注目の投稿

ホルムズ海峡タンカー攻撃事件の真相究明が急がれる時,日本は安田純平を出国禁止にしていた

私も気になっていないわけではありません.
例のホルムズ海峡タンカー攻撃事件です.
ホルムズ海峡タンカー「飛来物で攻撃」 運航会社が説明(朝日新聞 2019.6.14)
中東・ホルムズ海峡付近のオマーン湾で攻撃を受けたケミカルタンカー「KOKUKA COURAGEOUS(コクカ・カレイジャス)」を運航する国華産業(本社・東京)が14日午後に記者会見を開いた。乗組員が「飛来物で攻撃された」と話していることを明らかにした。実際に飛来物が飛んでくるのを見た乗組員がいるといい、詳細な状況を確認している。

この事件を受け,アメリカが「イランが攻撃した」と言い出しました.
シャナハン米国防長官代行は14日、中東ホルムズ海峡近くのオマーン沖で起きた日本などのタンカー2隻への攻撃について、「情報の機密をさらに解除し、より多くの情報を共有したい」と述べた。イランの攻撃への関与を裏付ける情報を関係国などに提供し、米国の主張に対する国際社会の理解を広げる狙いだ。

イランと一戦交えたい意思があるとされるアメリカなので,今回の事件はアメリカが仕組んだことではないかという憶測がなされています.
アメリカには,2003年のイラク戦争における「イラクは大量破壊兵器を隠し持っている」というでっち上げの前科がありますので,今回のタンカー攻撃も怪しまれているわけです.


なので,この事件の真相究明が急がれるわけですが.
その「真相究明」に必要なことは3つあります.







1つは,誰にとっての「真相究明」なのか? ということ.
日本人である私達にとっては,当然「日本」にとって利益(国益)のある真相であることです.
日本に不利益なことであれば,真相を明るみに出す必要などありません.
ちょっとブラックな言い方ですが,政治的な「真相」とはそういうものです.


2つ目は,日本にとって利益のある真相究明なのですから,日本国として真相究明ができる情報元や組織を用意することです.
しかし日本国は,公式にはそれができる諜報機関を持っていません.
いわゆる,アメリカのCIAとか,イギリスのMI6とか,ロシアのKGBとかです.

なので,今回のタンカー攻撃事件でも,日本は諸外国と比べて不利な条件下にあると言ってもいいでしょう.
その一方で,こうした諜報機関は国営のため,国益としてだけでなく,原則として政府にとって有益な情報しか表に出てくることはありません.


そこで3つ目として,日本国民にとって利益のある真相究明が必要です.
それができるのは報道機関であり,ジャーナリストと呼ばれる人たちです.
世界各国,報道の自由が叫ばれているのはそのためです.

原則として,
「国家の利益 ≒ 国民の利益」
があります.

愛国者や国粋主義者は,両者を同一視したがる傾向にありますが,現代社会において「愛国」とは政府や国家を愛することと同義ではありません.
右傾化と呼ばれる現象で危惧されるのは,そうした愛国や国粋主義に端を発する「全体主義」です.

ですから,報道機関やジャーナリストは,国家や政府を批判することを基本的態度とし,国家や政府が用意・提示する情報以上のものを調べることを生業とするのです.

例えばイラク戦争における「イラクは大量破壊兵器を持っていなかった」という事件にしても,国家と政府は「大量破壊兵器がある」という情報を国民に提示していましたが,アメリカのジャーナリストや報道機関はそれを信用せず,政府の妨害や政府支持者からの非難を乗り越えて取材し,「大量破壊兵器はなかった」「政府のでっち上げだった」ことを明るみにしました.

それにより,イラク戦争の大義が国民感情から薄れ,中東撤退を後押ししたのです.
これはアメリカ国民にとっての利益と言えるでしょう.


翻って日本はどうか?
日本には諜報機関や,独自の情報分析機関はありません.
外務省を通じて,相手国から提供される表向きの情報しか分析できないのです.
すなわち,日本は「報道機関」と「ジャーナリスト」による命がけの取材に頼るしかありません.

これはちょうど,夫の不倫を疑う妻が,夫からの弁明・答弁を聞くだけしかできず,興信所(探偵)の調査に頼れない状態に似ています.
夫の言葉が信用できない妻にとっては,情報通のママ友や親戚に頼るしかないのです.
当然,ママ友や親戚も100%信用できるわけではありません.

しかし,自分がなるべく客観的な情報から判断しようと考えるならば,情報はできるだけ多角的に用意したいはずです.


ところが,日本の政府や国民は,そうした報道機関やジャーナリストに対する風当たりが強いのです.
典型的なのが,安田純平氏のシリア拘束事件に対する見方です.

危険地帯に入って取材するジャーナリストへの理解が,恐ろしく低いのが日本.
なぜジャーナリストは戦場に行くのか~安易な「自己責任論」ではなく「冷静な議論」を(弁護士ドットコム・ニュース 2015.1.22)

それは,メディア・報道機関も同様です.
日本のメディアは危険地帯に赴くジャーナリストを守ろうとしてきたか?安田純平さん拘束事件を巡る報道に残された課題(abemaTV 堀潤 2018.10.18)

危険地帯で拘束されたジャーナリストとは言え,なんとかして奪還しようとするのが国家の努めです.

当然,そうしたジャーナリストは国家の敵にもなるでしょう.
しかし,国民のための情報収集を生業とする人を守ることは,結果的に国家のためにもなります.
国民を幸福にすることが国家の役割でもあるからです.


現地に行かなければ分からない「日本のための情報」は,「日本人が取材する」のが筋というものです.
しかし,日本人の多くには,「危険地帯については,外国人記者が伝えてくれる情報だけでいいのでは?」というお花畑な理屈がまかり通ります.
それこそ,自衛隊を国防軍にして積極的に国際貢献させたいとする,タカ派な人たちも似たようなことを言う.
そこには,菜の花畑かチューリップ畑かの違いしかありません.

たとえ自衛隊を国防軍にして派兵したとしても,そこでの実態は日本人の従軍記者からの情報が必要です.
事実,2003年にイラク派兵された自衛隊が連日「攻撃を受けていた」ことは,現地のことを「非戦闘地域」だとする当時の政府・防衛省からは公表されませんでしたし,日本のメディアも現地に突撃取材しないから,ほとんど情報がありませんでした.
もし現地に日本人ジャーナリストが入って,「今日も自衛隊の基地にロケット弾が撃ち込まれた」と公開したら,国民はどう思ったでしょうか.


考えてみれば,日本の「報道の自由ランキング」がここ最近ダダ下がりなのも頷けます.
「報道の自由度ランキング」日本の順位、前年と変わらず(朝日新聞 2019.4.18)
国際NGO「国境なき記者団」(本部・パリ)は18日、2019年の「報道の自由度ランキング」を発表した。調査対象の180カ国・地域のうち、日本は前年と同じ67位だった。「記者団」は日本では「メディアの多様性が尊重」されているものの、沖縄の米軍基地など「非愛国的な話題」を取材するジャーナリストがSNSで攻撃を受けている、と指摘した。
こんな話を聞いたら,日本の自称「愛国者」「保守派」は発狂しそうですね.
それこそ,「反日的な報道をした方が良いとでも言うのか!」って.

繰り返しますが,冒頭でもお話したように,ジャーナリストや報道機関の仕事は,政府や国家を批判することです.
政府や国家が,どんな理由でどんな正義を掲げようと,ジャーナリストや報道機関は徹底して批判しなければなりません.

ラーメン屋がラーメンを作って非難される覚えが無いのと同様,ジャーナリストや報道機関が政府・国家批判をして非難されるのは可笑しなことなのです.
お花畑にいる日本人は,そのことが理解できていません.
最近では,「メディアは政府批判しかしない」とか言い出すポジショントーカーや評論家も出てくる有様.
末期症状ですね.


今回のようなタンカー攻撃事件が起きたら,様々な情報が必要になります.
日本としては,事実上の諜報員として「フリージャーナリスト」を世界各地に「派兵」するくらいの戦略があって然るべきです.
それもせずに,「情報不足」を嘆くのは滑稽でしかありません.

国民自身が,フリージャーナリストの自己責任を訴えるのは別にいい.
彼らには彼らなりの正義心があり,気持ちよく吠えているんだから.
しかし,国民全員が同じような考えではありません.

国益に対する考え方はたくさんありますが・・.
国家は,国民の幸福のために機能すべきです.
そして,国民の幸福こそが,国家の国益.
私はそのように解釈します.
逆に言えば,国民が幸福になれない国家など不要です.
さっさと別の体制に切り替えるか,離散したほうがいい.

国民である日本人ジャーナリストが,自身の自己実現のため,そして日本国民への情報提供のために取材をしたいと考えるならば,それをできる限り尊重するのも国家の努め.
その先にあるのが,ジャーナリスト本人の自己満足であろうと,国民の知る権利であろうと,そんなことはこの際どうでもいいんです.

情報収集とジャーナリストの保護は相反しません.
そしてそれは,日本という共同体の利益になることは明らかです.