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日本人が「不寛容」と言われる理由

日本人は,自分たちのことを外国人と比べて「優しい」「おもてなしの心がある」と思っています.
最近の日本人はそんな話題が好きなようなので,「海外の反応」と銘打ったネット記事を見かけることがあります.

【日本人は優しい】外国人が感じる「日本の凄いところ」9選(笑うメディア・クレイジー)

なかには,「日本人は優し過ぎることが問題だ」という主張も見られるくらいです.


その一方で,海外の人からは日本人は「冷たい」「不寛容」だとも評価されています.

【悲報】日本は外国人から「友達が出来にくい」「冷たい」「仕事と生活のバランスが最悪」な国だと思われているらしい / あるランキングで判明(ロケットニュース24 2017年12月9日)
“世界幸福度ランキング”後退の日本に足りないのは寛容さ?「みんな自分のことしか考えていない」(Abema Times2019.03.22)


比較的きちんと調査したデータによれば,日本社会は「不寛容」だとされています.

報告の基になったデータは米ギャラップ社の世論調査で、各国・地域の各3千人程度が16~18年、現在の生活の満足度を「0~10」で答えたもの。国連の関連団体「持続可能な開発ソリューション・ネットワーク」がその値について①1人当たりの国内総生産(GDP)②社会的支援の充実ぶり③健康寿命④人生の選択の自由度⑤寛容さ⑥社会の腐敗の少なさ、の6項目を用いて分析を加えた。
日本は健康寿命で2位、1人当たりGDPで24位となったものの、人生の選択の自由度(64位)、寛容さ(92位)が足を引っ張ったとみられる。経済協力開発機構(OECD)加盟国36カ国で見ても、32位と低迷した。

日本人は「寛容」なのか,「不寛容」なのか.
どっちが本当なのでしょうか?

結局のところ,「人による」というのが真理かと思います.

しかし,海外から日本人のことを,
「優しい」
「親切で寛容」
と言われて嬉しくなる,だけならまだしも,「やっぱりそうだよね」と思う日本人が多いからこそ,ネット記事にも「日本人は優しい論」が氾濫しているとも言えます.

どうしてそんな,みっともない記事が氾濫し得るのか?

それは,それぞれの国・社会において、各自が自分自身をどのように「自覚」しているか?
に考えるヒントがありそうです.


例えば,以下の質問に、皆さんはどのようの答えますか?
(1)あなたは平均的な人と比べて「リーダーシップ」が高いと思いますか? YES / NO
(2)あなたは平均的な人と比べて「仕事の能力」が高いと思いますか? YES / NO
(3)あなたは平均的な人と比べて「優しい」と思いますか? YES / NO
(4)あなたは平均的な人と比べて「誠実」だと思いますか? YES / NO

(1)と(2)に対してNOと答え,(3)と(4)にYESと答えたあなたは,典型的な日本人です.

詳細を以下に述べていきます.





(1)自分のことを「平均より能力が高い」と考える外国人.「低い」と考える日本人


人は,自分のことを「平均以上だ」と考えることによって,精神の安定を得ています.
もし自分のことを「平均的な人間以下だ」と思って暮らしていると,その人は鬱病まっしぐらです.

「私は◯◯については平均以上である」と解釈する心理.
人間である以上,「普通の人」であればそのように捉えるものなのです.
これを「平均以上効果」と言います.

しかし,実際のところは,皆が皆「平均以上」であるわけがありません.
これは「自分自身をだます」ことによって成立することです.

その点について詳しく解説された新書があります.

菊池聡 著『自分だましの心理学』


この本によると,「自分だましの心理」,つまり「自分を平均以上と考える心理」には国によって差があるとのこと.

例えば,「私は人並みの能力がある」という質問に対し,「YES」と答えるのは,
アメリカ人:91%
中国人:94%
日本人:58%

「私は他人に劣らず価値のある人間である」という質問にYESと回答するのは,
アメリカ人:89%
中国人:96%
日本人:38%

これはアメリカ・中国との比較だけの特徴ではありません.
自分の能力は平均以上だと考える人が,外国人と比べて日本人は非常に少ないのです.

自分の能力や手腕に対する評価を「自己奉仕バイアス」と呼ぶそうですが,その国際調査をした結果が以下のグラフです.



このように,外国人では「自己奉仕バイアス」の程度が,
「どれだけ強いか?」
の比較であるのに対し,日本人は,
「どれだけ弱いか?」
というマイナス評価の要因になっています.

すなわち,日本人は「自分の能力への評価」が諸外国と比べても異質であることが分かります.




(2)能力は低いが、「平均以上に優しくて誠実で寛大」と考える日本人


自分への評価が低い人の特徴は,「鬱病」です.
また,自分の能力に対する評価が「非常に的確」であることも鬱病患者の特徴とされています.

ですから,「普通」の人は自分への評価が少し高いくらいで良いのです.
そうでないと,自分の存在意義を保てません.
思わず自殺しちゃうような人間になってしまいます.

なので,普通の人は「私は○○については平均以上だ」と思って生きているのです.

ところが,前述したように日本人は,自分の「能力」や「価値」といったものをマイナス評価しています.
ということは,日本人は「能力」以外のものを「平均以上」と考えて誤魔化しているのです.

さて,それは何かと言うと,実は「優しさ」「誠実さ」なのです.

これについて大学生を対象に調査した研究論文がこちらです。
心理学研究:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpsy1926/72/4/72_4_329/_pdf/-char/ja


日本人は,自分のことを一般的な人と比べて,
「まじめである」
「誠実である」
「思いやりがある」
「親切である」
「寛大である」
といった項目に,60%〜70%の人が「YES」と答えています.

その一方で,
「才能がある」
「知的である」
「積極的である」
「スタイルが良い」
といった質問には,マイナス評価する人が多いわけです.




(3)「私は平均以上だ」という評価が,50%以上いることの意味


この「平均以上効果」は,自分の存在価値を保つために,平均値を低く見積もったり,自分自身を少し高く見積もる心理です.

本来であれば,多量のデータを収集すれば,「私は平均以上だ」と回答する人は約50%になります.

なので,前述のデータでアメリカ人が「私は他人に劣らず価値のある人間である」という質問に対し,89%の人が「YES」と答えていましたが,それは裏を返せば,約40%のアメリカ人は,「他人より劣った価値しかない」のに「価値がある」と答えていることになります.

アメリカ人(に限らず外国人)は,大した能力も無いのに自信満々であると “日本人” が評価することが多いですよね.
あれは,外国人の多くに,その実力に反して「私の能力は平均以上だ」と考えている人がたくさんいるからです.


ということは,海外の人たち(および,日本人同士)から日本人が「冷たい」「不寛容」と言われる理由もそれと一緒です.

日本人には,自分たちが考えている以上に,本当は「冷淡」で「不親切」な人が多いのです.
しかし,自分自身の評価については,
「私は平均的な人よりも優しくて誠実だ」
と考えているので,日本人の社会には「自称・優しい人(他の人から見たら,不親切な人)」が溢れかえります.

日本人からすれば海外の人は,「自分の能力は平均以上だ」と考えているので,そんな海外の人を前にした日本人は,
「そんなに能力が高くないのに、どうして自信満々でいられるんだ?」
と思うことになります.

一方,海外の人たちからすれば,
「そんなに優しくも誠実でもないのに、どうして日本人はいい人ぶっていられるんだ?」
と思うことになるのです.

逆に,「海外の反応」として,「日本人は優しい人が多い」などと言われると,ついつい本気出して嬉しがっちゃうのは,そういう理由.
日本人にとって「優しさ」や「誠実さ」とは,自分自身の存在価値として非常に大きなウエイトを占めるものだからです.
でも,注意してください.
その評価はたぶんリップ・サービスであり,かなり怪しい.


これはなにも,日本人は自分たちのことを「不親切で冷淡」であると気づけと言っているわけではありません.
もしそんなことをしたら,きっと日本人の多くは鬱病になってしまいます.

日本人にとって,自分の存在価値とその拠り所は,
「私は能力は低いかもしれないが,平均的な人たちよりも,優しくて誠実なんだ」
ということであり,そうやって「自分をだます」ことによって成り立っているのですから.

ただ,そのことをほんのちょっと自覚しておき,何かのときに意識できるといいと思います.



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