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歴史的ということらしい米朝首脳会談(の補足)

歴史的ということらしい米朝首脳会談から一週間が経とうとしています.
会談のすぐ後に書いた記事が以下でした↓
歴史的ということらしい米朝首脳会談
その後,いろいろと続報が入ってきたので,これを交えて会談を再検証してみたいと思います.

上記の記事の趣旨としては,その冒頭に書いたとおり・・,
(今回の会談について)我々としては,アメリカと北朝鮮の間で交わされる話に一々反応していてもしょうがない.両者はお互いにとって都合がいいことを話し合うわけですから,その他の国々の将来について考慮するわけがありません.
肝心なのは,この会談が日本にどのように影響するのか? ということ.そこだけ考えてればいいんです.
ということで,その上で今回の会談については,
今後,日本にとって本当に危険なのはアメリカからの要求だと私は思います.
そりゃもちろん,アメリカは今までも危険な国でしたが,今後の北朝鮮問題では,明確に日本と韓国を「囮」もしくは「餌」として使ってくることは目に見えています.
(中略)
「北朝鮮の暴走」をロシア,中国,そして北朝鮮自身が押さえ込み,逆にアメリカはそれを望むという構造が始まった.
実際,今までもそうだったわけですけど,これまでと違うのは,アメリカがそこで日韓をこれまで以上に「餌」として利用するようになったことにあります.
もちろん絶対的な自信があるわけじゃないですが,子供の頃から見聞きしてきた国際政治に関するニュースのパターンから察するに,上記みたいなことになるのだろうと私なりに心構えをしているところです.

政治的駆け引きの当事者(国家元首とか官僚とか)ではないので,私達としては裏事情のみならず,表事情すら分かりません.
ですから,物事の評価は私達の身に降り掛かってくるものやリスクからでしか判断できない.
であれば,今回の会談の結果は日本や日本人にとって非常にヤバいものではないかと捉えたくなるわけです.

過去記事にもしましたが,「この話の裏には日本が大逆転するシナリオがある」とか「今回の合意は罠を仕掛けたようなもの」,もしくは「ジャブを打っただけ」などといった,自分の世界観に沿ったような希望的観測はしないほうがいいでしょう.
「じゃあ,代わりは誰かいるのか?」の愚
まだ言ってる「じゃあ,代わりは誰かいるのか?」
我々一般人は一般人らしく,そのまま受け取ればいいんです.
あっち(政治家)だって,そのまま受け取られることを前提で話してんだから.余計な詮索するだけバカバカしいと思いますよ.

逆に,これまでの国際政治において,報道されていることとは異なる流れになったものなどあったのでしょうか? マスメディアによって「情報」や「雰囲気」は捻じ曲げられることはあっても,「事実」は変えようがない.
例えば,日本は戦中に朝日新聞(笑)などが「情報」を捻じ曲げて報道したとされていますが,玉砕(全滅)や転進(撤退)といった「事実」の報道はされていたわけで,それによって「日本は追い込まれているな」と読み取った人もたくさんいたんですよ.
いわゆる「大本営発表」とその報道によって,日本は世論誘導されたと言われていますが,いくらなんでも全てのジャーナリストを統制できるわけじゃないし,国民皆が騙されるわけじゃないから,多くの人が「報道されている情報は嘘だ」と気づいていたわけで.
大本営発表(wikipedia)
報道されている情報の枝葉を取り払って「幹」を眺めてみれば,多分それが最も客観性のあるものですよ.

さて,今回の米朝首脳会談にまつわるニュースがこの週末にも出てきました.
前回記事で述べたことを補間するようなものだと思いますので,いくつか紹介します.
例えばこちら.
トランプ氏、安倍首相に「日本に2500万人のメキシコ移民送れば君は退陣」(AFP通信 2018.6.16)
欧州連合(EU)の職員によれば、トランプ大統領は欧州にとって深刻な問題となっている移民問題に言及した際、安倍首相に対し「晋三、君はこの問題を抱えていないが、私なら日本に2500万人のメキシコ人を送り出すことができる。そうすれば君はあっという間に退陣することになる」と語った。
恫喝ですか? そうですか.
G7サミットは米朝首脳会談の前,6月8日9日に行われていました.
で,恫喝した結果,こうなったんですかね?
“非核化”費用は日韓で支援を~トランプ氏(Yahooニュース:NNN 2018.6.12)
初の米朝首脳会談を終えたトランプ大統領が会見し、北朝鮮の非核化にかかる費用はアメリカではなく韓国と日本が支援すべきとの考えを示した。
そして,我が国の首相はこんな事を言い出しました.
北非核化で首相「日本が費用負担するのは当然」(読売新聞 2018.6.16)
首相は「核の脅威がなくなることによって平和の恩恵を被る日本などが、費用を負担するのは当然」と語った。「拉致問題が解決されなければ経済援助は行わない」とも述べ、経済援助と非核化費用の負担は区別して考える意向も示した。その上で拉致問題の解決に向け、「最終的に私自身が北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長と日朝首脳会談を行わないといけない」との決意を改めて表明した。
恫喝されたから「費用負担するのは当然」などと言い出したんじゃないか? などと解釈したいわけでないのです.

事実1:アメリカのトランプ大統領は,日本を意のままにできると恫喝した
事実2:アメリカは北朝鮮の非核化を日韓にやらせるつもり
事実3:北朝鮮の非核化費用は,日本も出すべきと安倍首相は考えている
という,ただそれだけのこと.
それ以上のことを推察しても,本当のところは知りようがないですから.

我々一般人は,それをそのまま受け取ればいいと思います.
つまり,別に「アメリカに恫喝されたから,日本は非核化の費用負担をさせられる」わけでも,「もともと日本は,北朝鮮にとって財布のような存在である」というわけでもない.
「北朝鮮の非核化費用は,日本も出すべきと安倍首相は考えている」ということを,どのように捉えるのか? ということです.

ところで,安倍首相が「費用負担は当然」だと考えていることは別に自由だとしても,それだと困った点が一つあります.
安倍首相は2018年1月にこんなことを言っている.
対話のための対話は意味がない 安倍晋三首相が強調(産経新聞 2018.1.26)
安倍晋三首相は26日午前の参院本会議での代表質問で、朝鮮半島情勢をめぐり「(韓国)平昌五輪の成功に向けて最近、南北間で対話が行われていることは評価するが、その間も北朝鮮は核・ミサイル開発を継続している」と述べた、その上で「北朝鮮が非核化の約束をほごにして、核・ミサイル開発を進めてきた経緯を踏まえれば、対話のための対話では意味がない」と強調した。
ということは,日本の安倍首相は,日朝間における非核化交渉を進める以前に,さらには今回の米朝会談より以前に,もともと非核化の費用負担は日本がすべきだと考えていたことになります.
ってことは,つまり「日本が費用を出してあげるから,非核化してくれ」という日朝会談をするつもりだったってことでしょ? 対話のための対話ではなく,お金を出すための対話がしたかったということ.それってどうなのよ?
もちろん,これは「安倍首相がトランプ大統領に恫喝された結果」ではない場合の推測ですけど.

米朝会談はアメリカと北朝鮮だけでなく,その周辺諸国の思惑が交錯するところでもあります.
中国もその一つです.
前回記事でも述べましたが,北朝鮮問題については,中国とロシアが猛烈に関与してくることは間違いありません.それも,どっちかって言うと支援側で.
実際,そんなタッグを組んでいる様子がわかるニュースがありました.
米韓軍事演習中止の要求、習氏が正恩氏に促す 5月上旬(朝日新聞 2018.6.17)
中国・大連で5月上旬に開かれた中朝首脳会談で、中国の習近平(シーチンピン)国家主席が北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長に対し、米韓合同軍事演習の中止を米国側に求めるよう促していたことが分かった。中国外交筋が明らかにした。今月12日の米朝首脳会談の場で、トランプ米大統領は正恩氏の要求に理解を示したとされ、中国の思惑が反映された形だ。
これについては,私の推察では,アメリカ側にも「北朝鮮を対象とした軍事演習」を続ける理由が薄れてきたというのが実際のところだと捉えています.
むしろ,軍事演習を辞めたほうが,北朝鮮が韓国と軍事衝突してくれるかもしれない,といったところでしょうか.先に南北で紛争を起こしてくれた方が,アメリカが介入しやすいですから.

だとすると,中国がこのタイミングで「タネ明かし」をしたのも,北朝鮮と通通の関係を公表するためのものでしょう.
仮にそうじゃなくても,そうであることが分かる公表です.
北朝鮮側としても,それを明かされたところで困らないのでしょうし,中国としても今はアメリカと経済戦争の真っ最中ですから,アメリカに中指立てる目的で公表した可能性もある.

なお,ロシアはすぐに動いていました.
ロシアのプーチン大統領は14日、北朝鮮序列2位の金永南最高人民会議常任委員長とモスクワで会談し、9月に極東ウラジオストクで開く「東方経済フォーラム」に金正恩朝鮮労働党委員長を招待した。
これからしばらくは,ロシアと中国が北朝鮮を支援して,南北軍事衝突を回避する入れ知恵をし,且つ,アメリカが簡単に介入してこないように威嚇する状態が続くものと思います.

最後に,冒頭でも示しましたように,前回記事では「今後,北朝鮮は日韓に対し優しくなるだろう」という話をしましたが,それを示す可能性のあるニュースが入ってきたので紹介しておきます.
北朝鮮最前線の長距離砲撤去問題 南北が協議開始(聯合ニュース 2018.6.17)
韓国と北朝鮮の軍事当局が、軍事境界線(MDL)付近に配備された北朝鮮の長距離砲の撤去問題について協議を始めたことが17日、分かった。複数の政府筋が明らかにした。
(中略)
北朝鮮側は韓国側が提示した案に対する立場を表明したとされる。「相互主義」を掲げ、韓国軍と在韓米軍も同一の措置を取るべきだとしながらも韓国側の提案に拒否感を示さなかったという。
ほらね.やっぱりこういう流れになる.
前回記事で述べましたが,これは北朝鮮がアメリカに恫喝されたわけでも,融和されたわけでもないと思います.
南北の軍事衝突の危険性を低下させて,アメリカが軍事介入してくる口実を減らしているものと推察されます.もちろん,そこは私の個人的な推論ですけど.

そう考えると,近い将来行われるであろう日朝首脳会談も,少しは日本側に花を持たせてくれる可能性も高いですね.
首相、総裁選への意思表明は「セミの声がにぎやかな頃」(朝日新聞 2018.6.16)

ただ,一方の北朝鮮メディアはかなり批判的なようでして.
北朝鮮「拉致問題すでに解決」 国営ラジオで日本を批判(朝日新聞 2018.6.16)

とは言え,実際に会談したらどうなるか分かりませんから.
日本にとって北朝鮮問題について「進展があった」と解釈されるものを提供してくれる可能性はあると私は予想しています.

逆に,全く日本にとって実りのない会談だとすると,それはそれで厳しい現実を突きつけられるものになるでしょう.
ちなみに,そっちの可能性のほうが私は高いとみていますけどね.

だって,「南北軍事衝突からのアメリカ介入」の可能性は結構高いけど,日朝軍事衝突の可能性は極めて低い.っていうか,ほぼゼロでしょ?
北朝鮮としては,日本は放置プレイしとけば問題ないと考えるのが普通でしょうから.
あり得るとすれば,日本に対する工作活動が沈静化する可能性はあります.
下手に手を出して,余計なトラブルを起こさない方が良いと考えるのが自然というものです.