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井戸端スポーツ会議 part 23『東京五輪エンブレム問題に見えるスポーツの危機』
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スポーツに関する時事ネタを.
そう言えばスポーツの記事を長らく書いておりませんでしたので.
今回はこれ.「東京五輪エンブレム盗用疑惑」です.
そして案の定,東京五輪のエンブレム問題は以下のように進展したようです.
2020年東京五輪の大会エンブレムがベルギーの劇場のロゴマークに似ていると指摘されている問題で、大会組織委員会は1日、五輪、パラリンピック両方のエンブレム使用を取りやめる方針を固めた。
組織委は7月24日、東京五輪とパラリンピックのエンブレムを発表。アートディレクターの佐野研二郎氏(43)のデザインが採用された。だが、五輪エンブレムについて、ベルギー東部リエージュの劇場のロゴマークに似ているとの指摘が出され、マークを手がけたデザイナーなどが国際オリンピック委員会(IOC)に対し、使用差し止めを求める訴訟を起こした。(読売新聞2015年9月1日)
このエンブレムのデザインが「盗用」されたものだったかどうかは不明ですが,ちょっとね・・.あまりに似すぎでしたよね.
そのまま採用していたら気持ちが悪かったので,この判断でよかったのではないかと思います.
一方で,ネットを見る限りではありますが,佐野氏が「盗用」していることが当然かのように糾弾するコメントもみかけます.
証拠があるわけでもないのに,これはこれで気持ちが悪いものです.
さてさて,今回の話の問題点はいろいろあるのですが,私見をいくつか述べてみましょう.
それに,この東京五輪エンブレム問題を掘り下げていくと,日本のスポーツ界に潜む問題が炙りだされるのではないか? と考えられる節もありますので.
まず,このエンブレムのデザイン自体,非常にチープですよね.
私自身,五輪エンブレムのデザインについて関心があるわけではないので,今回のように取り上げられずそのままスルーされていたら気にならなかったことでしょうが,それにしても映えないデザインであることには違いありません.
悪いと言っているわけではありません.良いデザインではないと言っているのです.
というか,逆にベルギーの劇場のロゴの渋さが際立ちます.
今回のエンブレムは・・,なんというか,ダサい.
実際のところ今回のエンブレムは,デザインに興味が強そうな中学生に頼んだら,一番候補として上がってきそうなものではないかと思います.
「かっこいいエンブレムを書いてこい」そう言われたらこれを書いてくるんじゃないかと.
それだけ,目新しさも意外性も親しみやすさもありません.
単純に「これは良いデザインではない」と,そう思わされました.
だから,佐野氏としても「盗用疑惑」が出てきた時点で,むしろそれを理由に「そこまで言われるのであればデザイナーとして恥ずかしい限り.盗用しているわけではないですが,今回は見送らせてもらいます」という感じにしておけば良かったのにと.
本当に盗用でなかったとしても,非常によく似たデザインのものが出てきた時点でデザイナー失格(と見做される)でしょうから.
ましてやオリンピックですからね.目立った批判を浴びないものにする必要はあると考えられます.
そんなこと言い出したら,これまでに “華やかで映えるデザインの五輪エンブレム” なるものがあるんだろうか? というところですが.
そういう「まとめサイト」があったのでご覧になってみてください.
まぁ・・,どれも特別なにかを感じるものはありませんね.ロゴなんてそんなものでしょうし,そんなもので良かったりするんだとも思います.
しいて挙げるとすると,個人的にはバルセロナ大会のデザインが好みなんです.
とは言え,その理由として考えられるのもこれまたチープなもので,
1)物心ついて初めて見たオリンピックがバルセロナ大会だった(つまり思い入れ)というのと,
2)現代スポーツらしいパワフルさやダイナミックさをシンプルに表していること,
3)それに,この大会以降(かどうか専門家でないので不案内ですが),スポーツ系のイベントではこのデザインに似たものをよく目にするようになったから
というものです.
(長野やシドニー,バンクーバーも似てるでしょ?)
当時は,子供ながらに「大きなスポーツ大会のロゴはこういうもの」っていう気がしていました.
私はデザインについて素人ですが,とある芸術評論の先生からお聞きしたのが,
「芸術を評価する基準の一つとして,その意匠が生まれるに至った経緯を顧みた上でその作品にどんな先進性があるか? というのがありますよ」
というものです.
そりゃそうだろという気もしますが,「そこに至った経緯」というのを評価するのってかなり難しいものだと思います.そこに見る者の教養や創造性が求められるのでしょうし.
先進性って言われても,新しくて奇抜だったら良いというものではないですからね.
その上で今回のエンブレムはと言うと.もう既に使い古されているシルエットに色を付けた,というものですね.よく知られているパターンを繰り返したということです.
それだけに,良くも悪くも何も感じるものがない作品なのです.
五輪エンブレムなんて適当なものでいいんじゃないか,そんなふうにも思っている私ですが,やっぱり世界に名だたるビッグイベントであるオリンピック大会のエンブレムには,それなりのものを求めたい気持ちもあります.
私見ではありますが,バルセロナ大会のエンブレムには現代スポーツを扱う近代オリンピックの華々しさを感じます.
そこに至るオリンピックの経緯が「近代スポーツの普及」と「国威発揚」のイベントだったのに対し,これからのオリンピックはスポーツそのものの魅力とダイナミズムを感じるものになるだろうという変化を願った象徴のように見えるからです.
実際,その後のスポーツは(良くも悪くも)そのような流れを生むに至っています.
(試しに上記のサイトで,バルセロナ大会以前のエンブレムを御覧ください.国家的スポーツイベントであるというメッセージが強いように見えませんか? )
では2020年の東京大会では何を願うのか,それがエンブレムにも現れてくるであろうことが予想されます.
それだけに,今回のエンブレムが「ありきたりのデザイン」だったのは,東京大会がそういう大会で構わないのではないかという人々の意識的/無意識的な願いが表出しているのではないかとも勘ぐりたくなります.
言い方を変えれば,現在のスポーツ界,特に日本のスポーツ界は東京大会で何をしたいのか決めかねている,とも考えられるのです.
盗用だとか出来レースだったという話もありますが,それでもデザインを作り選定する側としては,多くの人々から受け入れられるであろうものを用意しようとするものです.
東京大会ってこういうものでしょ? というメッセージをデザインとして形作られた可能性はあり得るのではないでしょうか.
いろいろ書きましたが,別にこれが採用になったからと言って文句を言うことはなかったのでしょうけど.
今回のエンブレムが使用中止になったというのは,素直に喜ぼうと思います.
んで,スポーツのこと,ちょっと本気で考えてみないといけない時期ですね.