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経済その他諸々に関する学者の見解について

成田悠輔っていう人に似てる,って言われたことがあります


顔がとかじゃなくて,言ってることとか発想とかが.

なので,この成田悠輔さんが出てくる動画をYouTubeとかで見て,感想を聞かせて,と言われていたのですが,ちっともその気にならず放置していたんです.
誰だ?成田悠輔って,って感じで検索もかけず,そろそろ3年くらい経過.

で,そんなことじゃいかんなと重い腰を上げ,ここ最近になって成田氏が登場してコメントしているいくつかの動画を見てみたんです.

まぁ,たしかに似てるところがありますね.
同意できたり共感できる意見もたくさんあります.

この人がメディアとかで重宝されているのは,たぶん,
「一般的な研究者・学者の姿勢を崩さずに,それでいて,メディアや視聴者が喜ぶ気の利いたユニークなコメントができるから」
なのかなって思っています.
なんか棘のある文章になってしまいましたが,別に私は彼のことを批判しているわけではありません.
とても優秀な人だと思いますよ.

「一般的な研究者・学者の姿勢を崩さずにコメントできる」っていう点ですが,実際のところ,成田さんと似たような意見や考えを持っている人って,特に大学教員には非常にたくさんいると思うんです(調査したことなんて無いけど).
なので,大学教員とか研究者の人達からすれば,成田さんの意見ってのは「普通だよね」とか「至極当然だよね」ってなるんじゃないかな.

コメントを聞いていても,一見突飛なことを言っているようでいて,抑制のきいた慎重で包括的なものが多く,こういうところが生粋の学者・研究者っぽいスタイルだなと.

いわゆる,「テレビに出たがる御用学者」とは一線を画する一人だと思います.


さて,そんな成田悠輔さんについてですが,最近出ていた以下の番組について取り上げます.



私自身,池戸万作さんの主張にも理解は示したいのですけど,これについては実際のところ成田悠輔さんと同意見です.

ただ...,ちょっと今回の動画の成田氏の態度はいただけない.
もしかすると分かった上で,狙った上でのあの態度だったのかもしれませんが,だとしたら極めて無礼で無意味な行為だったと思います.
まあ,まだまだ若い人だし,今後に期待したいところです.


そもそも,池戸氏は「日本経済が不況から抜け出せない原因を突き止めたと断定,宣言している」わけではないことは脈絡的にも明らかです.
彼は,「財政支出・政府支出が足りないからGDPが上がっていないのだから,これを改善する政策をとるべきだ」という提案をしています.

なのに,それに対して成田氏は,「根拠がないのに断定するな」という反論を張りました.

「????」

私の頭の中には,ハテナマークが乱立です.


まあ,彼はまだまだ若い人だし,ちょっと何か気に食わないことを池戸氏から言われてたりしたのかなぁ,なんて思っていたら,どうやら「そういうこと」らしい.
なんでも,別のYouTube番組で,池戸氏が成田氏を茶化して批判しているものがあるそうです(見てないので詳細は分かりませんけど).
まあ,これは実情は知る由もないのですが.


でも,成田氏の反論そのものは,なんとも学者らしい至極当然な発言ではあるんです.
ですけど,「ここでそれを言うの?」っていうのが私の感覚.

実際,成田氏が言うように,経済の実態は非常に複雑で解明できていないことがたくさんあるのでしょうし,それに対して,一部のサンプル・データを持ち出してきて,都合よくシンプルに断定してしまう輩には辟易しているのも理解できます.

私もスポーツ科学者の端くれとして,スポーツ界でそんな業界人をたくさん見てきましたし,「なんだかなぁ~」と虚しい気持ちになったこともあります.

ですが,「それ」がどんな意味や価値を持つかは,置かれた状況や文脈によって異なります.


ちょっと話が長くなりますがお付き合いください.

例えば,今年盛り上がったスポーツの一つがサッカーですが,その勝敗や優劣を決めるデータの一つに「選手の走行距離」があります.
「強いチームや選手は,弱いチームや選手と比べると,1試合あたりにピッチを走った距離が長い」
というものです(実際,そういう傾向がある).

このデータを見たコーチはこう考えるでしょう.
「よし,うちのチームも試合で長く走り回れるようにトレーニングさせよう」
と.

ちょうどこれが,上記で池戸氏が提案した「政府支出を積極的に」みたいなもの.

しかし,学者の考え方ではこうはいきません.
この例で言えば,サッカーを研究している「研究者」や「学者」はこう言います.

「試合中に長い距離を走れたからと言って,それが優れたチームや選手の条件とは言えないし,ましてや勝利に結びつく根拠などない」
と.
さらに言えば,
「サッカーの技術やスキルは非常に多様で,その勝敗を決する要因は極めて複雑なのだから,それをシンプルに断定することはできない.一部のデータを都合よく使って説明するのはやめてほしい」
とも言いたいでしょう.

たしかにその通りなのです.

でも,研究視点ではなく,現場視点からすれば,
「強いチームや選手は長い距離を走っているのだから,持久力を鍛えて走り負けないようにしよう」
という考え方でトレーニングしたいのです.
事実,その方が選手は納得しますし,チームのレベルアップにつながります.


成田氏が動画中で例示していた,
「現金給付によって国民全員が怠けてパチンコをするようになったら・・・」
というのも,サッカーの例で考えれば無意味な発言です.
それは,
「試合中にボールとは無関係に選手たちがひたすら走り回っていれば,それは強くなったと言えるのですか?」
みたいな反論です.

ほら,無意味です.

サッカー現場にいる人達からすれば,ボールとは無関係にただ走り回るプレーなどしないことは自明のことだからです.

同様に,通常の人間社会の仕組みや性質を理解していれば,月額数十万円程度の現金給付があったからといって,人が働かなくなったり,怠けてパチンコばかりするはずはありません(詳細は「ベーシックインカム」とかで検索してください).
現在の日本社会においては,現金給付すれば景気回復につながる可能性のほうが圧倒的に高いでしょうし,逆に,それによってパチンコばかりする人が増えるリスクを検討する必要性はどれほどあるのでしょうか.


サッカーで勝つためには,多種多様な技術やスキルを身につけ,複雑な現象に対処しなければならないのですが,だからといって「シンプルなアプローチ」が否定されるわけではありません.
チームの練習として,ボールコントロールやフォーメーション,連携やキック技術を高めることは当然のこととして,
「そもそも,サッカー選手としてある一定以上の持久力がないと勝負にならない」
という視点です.
強豪チームが,1試合の一人あたり平均で「10km」走れているのに,弱小チームや自分たちのチームでは「5km」しか走れていないというデータがあれば,これはもう,ボールコントロールやフォーメーションの練習ばっかり頑張ってる場合じゃない,ってことになるじゃないですか.

いえ,もちろん別の視点もありますよ.
例えば,試合がもう来週に迫っている,っていう場合だったら,今から持久力トレーニングなんか始めても仕方がないのですから,自分たちより遥かに走り回れる相手を御する手段を考えなければならないことになります.

なんにせよ,強豪チームと自分たちとで,明らかに違っている部分に焦点を当てて,それに対処するプロセスが大事だということです.


成田氏は,現在の日本経済が不況から抜け出せない理由・原因については,
「わからない」
としています.

茶化しているようにも見えますが,学者としてはとても誠実な発言です.

言い換えれば,日本経済がこの不況のままでも,国民が「幸福」を得られるような工夫が必要だという考え方なのかもしれません.
実際,上記動画の最後の方でそんなことを仰られていましたし.
もっと言えば,私もその考え方に近いですし.


ここまで長くサッカーの例を話してきて,それを一気にちゃぶ台返しするようで恐縮ですが,つまり成田氏や私としては,
「そもそも,サッカーなんかで勝とうとしなくてもいいんじゃないのか?」
「ただただボールを蹴っているだけで楽しめるゲームにする工夫がいるんじゃないのか?」
っていうことを提案しているとも言えるのです.

とまぁ,そんなことをダラダラと考えさせられた1日でした.

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