2013年9月10日火曜日

ちょっと本気で農業のこと(食料自給率と食料安全保障)

これまで私のブログでは,農業について簡単にしか触れてきませんでした.
農業のこと
続・農業のこと

農業ブームへの冷や水とハイテク農業の可能性,TPP問題や食料自給率の一側面だけをなぞるだけ,しかも農業問題の源流をたどることをしていない,薄い記事でした.
そこで今回は,少しコクのある農業の記事にしてみます.

この農業問題についての,世間のニュースや論議を聞いていると,「皆さんそれぞれ言いたいことは分かるんですが,ちょっと農業のことを簡単に考えすぎてやしませんか?」という感想を持つことが多いのです.

農業問題は簡単なことではないので,記事一本だけで説明しきれることではありません.ですので今回だけでなく,連載してみようと思います.

「教員をやっているお前は,農業の何を知っているんだ?」というところでしょうが,私は農家の生まれです.
実家を含めた私の出身地域は,他県の大規模ハイテク農家と中国からの輸入という価格低下競争についていけず,採算が取れないということで軒並み潰れていったところです.

深い理由もなく嫌われている悪の組織「農協(通称,JA)」の戦闘員の皆さんが「イー!イー!」など頑張ってくれているのですが全然良くなくて,「世間ライダー」の前に力及ばず,荒廃の一途を歩んでおります.

そんなわけで親からは「ここ(の地域)で農業はもう無理だから,それぞれ別の仕事を探しなさい」と言われ,兄弟二人,運動生理学とロボット工学という,まさに「農業」の「の」の字も無い仕事へと就いています.
しかも,農協からお金をいただいて進学した(農家への学費補助という既得権益)わけですから,さしずめ農協の力を借りて二人は,バイオ・ライダーとロボ・ライダーへと改造されたのです.
(元ネタが古過ぎ・マニアック過ぎてわからない人には申し訳ございません)

ですが,「農業」にはせる想いというのは兄弟二人まだありまして,盆正月に会った時なんかには,「これからの農業」を議論しています.


前置きが長くなってしまいました.話を戻しましょう.

まず今回の記事では,日本における食料自給率と食料安全保障の関係について取り上げます.
よくあるのが,
「実は日本は農業大国だ.日本の農業は世界に打って出れば勝てる.悪しき農協を打倒するためにも,TPPをつかって農業改革だ」
に対する,
「農業は食料安全保障の問題だ.食料自給率を確保するために保護するべきだ.現在の自給率40%では危ない.100%を目指すべきだ」
ということについて.ここから考察を始めましょう.

まず前提として,平時において日本で食料自給率を100%にすることはできません.政府や農家がどんなに頑張っても無理です.人口が減れば可能ですが,現状,土地がありません.おまけに経済大国として君臨している以上,食料の輸入が可能なので余計に無理です.

あと,最重要なクセに識者やマスコミも “その関連業界” に配慮したりビビってしまって言わないのですが,
穀物における米の消費比率を高めなければ自給率は絶対に上がりません
これは国内における生産と消費の簡単な算数の問題です. 

そして,この米の消費比率を高めることができなければ,稲作に特化した日本の農業において,食料自給率は低下することはあれど,永遠に100%を目指すことはできません.

御存知でしょうが,米の自給率は100%です.これ以上つくっても米の価格が下落するため,農家は当然つくりません.というか,その対策が減反政策です.
なので,これ以上の自給率を望むのであれば,輸入した食品が主食・主菜となっている状態では無理です.

よって,実は,農業問題に関する私の究極的な主張は「パンの駆逐(でも“うどん”はどうする)」になります.

だからこそ「日本の稲作・農耕文化を守る」が日本の農業のあり方を決めるキーワードになるのです.が,やっぱりこれはまた別の記事で.
予習しときたい方は,実はちゃんと農林水産省が検討会をしていますので,以下の
農林水産省の食料自給率対策
をご覧ください.
今回は食料安全保障についてですので,この件は飛ばします.

食料自給率と食料安全保障の関係,これは結構鋭い指摘なのですが,実際のところ,世界には「食料輸出国」が多いので現実的な議論ではありません.
食料を買ってほしい国,買ってくれないと成り立たない国が多いのです.日本はそういう国から食料を買ってあげることが国際貢献になっています.
多くの途上国は,食料やエネルギー資源を売るしか貿易の手段がありません.工業製品やソフト製品を売ることができる国というのは少ないのです.

そんなわけで,世界中が食料生産に勤しんでいます.
それを裏付けるように,地球の人口は増え続けています.つまり,食料は有り余るほど足りています.
むしろ途上国では「肥満問題」に苦しめられています.肥満問題というのは,アメリカやイギリスなどの先進国の飽食による問題ではないのです.
これについては■続・農業のことでも取り上げました.

途上国では衛生学や栄養学といった教育が浸透していませんので,食べ過ぎたり,好きな物ばかり食べる傾向にあり,これが肥満問題としてあがっています.
ググったら簡単にニュースが出てきます.
http://www.afpbb.com/article/life-culture/health/2135172/1053555
http://www.nikkei-science.com/page/magazine/0712/200712_062.html
医学・体育系の学会では毎度のこと取り上げられており,我々にとっては常識的なことなのですが,まだ世間の人々には浸透していません.
「なら,なんで飢餓で苦しんでいる国々が多いというニュースもあるんだ?食糧が不足しているからじゃないのか?」
これについては,
世界の飢餓と食糧・食料問題のページ
が詳しいので,そちらをご参考ください.

飢餓に苦しんでいるのは食糧が生産されていないからではなく,戦争や紛争による「食糧流通問題」があるからです.ネットワークの遮断が問題なのであり,生産の問題ではありません.
仮に,食料自給率1%である東京のネットワーク(道路や港)を遮断し,援助を何もしないとすると,あっという間に餓死者が続出するようになります.が,日本が平和である以上,そんなことは起きません.それと一緒です.

つまり,ちょっとやそっとの飢饉で経済大国の日本が食糧難になるというシナリオは小さいわけです. 
では,食料自給率はどんなに低くても問題ないのか?TPPに入っても問題ないのか?

それは極端な話です.
「外交で平和を維持することが大事なのだから,我々に軍隊はいならい」と言ってるようなものです.
反対に,この日本で「食料自給率100%」を主張するのも,国民皆兵制を掲げるようなものです.


まとめます.
食料自給率100%とというのは,目指してもいいけど,日本の国土と経済状態からして現実的ではありません.
自給率を上げるにしても,稲作に特化した日本の農業においては,米の消費比率を高めなければ自給率は絶対に上がりません.
今は,パンを食べながら「米をもっと作れ」と訴えているに等しいのです.

その一方で,世界には食料が有り余っており,経済大国である日本が飢える可能性は非常に低いものになります.
だからと言って「食料は輸入すればいい」とか「農業をビジネスに」というのもバカげた話です.
日本の食文化の象徴でもある稲作・農耕を守ることを第一とし,その上で可能な限り健全な政策・方法を模索することです.

よって,食料安全保障と自給率の関係について現段階では,無理に自給率を100%にしようとするのではなく,食料を確保するネットワークをどれほど維持できるか?という広い視点で食料安全保障を考えることが大事になってきます.

農水省も「食料をどのように確保するか,それが問題だ」ということはよく分かっていて,その検討課題を出しています.ご参考までに.
食料自給率目標の課題と検討方向

次回は,食料自給率を100%にすることができない日本が模索しなければならない,食料安全保障のオプションについてです.



参考記事
参考になる書籍を,以下に示します.