2015年6月14日日曜日

専門職大学に思うところ(2)

専門職大学に思うところ(1)の続きです.
職業に必要な知識や技能を育成する高等教育機関のあり方を検討している文部科学省の有識者会議は18日、「専門職業大学」などの名称で新たな大学の類型を設け、国の助成対象とする報告をまとめた。
日本経済新聞(2015/3/18)
ということで, “大卒一般就職活動” に特化した大学を設置しようという動きがあるわけです.

この発想が間違っているという話が前回の記事.
今回は,その専門職大学を求める姿勢が,現在の大学の在り方にも問題を起こしているという話をしてみます.

以下の文部科学省のページを見てみますと,
実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関の制度化に関する有識者会議(文部科学省)
その中の資料にこんな文言があります.

実際に読みたい人はこちら↓
実践的な職業教育を行う 新たな高等教育機関の在り方について 「審議のまとめ」(←PDF)
その16ページ,「制度化に当たっての個別的主要論点」の「(1)目的」.
そこには,専門職大学の目的について,
◯主たる目的として「質の高い専門職業人養成のための教育」を位置付け.
とあり,その下に,
◯「研究」を主たる目的と位置付けずに,例えば,教育内容を学術の進展や技術革新に即応させるために行うもの等と位置付けることが妥当か等について今後検討
という,一見,何を言いたいのか分かりにくいメチャクチャな文章があります.
(マジで,この文章,どういう意味ですか?)
たぶん,これを書いた人は以下のようなことを書きたかったはずなんです.
学者や研究者が要求するような「研究能力」を習得させることを目的にはしない.
では代わりに何を教えるのかというと,例えばその教育内容としては,最近の研究動向や最新のテクノロジーを活用できるように「紹介する」というものにしたいのだが,それで本当にいいかどうか気になるので今後検討
ということでしょう.
会議の様子が想像できてしまいますね.きっとこんな会話があったはずです.
「大学ではすべての卒業生に「研究能力」はいらないでしょう」
「えぇ,そうですね.就職活動や職場で仕事をするためには,研究能力よりも,パソコンの使い方とか,各職業分野で最近注目されているものを知ることの方が大事ですよね」
「はい,そうですね.現在の大学4年生にしたって,就活では企業研究やPCスキルの向上といったことを必死にやっていますから.それに特化した教育が求められているのでしょう」
「でも,そういうのって,今の大学でもやってますよね.学生が自分たちでやっているんだったら,それはそれで放っといてもいいんじゃないかとも・・」
「あと,最新のテクノロジーや研究動向っていうのも,それを研究している研究室じゃないと有機的な学びにはならないですし」
「それに,現時点で注目されていることを知ったところで,将来のことが考えられるわけでもなく・・」
「じゃあ,そういう将来のことを考える力をつけさせればいいんじゃないですか」
「でもそれって,結局は今の大学が重視している研究能力のことじゃないですか?」
「あっ,・・・・」

つまり,「そこでは研究能力は重視しない!」と勢い良く言ってみたものの,話を進めるうちになんだか自分達の提言に自信がなくなってきたから “今後検討” にしとこう,と.

同ページ,その続きには「(2)教育内容・方法」というのがあって,そこには学生に学ばせる予定のものが並んでいます.まとめると,
1)コミュニケーション・スキル
2)ICT(情報通信技術のこと.いわゆるITのこと)のスキル
3)インターンシップ等を積極的に行い,協調性・責任感等を育成
4)実習,実技,演習,実験を重視
5)PBL(課題解決型学習のこと)の重視
とあります.
いやぁ〜・・・,すんげぇ香ばしいですなぁ.
寒気がします.
絶ッッッ対に失敗しますよこんな教育.間違いない!
今の大学でも「↑こういうの」が大事なんだと意気込んで取り組む教員がいるんですけど,猛烈に「イタい」ものが展開されているんですから.
そんな授業を見たら,なんていうんですか,お尻と太ももの辺りがゾワゾワァ〜ってします.

最後に,同ページの「(6)教員」にある「教員の資格要件」についてです.
これが一番おもしろ・・・,いえ,興味深いところです.

もちろん,最近の流行であるこの文言がしっかり入っています.
◯教員の資格は,教育上の指導能力の有無に最重点を置く
そして次はこれ↓
◯卓越した実績を伴う実務家教員を一定割合で配置(分野ごとの特性に配慮).企業等と兼任する教員も,一定条件の下,必要教員数に参入できる仕組みに.
キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
最凶最悪の発想,ここに現る!
「職場・現場のノウハウを学ばせるために,実務家教員をたくさん入れる」という発想は,現在の少なくない大学を「ブラック化」させた元凶とも言える奴でして.
大学側としては手を出すと大変な目に遭うことが予想できたにもかかわらず,魔が差してやってしまった結果,やっぱりダメだったというものです.

何がダメだったかって?
まず,教育指導に期待できません.これはケースバイケースですし,真面目にやっている実務家教員もいるので詳しくは申しませんが,とにかく,教育現場においては実務経験の豊富さとか優劣というのは活きないことが多いのです.

次に,(大変失礼な物言いですが)そんな実務家教員であっても,いっちょ前の「先生」「大学教員」として扱わなければならないので,彼らの管理が大変です.
彼らはなぜか不思議な不祥事を多発させ,事務方を混乱に陥れます.不祥事を起こしていることを自覚できない人もいます.
自分の都合のいいように「実務家」と「教育者」を使い分けてくる確信犯もいるので,大学組織として疲弊します.学生からも見離される場合が多いです.

現在の大学においても,実務家教員というのは教育指導能力がテクニカルな面,道徳倫理的な面の双方から評判はよろしくありません.
(そんな調査結果もあったはずですが,出典を思い出せないので興味ある人は根気よく調べてください)

教育現場を知っている人たちからすれば,
「当たり前ぇだろ,ダメに決まってる.バカか?」
というところですが,どうしてもこういう発想になってしまうこの日本が悔しいです.

こういうのってつまり,国民の多くが将来はサラリーマンになる可能性が高いんだから,小学校から高校まで,その教員を「元サラリーマン」にしようという発想です.
別の言い方をするなら,タクシードライバーを養成するために,教習所の教官を「元タクシードライバー」にすればいいじゃないかという発想です.

そう言えば実際,「民間の感覚を教育現場に」との謳い文句で,民間から教員・校長を公募した事例もありましたね.あれも一種の実務家教員でしょうか.
その結果が惨憺たるものであったことは記憶に新しいかと思います.
民間感覚で教育をやられたらたまったもんじゃありません.

話がちょっと脱線しましたが,実はこうした「専門職大学を設置しよう!」という動きは突然現れたわけではなく,既に現在の大学において進行(or 侵攻 or 信仰)しているんです.
そして,現在の大学を機能不全に陥れつつあります.
とても困っていますが,今は規制もあるし,なんとか抵抗できている,というのが現状です.

そんなわけですから,現在の大学にはいろんな規制があるから,それに縛られず大学という肩書を付けつつ職業訓練に勤しみたい
そんな浅はかな企みが,「実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関の制度化」の正体ではないでしょうか.

教育システムをいじる前に,まずは景気回復が先ではないか.景気が回復すれば,こんなバカみたいな構想をしなくても済むんじゃないか,そんなふうに思います.

続きはこちら→■専門職大学に思うところ(3)

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