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「日本は諸外国と比べてマナーが良い」と言い放つマナー違反
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本件について,もう少し詳細に書いてみます.
前回は,「日本は諸外国と比べてマナーが良い」という自慢こそマナー違反ではないか?
という話しました.
今回は,その「マナーが良い」という理由として挙げられている事例が,実は「マナー」とは関係ないのではないかという話題です.
例えば,最近では「日本人観光客はマナーが良い」と言われているそうですが,30年くらい前は「日本人観光客はマナーが悪い」と言われていました.
■30年前の日本人観光客 マナーが悪いと海外で批判されたことも
前回は,「日本は諸外国と比べてマナーが良い」という自慢こそマナー違反ではないか?
という話しました.
今回は,その「マナーが良い」という理由として挙げられている事例が,実は「マナー」とは関係ないのではないかという話題です.
例えば,最近では「日本人観光客はマナーが良い」と言われているそうですが,30年くらい前は「日本人観光客はマナーが悪い」と言われていました.
■30年前の日本人観光客 マナーが悪いと海外で批判されたことも
主にどういった国々からの評価なのかは調べられませんでしたが,おそらく主な渡航先であるアメリカ,ヨーロッパ,中国・アジア方面といった場所であることが予想されます.
どうしてこの30年で日本人観光客のマナーが改善したのかというと,
「旅行会社が渡航先のマナーについて指導するようになった」
というのが主な理由なのでしょうけど,それにプラスして,
「一般的な日本人の生活様式やマナーの基準が欧米化した」
というのがあると思います.
欧米以外の中国や東南アジアといった地域に渡航したとしても,そこでの宿泊施設は欧米式のものが多いですから.
ちなみに,「日本人観光客はマナーが良い」という話の出典元は,アメリカの旅行会社「エクスペディア」が2002年および2007〜2009年にホテルに対して行なった調査です.
細かい調査結果は以下のサイトで見ることができます.
■「世界最良の観光客」2007-2009年度 国別ランキング
ところがネット等では,この調査結果を拡大解釈しているものが散見されます.
この調査は「国民のマナー意識の高さ」を総合的に判断しているものではないし,街行く人にインタビュー調査したものでもなく,
「ホテルのマネージャーが選ぶ優良観光客」
なんです.
「マナーの良さ」はその尺度のうちの一部に過ぎないのに(もちろんそれが1位なのだが),その他の「チップが多い」「苦情を言ってこない」などを含めて総合得点を出しているものです.
実際,この調査は旅行会社やホテル側の目線で選ばれているものであり,決して一般的な環境下でのマナー意識を調査したものではありません.
意地悪く見れば,
「日本人には融通がきく」
「カモりやすい客」
ということの裏返しであるとも言えます.
それを推察できることとして,この調査では日本人は2007年〜2009年まで総合ランキング1位ですが,それ以外の国は年によってバラつきが大きいんです.
前年にワーストだったかと思えば,次の年にはベストに入っていたりする.
ようするに,「海外旅行への積極性・主体性」の現れではないかとも考えられます.
日本人は言葉の壁を気にしたり,欧米コンプレックスがあるとされますので,ホテル側が提示したことに何でも「YES!」「OK!」などと言いがちなのかもしれません.
それをもって「マナーが良い」と言われても,ちょっとバイアスがかかっているかと思います.
前回の記事でも書きましたが,なにも私は「日本人はマナーが悪い」と言いたいわけではありません.
「外国人から『マナーが良い』と言われている」という話があったとしても,簡単に受け取らず,もうちょっと慎重に受け止めなければいけないのではないかと言っているのです.
私自身,これまで海外経験を積んで,様々な国の外国人と仕事や交流をしてきた中で思うのは,各国それぞれ特徴があるのは感じますが,その素行や振る舞いに優劣はつけられないということです.
考えてみれば当たり前で面白くない話かもしれませんが,それが正直なところ.
ましてや「マナー」です.
繰り返しになりますが,マナーとは当該地域の定住者が暮らしやすくするために設けた慣習・技術です.全国一律,世界一律に「良い/悪い」と評価できる基準があるわけではありません.
例えば,「遺失物の扱い」もその典型です.
「日本では財布を落としても戻ってくる」ということが取り沙汰されることがありますが,これも慎重に考えてみれば「民度」や「マナー」と関係づけることも難しくなります.
警察の統計が示すように,日本で拾得物(拾って届けられた物)の件数が増加したのはここ最近の話です.
昔から高かったわけではありません.
■遺失物取扱状況(平成28年)(警視庁調べ)
もっと慎重に考えてみれば,どうして最近になって遺失物が増加したのか気になります.
おそらくは一億総中流と言われるほど日本国民の中間層が厚くなることで,ネコババすることに利益を感じない人が増えたことが考えられます.
貧すれば鈍すると言いますが,豊かになればその逆になります.
もっと直接的な要因も考えられます.
法律です.
皆さんは遺失物(落とし物)を見つけたらどうしますか?
「警察に届け出る」とか「駅員などに渡す」というのが思いつくことでしょうか.
では,どうしてそんなことをするのですか?
「そんなの当たり前じゃないか.昔から落とし物は警察に届けましょうって教えられてるだろ?」
って思われるかもしれませんけど,この思考パターンも疑ってかかる必要があります.
日本では落とし物を拾った人は,それを届け出なければ犯罪(遺失物横領罪)になります.
「落とし物が戻ってくる国,日本」を自慢したい人にとっては残念ですが,実は日本では落とし物は警察に届け出なければならない法律があります.自慢するもなにも,国民の義務なんです.
■遺失物法(日本国)
しかも日本は結構厳しい法律でして,
「拾得者は、速やかに、拾得をした物件を遺失者に返還し、又は警察署長に提出しなければならない。」
となっています.
しかも,きちんと警察が捜査してきます.
つまり,日本では「落とし物を届ける」のはマナーなどではなくて,ルールなんですね.
そしてこれは,世界の常識的な考え方ではありません.
実は,落とし物の扱いって国によって違うものでして,こうした遺失物の管理や取り扱いが面倒なことになることを避けて「受け取らない」というシステムを採用し,法律やその運営方法も「拾った人に一任」しており,その代わりに「保険」で対応するようです.
遺失物に関する国際調査報告があります→■遺失物に関する法律
それによると,例えばフランスでは一応は「遺失物横領」の法律は存在するのですが,実際は採用していないのだとか.
イギリスでは,拾得物を警察に差し出さなかったからと言って罪に問われることはありません.
拾ったもん勝ちです.
一方,カナダは日本と類似した状況のようです.実際,個人ブログではありますが,カナダでの落とし物は戻ってきやすいことを報告するネット記事があります.
■バンクーバーでの落とし物は戻ってくるのか
アメリカでは州によって異なり,首都ワシントンでは拾得物の届け出義務は無く,ニューヨークでは厳しめです.
これもそれを裏付けるような調査があります.
■世界の各都市で財布を12回落とし,何回戻ってくるかを検証した結果(海外の万国反応記)
ニューヨークでは遺失物が戻ってきやすいのですね.これがワシントンDCだと戻ってこない可能性が高い.
上記の調査では,フィンランドとインド,そしてロシア,ハンガリー,オランダも戻ってきやすい結果のようですが,これらの国も日本やカナダと同様に遺失物を返却しなきゃいけない法律があるのではないでしょうか?
私はフィンランド語はわからないのですが,ウィキペディア・フィンランド版を日本語訳と英訳して見る限り,どうやらフィンランドでも日本と同様「遺失物横領」については厳しい罰則があるようです.
だからフィンランドも遺失物が戻ってきやすいのかもしれません.
■Löytö(「遺失物の拾得」wikipediaフィンランド版)
つまり,日本は「落とし物」や「忘れ物」は元の所有者に返さなければならないという思想を「採用」しており,それに基づく法律がある国に属していることが分かります.
そして,同じくそうした法律を厳密に採用している国や地域では,日本以外でも「落とし物が戻ってきやすい」のです.
それだけのこと.
タネ明かしをすれば,どうってことはない話です.
それをいちいち「日本は落し物が戻ってくる素晴らしい国なんだ」と,自慢げに喜び呆けている.
恥ずかしいのでやめてほしいんですよ.
これについては,
「いや,日本人は『落とし物は元の人へ返す」を法律にするくらいマナー意識が高いと言えないか?」
などと粘る人もいるかもしれませんけど,事はそう簡単ではありません.
日本人にとっては当たり前のことでも,お国柄や伝統,歴史的経緯によっては,拾った物は拾った人の物という考え方にしておかなければ,また別のトラブルを生むという教訓を得てきた国だってあるでしょう.
ネットで調べてもたくさん出てきます.
「謝礼でトラブる」とか「本当に拾ったものか疑われる」とか「犯罪に巻き込まれる可能性」とか.
あと,遺失物の管理が膨大です.
それならいっそ,警察や公的機関はタッチしないと構えるのも一つの思想です.
これは人間性とか民度の話ではなく,各国の文化や事情,慣習です.
優劣をつけられる話ではありません.
例えば,日本ではコンビニにポルノ雑誌が置けますが,諸外国では違法です.
ポルノ雑誌の販売そのものが違法という国もあります.
日本では「ポルノ雑誌が入手しやすいことで性犯罪を防げている」という理屈を通そうとしますが,他に言わせれば「普通の本屋に置けばいいだろ」とか「目のつくところに置いておくこと自体が性犯罪だ」などと理屈を言う.
どちらが正しいとも言えません.
各国,それぞれに思想と理想,そして事情がある.それだけのこと.
さらに言えば,日本で遺失物が返ってきやすい背景には,警察や公共交通機関の人に負担をかけさせているからとも言えるのです.
届け出ても受け取ってくれない,届け出たらそれが町や国の財産になるような国で,あなたはそれでも拾得物を届け出るでしょうか?
その点,日本の警察や駅員は拾得物をきちんと管理してくれます.
遺失物の管理は非常に面倒です.
維持管理費も莫大なものになるし,扱いに困る物もある.
例えば警視庁の統計では,2016年では約383万件の拾得物の届出がありますが,一方で,遺失物の届出は約100万件です.
「落とし物をしちゃったんですけど,届いてないですか?」
って聞いてくる人は,拾われて届いている件数の約25%しかないんですね.
そんなもののために,予算と人員とスペースを用意してくれているのが,日本の警察なんですよ.
まあ,そういう法律を採用しているんだから仕方ないけど.
何度も繰り返しますが,だからって「日本人はダメ」と言っているわけじゃない.
落とし物を届け出る意識は大事です.それは否定しません.
遺失物は,元の所有者の手元に返ってくるべきだよね.っていう理想を実現するため,ネコババされにくいように「遺失物横領罪」を用意して社会を管理している,そういう国々の一つが日本なのだと思います.
それによって,日本は落とし物や忘れ物が所有者の手元に返ってきやすい国になっています.
ただしそれは,「マナー」として形作られているものではありません.
人間が「そういう行動」をするのには背景や理由があり,決して「人間性」とか「倫理・道徳性」の優劣ではないということです.
マナーというのは,そういうルールや法律を超えたところに現れるものです.
例えば,落とし物は自分のものにして良いはずのイギリス人にしても,それが持ち主にとって貴重な物だと感じれば返すようです.
イギリスの大学の実験調査によると,財布に「赤ちゃんの写真」や「家族の写真」が挟んであると,返ってくる確率が高くなるとのこと.
■驚きの効果!海外では赤ちゃんの写真をお財布に入れよう(日刊ニュージーライフ)
その確率,なんと88%.
拾ったら自分のものにして良いルール(法律)の国なのに,ですよ.
私は難しいことを言っているのではありません.
実は日本人の観光客はマナーが悪いのだとか,日本人は本当は落とし物を届け出ない奴が多いのだ,などと天邪鬼になりたいわけじゃない.
自分たち自身がマナーが良いということを,いちいち喧伝しなくてもいいと言っているのです.
それこそマナー違反でしょう.
そしてなにより,自分たちが喜び喧伝している「マナー」とは,本当にマナーと言えるものなのかどうか,常に省みるべきだと思います.
どうしてこの30年で日本人観光客のマナーが改善したのかというと,
「旅行会社が渡航先のマナーについて指導するようになった」
というのが主な理由なのでしょうけど,それにプラスして,
「一般的な日本人の生活様式やマナーの基準が欧米化した」
というのがあると思います.
欧米以外の中国や東南アジアといった地域に渡航したとしても,そこでの宿泊施設は欧米式のものが多いですから.
ちなみに,「日本人観光客はマナーが良い」という話の出典元は,アメリカの旅行会社「エクスペディア」が2002年および2007〜2009年にホテルに対して行なった調査です.
細かい調査結果は以下のサイトで見ることができます.
■「世界最良の観光客」2007-2009年度 国別ランキング
ところがネット等では,この調査結果を拡大解釈しているものが散見されます.
この調査は「国民のマナー意識の高さ」を総合的に判断しているものではないし,街行く人にインタビュー調査したものでもなく,
「ホテルのマネージャーが選ぶ優良観光客」
なんです.
「マナーの良さ」はその尺度のうちの一部に過ぎないのに(もちろんそれが1位なのだが),その他の「チップが多い」「苦情を言ってこない」などを含めて総合得点を出しているものです.
実際,この調査は旅行会社やホテル側の目線で選ばれているものであり,決して一般的な環境下でのマナー意識を調査したものではありません.
意地悪く見れば,
「日本人には融通がきく」
「カモりやすい客」
ということの裏返しであるとも言えます.
それを推察できることとして,この調査では日本人は2007年〜2009年まで総合ランキング1位ですが,それ以外の国は年によってバラつきが大きいんです.
前年にワーストだったかと思えば,次の年にはベストに入っていたりする.
ようするに,「海外旅行への積極性・主体性」の現れではないかとも考えられます.
日本人は言葉の壁を気にしたり,欧米コンプレックスがあるとされますので,ホテル側が提示したことに何でも「YES!」「OK!」などと言いがちなのかもしれません.
それをもって「マナーが良い」と言われても,ちょっとバイアスがかかっているかと思います.
前回の記事でも書きましたが,なにも私は「日本人はマナーが悪い」と言いたいわけではありません.
「外国人から『マナーが良い』と言われている」という話があったとしても,簡単に受け取らず,もうちょっと慎重に受け止めなければいけないのではないかと言っているのです.
私自身,これまで海外経験を積んで,様々な国の外国人と仕事や交流をしてきた中で思うのは,各国それぞれ特徴があるのは感じますが,その素行や振る舞いに優劣はつけられないということです.
考えてみれば当たり前で面白くない話かもしれませんが,それが正直なところ.
ましてや「マナー」です.
繰り返しになりますが,マナーとは当該地域の定住者が暮らしやすくするために設けた慣習・技術です.全国一律,世界一律に「良い/悪い」と評価できる基準があるわけではありません.
例えば,「遺失物の扱い」もその典型です.
「日本では財布を落としても戻ってくる」ということが取り沙汰されることがありますが,これも慎重に考えてみれば「民度」や「マナー」と関係づけることも難しくなります.
警察の統計が示すように,日本で拾得物(拾って届けられた物)の件数が増加したのはここ最近の話です.
昔から高かったわけではありません.
■遺失物取扱状況(平成28年)(警視庁調べ)
もっと慎重に考えてみれば,どうして最近になって遺失物が増加したのか気になります.
おそらくは一億総中流と言われるほど日本国民の中間層が厚くなることで,ネコババすることに利益を感じない人が増えたことが考えられます.
貧すれば鈍すると言いますが,豊かになればその逆になります.
もっと直接的な要因も考えられます.
法律です.
皆さんは遺失物(落とし物)を見つけたらどうしますか?
「警察に届け出る」とか「駅員などに渡す」というのが思いつくことでしょうか.
では,どうしてそんなことをするのですか?
「そんなの当たり前じゃないか.昔から落とし物は警察に届けましょうって教えられてるだろ?」
って思われるかもしれませんけど,この思考パターンも疑ってかかる必要があります.
日本では落とし物を拾った人は,それを届け出なければ犯罪(遺失物横領罪)になります.
「落とし物が戻ってくる国,日本」を自慢したい人にとっては残念ですが,実は日本では落とし物は警察に届け出なければならない法律があります.自慢するもなにも,国民の義務なんです.
■遺失物法(日本国)
しかも日本は結構厳しい法律でして,
「拾得者は、速やかに、拾得をした物件を遺失者に返還し、又は警察署長に提出しなければならない。」
となっています.
しかも,きちんと警察が捜査してきます.
つまり,日本では「落とし物を届ける」のはマナーなどではなくて,ルールなんですね.
そしてこれは,世界の常識的な考え方ではありません.
実は,落とし物の扱いって国によって違うものでして,こうした遺失物の管理や取り扱いが面倒なことになることを避けて「受け取らない」というシステムを採用し,法律やその運営方法も「拾った人に一任」しており,その代わりに「保険」で対応するようです.
遺失物に関する国際調査報告があります→■遺失物に関する法律
それによると,例えばフランスでは一応は「遺失物横領」の法律は存在するのですが,実際は採用していないのだとか.
イギリスでは,拾得物を警察に差し出さなかったからと言って罪に問われることはありません.
拾ったもん勝ちです.
一方,カナダは日本と類似した状況のようです.実際,個人ブログではありますが,カナダでの落とし物は戻ってきやすいことを報告するネット記事があります.
■バンクーバーでの落とし物は戻ってくるのか
アメリカでは州によって異なり,首都ワシントンでは拾得物の届け出義務は無く,ニューヨークでは厳しめです.
これもそれを裏付けるような調査があります.
■世界の各都市で財布を12回落とし,何回戻ってくるかを検証した結果(海外の万国反応記)
ニューヨークでは遺失物が戻ってきやすいのですね.これがワシントンDCだと戻ってこない可能性が高い.
上記の調査では,フィンランドとインド,そしてロシア,ハンガリー,オランダも戻ってきやすい結果のようですが,これらの国も日本やカナダと同様に遺失物を返却しなきゃいけない法律があるのではないでしょうか?
私はフィンランド語はわからないのですが,ウィキペディア・フィンランド版を日本語訳と英訳して見る限り,どうやらフィンランドでも日本と同様「遺失物横領」については厳しい罰則があるようです.
だからフィンランドも遺失物が戻ってきやすいのかもしれません.
■Löytö(「遺失物の拾得」wikipediaフィンランド版)
つまり,日本は「落とし物」や「忘れ物」は元の所有者に返さなければならないという思想を「採用」しており,それに基づく法律がある国に属していることが分かります.
そして,同じくそうした法律を厳密に採用している国や地域では,日本以外でも「落とし物が戻ってきやすい」のです.
それだけのこと.
タネ明かしをすれば,どうってことはない話です.
それをいちいち「日本は落し物が戻ってくる素晴らしい国なんだ」と,自慢げに喜び呆けている.
恥ずかしいのでやめてほしいんですよ.
これについては,
「いや,日本人は『落とし物は元の人へ返す」を法律にするくらいマナー意識が高いと言えないか?」
などと粘る人もいるかもしれませんけど,事はそう簡単ではありません.
日本人にとっては当たり前のことでも,お国柄や伝統,歴史的経緯によっては,拾った物は拾った人の物という考え方にしておかなければ,また別のトラブルを生むという教訓を得てきた国だってあるでしょう.
ネットで調べてもたくさん出てきます.
「謝礼でトラブる」とか「本当に拾ったものか疑われる」とか「犯罪に巻き込まれる可能性」とか.
あと,遺失物の管理が膨大です.
それならいっそ,警察や公的機関はタッチしないと構えるのも一つの思想です.
これは人間性とか民度の話ではなく,各国の文化や事情,慣習です.
優劣をつけられる話ではありません.
例えば,日本ではコンビニにポルノ雑誌が置けますが,諸外国では違法です.
ポルノ雑誌の販売そのものが違法という国もあります.
日本では「ポルノ雑誌が入手しやすいことで性犯罪を防げている」という理屈を通そうとしますが,他に言わせれば「普通の本屋に置けばいいだろ」とか「目のつくところに置いておくこと自体が性犯罪だ」などと理屈を言う.
どちらが正しいとも言えません.
各国,それぞれに思想と理想,そして事情がある.それだけのこと.
さらに言えば,日本で遺失物が返ってきやすい背景には,警察や公共交通機関の人に負担をかけさせているからとも言えるのです.
届け出ても受け取ってくれない,届け出たらそれが町や国の財産になるような国で,あなたはそれでも拾得物を届け出るでしょうか?
その点,日本の警察や駅員は拾得物をきちんと管理してくれます.
遺失物の管理は非常に面倒です.
維持管理費も莫大なものになるし,扱いに困る物もある.
例えば警視庁の統計では,2016年では約383万件の拾得物の届出がありますが,一方で,遺失物の届出は約100万件です.
「落とし物をしちゃったんですけど,届いてないですか?」
って聞いてくる人は,拾われて届いている件数の約25%しかないんですね.
そんなもののために,予算と人員とスペースを用意してくれているのが,日本の警察なんですよ.
まあ,そういう法律を採用しているんだから仕方ないけど.
何度も繰り返しますが,だからって「日本人はダメ」と言っているわけじゃない.
落とし物を届け出る意識は大事です.それは否定しません.
遺失物は,元の所有者の手元に返ってくるべきだよね.っていう理想を実現するため,ネコババされにくいように「遺失物横領罪」を用意して社会を管理している,そういう国々の一つが日本なのだと思います.
それによって,日本は落とし物や忘れ物が所有者の手元に返ってきやすい国になっています.
ただしそれは,「マナー」として形作られているものではありません.
人間が「そういう行動」をするのには背景や理由があり,決して「人間性」とか「倫理・道徳性」の優劣ではないということです.
マナーというのは,そういうルールや法律を超えたところに現れるものです.
例えば,落とし物は自分のものにして良いはずのイギリス人にしても,それが持ち主にとって貴重な物だと感じれば返すようです.
イギリスの大学の実験調査によると,財布に「赤ちゃんの写真」や「家族の写真」が挟んであると,返ってくる確率が高くなるとのこと.
■驚きの効果!海外では赤ちゃんの写真をお財布に入れよう(日刊ニュージーライフ)
その確率,なんと88%.
拾ったら自分のものにして良いルール(法律)の国なのに,ですよ.
私は難しいことを言っているのではありません.
実は日本人の観光客はマナーが悪いのだとか,日本人は本当は落とし物を届け出ない奴が多いのだ,などと天邪鬼になりたいわけじゃない.
自分たち自身がマナーが良いということを,いちいち喧伝しなくてもいいと言っているのです.
それこそマナー違反でしょう.
そしてなにより,自分たちが喜び喧伝している「マナー」とは,本当にマナーと言えるものなのかどうか,常に省みるべきだと思います.
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