2013年10月7日月曜日

今日は本物のパンを食べてもらう

TPPがとんでもない方向に向かいそうな今日此の頃.
一応,前回の記事で農業問題については一区切りつけようと宣言しましたが,そんな矢先にこんな記事が出ました.
TPP「聖域」撤廃検討 苦渋の政府・与党判断 農業関係者「信じられない」
たしかに信じられませんが,どうせこんなことになるだろうと覚悟はしていました.

こういう話を出してくる時点で,少なくとも国益にかなう交渉にはなっていないことが明らかになったと言えるでしょう.
ヤバい方向に向かっているから,早めにホウ・レン・ソウしときましたよ,という規定事実を作っているのでしょうかね.
交渉を抜けたいけど抜けられないカードを切られている.あとは草刈り場になったであろう日本市場を,どれだけの被害で抑えられるか.今後はそこが焦点になるのでしょう.
だから言わんこっちゃないのです.

さて,前回の記事 ■やっぱり本気で農業のこと では洋食化した日本の食生活・食文化が農業問題の癌であることを書きましたが,別に私は洋食を嫌っているわけではありません.
旨いものは旨いのです.
今回は,日本の農業問題のところでは目の敵にしてしまった「パン」について,ちょっと寄り道のお話しをしておきます.

今から50年ほど前.遥か昔のことです.
私の母が学生だった時のお話でして,私が学生時代に昔話として母から聞かせてくれたものです.

調理実習の授業が最終回を向かえ,最後の日である今日は何を作るのかなぁと楽しみに教室へ.
先生は,とても大人しくて寡黙な感じの中年オヤジだったとのこと.
そんな先生が授業に先立ち発した言葉が,
「君達が食べゆうもんは,あれはパンじゃないがやき.今日は本物のパンを食べてもらうきに」
と言って,すでに用意されているパン生地を各班に配り(最初から用意してたら授業時間内にはできないでしょうから),それをオーブンで焼いたとのことでした.

むせ返るようなパン生地の発酵した匂いが印象的で,どんな出来になるのか,女子学生一同,ワクワクしながら焼き上がりを待ちます.

50年前,当時のパンは味気のない,はっきり言ってマズイもの,小麦粉の塊みたいだったと言っていました.
例の余剰農産物の処理のために作られた,パンに似た「何か」です.
(余剰農産物処理法については,前回(上記)の記事を参照ください)

一方,授業で焼き上がったのは,少し固めの香ばしいパン.
学生たちが誰一人見たことも味わったこともない「パン」です.
「けっこう固いけんど,大丈夫がやろか?」
と心配になったそうですが,その芳醇な香りは,食べる前から美味しい食べ物だと訴えるに十分なものでした.

「外がカリカリで,中がふっくらしていて,見たことがないパンだった」
ということですから,たぶん,フランスパンかドイツパンみたいなものを焼いたのではないかと想像します.
母は目一杯の表現で,
「本当に美味しかった!」
と言っていました.

満足な設備もなかったはずの時代ですが,やっぱりパン生地に美味しさの秘密があったのでしょうか.
教室中がそのパンの味に驚嘆し,舌鼓を打ったそうです.
その時間に全部食べるのはもったいない,ということで,少しずつチビチビ食べる人も多く,母も一日かけてチョットずつ食べたとのこと.

「いまだに,あのパンの味は忘れられない.あのパンよりも美味しいパンに,まだ出会っていない」
というほどですが,焼きたてだし,“思い出補正” もあるでしょうから,きっと「街で評判の美味しいパン屋さんのパン」みたいなものでしょう.

気になるのは,「今日は本物のパンを食べてもらうきに」と豪語して,有言実行したその先生は何者か?というところですよね.

どうやら,戦争で海外に出兵した際(いわゆる炊事担当の人),外国人が食べているパンを食する機会があったそうで,「こりゃぁ旨い,どうやって作っているのか」と気になって調べたんだそうですよ.
その後,輸入される小麦を無理やり消費するために作られた,例の「パンみたいな物」の味にガッカリし,「これが本当のパンだ」と訴えたい想いを胸に教鞭をとられていたとのこと.

その強烈なインパクトは母の心に響き,「調理・食事のことを仕事にしたい」ということで,栄養士になったそうです.

このお話は,私が大学のゼミ選びで「来年からは運動栄養学を専攻するよ」という話題をした時に話してくれたものです.
結局,母と似たような道に進んでいました,ということですね.

私はその後,スポーツ科学の中でもトレーニングと測定評価を専門にすることになりますが,栄養学で学んだことがスポーツ科学に取り組む上でも礎になっております.

トレーニングにおいても,コンディショニングにおいても,やはり基本は「食」ですから.

私が農業問題にこだわるのは,実家が農家だというところもありますが,「食」に関心があるという部分もあります.

ちなみに,詳細を後日お話しますが,関東に移り住んできて思い知ったのが,
「関東の飯はマズイ」
賛同者多数.これは間違いありません.
(「食」に関心があると豪語した口で言うのもなんですが)「自炊しない歴8年」だったこの私に包丁を握らせたのです.間違いありません.

味付けが関西と関東で違う,というのも理解しているつもりですが,それにしても.
まぁ,詳細は後日記事にします.