2017年1月22日日曜日

警察用のトレーニング

前回の話.
警察をお世話する
肝心なことを書かずに,しょうもない話で終わっていました.

警察学校で行われているトレーニングのバージョンアップを依頼された我々の研究室は,(話が話だけにアレコレ説明できませんが)それなりの仕事をさせてもらいました.

そんな中で,警察学校の校長先生や教官と一杯飲む機会がありました,という話を前回しましたよね.
そこで,「警察学校におけるトレーニング哲学」というのも聞いてみたんです.
そのための懇親会でしたし.

校内では恐ろしい形相で生徒の前に立っていた教官も,飲み会では朗らかな雰囲気で接してくれます.あの高圧的態度の『鬼教官』は,多分に作られたキャラクタであることが分かります.
トレーニング・プログラム作成のヒントになればといろいろ質問する私に,酔っ払いながらも丁寧に対応してくれたんです.

私「警察学校の『体力トレーニング』で,重要視しているのはどのようなことなんですか?」
教官「まず,一番大切なのは精神面を鍛えることです.私はそのようにしています」
私「精神面ですか.どういった精神面を鍛えているんですか?」
教官「警察官になろうとしている者達ですから.やはり警察官に必要な精神ですね」
私「どのような手段で鍛えているのでしょうか?」
教官「例えば持久走をするのですが,いろいろな条件をつけます.やはり警察ですから,グラウンドを何周・何秒で走れ,というわけではないんだと思います.やはり警察官ですから,例えば犯人を追いかけて捕まえたとしても,すぐに次の命令があって別の犯人を追いかけなければならないという状況もあるでしょう.そういう時,しんどいから休みながら追いかけようというのではダメです.やはり警察官ですから,そこで気力を振り絞って走り出す必要があるんです.ですから,例えば『ラスト1周全力で走れ!』と指示して走らせたあと,ゴールした思わせて『はい,あと10周走れ!』と,それが終わったら『はい,あと3周!』なんてことを指示するんです」
私「うわぁ,めちゃくちゃきつそうですね.でも,たしかに大事ですね.そういうのを『トレーニングの特異性の原則』とか『トレーニングのモデリング』って言ったりするですよ.理にかなっていますね」
教官「そうですか.理論的にも正しいのですね.あとは,やはり警察官ですから,運動着で走るなんてことは普通はありません.制服や重装備で走らせることもあるんです.例えば,荷物やシールド(透明の盾)を持たせて走らせたりします」
私「それもトレーニングの理論として適切だと思います.スポーツでも,用具を持たせた状態でのトレーニングが必要だったりしますから」
教官「あと,やはり警察官ですから,連帯責任ですね.自分の行ないがチームに影響するということを叩き込みます.班分けして取り組んでいるんですが,お互いを気にし合う状況を作っています」
私「そういうことを伝えるためにも,体力トレーニングの場は重要なのですね」
教官「そうですね.体力も大事ですが,精神面を鍛えるという部分が大きいように思います」

“やはり警察官ですから” っていうのが印象的な教官でした.
それに,別に私達が介入しなくてもいいんじゃないかと思ったのが正直なところです.

私「そもそも,警察官に求められる『体力』とはどのようなものですか? そういうトレーニングの狙いとか目標みたいなものってあるんでしょうか?」
この質問には学校長が答えてくれました.
校長「いろいろな要素があるのでしょうが,まずは逃走する犯人を追いかけて取り押さえるという体力です.今日,警察用の体力検定(JAPPAT)を見てもらったかと思いますが,あれもそうした体力を想定しています.走って捉えて組み伏せる,という体力です」
私「なるほど,だから全身持久力と筋持久力,それに敏捷性をテストする内容になっているのですね」

あと,学校長は『体力トレーニング』に関連してこんなことも話されていました.
校長「実は,こんな話があるんですよ.警察官を志望する人は,景気が良いときほど良い人材が入ってきて,不況の時ほど困った奴が入ってくる,っていうものです」
私「え? どいういうことですか?」
校長「景気が良いときは,別に公務員に,ましてや警察官になろうなんて人は少ないんです.ですから,そんな中でわざわざ警察官になろうとする人はよほど気合いの入った人が多い.その反対に,不況になると警察官にでもなって安定しようとする奴が現れます.それがまた,そんな奴だから頭はいいんですね,だから筆記ですぐにパスできちゃう.だけど,そういう奴は体力がないんですよ.皆が皆とは言いませんよ.だけど,そういうのが増えてくるという印象はありますね.そして今は不況ですよね」
私「あぁ,なんか分かる気がします.私達の業界にも同じことが言えるかもしれません」
校長「ですから,この体力トレーニングをなんとかしたいんです.ここに日本の警察官を変えるものがあるように思えるんです.時代が進んできて,警察官に求められるものも変わってきているとは思いますが,警察の仕事の基本はやっぱり体力です.体力を鍛えるということを大事にしたいんです」

そういうこともあって,この学校長は我々の研究室にお願いしたんだそうです.

ちなみに,当たり前ですがこの仕事で私達に『報酬』はありません.報酬を受け取ったらまずいので.
でも,いくらなんでも何もなしというわけにはいかないからということで,生徒たちが作った記念品「警察学校キーホルダー」を頂きました.
まだ机の引き出しに入っています.