就職するというのはどうですか?」って.

なんでも,警察の人達は自分たちの組織のことを「会社」として表現することがあるんだそうです.
会話の中で,自分たちが警察官であることをカムフラージュする意味があるんですって.
これは『踊る大捜査線』とかでも知られるようになったことでもあり,私もその時,あぁ,こういうふうに使うんだなと興味深く思いました.

実は,私の小さい頃の「将来の夢」が,警察官になることでした.
もう警察官を志望する気はないのですが,こういう形で貢献できたことは良い機会になったと思っています.