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選挙における「高齢者 v.s. 若者」は本当か?

選挙の話をしたくないと言いつつ,今日も一つ.

以前から気になっていたことについて,今回から「18歳選挙」が始まったこともあり,ネット情報だけではありますがちょっと調べてみたのです.

いわゆる「高齢者 v.s. 若者」という図式.
「政治家は,選挙で投票率の高い高齢者を優遇する政策(年金,介護etc..)で票を獲得しようとする」
それ故,
「若者が選挙に行かないと,ますます高齢者ばかりが得をする政策が展開される」
だから,
「若者よ,選挙で自分の意志を示さないと,高齢者のいいようにされるぞ!」
というもの.

でも,どうしても腑に落ちなかったんです,この考え方.
だって,高齢者は自分の子供や孫のことを考えるものでしょう?
自分の子供や孫のことを第一に考える人だってたくさんいます.
人間,そして動物としての欲望のままに振る舞えば,子孫繁栄のことを考えるのが爺さん婆さんだと思います.

そんな高齢者が,自分の世代だけに都合のいい政策を選択するのか?
そもそも,現在の高齢者がその政策の恩恵を受ける頃には自分は死んでいるかもしれない.そんな感覚の人だっているでしょう.
だとすると,高齢者が選んでいる「高齢者優遇政策」というのは,自分たちのおかれている境遇を介して,今の40代〜50代の人々のためを思って選んでいるとも考えられます.

だから調べてみました.
「政治家は,選挙で高齢者を優遇する政策で票を獲得しようとする」
という根拠を.
結論としては,明確にそれを示す根拠やロジックは「ない」んです.

政治家が高齢者優遇政策をする理由として,例えばこんな意見が落ちていました.
牙を見せ始めた「高齢世代優遇政治」の暴走(ウェッジ, 2012.5.16)
以下,抜粋しながら反論していこうと思います.
一般的に、政治家にとっては、次の選挙に勝つことが何よりも重要であり、そのためには、相手候補よりも多くの票を獲得しなければならない。したがって、まだ生まれてもいない将来世代や選挙権を持っていない世代よりも、選挙権を持っている世代、特に、そのなかでも投票率の高い高齢世代を優遇することになり、政治家や各政党にとっては、自分たちへの支持を拡大するためには、他の世代の負担を増やしてでも高齢世代を利する政策を多く提案するインセンティブが強く働くこととなる。
そうそう,これが一般的な見解です.この論理に関する根拠が欲しいのです.
このことについて記事では,『平成21年社会保障における公的・私的サービスに関する意識調査』を用いて解説しています.
同調査によると、「公的年金に要する税や社会保険料の負担が増加しても、老後の生活は公的年金のみで充足できるだけの水準を確保すべき」との質問項目に対して、年齢が低いほど反対が多く、年齢が高くなるほど賛成が多くなっている(図1)。
次に、「重要と考える社会保障の分野について」は、「老後の所得保障(年金)」、「老人医療や介護」は年齢が高い世代ほど重要と考える割合が高く、「少子化対策(子育て支援)」は年齢が低い世代ほど重要と考える割合が高くなっている(図2)。

というデータを見て,「だから高齢者は老後の所得保障を求めているに違いない」と考えるのは早合点です.
あくまでこれは「重要と考える」政策分野なわけですから.当事者がその分野に関心が高くなるのは当然のこと.問題はその政策に対する内容です.

ではその内容についてですが,これについてもこの記事で取り上げられています.
3つ目は、橘木俊詔・同志社大学教授が経済産業研究所の協力を得て2005年に行ったアンケート調査である。すなわち、年金の給付水準に関して「目標となる給付水準をある程度引き下げるのがよい」と回答した割合は、40歳代、50歳代でもっとも少なくなっている一方、「保険料負担が大きく上回ることもやむを得ない」と回答した割合は40歳代以上で大幅に上昇している(図3)。
橘木教授等は「年金を受け取る年齢に近いと、給付水準の引き下げには賛同しづらいことを表しているのだろう」と解釈している。
とのことですが,これは結構な勢いのミスリードです.
グラフをよくご覧ください.
たしかに,「保険料負担が大きく上回ることもやむを得ない」は40歳代以上で “大幅に” 上昇しているかもしれませんが,それを言うなら年金の給付水準については「目標となる給付水準をある程度引き下げるのがよい」と回答しているのも高齢者なのですよ.それも40〜50歳代と比べて60歳以上(高齢者)は “大幅に” 上昇しています.
「給付水準を大幅に下げてもやむを得ない」と合算して考えれば,高齢者は若者世代よりも自分たちの年金受給水準を下げる政策を望んでいることになります.
ここから「高齢者は自分たちにとって都合の良い政策を望んでいる」と主張するには無理があります.
代わりに,上記のデータを私が読めばこうなります.「高齢者は,自分たちが損をしてもいいから,制度の継続を重視しようと考えている」
そう解釈するほうが素直だと思います.

さらに興味深いのがこちら.この記事の元になっている■「公共支出の受益と国民負担に関する意識調査と計量分析」にあたってみると,こんなグラフもあります.
一応,件の記事でもこのように触れられています.
年金保険料負担に対する考え方に関して、20歳から40歳代までの世代では「保険料負担はすべて税負担と同じである」「返ってこない分は税負担と同じである」と回答した人の割合は7割を超える一方、「保険料負担は老後保障の出費であり、税負担とは異なる」と回答したのは、50歳代で4割近く、60歳以上では過半数となっている。
結果を読み上げただけで,ぜんぜん考察になっていないじゃないかと思うのですが,ようするにこの結果を素直に見れば,「年金制度」のことをちゃんと理解しているのは高齢者だということです.
そして著者はこう締めくくります.
こうしたアンケート結果から窺えるように、現在社会保障給付を受けている高齢者やこれから受け取る高齢者予備軍は、他の世代に多くの負担を課してでも自らの老後の生活資金を確保する方が大切で、若者世代が望む子育て支援には冷淡な利己的な存在であるようだ。
え〜〜〜.んな無茶苦茶な・・・.

ついでに,対称的なものとして「子育て」に関する調査も出しておきます.
内閣府が■家族と地域における子育てに関する意識調査(2014)を出しています.
小さくて見にくいですが,以下に示していきます.
まず,高齢者は他の世代と比べて子育てには地域の支えが必要だと考えています.
最近になって「地域で子供を育てる文化を復活させよう」などと知ったかぶる保守系の人が出てきましたが,何の事はない,お年寄りの言うことにはちゃんと耳を傾けたほうがいいですね.

次に,「子連れの親に対して実際に行なった行動」という調査では,席をゆずるとか階段でのサポートなど「若者がしなければいけないこと」以外だと,高齢者の方が若者よりも子連れの親には親切なようです.

さらに言えば,これも内閣府が出している■家庭における出産や子育てについての意識(2014)によると,「その子供の祖父母に期待する手助け」としては,一般的には「遊び相手」や「知識の伝達」「しつけ」を要求しているのですが.
若者と高齢者を比べ,高齢者の方が多い回答を見てみると,「掃除洗濯」「買い物」「教育費の支援」といった泥臭いものばかりです.


こうしてみると,いたって高齢者は子育て支援に積極的であることが窺えます.

「選挙で高齢者を優遇する政策を打ち出せば,たくさんの票を獲得できる」
というのは,政治家やジャーナリスト,そして若者たちの邪推であって,まじめに子育て支援政策や労働政策を打ち出せば,高齢者はそれにしっかり反応してくれるはずです.
自分たちで勝手に「高齢者はこれを望んでいるはず」と思い込んで,それによって右往左往している可能性があります.

考えてみれば当たり前ではないですか.自分たちの子供や孫が苦しむ姿を見たい親(高齢者)がどこにいるのか.
高齢者にとっては,永遠に「子育て支援」を求めているとも言えましょう.

長々と話してきましたが,ようするに高齢者と若者の対立を煽ったり,高齢者の利己的判断を推し量るよりも,ちゃんと本質的な政策議論をすることの方が大事です.という,つまらない話です.
ましてや,若者の投票率を上げようとは笑止千万.選挙を世論や民意を反映する場にしてはなりません.