2018年6月30日土曜日

井戸端スポーツ会議 part 54「やっぱりスポーツは社会を投影する」

何度か「井戸端スポーツ会議」と称して書いてきたテーマに「その社会の有り様はスポーツに表出する.または,スポーツへの取り組み態度が社会に影響する」というものがあります.
例えば,以下の記事でそんなようなことを書いてきました.
井戸端スポーツ会議 part 9「スポーツ分析のような選挙分析」
井戸端スポーツ会議 part 25「戦争に負けた国(日本)がとるべき態度」
井戸端スポーツ会議 part 44「スポーツの精神が大切なわけ」

サッカー・ワールドカップに湧いている日本.
そこで,やっぱり日本の現状を象徴するかのような一幕がありました.
もともとサッカー・ワールドカップは,その国民性が現れると言われることもあり,今回の一件はとても興味深いものです.
その出来事とは以下のようなもの.
日本の“時間稼ぎ” 「フェアプレーに反する」 ポーランドで批判相次ぐ(産経新聞 2018.6.29)
サッカー日本代表が28日のワールドカップ(W杯)ロシア大会ポーランド戦終盤で時間稼ぎに終始したことに対し、ポーランドのサッカー界からは試合後に「フェアプレーに反する」などと批判が相次いだ。
主に1970年代に活躍した元代表選手のルバンスキさんはテレビで「最後の10分間はひどかった」と日本代表を酷評。決勝トーナメント進出のためにボール回しを続けた日本代表からボールを奪おうとしなかったポーランド代表にも「がっかりした」と語った。
また、同国サッカー協会のボニエク会長も同じテレビで「リードされている日本代表が自ら負けを選んだ。こんな試合は初めてだ」と指摘。「試合とは呼べない内容だった」と批判した。
どうしてそんな事態になったのかというと・・・,
日本が決勝T進出 警告の差でセネガル上回る(毎日新聞 2018.6.29)
同組のもう1試合でコロンビアがセネガルを1-0で降した結果、日本はセネガルと得失点差、総得点で並び、直接対決も引き分けだったが、警告数の差で上回って2位となり、2010年南アフリカ大会以来、2大会ぶり3度目の1次リーグ突破が決まった。
つまり,同時刻に行われていた試合「セネガル vs. コロンビア」において,セネガルはコロンビアに負けるだろうと予測し,危険なプレーに出される「警告」の数で勝負しようと考えたからです.

これが「フェアプレーポイント」と呼ばれるシステムです.詳細は以下の通り.
フェアプレーポイント、W杯で初適用 日本とセネガル(朝日新聞 2018.6.29)
28日に日本がポーランドに0―1で敗れ、セネガルもコロンビアに0―1で敗れた結果、日本とセネガルは勝ち点4、得失点差0、総得点4で全て並んだ。大会の規定では、次に順位決定の基準になるのは直接対決の結果だが、日本とセネガルは第2戦で2―2で引き分け。その次の基準となるフェアプレーポイント(FPP)が初適用された。
FPPは①イエローカード(警告)がマイナス1点②警告2回によるレッドカード(退場)がマイナス3点③一発退場がマイナス4点④警告を受けた上で一発退場がマイナス5点、と定められている。1次リーグ3試合での日本は警告4、セネガルが警告6で、減点が2点少ない日本が2位に入った。
「フェアプレーに徹しなかったチームが『フェアプレーポイント』によって予選突破するとは,これいかに?」
という想いがサッカーファンにはあるのでしょうね.
いえ,私もそう思います.

はっきり言って,今回の日本代表チームがとった戦略は誉められたものではありません.
スポーツの勝負としては最悪の判断です.

もちろん,これには擁護したり称賛する意見もあるわけでして.
今回の采配はルール違反ではないとか,これが問題なら,こういうルールになっていることを批判するべきだとか.
勝つことに徹するのが,最高峰の舞台であるワールドカップであり,プロスポーツ選手・監督の在るべき姿だろうという声は多いものです.
っていうか,日本国内のネットニュースの論調を見る限りでは,これがかなり多いんです.

ただ,それを言い出したらスポーツの魅力はなくなっていくんですよね.
「ルールに反していないからOK」というのは,まともな人間の考え方ではないし,それがスポーツでまかり通るようになったらお終いです.

これを本記事のタイトルに重ねて言い換えるならば,現在のサッカー日本代表,そして日本社会も「ルールに反しない中で,強欲な手法により利益を得ようとする」状況にあることを示唆しています.

「どうしても本戦に進みたかった」という気持ちは痛いほどわかるし,言い訳としても成り立ちますが,そうやって得た勝利は,今後の日本のサッカー・レベルを衰退させる転機になった可能性があります.
なぜなら今回の一件は,日本のサッカー少年たちの心に「勝ち上がるための方略」のお手本として,しっかり刻まれたであろうからです.

常々,学校教育における「部活動」の勝利至上主義が批判されています.
勝つためには下劣な作戦や戦略もいとわず,選手の安全や人権を損なう行為・判断がなされる場面が多いからです.
その最たる例が,あの「高校野球・甲子園大会:松井秀喜選手全打席敬遠問題」だったりするのでしょう.

日本のスポーツ界全般で言われているのが「ジュニア時代には高いパフォーマンスを発揮するが,それ以降が衰退する」というものです.
諸外国と比べて,各スポーツ種目の競技人口はとても多いのに,そこからトップレベルの選手が現れる数はとても少ないんです.
しかも,トップレベルの選手が出てきたとしても,得てしてそういう選手は,海外留学によって芽が出ていたりする.

あと,審判やレフェリーに対する態度もいただけないですね.
昔から日本のスポーツ界の課題として言われていることですが,この点はまだまだ後進国です.
ヨーロッパ出身の人からもお聞きしたところ,日本のスポーツ現場で驚くのは,審判やレフェリーに対し文句を言う選手や指導者が多いことです.
間違ってほしくないのは,「文句,罵倒」と「抗議,異議申し立て」は違うということ.
そして,文句言うにしても節度と程度があることです.
「文句言うくらいなら,抗議すればいいのに」というのがその人の話でしたが,日本の指導者や選手に,この違いが理解できているかどうかが極めて怪しい.

審判に対する暴行も横行していますし,そもそも,プロ野球ではそういった風景が「珍プレー」としてテレビで笑いをとっていた時代もありました.
指導者が審判やレフェリーを尊重する態度をとっていないから,ベンチで「あの審判はバカだ」などと生徒・選手の前で口走っているのかもしれない.
それだけならまだ良いのですが,試合中にも面と向かってクレームや文句を言い出す指導者もいます.
その結果,生徒・選手も審判やレフェリーを尊重しなくなり,文句言ったり暴行する生徒・選手も出てくるのは当然のこと.
それもこれも,勝利に対する手段を選ばない態度と,それを是認する社会的風潮が生んでいます.

自戒の念も込めて言えば,端的に言って,現代日本のスポーツの戦い方は「せこい」んですよ.
姑息で付け焼き刃な戦略を立てて,勝つためのその場しのぎのプレーに終始.
結局,その試合では勝つけど,成長が頭打ちになってしまう.
そのスポーツ種目の醍醐味を味わうことや,より高いパフォーマンス・ステージへの展望は二の次になり,逆に,「勝つことがスポーツの醍醐味」とか「競技力を高めればスポーツが楽しくなる」などと言ったりする.

私が思うに,今回のワールドカップでの日本のパス回し戦略を擁護する声が少なくない現状は,「勝つためにどうすればいいのか?」をスポーツ教育で徹底してしまう癖がついてしまった,日本社会の成れの果てだろうということ.

つまり,なんだか「パフォーマンス・アップ」を簡単に捉えているようなんだけど,その視野は狭く,スパンも短い.
しかもその狭い領域での短いスパンで,スコア(お金とかステータスとか)を稼ぐことに躍起になっている.
まさに現代日本でしょう.

しかもその戦略の何が哀しいって,「他人の能力や判断に依存して利益を得る」というものだからです.
そしてこれも,現在の,それもかなり以前からの日本の国際的立場と同じではありませんか.
「良い子」を演じていれば,ご褒美が得られるだろうというメンタリティ.それが性根まで染み付いた.

いえ,昔はそれをそれとして受け取られないよう隠してやっていました.
でも,現在は堂々と「仕方ないじゃん」ということにしている.
どっちが良い悪いの話で言えば,どっちも悪いんですけど,強いて言えば後者には意気地がない.
最近はどっかの国の大統領に,自国の拉致被害者奪還のお膳立てをお願いしてましたね.

だいたい,今回話題になっているプレーは,下劣以外の何物でもありません.
なぜって,もしセネガルがコロンビアから1点取って追いついたら,日本のグループリーグ敗退が確定するわけですよね.同時刻に行われていた試合なので,既に確定した試合結果を元にした戦略ではないのです.
つまり,あの場面での「時間稼ぎのパス回し」というプレー選択とは,「セネガルはコロンビアに勝てない」ことを表明・宣言したことと同義ということになります.こんな無礼なことがあっていいわけがない.
完全に「スポーツへの侮辱」であり,サッカーをバカにした行為なのです.

ほら,そこにはサッカーの醍醐味とか,より質の高いプレーを発揮したいという情動がないでしょう?
そういう戦略を是認する社会に,将来はないと言っても過言ではありません.
これはサッカー日本代表の選手・監督ではなく,その代表チームを作り育て,送り出している我々の問題です.

サッカー日本代表には,決勝トーナメントで良い結果を出してくれることを期待したいのは山々なのですが,戦績よりも前に,あの「時間稼ぎのパス回し」を払拭するような姿を見せてほしいものです.