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大学教員になる準備

大学教員になる方法とは


これまで,「大学教員になる方法」のシリーズを書いてきました.
一番読まれているのは,
大学教員になる方法(強化版)
です.

他にも,
大学教員になる方法
大学教員になる方法「感想版」
大学教員になるための履歴書作成方法
大学教員になるための業績書の作成方法
などがあります.

ご興味がありましたら,そちらもどうぞ.

今回,これまでの記事をまとめてみようと思います.
大学教員になるためには,どのような準備をしておけばいいのか?

特に大学院生や民間からの転身を狙っている人は,以下を参考にどうぞ.




(1)まずはJREC-INを確認・登録すること


大学教員および研究者の求人情報サイトです.
JREC-IN Portal(科学技術振興機構)

基本中の基本なので,大学教員を目指している人で,知らない人はいないと思います.
なので,このサイトについての詳細な説明は割愛します.

たまに,「大学教員になるためのセミナー」とかで,講師として呼ばれた御高齢の先生が,「最近はこんな便利なサイトがあるから確認するように」などと紹介することがあります.
「もう知ってるよそんなの」という気まずい空気が広がるので,ある意味おもしろいです.

就活中の3・4年生に,いまさらマイナビとかリクルートのサイトを紹介する,場違い感が半端ない就職課のオッサンのようなものですね.
こっちはその先を知りたいんだよ!って感じになるやつ.

あっ,もし本当に知らなかったら,必ずチェックしておいてください.

なお,JRECのサイトを見れば,そこに,
・採用条件
・任期
・応募条件
・必要資格
・応募方法
・担当科目
・給料(記載されていないことが多い)
などが記載されています.

これを見て,条件が合いそうなところに応募することになります.

JREC-INの賢い使い方
という記事も書きましたので,そちらも参考にしてください.

なお,JREC-INに掲載される求人の数は年々増え続けており,
櫻田大造 著『大学教員採用・人事のカラクリ』

によれば,以下のような状況です.
櫻田大造 著『大学教員採用・人事のカラクリ』を基に作成

かつての「大学教員の人事」なら,定年退職する教員の弟子にあたる人を呼んでくるとか,新人を雇いたい時に,研究仲間や知り合いの紹介(コネ)で採用がありました.

しかし現在,90年代〜2000年代にかけて発生した大学新設・学部増設の影響を受けて,教員人事は「ガチ公募(コネではない採用方法)」によるものが増えたのです.

もちろん,現在もまだコネ採用はあります.
JREC-INなどで公募しているけど,実際はすでに採用者が決まっている(ガチ公募ではない)人事もあるのです.

ですが,なんの縁故もない人であっても,大学教員として採用される可能性は増えていると言えます.





(2)どんな求人にも応募していいのか?


基本的には,どの「公募」(と呼ばれる求人)に応募してもOKです.
が,過去記事でもお話したように,現在の大学教員の人事は,
「採用したい人物像にピッタリか?」
が非常に重要視されます.

かつては「どうしてこんな教員が採用されたの?」という教員人事もあったようですが,現在はそんな状態になることは稀です.

なので,求人情報に記載されている「大学が採用したい人物像」と,自分自身の経歴や業績・教育歴が一致していない公募は,どんなに応募しても期待できません.

もちろん,自分自信を「大学が採用したい人物像」に見えるようにすることがテクニックでもあります.
これは一般的な就職・転職活動で議論されていることと同じと思ってください.




(3)必要な資格・免許


2015年現在において,今後大学で採用する教員は,最低でも修士号,通常は博士号の取得者である必要があります.

「何か特別な知識・経歴・技能があるから大学教員になれる/なれた」
という話を誰かから聞きつけて,それに期待している人がいたら注意してください.
それは2000年代までのこと.

現在は文部科学省の指導もあって,さほど有名ではない大学ほど,採用する教員は修士・博士の取得者であることを要求します.

もしあなたが,芸能界で活躍するタレントであったり,その業界の重鎮・カリスマであるなら,その限りではありません.
簡単に言えば,高校生や教師,保護者からの知名度が高いか?ということです.

現在の大学は学生募集につながる教員も欲しがっていますので,そんなタレント性の高い教員であれば採用したいと思っています.
この場合は修士・博士にこだわらないことがあります.
逆に,そうでなければ大卒ではほぼ無理です.


次に,その他の資格について.
これを列記するのは膨大な情報量になるので割愛しますが,その学部学科の研究領域と関連する資格を持っていることは重要です.
特に,大学(学部学科)が資格免許を出している場合,それと同等かより上位の資格取得者であることが求められます.

でも,「必要な資格・免許」については,JREC-INなどの求人情報のところで,
「◯◯を取得していること」「◯◯の資格を有すること」
などと書かれていますので,それを見て判断すればいいでしょう.


今現在まったくゼロの段階で,大学教員への就職も視野に入れているという人であれば,大学院で修士・博士を取得することを目指してください.
それがスタート段階.
そして次に,以下が最も重要になります.





(4)教育歴をつけておこう


毎年,日本全国で膨大な数の修士・博士が誕生していますが,そこから大学教員になれる人の数はわずかです.
その大学教員になれるか?なれないか?の差は,「教育歴」があるかどうかで決まることが多いんです.

ガチ公募が多くなり,コネ採用が減ってきた現在においても,
「どうしてこんな人が採用されたんだ?」
「俺より業績も経歴も弱いのに!」
という不満の声が上がるケースがあります.

しかし,現在においてこういうケースは「教育歴の豊富さ」である場合が多いです.
どれほど業績を積んでいて,どれほど高い経歴をもっていても,「教育歴」が無い人を採用することを,今の大学は避けたがります.

逆に,応募してきた人の履歴書を見て,以前どこかの大学に勤めていたけど,急に辞めた経歴があると,当然それを調査するのが人事担当です.
その前任校にツテを使って調査を入れるパターンが多いでしょうか.
こういうのはたいてい,学生トラブルや運営との不和だったりします.
私も知り合いの人で,それが原因で採用が取り消しになった人がいます.

ご案内の通り,現在の教育界への風当たりは強く,教員には「教育能力の高さ」,もっと言えば「学生相手にトラブルを起こさない」とか,「職員にパワハラしない」ことが重要視されています.

実は,民間出身の教員に多いとされるのが,学生や職員とのトラブルです.
なんだかんだで,教育現場というのは民間感覚が通じないところがありますし,意外かもしれませんけど,教員側が我慢したり妥協したりする部分が多いのです.
てっきり大学教員になったら威張り散らせると思っている人がいますが,こんなはずじゃなかったと嘆く人もいます.

そんなトラブルを避けたい大学採用側とすれば,これまでに教育機関で働いてきた実績があり,そこで問題を起こしていない人を採用したい思惑があります.

なお,「教育歴の有無」が問われると言っても,「教え方が上手い」とか,「こんな人物を育ててきた」という類ではありません.
その手の情報は信憑性が低いですし,それを重要視する大学は現在は少ないでしょう.
たしかに問われる部分ではありますが,「普通に教員ができます」という程度の情報でいいんです.


次に,教育歴のつけ方が問題になります.
大学教員と言っても,大きく3つのタイプとして,「任期なし専任教員」「任期つき専任教員」「非常勤講師(兼任講師)」があります.
一般的に「大学教員になる」というと任期の有無は別として「専任教員(その大学所属の教員)」になることを指すでしょうか.

ですから,そんな専任教員を目指している人であれば,比較的簡単にできる「非常勤講師」から始めましょう.

少ないですが,非常勤講師もJREC-INで公募されています.
逆に言えば,非常勤講師の採用は,そのほとんどがコネです.
たいてい,大学院での指導教員とその関係者からの紹介だったり,研究グループの中で情報共有されていて,そこで該当者を探すというパターンですね.

若手(20代院生)が非常勤講師先を探して動き回るケースは少ないでしょう.
研究者間のネットワークも少ないですし,コネクションも強くないですから.
そういう場合は,思い切って指導教員に相談するのが得策です.
「将来は大学教員を目指していて,教育歴をつけたいので,どこか知りませんか?」
と正直に尋ねるのです.

よほど面倒見が悪い教員でなければ,知り合いをあたって非常勤講師先を探してくれます.
そして,学問領域にもよりますが,非常勤講師の需要は結構高くて,すぐに見つかります.
特に近畿や首都圏では,大学側が非常勤講師探しに苦労しています.

非常勤講師になったら,その大学の教員とコミュニケーションをとりましょう.
運が良ければ,その非常勤講師から専任教員への道が開けることがあります.
(というか,そのパターンが一番多い)





(5)研究業績は数を揃えておく


必要なのは,大学教員として恥ずかしくない程度の研究業績です.
もちろん,研究領域によっては業績が少なくても採用に関係ないところもあります.
かつてなら,まったく研究業績が無くても採用された教員がたくさんいました.

しかし現在では,一般論として,研究業績がない教員は採用されません.
コネで採用しようとしても,今の御時世,教授会や部長会などで,
「こんな研究業績の人物を採用するのであれば,この人が余人に代えがたい理由を出してくれ」
とクレームがついたりして,人事が流れることもあります.

では,どれくらいの研究業績が必要なのか?

学会賞をとるとか,どこかのメディアに紹介されたといったものではなく,大学教員として恥ずかしくない程度の研究業績です.
目安としては,修士・博士修了後,筆頭著者による研究論文を1年に1本出しているのであれば及第点です.
もちろん,年に3〜4本あればもっといい.

ですが,たくさんあれば採用されやすいかというと,それは違います.

重要なのは,前述したように「教育歴」の方です.
「アイツより俺の方が研究業績が多いのに,なんで俺は採用されなかったんだ!」
といった不満を,学会の飲み会などで漏らす人がいますが,そうした現状が,教員人事における「研究業績」の役割を如実に表しています.

研究業績が無いと採用の遡上に俎上にあがりませんが,たくさんあったからと言って評価はされないのです.

ただし,研究業績として人事が気にするのは「科学研究費の獲得状況」「外部研究資金の獲得」です.
現在,その人物の研究能力を測る指標として最も信頼性が高いのは「科学研究費」や「外部研究資金」だからです.
かつてならいざ知らず,現在において,科学研究費を獲得していない人が大学教員を目指すのは至難の業と言えます.
研究能力の高さを評価する人事においては,この部分が最重要になってきます.

まとめると以下のようになります.
どんなジャーナルや紀要でもいいので,自分がファーストオーサーの論文を1年に1本出しておきましょう.
これが最低ライン.
その上で,研究活動が人並み以上にできることをアピールするためには,科学研究費や外部研究資金を獲得しなければいけません.





(6)模擬授業は何をすればいい?


書類審査を通ったら,次は面接・模擬授業が課されることが多いです.
面接は以前からありましたが,近年(ここ10年くらい)で急増したのが「模擬授業」です.

多くの場合,「担当予定科目である『◯◯論』の第1回目の授業を30分程度」とか,「15分間で,あなたの研究について学生に向けて説明してください」などといった課題が与えられます.
関連して,担当予定科目のシラバスの作成が課されることもありますね.

JREC-INに記載されていなくても,突然依頼されることもあると言います.
模擬授業ではなくても,例えば,
「担当予定である『◯◯論』の第1回目の授業の時,学生に向かってその授業の要点を説明するのと同じように,ここで説明してみてください.本当に学生の前で話しているような形式でお願いします」
といったような「面接の質問」として,事実上の模擬授業をやらされるわけです.

実際にどんな授業をやるのか,学生目線で知っておかないとダメだろう,というのが現在の採用側の要望なのです.
こういうところでも「教育歴」の重要性が分かると思います.

とは言え,「模擬授業の良し悪しが採用の可否に影響する」という事態はそうそうありませんが,候補者を2〜3人に絞った最終段階で,対抗馬が本命を食うことはあります.

最近の大学教員用の面接では,関係する学部学科の教員以外に,分野外の教員も入れて行われることが多いです.
ですから,分野外の人にも分かるように,その授業の要点を解説した方が無難です.
実際,大学生相手にはそうすべきですし.

ただ,模擬授業とは言え,本当に学生を相手にした内容にするのは冒険です.
なぜなら,大学教員と学生では,明らかに「欲求」「好奇心」「価値観」が違うからです.
でも,あくまでも「学生向け」であることを忘れてはいけません.
へたに専門家同士であれば常識的なものを,衒学的に話すのは嫌われます.
「あぁ,こいつは学生とトラブルを起こすな・・・」と思われてアウトです.

しかし,これは好みの問題になってしまうものの,大学教員の多くは,学生の学術的思考を鍛えたいと思っています.
ですから,模擬授業の内容も,なるべく学術的なものにした方が無難と言えます.

つまり,その大学が低偏差値大学だからといって,変に簡単過ぎる内容にするのは考えもの.
「どうせこの大学の学生には理解できないから,ここまでハードルを下げました」
といった模擬授業も避けましょう.

ポイントとしては,以下の点をカバーできていれば大丈夫です.
1)この授業で学んだことが,将来どのように活きるのか?
2)この授業の評価方法は何か? 何を習得することを目指すのか?
3)飲み会で話題にしたくなる,その科目に関連したワンポイント雑学
4)話し方,声量,ペース,表情が適切か?
5)不適切な表現,非学術的な内容が入っていないか?

そのなかでも,特に3と4がちゃんとしていれば,分野外の教員もNGを出さないはずです.

ちなみに,模擬授業を計画する上で注意したいのは,最近の大学は「FD研修」と称して授業方法の改善策や,私語対策などに力を入れていることです.
簡単に説明することは難しいので,以下の書籍などを参考にして,
「最近求められている大学の授業方法」
のパターンを把握しておくことをオススメします.
ちょっとした声かけの部分などで,「あっ,この人は最新の大学授業法のことを知っている人だな」と思ってくれる可能性があります.
   

逆に,もしその大学が,教員たちの授業方法について気にしているところだと,
「この人は授業改善について関心がないんだな」
と思われてしまう危険性もあります.
分かりやすいところで言えば,何気ない学生への質問のつもりで「君は,どこ出身ですか?」って聞いたらアウトを宣告されます.





(7)雑務ができるアピールは結構重要


過去記事でも取り上げたことがありますが,最近の大学の教員は,とかく「雑務」が多い.
特に,資格関連科目における各種協会との連絡・整理とか,地域交流イベント,あとはオープンキャンパス運営などです.
経営難の大学では,広報活動とか高校訪問なども入ってきます.

そうした授業や研究とは関係のない「雑務」を嫌う既存の教員は非常に多く,何かにつけて逃げ回る人がいます.

ですので,大学としては「雑務」を嫌がらずにやってくれる人は大歓迎となります.

なかでも若手教員は,そういう雑務の実働部隊としての活躍が期待されていますので,そのアピールはプラスに働きます.

アピール方法としては,履歴書とは別に書かされることの多い,「実務経験」とか「活動歴」などの書類です.
例えば,現在の大学は「地域貢献活動」として公開講座を開くことが多いのですが,そうした活動に類似したことをやったことがあれば,それを書くと良いでしょう.

学会事務局や協会事務を担当したことがあれば,それを書いておくと,
「この人は事務作業ができる人だ」
と思ってくれます.
まさかと思うかもしれませんが,大学の人事なんてそんなものです.

また,「着任後の抱負」などを書く書類が課されることもありますので,そこで「地域貢献したい」とダイレクトにアピールしたり,「新たな学生開拓(つまり,学生募集)」について触れておくと,
「この人は,地域貢献とか学生募集を嫌がらずにやってくれそうだ」
と思ってくれます.


関連書籍はこちら.
   

   


その他,大学教員に関する話題は以下のようなものがあります.
参考にしてみてください.


こんなホームページの大学は危ない
こんな大学の教員は危ない part 1
「教職員用」危ない大学とはこういうところだ
大学教員になる方法
大学教員になる方法「感想版」
できればこんな教員・志望者を採用したい(ただし一部の大学に限る)
大学教員になる方法(強化版)
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