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忘れられない不思議な人々(3)高校の食堂にいた女子高生

シリーズ化して,何本か書こうと思ったものです.
私がこれまでに遭遇した人の中で,特に思い出深いユニークな人を紹介しています.
その3本目.


全寮制の高校の食堂で,食事制限の指示を受けていた肥満女子高生


私が,愛知の山奥にある全寮制の高校出身だという話を過去に何度かしてきました.
そこは全寮制ですから,三度の食事も全生徒が一つの食堂でとります.
なので,今のコロナ禍は大変みたいですね.


この食堂,なかなか美味しいことで生徒からの評判は上々でした.
私が思い入れ深いのは朝食メニューで,カップ型の納豆は何個取っても自由だということあり,しかも朝食って,寝坊して「抜く」生徒も多いものんだから,私みたいな朝に強い生徒にとっては天国でした.

大きい丼にご飯をたっぷりとよそい,もう一個の丼には納豆3パック,玉子,ふりかけ,ナメタケ,塩こんぶ,大根おろし,ジャコなどなどを入れてかき混ぜ,これをご飯にドロドロとかけて食す.

最高でした.

時々,味を変えるためにキムチとか梅干しとか野沢菜みたいなのを入れるわけですけど,そういう私の,
「ダイナミックな納豆玉子かけご飯」
の朝食スタイルは,この高校時代に培われたものです.
これを大学時代も続けました.

で,そんなダイナミックな食べ方は,後にスポーツ栄養学的なお墨付きをいただき,まじめな学会発表されるまでに至ります.
それこそ,国立スポーツ科学センターの人とかが「簡単便利なアスリート食」として発表しています.
ホントですよ.

その元ネタ,実は私の朝食です.

今ではあんな大量のご飯は食べられませんけど,当時の私はそれなりにアスリートでしたから,これくらい食べないと満足できません.
それでも体重が落ちないように気を配らなきゃいけないくらい,エネルギー消費量が多かったんですね.


そんな感じで利用していた高校の食堂ですが,なかにはアレルギー持ちの人とか,とんでもない偏食の人,訳あって食べれない食材がある人とか,いろいろです.
それに逐一対応しなきゃいけない食堂スタッフの皆様には,やはり頭が下がります.


なかでもやっかいそうだったのが,壮絶な肥満の生徒.

この女子生徒,身長が160cmくらいなんですが,横幅も同じくらいある.
いや,もちろんそれは言い過ぎですけど,とにかく正面から見たら球体に見えるんです.
否,横から見ても球体,だからたぶん上から見ても球体.
絵に描いたようなおデブさんなのです.

パッと見は関取,お相撲さんです.
それも結構ファッティな.

立てば芍薬 座れば牡丹 歩く姿は百合の花,なんていう魅力的な女性を指す表現がありますが,その女子高生に当てはめれば,
「立てば小錦 座ればトトロ,歩く姿はブルドーザー」
といったところでしょう.

実際,彼女(以下,カナちゃん(仮名)とする)が歩くと,廊下や教室の床がきしみます,いやマジでホントに.
地響きをたてながら移動するので,そっちを見なくても,
「あっ,カナちゃんが来たよ」
って普通に会話が成立するのです.


ちなみに,こうした体型が元で「いじめ」を受けていたわけではありません.
もはや,いじめの対象になることを超越していたんです.
それくらい圧倒的なデブでした.

どんな所にも「いじめっ子」気質な悪ガキっているもので,その高校にもそんなグループがいたんですが,彼らもカナちゃんにだけは手出しできませんでした.
皆,カナちゃんの前では黙りこくってしまう.

以前,バスで遠足に行くイベントがあったんですが,カナちゃんは席を2つ分使うんですね,横幅的に.
席を探しながらバスの通路を押し通ってきたカナちゃんが,ケラケラ笑いながらだべってたヤンキーたちの前に立つと,カナちゃんに気づいたヤンキーたちが,席を「あ,どうぞ.ここ空いてます」って逃げるように譲ってました.
凄くシュールで面白かった.

誰にも何も言わせない,そんな驚異的なオーラが出ていたんです.
生物ヒエラルキーにおける頂点みたいな何か.そんなものを感じました.
彼女の前では,ライオンもシャチも手出しできないでしょう.
むしろ,カナちゃんに食べられるかもしれない.


そんなカナちゃんも食堂を使っていたわけですけど,やっぱりその病的な肥満体型は問題視されたようで,食事制限の指示を受けていたようなんですね.

あれはたしか,昼ご飯の時だったと思うんですが,まだ人が少ないなか食堂に入ると,私の前にカナちゃんがいました.
その食堂は,よくある学食のように,自分で料理の皿をお盆に取っていくスタイルなんですけど,お米のコーナーも,自分でご飯をよそう方式だったんです.
だから,私みたいに運動量が多い生徒は自由にたっぷりと丼によそうのですが,カナちゃんみたいな人も自由によそえちゃうわけ.

でも,それじゃ食事制限にはならないということで,どうやらカナちゃんには,「丼の口のギリギリまで」という指示が出ていたらしいんです.
ようするに,私達みたいに山盛りにはできないということ.

そしたらカナちゃん,そんな量じゃ足りないと不満だったのでしょう.
丼をしっかり握り,シャモジでご飯を丼に押し潰すようにギューギューとよそっていました.
いや,あれは「よそう」っていうより,「圧縮作業」です.

でもカナちゃん,口では指示された量をつぶやいていました.
「この丼の,ギリギリまで」
って.
ギリギリまで,ギリギリまで,と何度もつぶやきながら,物凄い形相でシャモジをプルプルと震わせながら,丼に押し付けています.

私,その光景に圧倒されて,お盆を脇に抱えたまま立ち尽くしてしまったのを,今も昨日のことのように思い出せます.

もうさ,白米を丼にシャモジで押し付ける様が,まるで首を締めて人を殺しているかのようで.
いやいやいや,カナちゃん,もう無理,もうそれ以上圧縮できないよぉ,って.

その時の私は,さしずめこんな状態.



なんていうか,カロリー摂取を目指した生物の,執念を感じたものです.


そしたら,食堂スタッフの人が,カナちゃんの「圧縮作業」に気づいて,飛んできます.
「カナちゃん! ダメ! それじゃダメ!」
って怒鳴りつけながら,丼とシャモジをとりあげて,
「潰さないように,こうやって,ふんわりと入れて,それでこのギリギリまでなのよ」

「えー,それだけぇ・・」
って,カナちゃんは困った表情をしていました.
まあ,表情って言っても,カナちゃんの顔はパンパンに膨れ上がっていたので,いつなんどきも同じ表情にしか見えないんですけど.


結局,高校3年間で体型は一切変わらずに卒業しました.

寮生活をしていて,しかも食堂で食事制限を受けているのに,なぜ? って思うじゃないですか.

女子の友達に聞いたら,それは「おやつ」とか「夜食」だと言ってました.

寮生活のなかでカナちゃんは,毎日,寮内にある,ありとあらゆるものを探し出しては,貪り食っていたようです.
なんせ,食堂で食事制限を受けてるんですから.

テレビが置いてあるような共有スペースに,「誰でもどうぞ」的につまめるお菓子やフルーツがあるそうですが,これをカナちゃんは積極的に捕食していたようです.

しかも女子寮生たちは,自分たちの余ったものや食べ飽きたものがあったら,それを全部カナちゃんに与えていたようです.
「あっ,やべ,作りすぎちゃった」
「でもいいじゃん.カナちゃんにあげればいいよ」
っていうのが日常だったらしい.

それならまだしも,買ってきた夜食やおやつを,
「うわっ,これマズぅ.私もう食べたくない,どうしよう」
「でもいいじゃん.カナちゃんにあげればいいよ」
って感じで処理することも多々あったとか.

なんじゃそれ,ペットかよ.って感じですが,これを一部の女子は「残飯処理機」と称していたとか.
ペットですらない.

「最終的にカナちゃんが食べてくれるから,気が楽だった」
と言ってる奴もいました.
女性って怖いなぁって思います.

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