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分水嶺となるか? 香港民主派の躍進についての一考察

これからの中国は,いわゆる「中国」ではなくなるかもしれない

今年(2919年)を代表するであろう国際ニュースの一つ,香港の民主派による政治運動.
逃亡犯条例改正問題に端を発する香港の反政府デモは,中国・香港区議選は「民主派」の勢力が勝利するという結果を招きました.

香港区議選 民主派が8割超え圧勝 香港メディア(NHKニュース 2019.11.25)
香港で、24日投票が行われた区議会議員選挙について、香港メディアは、政府に批判的な立場の民主派が、すべての議席の80%を超す380議席以上に達し、圧勝したと伝えました。親中派は惨敗し、一連の抗議活動で市民の要求を拒み続けてきた香港政府に対する不信感が明確に示された形です。

これについて,中国共産党がどのように動くか分析するコメントやニュースが飛び交っています.

曰く,
「香港に対する中国政府の圧力が高まるに違いない」
「選挙結果をくつがえす政策を強行するのではないか」
「民主派の議員や活動家が大量粛清されるのではないか」
といったものです.


私としては,今後の中国政府がどのように動くか,かなり注目しています.

とは言え,私にとって中国というのは他人の国.
「対岸の火事」として眺めている部分が大きいことは否定しません.
ただ,対岸の火事だとしても,これが今後の日本や東アジアにおける重要な分水嶺となる事件であると認識しています.


実際のところ,「対岸の火事」だと思って眺めている人は多いのではないでしょうか?
そして,この事件のことを,
「民主化を叫ぶ勢力 v.s. それを阻む中国共産党」
という図式で捉え,
「あの中国で民主化を叫ぶ勇気ある運動が発生しているけど,どうせ鎮圧されるであろう悲しき出来事の一つ」
という見方をしている人は少なくないでしょう.

ですが今回の事件.
見方を少し変えると,「中国」がアジアの覇権を握るか否かの重大な歴史的転換点になるかもしれないのです.
それこそ,20年後,30年後の世界史の教科書に載るかもしれない.

教科書の記述としては,例えばこういうこと.
「2019年に発生した香港民主派勢力による「高度な自治」の要求は,それを中国政府が認めることによって沈静化した.これを皮切りに,中国は共産主義体制をとりつつ,アジア各地の民主的な自治を認める政治を展開するようになり,中国政府はその経済支援をすることで国家への求心力を高め,アジアにおける覇権を強固なものにした」
といったものになる可能性があります.
日本にとっては嬉しくない話ですけど.

以下,その詳細を説明していきましょう.


まず,あの中国共産党による一党独裁体制をとっている中国が,この香港動乱について強硬な鎮圧ができなかったこと.
「天安門事件」を起こしたかつての中国や,現在においても国際的注目度が低い地域(チベット,ウイグルなど)であれば鎮圧したかもしれませんが,こと「香港」ではそれができなかった事実は,非常に大きな現象でした.

すなわち,いくら中国政府であっても,国際的な目が向けられている地域では,強硬な態度はとれないのです.


また,選挙を普通に展開し,その結果が情勢世論からして妥当な結果になったのも,中国を見る上でインパクトの大きな現象と言えます.


今回の香港民主派運動ですが,その活動家たちはなにも,中国政府と敵対関係になろうとしているわけではありません.ましてや独立する気もない.
当面の香港に認められている「高度な自治」を維持しようというものです.

実際,この運動におけるリーダーであるジョシュア・ウォン(黄之鋒)氏は,以下のような趣旨で活動を展開しているそうです.
香港の人々は北京政府に抵抗しようとしているのではない。
中国が(返還の際の)約束通り、普通選挙で指導者を選ぶ自由をわれわれに与え、「高度の自治」を許容するよう求めているだけなのだ。
Power to the people? China’s policy trilemma in Hong Kong(LSEブログ 2017.10.9)
香港の逃亡犯条例改正問題、または「自由と繁栄は密接不可分」という発想はどこまで正しいか(個人ブログ 2019.6.17)


今回の香港区議選の結果は,事実上,中国政府が香港における「高度な自治」を許容したと受け取ることもできます.

もちろん,まだ予断を許さない状況とも言えますが,今後,数年間のうちに香港に対して強い締め付けが発生せず,さらに,

香港の市民が中国政府に反抗的な政治運動をしない

という状態が達成されれば,香港は中国政府を嫌う理由はなくなります.


しかしこれは,自由主義・民主主義陣営の国々として由々しき事態です.
外交や軍事といった部分は中国政府に任せ,その他の経済活動は「自治」できる,という関係性が「中国」国内で成り立つのであれば,中国をイデオロギー上の理由で遠ざける理由が弱まります.

ようするに,自由主義・民主主義による自治を,共産主義国家の傘下で達成できるということです.


一般的に,自由主義・民主主義陣営の国がもっている「神話」は,

(1)世界の人々は自由と民主主義を重んじている
(2)自由主義・民主主義により経済的発展が促進される
(3)それにより,人々の生活水準と文化水準が高まる
(4)圧政や束縛がなければ,人々は自由主義・民主主義へと向かうはず

というものです.

ところが,現在の自由主義・民主主義を見てみると,必ずしも経済的発展が促進され,その国民の生活水準や文化水準が高まるわけではありません.

「共産主義・社会主義」陣営との競争をしているうちは,自分たちの優位性が感じられたのですが,いざ「勝利」したと思ったら,国内での大きすぎる貧富の格差や,余裕のない生活を強いられていることに気づいてしまったんですね.

その一方で,中国共産党が支配している中国は,ここ30年ほどで見違えるほど国力が高まりました.

「民主化運動が活発化して崩壊する」
「経済発展すれば崩壊する」
「国際化が進むと崩壊する」
「実態が明るみに出たら崩壊する」
などと言われ続けて20年以上になりますが,中国は一向に崩壊する兆しはありません.

今ではアメリカと「新冷戦」状態にあるとすら言われるほど.

結局,人々が求めていたのは「自由主義」とか「民主主義」とか「共産主義」といったイデオロギーではなく,幸せに生きることができる拠り所としての「国家」です.


ジョシュア・ウォン氏が言う,
「香港の人々は北京政府に抵抗しようとしているのではない」
にしても,現在の香港は中国に属しておくことが得策だという認識のことでしょう.

つまり,「スポンサー」としての中国と言っても良いかもしれません.
現状の香港は,中国をスポンサーにすることで国際的な立場を得て,経済活動が展開できているのです.
実際,イギリスの統治を受けていた頃と遜色ない状態が維持できています.

ましてや経済成長が著しい中国.
香港とすれば,そんな優良なスポンサーを手放す手はないのです.


中国側とすれば,そんな自由主義・民主主義陣営に属していたはずの香港を,「自由・民主」を保ったままで引き入れておくことができれば,アジア地域の国家戦略として極めて重大なアドバンテージが得られます.

なにせ,周辺諸国に対し,
「あなたの国の自治は最大限に認めますから,我々中国と組みましょう.(だってほら,我々は香港にも自治を認めているくらいですから)」
ということに強い説得力が生まれるのです.

なんのことはない,最近の中国が展開している「一帯一路構想」とバッチリ適合する状態になるのです.


いや,ちょっと待てよ.
今回の香港デモ騒動,実は中国政府が,
「なんやかんやあったけど,香港の自治を認めるのが中国という国なんです」
という状態を世界にアピールするものだったんじゃないのか?

もし中国がそういうつもりなら,きっと香港の民主的な自治をある程度許容するはずです.
そうやって,「地域の自治に寛大な中国」を周知しようとするでしょう.


これ,放っとくと結構ヤバいんじゃないかと思います.

例えば日本では,「沖縄独立運動」がまことしやかに囁かれていますけど,国際的な目が光るなかで「高度な自治」を認めてくれるなら,アメリカ・日本ではなく,中国に付いても良いんじゃないのか? という判断があっても不思議ではないのです.

よく,
「沖縄が独立しても,中国に占領されるだけだ」
と言われますが,もし香港における自由・民主的な自治を中国が許容し,その状態が維持できたとすると,
「アメリカ・日本に属しているよりも,独立して中国陣営に付いた方が,安全で福祉的な生活がおくれるじゃないか」
という事態になるかもしれない.


中国とすれば,
「沖縄の自治は認めます.中国軍の基地もちょっとしか置きません(香港のようにね)」
という条件を出せば,労せずして米軍基地を撤退させることができるし,太平洋に進出するための足がかりになります.

軍事侵攻してドンパチやるよりも,圧倒的に安上がりで,しかも国際世論を味方につけられる可能性が高いでしょう.

当然,この話は沖縄だけではないはずです,
同じようにして,台湾やフィリピンなど周辺国の「一部の地域」を懐柔して切り崩すかもしれません.

これが,今回の香港デモ騒動が「歴史の教科書に載るかもしれない」という意味です.


もし日本が経済成長せずに,今後も地方交付税交付金を減らしていく状態が続けば,
「いっそのこと独立して,独自の中央銀行を設置して経済活動を展開したほうが良いかもしれない.だって,中国がアジアにおける独立と自治を支援してくれるんだから
と考える地域が出てきてもおかしくないのです.
(だからこそ,日本の経済成長が急務なのですが)

2〜3年でそんな話は出てこないでしょうが,20年,30年くらいのスパンで見ると分かりませんよ.


そういう意味でも,今回の香港に対する中国の態度は,かなり注目したいところです.



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