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学習性無力感と北朝鮮の核ミサイル

もし北朝鮮がブチ切れたら消える日本の地域はここです


最近は北朝鮮が日本周辺にミサイルを撃ってきても,さほどニュースにはならなくなりました.
直近のところですと,10月31日に弾道ミサイルを撃ってきましたが,特段騒ぎ立てるほどのものではなくなりました.
北朝鮮から弾道ミサイル発射か 排他的経済水域外に落下か(NHKニュース 2019年10月31日)

2017年頃には,大学にも「学生に向けて,ミサイルが着弾した際の対処方法を周知徹底してください」といった趣旨の通達が来ていたくらいです.

以下のような資料が出回っていたのを覚えている人も多いでしょう.

当時の大学における弾道ミサイル対策の記事はこちらです.
大学と弾道ミサイル


ですが,もともと日本では「弾道ミサイル対策」なんかできません.
ミサイル攻撃を受けたらどうにもできないのです.

何もできないのに政府は無意味な啓蒙活動を展開していたわけで,当時の私も,この「北朝鮮弾道ミサイル問題」については極めて冷めた見方をしていました.
ミサイルを連射している件

その後,
「どうせ日本に弾道ミサイルは飛んでこない.飛んできたとしても,どうにもならない」
ということが一般にも周知され,日本社会は学習性無力感を得るに至りました.


その一方で,北朝鮮の核ミサイル対策を叫ぶ声があることも事実です.
先般,建設予定地の選定に問題があったとされる陸上型イージス・システムである,「イージス・アショア」もその一つです.
イージス・アショア配備 “秋田市が最適”その根拠が…(NHKニュース 2019.6.6)


実際のところ,「イージス・アショア」は無用の長物です.「長物」ですら無い.

核ミサイル対策を重要視したがる人に多いのが,
「無いよりあった方がマシ」
「段階的に配備することが大事」
というのがありますけど,こういう人たちって実際に起こり得る「核ミサイル攻撃」を甘く見過ぎているんじゃないかと思うんですね.





核ミサイル攻撃は絶対に防げない|だから外交上極めて有効な戦略になる


誤解してほしくないのは,「ミサイル防衛(MD)」の研究開発が無駄だと言っているわけじゃないんです.
むしろ私は,国のプロジェクトとしてドンドンお金をかけてやればいいと思っています.

そしていつの日にか,核弾道ミサイルや核攻撃システムを無力化するようなテクノロジーができれば,それは強力な武器になるでしょう.

でも,現状まったく無意味なシステムを導入することには反対です.


核ミサイル攻撃というのは,一部の映画やアニメなどで表現されることの多い,
「1発のミサイルが莫大な損害を与える」
といったポエム的なものではありません.


ご自分が核攻撃をする側の指導者の立場になって考えてみてください.
「国家の存亡」,もとい,「民族のプライド」をかけて決断するのが核攻撃です.

そんな攻撃はどのようなものになるかというと,相手の反撃する能力や意思をくじくものになります.
相手の様子を見ながら「1発だけ撃ってみる」なんてことはしませんよね.

絶対に反撃をくらわないようにするため,大量のミサイルを使って「飽和攻撃」し,必ず相手に致命的な被害が出るようにするものです.


目下,北朝鮮による核攻撃が注目されていることから,アメリカではこんな書籍が出版されています.
YouTubeとニコニコ動画の動画で紹介されていましたので,ここでその概略をお示ししますね.
紹介されている動画はこちらです.
【討論】日本核武装論[桜R1/11/23](YouTube 2019.11.23)
※該当箇所は,上記動画の1時間23分頃からの数分間です.

Jeffrey Lewis 著『The 2020 Commission Report on the North Korean Nuclear Attacks Against The United States』


そのものズバリ.「北朝鮮からの核攻撃に対するアメリカ」についてのレポートという形式をとった小説です.

この小説では,フィクション形式ではあるものの,現実のデータや資料を使って北朝鮮と核戦争になった場合にどのようになるか分析しており,ガーディアン紙やエコノミスト誌などから高い評価を受けています.

それによると,北朝鮮の第一次攻撃は,日本,韓国,グアムにあるアメリカ軍基地を攻撃して,ここを焼き払うところから始まると予想しています.

これについて,上記の動画からキャプチャしたのがこちら.
その書籍の156ページにある図です.



これを見やすくするため,私がグーグル・アースの地図上で「北朝鮮による第一次攻撃」を図にしました.
黄色が日本への攻撃.
ピンクが韓国,青がグアムです.



アメリカ側の分析によれば,核ミサイルとして機能しない(不発弾や囮も含まれる)ものや,迎撃により撃ち落とせたとしても,発射された核ミサイルの約50%が炸裂するだろうとしています.

北朝鮮もそれは承知の上ですから,その「炸裂率50%」であっても確実に目標地域を壊滅させるために,同時に62発のミサイルを発射することが予想されるのです.
(逆に言えば,現在の北朝鮮は62発しか同時発射できないだろうと分析している)

つまり,1箇所あたりに5〜6発撃てば,その内の1発か2発は炸裂してくれるという計算です.
※統計上,確率50%のものを5発撃てば,97%で成功(失敗は5%未満)になるから.

狙われるのは,アメリカ軍が駐留している基地である,三沢,東京,岩国,佐世保,沖縄です.
もちろん,韓国内における主要基地と,グアムの基地も壊滅させることが第一目標となります.

こういう攻撃をされると,ミサイル防衛とか迎撃なんてことは不可能です.
なぜなら,現段階でのミサイル防衛というのは,1発〜数発程度のミサイルを迎撃できるか出来ないかという程度のものなので,囮(デコイ)を含めて何発も撃たれると,狙われた地点は間違いなく壊滅します.

これにより,約700万人の人的被害が出ると計算されています.


なんにせよ,もしものことがあった場合には,三沢,首都圏,岩口,佐世保,沖縄は完全に壊滅するものと思って間違いありません.
特に首都圏には,アメリカ軍基地を完全に破壊するために,何十発という核ミサイルが波状攻撃のように降ってくるのです.


北朝鮮の核ミサイルの被害については,盛り上がりを見せた2017年にはさまざまな記事が出ていましたが・・・.
北の核ミサイルが東京都心に着弾すれば最悪180万人死亡(ニュースポストセブン 2017.11.24)

https://www.news-postseven.com/archives/20171124_629284.html
実際に起こり得る核攻撃を受けたら,1発だけ炸裂することの方が珍しいかもしれません.

おそらく,首都圏(横田基地と横須賀基地を狙ったもの)であれば2〜3発かそれ以上が次々と飛んできて炸裂しますので,「更地」どころか,地形が変わるはずです.

多分,漫画・アニメの士郎正宗『攻殻機動隊』とかに出てくる,こういう地図になると思います.
この地図では,東京周辺,仙台,新潟,京都が核攻撃を受けて消し飛んでいる設定です.
http://section9section9.blog61.fc2.com/blog-entry-112.html


北朝鮮としては,この「第一次攻撃」によりアメリカの出方を見ることになります.
アメリカの同盟国とその駐留基地を焼き払うという犠牲を見せて,それでも北朝鮮に攻撃をしてくるかどうかを見るわけですね.


もしアメリカから「停戦」とか「交渉」の申し出がなければ,第二次攻撃へと移行します.
つまり,大陸間弾道ミサイル(ICBM)によるアメリカ本土への攻撃です.
上記の書籍が出版された2018年当時,北朝鮮は12発が発射できる可能性があると分析されていたようです.
12発のうち,約50%(6発)がアメリカの都市で炸裂すると計算され,これにより300万人〜400万人の犠牲者が出ると分析されています.

もちろん,被害は熱線や爆風だけでなく,その後の核汚染もありますから,それ以上の規模になるはずです.

当然,こうなったらアメリカも核攻撃を行いますので,北朝鮮も壊滅するわけですが・・・.
このような事態に至っては,北朝鮮も覚悟の上でしょう.

忘れてはいけません.
核戦争とは,「死なば諸共」なのですから.


ここで問題なのは,こうした分析を踏まえて,
「アメリカは,これらの犠牲を耐えてでも,北朝鮮を攻撃するだけのメリットがあるか?」
という点です.


そして,トランプ大統領は「無い」と結論づけました.
トランプ大統領、北朝鮮ミサイル試射でも実務者協議行う姿勢(ブルームバーグ 2019.10,4)
北朝鮮の非核化を巡る米朝実務者協議は数カ月ぶりに開催される見込みだ。北朝鮮は2日、ここ2年で最も挑発的なミサイル試射を実施したが、トランプ米大統領は協議を阻むものではないとの認識を示した。

トランプ大統領は,
「アメリカに到達するミサイルさえなければ,北朝鮮の行動には目を瞑る」
という態度に出ています.

そして,周辺国でありミサイル射程圏内にある「日本」「韓国」,そして「中国」「ロシア」の中で議論してくれればいいという戦略でしょう.


実際,トランプ大統領は当初から北朝鮮への攻撃には及び腰でした.
それをバラした本も最近出版されましたよね.
トランプ大統領の北朝鮮先制攻撃は演技だった――アメリカ前国連大使、新著でトランプ政権の手の内ばらす(ヤフー・ニュース 2019.11.14)
トランプ氏も大統領就任以来、ミサイル発射の挑発行動を繰り返す北朝鮮に先制攻撃をちらつかせながら、この狂人理論を実践してきた。トランプ氏は、予測不可能で型破りな異端児との自らの悪評を利用し、2017年当時、敵対国の北朝鮮をおじけづかせて譲歩するよう追い込んでいたのだ。
これは,
「北朝鮮を脅すことに成功した」
と読むことも出来ますが,逆に言えば,
「北朝鮮を本気で攻撃したくなかった」
ということでもあります.

なぜなら,北朝鮮を攻撃することによって,日本や韓国,グアムにあるアメリカ軍基地が壊滅し,同盟国である日本と韓国に致命的な被害が出るという責任を負いたくなかったからです.


そして,アメリカは現在,日本と韓国に北朝鮮を押し付けることに成功しました.
しかも,アメリカ軍がこの地域から手を引く算段をしています.
なんのことはない,アメリカとトランプ大統領は当初からそれが狙いだったのです.

思い出してください.
昨年の米朝首脳会談のあとも,トランプ大統領はこんなことを言っています.
“非核化”費用は日韓で支援を~トランプ氏(Yahooニュース:NNN 2018.6.12)
初の米朝首脳会談を終えたトランプ大統領が会見し、北朝鮮の非核化にかかる費用はアメリカではなく韓国と日本が支援すべきとの考えを示した。

北朝鮮よりも,中国と本格的に構えたいという戦略もあったのでしょう.
その後のアメリカは,中国と経済戦争状態に突入していますので.


日本がとれる現実的な対応策は,北朝鮮が核攻撃させないように上手くあやすことくらい


武闘派な人は気に入らないかもしれませんが,現状,日本と北朝鮮の立場は圧倒的に差がありますから,日本はどうすることもできないのです.

作戦としては,あと10年くらいの期間は拉致問題をちらつかせて,人道的な観点から金正恩をイラつかせることで,図に乗らせないことくらいでしょうか.

こう言うと拉致被害者家族の方は怒るかもしれませんけど,核ミサイルの射程圏内に入っている日本としては,そうやって拉致被害者を出汁に使うことくらいしかできません.

もしくは,莫大な経済援助をして取り返すくらいでしょうか.

よく,「特殊部隊を用意して奪還する」といった勇ましい話も聞きますが,核ミサイルを持っている相手にそんなことできません.
これは,憲法9条が改正されてもされなくても関係ありません.
だいたい,拉致られてる人が皆して同じところにいるわけないだろうし.


長い時間をかけてタイミングを図り,上手くあやしながら,国交正常化を目指していくのが現実的な対応じゃないですかね.


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