2010年5月30日日曜日

農業のこと

久しぶりに面白い本に出会えました.
浅川芳裕 著『日本は世界5位の農業大国』

“統計データを詳細に分析すると,メディアが騒ぎ立てているような解釈とは違ってくる” という手合いの本です.
少し前に取り上げた,神永正博 著『学力低下は錯覚である』というのと似ています.

こういった,データに基づいて解釈を再構築する,といった本は読んでいて楽しいですね.視点や観点を勉強させてもらえます.
以前も紹介しましたが,パオロ・マッツァーリノ氏(ペンネーム.おそらく日本人・・)の著書も同じような切り口です.

で,この浅川氏の主張は,
「日本が食料自給率40%というのは現実離れした無意味なデータ.近年,仕事が無くなった農水省が考え出した詭弁」
というもの.

「だと思ったんだよ」と思いましたよ.
だって,実感として私たちの周りに出回っている食料品の60%が,輸入品であるという感覚がありませんからね.
私が最近やっと足を運ぶようになった生鮮食料品売り場をみても,みんな国内産ではありませんか.

まず,「食料自給率」なる数値の出し方ですが,これはカロリーベースだというところがミソ.
40%という数値は,
[ 国内生産カロリー÷国民消費カロリー]
で算出されます.
すなわち,今の日本は国民消費カロリーが多く,国内生産カロリーが追いついておらず,その不足分を輸入に頼っている.という意味に捉えられています.

しかし,この分母である「国民消費カロリー」というのがくせ者で,とにかく国内で流通している食品の総カロリーなのです.
つまり,飲食店やスーパーに並んでいても廃棄されたり,調理油として廃棄したカロリーも含んでいるのです.

この算出方法では,日本人一人当たりの一日の消費カロリーは平均約2500kcalになりますが,実際の日本人の消費カロリーは約1800kcalです.
実際の生活における数値とは乖離があります.
この計算では自給率は56%になり,自民,民主の両政権が掲げた目標である「食料自給率50%」を軽く超えることになります.

それに,カロリーベースの計算ではカロリーが高い油脂や肉類の影響が前面に出ることになり,カロリーが低い野菜や果物の影響力は小さくなります.
そのうえ,このカロリーベースの自給率計算,いえ,そもそも食料自給率の計算をしている国は日本くらいのものなのだそうです.
唯一,韓国も計算していますが政策にするほどの価値をおいていません.

さらに氏は,「日本は輸入・輸出の貿易で成り立っている国であり,自給率が高い国である必要性がない」と切り捨てます.
自給率が100%を超える国はアメリカ,オーストラリア,カナダ,フランスがありますが,他は発展途上国です.
当たり前です,途上国は食料を輸入できないので,自前のものを食べることになるからです.
広大な土地を持っている国でもない限り,先進国の自給率は下がることが当然なのです.

※ここらへんのことについての詳細を,後日記事にしました.
続・農業のこと

よく耳にする「日本は世界最大の食料輸入国」というのも農水省がでっちあげたウソだそうです.
普通にFAO(国際連合食料農業機関)から出ている国際比較データを見れば,国民一人当たりの輸入額はイギリスが$880,ドイツは$851,フランスは$722であるのに対し,日本は$360です.ちなみに一番少ないアメリカは$244.
なんでこんな直ぐバレるウソをついてるんでしょう?

そのうえ,FAOが出しているデータから導き出される結論として,本のタイトルにもあるように日本は世界5位の農業大国なのです.

日本の農業の生産高は年間約8兆円.
1位:中国,2位:アメリカ,3位:インド,4位:ブラジルと,農業が有名な4カ国に続いての第5位なのです.

なんだ,日本の農業スゲーじゃん.
全然そんなニュースやりませんよね.またしてもメディアの適当さ加減がわかります.

なんで日本の農業がこんなに凄いのか?理由はこんな感じです.
日本の穀物,つまり主食たる「米」は十分に足りています.余っているほどだということは知る人ぞ知るところです.
なにせ,毎年新米が出回り売れるんですから,これは実感としても納得されるでしょう.

次に主食候補である麦(小麦粉)は,そのほぼ100%を輸入に頼っていますが,しょせん麦ですから安いものです.

そうした主食が十分である日本だからこそ,本来は贅沢品である野菜や果物が出回るようになります.
私たちが当たり前のように食べている野菜や果物,これは多くの国では贅沢品です.
日本はこの野菜や果物の栽培と流通が優れているのだそうです.

最近,日本では脱サラして農業に移る人がいるとか.そして失敗する人があとを絶ちません.
そりゃそうです.
メディアや農水省が作ったイメージとは裏腹に,日本の農業はハイテク生産技術と流通戦争のまっただ中.
ド素人が淡い夢を抱いて入る余地などありません.

近年の農業技術と販売戦術・戦略についていけない爺さん婆さんの農家は淘汰され,少ない生産コストで大量生産できる体制に転換できた農家が生き残っているという寸法です.
私の実家は淘汰された側ですね.これは農家である我が家としては実感できるところです.
のんびり畑を耕している暇は,今の農業にありません.

また,ここ最近ではわざわざ田舎で農業をする必要もないのでは?という栽培技術が開発されているようで,都心のビルの一角を野菜栽培工場にし,管理も極力オートメーション化して,コンビニのバイト感覚で人を雇ってコストを削減する.
販売では都心である地の利を活かして運搬費を抑えるという戦略も考えられます.

実は日本の農業は凄いんですよぉ.


という記事を書きましたが,後日,TPPやら農業改革やらと騒ぎ出し,なので,いろいろと調べてみたら日本の食文化と伝統文化が危険にさらされる状態にあることがわかりました.
この農業問題と食料問題をまとめて記事にしましたので,以下のものをご参照ください.


農業のこと
続・農業のこと(ここの記事)