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焼きたてパンの大学

「焼きたてパンの店」ではありません.大学です


そう言えば先日,下半期の大学現場についての現状把握のために,以前私が勤めていた大学の先生とフェイスタイムしていたのですが.
そこで,この先生の発言にこんなものがありました.

「・・・・というわけで今後,この大学では『焼きたてのパン』を学生に提供しようということで,学生課の人達と調整していて・・・・」

きっと何かの比喩表現だろうと思って,この言葉が出現した直後はスルーしていたのですが,どうやらそのまま話を聞いていても,「焼きたてパン」の意味が解せない.

「焼きたてのパン」

パン


つまり,云わば授業や演習の只中にあって,教員が学生の目の前で,あるいは共同作業としてアカデミックな知見を練り上げる体験をすること.

それを「焼きたてのパン」というメタファーにしたのかな? って思ってたんです.
いよいよこの大学の運営幹部も,心を入れ替えて全うな大学教育へと舵を切ったのかなと.

でも,話を聞いても聞いても,なんか解釈がしっくりこない.
なので,話を遮って聞いてみたんです.

私「すみません,あのぉ,その焼きたてパンっていうの,何の事ですか?」

先生「いや,焼きたてパンだよ」

私「っというと・・・,例えば?」

先生「いや,だからさ,焼きたてのパンのこと」

私「何かのメタファーじゃなくてですか? よく言うじゃないですか,『人はパンのみにて生くるにあらず』とか『パンが無ければケーキを食べればいいじゃない』とか,『大衆による暴動とは,パンを求めるために,パン屋を破壊してまわるという方法がとられる』とか.焼きたてパンっていうのも,大学教育における『学生の血肉となるもの』のことじゃないんですか?」

先生「ん? 違う.ぜんぜん違う.そんな高尚な話を俺はしとるわけじゃないんよ.この大学ではさ,本当に『焼きたてパン』を学生に提供しようとしているわけ.そのための準備に忙しいんよ」

私「すみません,意味が分かりません.念の為にもう一回聞きますけど,焼きたてパンって,何かのメタファーじゃないんですよね」

先生「だから違うって.焼きたてのパンなんよ.小麦粉を練ってさ,生地を発酵させて,加熱させた食品.それを,加熱直後の状態で提供しようってこと」

私「なんでそんなことするんですか?」

先生「大学のトップがバカでさ,その周囲にもバカがいるからさ.焼きたてのパンを食べさせれば,学生の満足度が高まるって思ってるんよ.高校生にもアピールできると思ってる」

私「いやいやいやいやいやいやいや,いくらなんでもそれは無いでしょ」

先生「だと思うでしょ.でも,ホントなんだよ.もう『焼きたてパン』を出すことは決定しているから,あとはどうやって作るか,提供方法はどうするか,提供場所はどうするか,って話になってるんだよ」

私「え!? どうやって作るか? って,自分らで作るつもりなんですか?」

先生「そう.バカでしょ? バカだと思うよね? バカなんだよ」

私「そう言えば,大学の近くにパン屋があったじゃないですか.今もあるんですかね.あそこのパンめちゃくちゃ美味しいんですよ.僕とか,電車で出勤した時には,必ずあそこでカレーパンとドイツパンを買ってましたよ.そのお店に頼めばいいんじゃないですか? そうすれば,地域貢献活動の一環になるし.それに,大学や学生とパン屋がコラボして,新しい社会活動が展開できるかもしれませんし.まあ,焼きたてパンを提供するっていう事自体は無茶苦茶ですけど,視野を広げた活動にできるかもしれませんね」

先生「あのお店ね,まだあるよ.けど,ダメなんよ,そういうのは」

私「え! ダメなんですか? じゃあ,もうちょっと遠目のところにもパン屋がもう一軒ありますよね.駅のロータリーのところの.そことかは?」

先生「いや,ダメなんよ」

私「なんでですか?」

先生「あのさぁ,今まさに,さっき君が言ったこと,まるっきりそのまま同じ内容で俺も提言したんよ.ホント,まるっきり同じ内容で.でもダメなんよ.どうやら,大学が独自でパンを焼いて提供したいらしいんよね」

私「誰がそのパンを焼くんですか? パンを焼くための職員を雇うんですか? それとも,今いる人に,パンを製作する仕事が付加されるんですか? まさか,そこに教員を置いたりしないでしょうね.『焼きたてパン担当』とか出来るんですかね」

先生「まだ分からん」

私「あれって,食品を扱うことになりますから,いい加減な体制ではやれないはずですよね.結構な勢いで面倒だと思うんですけど.それに,そんな予算があるなら,もっとマシな事してくれって感じですね」

先生「ホントそうだよ.完全にデタラメな発想なんよ.もっと真剣に大学の将来を考えてくれって思うよ.頭の中が,まるっきりバブル脳なんだよね.失敗しても次があるって本気で思ってるんだよ.でもさ,もはや失敗が許されるような時代でも事態でもないんよ.そういうことが,あの人達は分かっとらんよね.けど,あの人達はこれで別にいいんやろ.自分たちが定年退職する時までは,まずもって大学は潰れたりしないから,それまでは面白おかしく運営してやろうって思っとるんよ.俺ら若い教員からすれば,たまったもんじゃないよね」

私「そのパンって,学生に買わせるんですかね?」

先生「そうでしょ」

私「もういっそのこと,学生にはパンを無料提供すればいいんじゃないですか?」

先生「ローマだね.パンとサーカス」
パンとサーカス(Wikipedia)

私「ええ,そうです.そこまでするなら,いっそのこと古代ローマにならうんですよ」

先生「サーカスに相当するものは何にするの? 1号館の玄関ホールで,学長と事務局長の殴り合い?」

私「とりあえず今はパンのことだけ考えるとしても.朝限定で,パンを食べ放題にするんですよ.つまり,朝食を大学で無料または格安提供するってことです.これ,既に○○大学(私たちの出身大学)がやってることなんですけどね.そしたら,朝食をしっかり食べる食育事業にもなるし,1限目から出席させるための呼び水になるし,これに加えて,学生主体の早朝イベント,例えばスポーツとかラジオ体操とかコンサートとか勉強会みたいなイベントをやれば,全国的に自慢できる取り組みになるかもしれません.何人かの教員で,この活動を使って研究してみたらいいんじゃないですか.少なくとも,紀要にはなりますよ」

先生「いいね.そこまでするなら,もっとローマに近づけるために『テルマエ』を作ってもいいかもね.もともと大学っていうのは,そういうところなんだと思うよ」



「焼きたてパンの大学」
その後どうなったか,続報が入りましたらお知らせします.

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