2010年2月18日木曜日

応用科学とHacks


「ハッキング Hacking」 という言葉があります.
日本では “コンピューターのセキュリティを破って不正に侵入する行為” を意味することが多いようです.
しかし,ハッキングの本来の意味は,“コンピューターを必要に応じてプログラミングする行為” というものであり,ハードとソフトを熟知した者が行なうことを指します.
「ハッカー Hackers」というのは優れたエンジニアへの敬称です.

いつのまにやら日本ではハッキングやハッカーというのが悪意を持った意味へと変化しました.
日本で言うハッキング,つまり “悪意を持ったハッキング行為” を意味する言葉は,「クラッキング Cracking」と言い,クラッキング行為をする者を「クラッカー Crackers」と呼ぶのが正しい使い方です.英語圏では「ブラック・ハット・ハッカー Black hat hackers」とも呼ばれています.

名称はどうであれ,高度な技術と知識を利用してコンピューターを自在に利用するということには変わりありません.
こうした高度な技術と知識を利用した行為を紹介する上で,この 「ハック Hacks」 というコンピューター,エンジニア用語を使った比喩も多いようです.

さまざまな出版社を通して出ているハックシリーズもその一つで,手元にあるものには夏目大 訳『Mind Hacks』,同 訳『Mind パフォーマンス Hacks』,鴨澤眞夫 監訳『Statistics Hacks』などです.

Mind Hacksシリーズでは頭の使い方に主眼を置いており,どうすれば学習能力が高まるか?忘れ物を少なくするためにはどうすればいいか?といった日常のニーズに応える形で,これに関連する実験研究を基にした内容を紹介しています.

Statistics Hacksは,統計学上の裏技や解釈の仕方を紹介したものです.これまでにもいくつか紹介してきた「数字上ではこう言われているが,現実的にはどうなのか?」といった観点のもの.

特にMind Hacksシリーズは結構おもしろくて,この中に紹介されているものを私自身が実践していたり, 卒業論文のアイデアとしてゼミ生に実験させていたりしています.
載っている内容は全て参考文献がついており,原著にあたることができます.
その参考文献にはNewtonやScienceといった一流雑誌も多く,内容は奇抜なものが多いですが,適当なこと書いているトンデモ科学本とは一線を画しています.

一級の雑誌に掲載される研究でも,こんなにシンプルでユーモラスなものがあるのかと関心させられますし,同時に科学研究はアイデア勝負なのだな,とも考えさせられました.

スポーツ指導や運動指導にも言えることだと思うんです.
ようはスポーツや身体運動をハッキングすることを目指しているわけですから.
スポーツ科学は応用科学の領域です.どちらかというと“工学(エンジニアリング Engineering)” と同じような観点のはずなのです.

練習やトレーニングというのは人に対するプログラミング作業に相当します.
どのようなプログラムを入力すれば効率よく競技力が上がるか?体質改善できるか?というところに最終目標があります.
よくよく考えてみれば,練習プログラムとかトレーニングプログラムなんて表現もしますよね.

結局最終的にはどうなったのか?何を目指すのか?が大事なわけでして.
これについては,先日紹介した竹内薫 著『99.9%は仮説』にも大切な提言があります.
“飛行機が飛ぶ仕組みは科学では説明できない”
これは本当なのだそうで,まだ物理学の研究誌などで現在進行形で議論されている内容なのだとか.
でも,飛行機は実際に空を飛んでいるし,それによって大きな経済活動を起こしていることは疑いようのない人類の事実です.

これは物理学的にどーだこーだという話を抜きにして,「飛ぶんだからしょうがない」と片付けて飛行機開発と航空機会社を営むほかありません.

スポーツ科学も同じことです.
細かいメカニズム研究や現象を説明するための調査も必要かもしれませんが,そんなことよりなにより実際に競技力が高まる,身体に変化をもたらすという “「現象」を生み出す研究” が一線に必要なのだと思うのです.

「XXをすれば,YYをした場合よりもZZである」
というような研究報告がたくさん出るべきです.

そう考えれば考えるほど,スポーツを科学するということは,一つの生命体を構成する要素をあらゆる角度で考察できる視野の広さが必要なのだと痛感します.
工学を専門にしている者が身内(兄弟)にいるのですが,やはり彼らも広い視野を持っていなければ一つのマシンを設計することはできませんから.