注目の投稿

プロやアマが演奏するピアノ1フレーズを何百回と聞いた結果

ピアノ演奏の研究をしたことがありまして


私が研究代表者だったわけじゃなくて,お手伝いをした研究での話.

私はとある特殊な測定機器を扱えるスキルがあったので,それをピアノ奏者に対して使ってみたいという人(博士課程の人だった)から測定の手伝いを頼まれたんです.
研究計画を聞いたら,結構おもしろそうだったし,調査対象者がプロからアマチュアのピアノ奏者の方々だったというのも,とても興味深かったんです.

なお,この研究結果は海外の学術雑誌にも載りました.


私は体育・スポーツの人間ですが,ピアノ演奏も「身体技能」という意味においては同じことです.
むしろ,その洗練度の高さからすればピアノ演奏も非常に高度だと思われます.

実験では,ピアノ演奏中の被験者のそばで私が測定作業をするわけですけど,その間,私はずっと被験者の演奏を聞き続けることになります.
その実験の「演奏試技」というのは,とある有名な音楽の1フレーズの演奏を課し,これを何度も何度も繰り返すものでした.
で,測定は,その1フレーズ演奏中における心身のデータをサンプリングするというもの.

一人あたり20回くらい演奏してもらい,それが十数人分になります
被験者にも検者にも,根気が必要な実験です.


ピアノって奏者によって全然違うんですよね


ピアノの熟練度によってデータに違いがあるか?
っていう観点で調査しているわけですから,当然,プロ奏者の人もいれば,なんとか課題曲がスムーズに弾けます,っていうレベルの人までたくさん用意しているわけです.


ちなみに,私は音楽の「お」の字も知らない人間で,鍵盤といえば「鍵盤ハーモニカ(ピアニカ)」くらいしか触ったことがありません.
この際,いろいろ知っておこうと思い,
「ねえ,この足元にあるペダルって,踏むとどうなるの?」
って研究代表者の人に質問するくらいのレベルだと思ってください.

研究代表者の人自体,実はプロ奏者として活動されている人です.
その人の人脈を使って,同じプロ奏者や,ピアノ教室の講師とか,子供の頃に全国レベルだったけど今は別の仕事をしている人とか,そんな人達を集めることができました.

で,そういう様々なレベル(って言っても,皆半端ないくらい上手いのだが)の人たちの演奏を間近で繰り返し聞いたわけですけど・・・,やっぱりね,
「プロってスゲェ!」
って感動しました.

音の奥行きと言いましょうか,立体感とか表現力って言うのかな.
とにかく全然違うんです.

それはもう,ピアノ教室の講師とプロ奏者の間には「越えられない壁」があるとしか思えない.
それくらい,プロの演奏は聴き応えが凄い.
だって,聴いてて鳥肌が立つもん.

一応,記録映像としてビデオも回してるんですけど,そうやって録音した音楽では違いが分かりづらくなるんです.

よく,「生演奏と録音では別物になる」っていうじゃないですか.
あれ,本当ですよね.


せっかくの機会なので,被験者の皆さんに質問をして,後学のために勉強させてもらいました.
そういう意味でも,私にとって非常に楽しい研究でしたね.

プロ奏者の一人が言われていましたが,コンサート用とCD録音用で弾き方を変えるんだそうですよ.
録音すると,どうしても「音が潰れる」のだそうで,それを予め想定して,スピーカーで聴き心地の良い音になるよう調節するのだとか.

他にも,夏と冬でも弾き方が違うとか言ってました.
具体的には,会場に集った観衆の「服装」が季節によって違うから,音の響き方が変わってくるからとのこと.
冬は厚着の人が多くなるので,反響しにくくなるんですって.

そんなわけで,コンサートの場合は「最初の曲」が非常に重要だそうで,プロ奏者の人は,そこでその日のピアノのコンディションや,ステージ・客席・観衆を含めた「音の響き方」を確認し,最適な演奏になるよう調節していくのだとか.

もうね,私が住んでる世界とは別世界の話です.

ちなみに,その実験室の音の響き方は最悪だったそうです.当然ですが.


あと,プロ奏者のなかでも弾き方が全然違う.
ピアノ演奏って「語りかける言葉」なんですね.
語り口が違えば,印象もまったく変わってきます.


さらに言えば,ピアノ奏者の「人気」についても,裏事情を聞かせてもらいました.
実は,ピアノ奏者の人気というのは,「演奏力」とか「実力」とは結構かけ離れているとされています.

もちろん,圧倒的な実力で人気を博している人もいるんですが,その反対に,
「美人・イケメンだから」
とか,
「有力者から好かれているから」
とか,
「弾き方が奇抜でブームになっているから」
とか,
「その本人の境遇が特殊で審査員・マスコミ受けしやすいから」
といった理由で持ち上げられている人が多いんだそうです.

うん・・・,なんかね,それらに該当している人をいろいろ思い浮かべることができますね.

その一方で,熱心なピアノファンの人たちは,そういった事情は知っているので,各々が好む奏者のコンサートやCDなどを求めるんだそうです.
なので,世間一般にはあまり知られていないけど,その業界では知られた実力者というのがいる世界のようです.


で,その後,いろいろと「有名」なピアノ奏者の演奏を聴いてみたんですよ.
当然,録音されたものではありますが,それでもあの実験以来,私の耳は超絶レベルアップしましたので,結構判断力はついたはずです.

そしたら,そういう話を聴いた後だからなのかもしれませんが,
「あぁ・・・,あんまり大したことないんだな」
ってね,そう思っちゃう演奏って多いんですよね.

特に,YouTubeとかニコニコ動画とかで,「素人の私だけど『演奏してみた』系の動画」っていうのがありますが,あれのほとんどが聞くに堪えないものになってしまいました.

コーヒーとかお酒と一緒ですね.
一度,本当に美味しいものを飲んでしまうと,そこから下に戻ることができなくなっちゃう.
インスタントコーヒーとかトリスを「ウメェ!」って飲んでた時代が懐かしい.


せっかくだから,被験者の皆さんに観客私一人だけのコンサートをしてもらった


研究代表者の人のコネで参加してもらっている被験者の皆様なので,「実験終了後のお楽しみ」として,私一人を観客にしたコンサートを開いてもらいました.
なお,被験者全員が一堂に会するわけじゃなくて,1日一人ずつです.
被験者の方が得意とするものを披露してもらうって感じです.

そのなかで私,初めて至近距離(2mくらい)で「ラ・カンパネラ/パガニーニによる大練習曲」の生演奏を聞きましたよ.

「ラ・カンパネラ」っていうのは,フランツ・リストが作曲したピアノ曲で,そのなかでも「パガニーニによる大練習曲」の第3番が著名です.
この曲,またの名を「パガニーニによる超絶技巧練習曲」.
超絶技巧を練習するための曲ですから,超絶技巧を求められます.
ラ・カンパネッラ(Wikipedia)

その超絶技巧はこちら.
超絶過ぎて,おしっこチビリそうになります.


本人のピアノ演奏の技術の高さを見せつけるための曲とも言え,YouTubeでさまざまな人が演奏しているシーンを見ることができますが,このヴァレンティーナ・リシッツァ氏の演奏が特に凄いと言ってました.

これも,生で聴くと凄いんでしょうね.

もちろん,そこで演奏してくれた人のピアノも凄かったです.
圧倒的な迫力,涙が出そうになるくらい.
っていうかさ,その時に楽譜を見せてもらったんですけど,あれって読めるものなの?
オタマジャクシがウヨウヨ泳いでて真っ黒でした.

そこで思ったのが,こういうのを幼い頃にこうやって間近で聴く機会があると,人生変わるんじゃないかとすら考えてしまいます.
だって,脳天叩き割られたような衝撃を受けるもん.

よく,プロ野球選手とかJリーガーの超絶プレーを間近で見ることが出来た子供が,スポーツに打ち込む姿勢が変わるという話があります.
それと同じことが,他のことにも言えるんですね.


あと,ピアノ演奏は専門じゃないけど,今は歌を仕事にしてますって言う人に,研究代表者によるピアノ伴奏付きで歌ってもらったこともあります.

それも凄かったんです.
やっぱり,適当なアイドル歌手の歌より,高度なトレーニングを積んだ歌手の歌が凄いですよ.

その人の声がね,私の体を突き抜けていくんです.
マイクも使わないのに,うるさいわけじゃなく,心地よく突き抜けていくんです.
あれって凄いですよね.
これを少ない語彙力で頑張れば,マッサージでツボを押されているような感覚.

なんの曲だか覚えてませんが,どっかで聴いたことがある有名なクラシックでした.

コメント