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46:2013年2月28日

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2013年2月28日(木)10時30分

 穂積里香は事務局長室のテーブルにボイスレコーダーを置いた。
 内調の男が穂積にスイッチを入れるよう指示を出す。
 テーブルを囲む人の数は、前回より多い。
 誰だこの人達は。
 偉い人達のようではある。

 ボイスレコーダーから、藤堂の声が聞こえてくる。

【「お前、知らんぞ。どうなるか知らんぞ。ええねんな! おえ!」・・・・・「でもちゃうねん! これはバラしたらあかんねん! ええな! これは俺から聞いていることやないことにしとけ、それがお前のためや。そうやないと知らんぞ。お前、知らんぞ」】

 声が遠く、ノイズが多いが、何を言っているのかハッキリ聞こえる。

 内調の間で会話が始まる。

「ふーむ・・・、まあ、ちょっと声が小さいけど、ノイズを下げたら綺麗になるよね」

「はい、おそらくいけると思います」

 なんだか楽しいことになっているようだ。

 穂積は笑いをこらえて深刻な顔をした。



 藤堂は事務局長室に呼ばれた。
 前回よりもテーブルを囲む人の数が多い。
 なんだか大変なことになっているのかもしれない。
 だが、ここでビビっていてはいけない。
 気をしっかりと持つようにする。
 ここが正念場だ。

 今回も正面の男が質問を浴びせてくる。

「藤堂先生が、学生に情報を、その、内部の機密情報を漏らしているんではないかということになっているんですが、その点についておうかがいしたいのです」

「いえ、それは学生が流しているんですよ。私はですね。卒業できへんやつもおるやろな。ということを言ってると思います。けど、萩原が卒業できないというのは言っていないんですよ」
 テーブルを囲む男たちそれぞれに目を合わせながら訴えた。

 そして笑顔を交えて「へへっ、それがいつの間にか『藤堂先生が萩原が卒業できないと言った』ということになってまして。萩原は授業に出てなかったんで、おそらくそれで、学生たちはそれで『萩原は卒業できない』ということでして、それは学生が勝手に言うてることなんです。私は漏らしているわけじゃないんですよ」
 藤堂はおしっこを漏らしそうだった。

 正面の男は目を強く閉じて、そして話し始めた。

「そうですか。でも、学生は藤堂先生から萩原さんが卒業できないということを聞いたと話しているそうなんですが、それはどうですか?」

「いや、デマでしょう」

「デマですか?」

「はい、私はそこは知らないんです」

「学生たちのSNS、えー、ツイッターとか、あとLINEですね。そういうものの中に、藤堂先生が口裏合わせを、脅迫をしているというような趣旨のものがあるんですが」

 藤堂は何がなんだか分からなかった。
 だが、ここでは何か反論しておいたほうが良さそうに思えた。

「えぇ、そういう話になっているそうなんですが、これは学生がツイッターを作ったんです。インターネットになったんですよ。結構なラインなんですよね。もうね、歴史はインターネットですよ。そういう話が。いろんな話がごっちゃになって、私がバラした、という話になっているんです。でもそうやないんですよ。ですから私は」
 内調は藤堂の話をさえぎる。
「あ、はい。でもですね。学生たちは卒業パーティーですか。2月19日の。そこで藤堂先生から萩原さんのことを聞いたと言っているんです。それはデマということですか?」

「あぁー、えー、まあ、デマというか、間違いやと思いますね。間違ったことを言うてるんです」

「口裏合わせと言いますか、そういうことはしていないと?」

「はい、えー、確認しました。学生に、どうなってんのや? ということを確認しました。はい」

「それでどうでしたか?」

「えっ? えっ?  えっ? もう一回お願いします」

「それを確認したらどうでしたか?」

「えー、どうでしたか、っていうのは・・・」

「学生に確認をとったら、えーと、そうですねぇ。何を確認したのですか?」

「どうなってんのや? ということを確認しました」

「何を確認したのですか?」

「どうなってんのや? ということです」

「どうなってるというのは?」

「いや、その・・・・、なんでしょね。えぇー、・・・確認したんですよ、何が起こってるのかを」

「そうですか、・・・はい」

 その正面の男は、周りの者たちとも示し合わせて、「では、とりあえず今日はこれで」と言って事情聴取を終えた。


 その後、穂積と藤堂には全く同じやり取りの事情聴取が2日続いた。