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懺悔と開き直り|かつてこんな悪いことしてました

大学図書館コピー機の裏技


哲学者ジャン・ジャック・ルソーは晩年,『告白』という懺悔録を執筆しています.

私はまだ晩年のつもりじゃないですけど,一つ懺悔をしておきたいと思います.

私が学生と若手研究者の時代を過ごした大学でのこと.
その大学図書館には「学生用コピー機」なるものが設置されてありました.
まあ,普通の大学にはよくある設備です.

学内には何箇所か設置されていますが,私はもっぱら図書館のものを利用しており,たいてい,書籍のコピー,プリント物のコピーなんぞをやっていたのです.

その大学では毎年,年度の最初に学生へ「コピーカード」が1枚配られます.
100枚だけコピーできる,テレホンカードみたいなやつ(今の若い人はテレホンカードなんて知らんだろうけど).
いわゆる,ペラペラのプリペイドカードですね.

1回使うごとに,コピー枚数分がパンチされてゆき,全部使ったらコピー機が利用できなくなるんです.
そのカードを使い切ったら,事務室かどっかに行って再度購入するものだったと思います.

100枚って,微妙に少ないんですよね.
友達とも,
「もうちょっと多めにしてくれたらえぇのになぁ」
って不平を言ってました.


さてさて,あれはたしか,2回生の夏休み期間中だったと思います.
ちゃんとマジメに勉強する学生だった私は,夏休みも図書館で勉強していました.

まあ,実際のところは午前中の部活のあと,自宅に帰ったら暑くてたまらないし,電気代がもったいないので,冷房の効いた図書館で涼むのが快適だというところです.

で,その時何かの書籍をコピーしていたんですけど,十数ページに渡っていたので,かなりの枚数を消費してたんです.
あぁ,利用限度数がゴリゴリ削られていくなぁ...,って思いながらコピっていると,その図書館の電気系統の障害か何かで,一瞬電気が途切れたんですね.

そしたら,コピー機に設置されているカードリーダーが「ガガガガッ!」って唸りだしたかと思えば,「ペッ」って感じでコピーカードを吐き出したんです.
「え?」って思ってカードを確認したところ,パンチされてないんです.

もしやと思い,再度カードリーダーに入れてみると,なんと! コピーカードが消費されていない!

でも,手元にはそれまでコピーしてきたものが残っているではありませんか.

・・・・素晴らしい!

飛び上がりたくなる感動を必死に抑え,シレーっと周囲を確認します.
うん,誰も見ていない.

そのコピー機は,ちょうど図書館事務員の目が届かず,防犯カメラも設置されていない場所です.

高まる心拍数とワクワク感を覚えながら,「これはきっとこういう仕組みに違いない」と思って,それを確かめてみることにします.
それはつまり・・・,
「コピーカードを入れて普通にコピー機を使ったあと,カードリーダーの電源を落とすと使用枚数がリセットされる(無効になる)」
ということです.

実際にやってみました.
コピーした後,コピー機の奥にあるカードリーダーのAC電源コードを引き抜きます.
するとやっぱり「ガガガガ!」と唸りだして,カードを吐き出します.
見ると,コピーカードは消費されていないんです.

「神よ! 今日というこの日に感謝します!・・・ 紙だけに」

なお,この方法はその図書館のコピー機だけしか使えない方法でした.
というのも,その他のコピー機ではカードリーダーの電源コードがしっかり隠されていて,引っこ抜けないからです.

その後の私は,図書館で人目が無いタイミングを選んでは,猛烈な勢いでコピー作業をする学生になっていきます.
せっかくだから,面白そうな書籍をまるまる大量コピーしてみたり,友達が困っていた時には,「じゃあそれ,俺がコピってやるよ」などと言って恩を売るふりをしてました.


4回生になった頃だと思うんですが,この技を私だけが使ってるのも悪いなと思い(実際,悪い事なのだが),誰かに教えてあげようと.
ですが,こういう極めて危険なテクニックをそこらへんにいる奴に教えると,あっという間に図書館の奴らにバレて活用できなくなる危険性があります.

それに,このコピーカードっていうのも,実はほとんどの学生が余らせてるんです.
卒業するまで,十数枚しか使わない奴だって結構いる.
ニーズに落差があるわけ.

そこで,同じゼミにいた「もっとコピーしたいのに・・・」と悩んでいる友達だけに教えてやることにしました.
こいつなら他言しないし,黙ってたほうが自分の利益になることが分かる奴です.

図書館にそいつを連れていき,
「でな,ここでこの奥にあるコードを抜くだろ.そしたら,ほら,こうやって出てくるだろ,で,もう一回カード入れてみ.どや?」
「いや,お前,マジで天才やな・・・」
そう言って喜んでくれました.


図書館では問題視されていた


そして卒業.
私は大学院に進みました.

その大学では,大学院生を対象に学内アルバイトをさせていたんです.
その一つが,「パソコンルームの監視業務」というやつ.

ただひたすらパソコンルーム内の管理人席に座っていればいい業務で,時給が高いわけではないですが,事実上拘束時間がゼロに等しいアルバイトでした(管理人席で,ノートPCを持ち込んでデータ分析とか論文執筆ができるんで).
なので,院生たちからは人気のあるバイトです.

私は院生時代にこれをひたすらやりまくってて,月に10万円稼いでましたね.


そんなある日,管理人席に座って本を読んでいたら,数学を専門にしている教員がそこに現れてトークを始めたんです.
この人,甲高い声と超絶早口なのが特徴の,いかにも理系な先生.
今年から図書館委員になったらしく,新しいシステム構築に取り組んでいるとのことでした.

そんな話,なんで私みたいな院生を捕まえてしゃべくり倒すのかなぁって思うところですが,ようするに,この先生って寂しがり屋さんなんですね.

で,新しいシステムを業者と一緒に構築する計画が煩雑で大変だとか,そういう話をしているなかに,こんなのがありました.

「でね,現在問題視されているのが,学生に使わせているコピー機なんですよ!」
って,あの早口でまくしたてます.

ドキッとする私.
こ,コピー機が問題視されているだと・・・?

「いやね,実は,使用したコピー用紙の枚数と,記録されているコピー数が結構ズレてて,こんなシステム大丈夫なのかと.そういうことが数年前からあるらしいんです」

ウッ! これの犯人は私じゃないか.
もしかして,実はもう犯人が私であることはバレていて,それを知った上でそんな話をしてるんじゃないか?
そんな気がして冷や汗が出てきます.

それでも,なんとかすっとぼけてみようと思いまして.
「ふ,不思議ですねぇ.で,でも.そういうのって完全に一致することの方が珍しいんじゃないですかね.やっぱりどうしても誤差が出てくるもんですよね」

「うんっ,たしかにそうなんだけどね.でも,それも程度というのがあってね.ここの図書館の場合,だいたい,コピー用紙1束分くらい違うらしいんです.これは結構大きいんですよ.普通,そんな誤差は考えられないからね」

コピー用紙1束分っていうのは,つまり500枚くらいってこと.
コピー用紙って,だいたい500枚ずつで紙に包まれてるでしょ.
で,それってのは,私が1年間に裏技で消費している枚数なんです.

あのぉ,先生,その誤差を作っていた犯人,今あなたの目の前にいる奴です.


その後,図書館をはじめとする学内コピー機は,テレカタイプの「プリペイドカード」から,「学生証」に内蔵されているICカード機能を使うよう変更になりました.
今ではその裏技は利用できません.


んで,開き直ってみる


懺悔はしたので,次は開き直りです.

でもこれってさ,もともと「学生用コピー予算」っていうのを元に支出が検討されてるんですけど(その後,私は大学職員になったので内部のことが分かります),毎年学生に1枚のプリペイドカードっていうのも理不尽な話なんです.

なぜかっていうと,プリペイドカードを使わせてた理由というのが,上述の先生のおっしゃるように,
「使用している枚数の確認のため」
だからです.

枚数確認のために,学生からお金を「カード費用」として徴収している扱いなわけ.
言い換えれば,コピー費用のためにカードを用意しているわけじゃないんですね.
だって,その年に使うコピー用紙は既に予算で用意されていて,それは固定だから.
そういう裏事情って,こういう組織では結構見られるカラクリです.

似たようなの仕組みが,国の予算がそれですね.
税金を集めて,それで予算を組んでいるわけではありませから.
予め予算を組んで,必要な支出を決めているんです.
前年の徴税で税金が足りなくなったから,その年の予算が組めなくなりました,という事態にはなりません.
詳しくは,中野剛志 著『目からウロコが落ちる 奇跡の経済教室【基礎知識編】』がオススメです.



最初から「コピー数のカウント」が目的なら,それだけやればよかった話.
たぶん,カードを買わせる方式にすれば,学生は無闇矢鱈にコピーする奴がいなくなるだろうっていう魂胆なわけです.

でもね,こういうことすると,学生の勉学を妨げることにしかならないと思うんですね.
コピーしなくていい,って言うやつもいる一方で,いっぱいコピーして勉強したいって言うやつもいる.

これって,国の財政も同じだと思いますよ.
まんま,新型コロナの一律給付金の発想とそっくり.
基本スタイルとして,「手続きを煩雑にすれば,面倒臭がって受け取らない奴が出てくるだろう」ってことで,「お金を出したくない」ことが見え見えなわけ.


なお,新しいコピーシステムを構築した先生ですが,実はその点についてしっかり考慮されていて,
「学生が自由にコピーできないのはおかしい.そもそも予算余ってるんだし」
ということで,カード買わせる方式をやめて,学生証でカウントさせるシステムに変えたんです.
そのことも,パソコンルームに来て早口でまくしたてていました.
結構いい人です.


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