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シン・ゴジラ再考

やや更新に間が空いちゃいました.
9月から鬼のような忙しさでして,まだ忙しいのですけどそれっぽく見せないように取り繕うのに苦労しています.

さて,やっと一息ついた今日は,ニコニコ動画を久しぶりに閲覧.
その中でチャンネル桜という(ウヨク?)団体が作っている番組において,今年の話題作だった『シン・ゴジラ』の評論会が企画されていたので,これを見てみました.
【討論】シン・ゴジラから見えてくる日本の現在(youtube)

評論家の佐藤健志氏が氏のブログで番組の予告していましたので,それで興味があったというのもあります.
http://kenjisato1966.com/シン・ゴジラ観てきました%E3%80%82/(佐藤健志氏ブログ)

私自身,久しぶりに映画館で見た映画でもありました.
私は映画館で映画をみるタチではありません.そんな私が,なぜ『シン・ゴジラ』については映画館まで足を運んだのか? という点も,自分自身で気になるところでもあるのですが.

ちなみに,私はあの映画は非常によく作り込まれた良作だと思っています.
閲覧直後のブログ記事はこれ↓
シン・ゴジラを見てきてしまった

番組のテーマが「シン・ゴジラから見えてくる日本の現在」ということで,それについて番組司会者が熱く(やや批判的に)語っていたのが印象的でしたが,これに私はちょっと引いてしまったというのが実際のところです.

番組のテーマは非常に的確です.「シン・ゴジラから見えてくる日本の現在」という非常に的確なものだっただけに,「そんな討論テーマを選んでおきながら,何を今更」という感が拭えないのです.

私が『シン・ゴジラ』を良作であるとしている理由は,物事の描き方のバランスがいいからです.
この作品に現れてくる物事,そして判断も,どれも正解がない.つまり,考え方や価値観でいかようにも捉えられることなのです.「こういう判断,こういう行動のほうが本当はいいのに・・」というものが一つもないんです.これは庵野監督が狙って作っているはずです.

一例として,ゴジラ幼体が東京湾に現れた際,「専門家からの意見」として古代生物学者や海洋生物学者を招集して助言を求めるシーンがあります.そこで学者は役に立たないコメントをして総理大臣をガッカリさせるどころか怒らせるのですが,私に言わせれば学者を呼んで「具体的な解決策」とやらを得ようとする方が間違っています.発言内容は明らかに彼ら学者の言っていることが “正論” です.でも,映画を見ている多くの一般人は,これを聞いた直後の総理大臣のセリフである「余計なことで時間を無駄にした(学者は大事な時に役に立たない)」と同じ気分にさせる,という誘導にかかっているはずです.
私は序盤のこのシーンで完璧にハマりました.こういう細かいところに物凄い計画性を感じたのです.

一つ前の記事で取り上げた,ドラマ「遅咲きのひまわり」も,そういうバランスがいい作品です.過疎地域が抱える問題と,地域起こしの現実とを見据えた上で作られている良作ドラマだと思っています.

私の好みの問題でもありますが,作者の主張やイデオロギーが強い作品は嫌いではありませんが,その作者の主張やイデオロギーにとって都合のいい展開を見せる作品は嫌いです.

番組中でも出てきた意見として,シン・ゴジラは「右翼的な人からも,左翼的な人からも喜ばれる作品だ」というものがありましたが,まさにそれが象徴しています.

この作品の監督を勤めた庵野秀明氏のことを私は深く知っているわけではありませんけど,この方は非常に卓越した「今そこにある社会の特徴を切り取ってエンターテイメントにする能力」をもっていると思うんです.
ですから,見る人によって意見が違う,捉え方が変わってくる,そういう性質を持った映画になっています.

故に,『シン・ゴジラ』によって描かれている日本についての不満を持つ人が現れたり,ゴジラが暗喩しているものについて語りたがる人が現れたり,この作品がヒットしている現実の日本社会を憂慮する人が現れる.

そもそも,シン・ゴジラは「現在の日本の姿を(ゴジラという虚構を用いて)描いた」作品ですので,そこに「現在の日本の姿」がありありと見え,いろいろな感情が渦巻いたのであれば,それこそ庵野監督の目論見通りなのであり,やっぱり本作は類まれなる良作だったのです.

例えば,「モノマネ」という芸能があります.
松村邦洋は元阪神の掛布雅之やビートたけしのモノマネをしますが,よく似ています.
これは松村邦洋が掛布やビートたけしの特徴を良く捉えているからです.

シン・ゴジラは現在の日本をモノマネしたようなものです.モノマネですから,日本の特徴・特性が描けている方が良いということになります.
シン・ゴジラに対してケチをつけるとすれば,「本当の日本人はこんなことをしない」「実際の日本ではこうはならない」というものでしょう.しかし,シン・ゴジラで描かれている「日本」はその点で「真(シン)・日本」と非常によく似ていました.

現実の日本においても,想定外の巨大生物が現れても会議に継ぐ会議を展開するだろうし,貴重生物なのですからすぐに屠殺処理なんかしないだろうし,市民の避難が完了していなければ発砲は許可しないだろうし,すぐアメリカに頼ろうとするだろうし,要人が死んでも代わりがすぐ決まるだろうし,外資の力を借りて復興を取り付けようとするだろうし.
そして,スクラップ・アンド・ビルドで発展したいと思っているし,一度既存のシステムをリセットしたいと思っているのが現在の日本だ,と庵野監督は捉えているのではないでしょうか.

上記の評論番組において佐藤健志氏や京都大学の藤井聡先生が強く批判していたのが,シン・ゴジラに見える「スクラップ・アンド・ビルド思考」と「自閉的手段による解決」ですが,私はこの点も含めて「あぁ,やっぱり庵野監督は日本をそう捉えているんだなぁ.やっぱ天才だわ」と感心した口です.

たしかに両氏の言うように,これが日本の抱えている問題点ではあるのですが,まさにそれを(素直に)えぐり出しているのが『シン・ゴジラ』という作品だと思うのです.