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大学における◯◯長選挙みたいなやつ|理想的な選挙状況とはこのこと

本日は参議院選挙の投開票日です.
なので,「選挙」に関する話をしてみましょう.

選挙と言っても,大学における,学長とか学部長とかを選出する選挙のことです.

学長選挙ともなると,やっぱり権力闘争・派閥抗争が凄まじいことになりますが,その他の役職選出選挙となると話が変わってくる,っていうケースは多いものです.

学科長とか◯◯委員長みたいなものだと,そもそも選挙によって選出されないこともあるんですが,「学部長」みたいなものになると,格式張った選挙が行われている大学は多いことと思います.

実際,私が奉職していた大学は,いずれも学部長は選挙によって選出されていました.
そんな学部長選挙の様子について,とても興味深いパターンを一つご紹介します.


先程申しましたように,学長みたいなトップレベルの役職を選出する場合は,学内における選挙活動,つまり水面下での「当選に向けた工作」が繰り広げられるのですが,こと学部長ともなると,その様子は違ってくるのです.

端的に言えば,大学教員の皆さんの多くが学部長になんぞなりたがらないのです.
誤解しないでほしいのは,「学部長」という役職がダメとか,大したことない,っていうわけではありません.
むしろ,非常に重要なポストで,大学運営において極めて大きな役割を果たすことの多い役職なのです.
なので,なりがたる人が多い場合は,そのポストの争奪戦になることもあります.

しかし,一般的な大学教員というのは,できるだけ大学運営の仕事はしたがらないもの.
ましてや多くの学部を抱えるちょっと大きめの大学ともなると,学部長の仕事もかなり重くなってくるのです.
自分の研究・教育活動がしたくて大学教員をやっているのに,学部長になってしまったら最後,それらに全く手がつけれられない日々が待っています.


そんなわけで,私が所属していた大学・学部においてもこの力学が働いており,早速「立候補者の受付」の部分でつまづきます.

つまり,誰も立候補しないわけ.

しかし,これはもちろん想定の範囲内です.
自動的に次のステップである,「無記名投票による推薦候補者の選出」に移行します.

この大学では,私みたいな下っ端教員は学部長選出のための投票権がないため,准教授以上の先生方による選出の様子をのんびりと眺めるだけでした.
が,このあと面白い展開に巻き込まれていくのです.


ひとまず,その会議では学部長候補者が複数決まります(推薦者が多かった,上位3名だったと思う).
で,今度の会議でその候補者に対し,あらためて選挙するという手順です.

さて,次の会議まで一週間があるわけですが,その間,候補者達による熾烈な選挙戦が始まったのです.
すなわち,水面下での「落選に向けた工作」が繰り広げられます.

え?
誤字ではないか,って?
違います,「落選に向けた工作」で合ってます.

早速,候補者の一人である,私と分野が同じ先生が行動を起こしてきました.
会議後,私の研究室に入ってくるなり,凄い剣幕で訴えてきます.
「◯◯君! 今日僕に投票したんじゃないよね? ダメだよ.来週は絶対僕に投票しないでね.これは冗談じゃないよ,本気だよ.僕に投票したら本当に怒るからね!」
と.

私もビックリしたのですが,とりあえず落ち着いてもらいながらこう返します.
「すみません先生,私は投票権がないので,大丈夫です.私,投票できませんから」
と.

そしたらその先生,
「そうか,わかった.じゃあ,他の人と学部長の話になったら,僕が絶対なりたくない,って言ってたって言いふらしておいてよ.絶対嫌だからね!」
と言って帰っていきました.

つまり,投票者に対し,圧力をかけるパターンですね.


その数日後,学部における懇親会みたいなパーティーがあったのです.
立食形式で,軽くアルコールを振る舞いながら談笑するようなやつです.

そこには,学部の懇親会なのですから,当然のように現学部長も出席していました.
いかにも学者然とした風貌の老紳士で,とても朗らかな方です.
そんな学部長が,ビール瓶を持って自ら各テーブルをまわってお酒をついでまわり,学部教員たちとコミュニケーションをとっておられました.

そのうち,なんと私のところにまでやって来て,
「◯◯先生,どうですか? だいぶこの大学にも慣れましたか? うちの学生の様子はどうですか?」
などとおっしゃりながら,新米教員のフォローをしてくれたのです.

・・・って思っていたら,こんなことを言い出します.
「そう言えば先生,次の学部長選挙では,私に投票しないでください.私はもう学部長はこりごりです.次期もやるというのは,あまりにもしんどいですから」
なんてことを話し出す.

そう,学部長候補者の一人として,現学部長も推薦されていたのです.

なんのことはない,この先生は学部懇親会を利用して,自らの落選を目指してロビー活動を展開していたわけです.
なぜ学部長をやりたくないのか? 学部長をやらずに済んだら,こんな研究がやりたいんだ.もうすでに来年度の研究計画とか出張計画とかを進めていて,もうあとには引けないんだ.なんてことを切実に語ります.

つまり,投票者に対し,情に訴えかけるパターンですね.

そういうのが,なんだかシュールで面白かった,っていうのは嘘ではありません.

3人目の方からはアプローチはなかったのですが,まあ,私にはもともと投票権がないんだから,本来なら当然なんですけど.

言い換えれば,この上記のお二人は,私のような教員には投票権がないことも知らないくらい,学部長選挙の仕組みやルールをご存知ないというわけで.
つまり,全く関心がないのでしょう.


でもね,選挙って,こういう感じで展開するのが,なんか理想的で健全的だなぁって思わされました.

つまり,有権者からの推薦をうけて立候補し,自分はひたすら「落選に向けた選挙活動」を展開する.
当選に向けてあの手この手を駆使する選挙より,なんだか清々しいですよ.


「選挙で投票しない」ことを信条にしている私としても,こういうパターンの選挙なら良いと思うし,次世代型の選挙として,そういう状況になるような工夫があってもいいかなと考えています.


ちなみに,その学部長選挙の結果ですが...
現学部長が,そのまま次期も務めることになりました.

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