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鳥無き島の蝙蝠たち(16)岡本真夜

岡本真夜オフィシャルHPより
このシリーズがだいぶ空きました.
人選が悩ましくて.どうしても高知県に偏ります.ですが,今後,もうちょっと気軽に書くことにします.

今回は珍しく,存命者である「岡本真夜」さんです.

四万十市(旧・中村市)出身なので,私の実家とそう遠くないところの人です.
デビュー当時,「オラたちのところから歌手が出た!」と騒がれていたのが懐かしいですね.
岡本真夜(wikipedia)

阪神淡路大震災でてんやわんやして,地下鉄サリン事件とオウム事件に震撼していた1995年にヒットしたのがデビュー曲の「TOMORROW」でした.その年,紅白歌合戦にも出場しています.
涙の数だけ強くなれるよ
アスファルトに咲く花のように
見るもの全てに怯えないで
明日は来るよ君のために
youtube→https://www.youtube.com/watch?v=3mRC2yEgDiw

歌やカラオケを一切嗜まない私が,一部だけとはいえ歌詞を覚えている極めて稀有な曲です.もちろんCDやテープを持っているわけではないのですが,かなり流行っていたし,
覚えやすい歌詞でした.
あと,これで「Tomorrow」の意味とスペルを覚えました.なんでRが2つついてるんだろう?とか思ってたのも懐かしいです.
ものすごく分かり易い歌詞で,ちょっとこそばゆい感じもしますが,臨床精神が素直に表現された綺麗な曲だと思います.
その後もたくさんの曲を作り続けて現在に至ります.

高知や四国から出る芸能人ってそうそう多くはないのですが,それだけに「鳥無き島の蝙蝠」を体現している方々が多いとも言えます.
実は,そういうことを裏付けるような現象があるんです.

最近,このブログではスポーツとファッションに関する記事を扱うことが多いのですが,そこで調べているうちに興味深い話をみつけました.
なんでも,「ファッションへの意識」について都道府県別にみると,その意識が高いのは高知県なんだそうですよ.
ファッションと身体に関する研究をしている鷲田清一氏によると,東京で流行しそうなファッションが実際に流行するのは地方,なかでも高知県で顕著なのだとか.例えば,女性のスカート丈の長さ変化は,東京や大阪よりも高知の方が顕著なんだそうです(『おせっかい教育論』より).

私の母も着付け師としてファッション関係の仕事をしていたこともあり,同じことを言っていました.大学に行くため上京した時,東京にはファッショナブルな人が多いものだと思いきや,意外にも服装を気にしないダサい格好している人が多いことに驚いたとのこと.高知の片田舎の方がファッションに敏感だということです(今から50年前ですが).

ちなみに,「ファッションにかける予算」について調査した報告もあり,東京・千葉に次いで四国勢が高いことが明らかになっています.神奈川や埼玉,大阪,兵庫よりも高いんです.
「ZOZOTOWN」の都道府県別購入金額ランキング、上位に四国地方が多数ランクイン

どうしてこんな状況になるのか?

高知県(土佐国)は,古来,中央部から最も遠い場所として位置づけられていました.それだけに,なにかにつけて「中央(都)」を意識するところがあり,場合によっては高い反骨・反発・対抗意識を有する地域性があるとされています.
この地域性が発揮されたのが幕末・明治維新での土佐藩やその志士の働きだという解釈もされているくらいです.

つまり,物理的なアクセスが困難な地域ほど,その国の「中央部」で発生している動きや状況について意識しやすくなるということなんですね.
しかも,物理的アクセスが容易であれば交流が盛んになり,まさに意識せずとも「交わり」が強くなるのですが,それも少ないわけで.結果,「うちはうち,よそはよそ」というアンビバレントな意識が芽生えちゃうので,中央の流行をただ「真似る」「模倣する」だけでは芸がない,という反骨精神につながったりする.

かくして高知や四国は,煽った言い方をすれば「ガラバゴス」,このブログ風に言えば「鳥無き島の蝙蝠」になるわけです.
でも,それが結果的に「ちょっと変わった奴」を生み出す土壌になるといえます.
平賀源内とか秋山真之とか横山やすしとかジャストシステムとか.

ちなみに,日本画家である千住博氏は,『芸術とは何か』でこう述べています.
「東京は,ひとつの流行に流されやすすぎます.すぐブームになり,持ち上げ,こき下ろして次の獲物に食いつくようなところがあり,これでは芸術家は自分のペースで生きるのが大変です.(中略)東京は好きな街ではありますが,東京を文化的に過大評価しないほうが良いと思っています」

そう,そうなんです.私も東京に居て思うのが,なんか自分のペースで流行を作っている感じがしないんですよね.流行を自分のものにしていないというか.
あるのは流行への盲目的追従か,頑ななアンチ流行か,その2つの間で迷っている姿.
でも,流行やファッション,文化ってそういうものではないですよね.
学術研究も似たところがあるように感じます.

そんな中央・東京が,クールジャパン戦略とか,冗談もほどほどにしてほしいというところです.

そう言えば,岡本真夜さんもウィキペディアによると,
デビュー当時は作曲や作詞に詰まる事があると高知に帰り、友人と思いきり遊ぶことでリフレッシュしていた。
とあります.ただのホームシックからくる帰省リフレッシュだと見ることもできますが,やっぱり東京という場所は文化創造には向いていないと思うんです.

以前ご紹介した歌手,「矢野絢子」さんも,結局,東京ではなく高知で活動をしている人です.
鳥無き島の蝙蝠たち(8)矢野絢子