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大学教員のための「学生の評価」のあれこれ

出身高校で評価するのは論外としても


なかには入試方式で,学生の実力や潜在能力,人間性や性格の良し悪しまで評価しちゃう教員がいます.
※入試方式っていうのは,一般入試とかセンター利用入試,AOとか推薦といったことを指します.


ただし,大学教員による「学生の評価」というのは,たいてい一致します.
「あの学生いいね」「あの学生はダメだね」といった話題では,「ですよねぇ」という同意と相槌がうたれるものです.

これはレポート評価や論文評価でも同様で,細かいところで差異はあっても,採点結果が大きく異ることはありません.


しかし,なかには,
「え? そうですか? 私は違うと思いますけどね」
という判断になることも.


自慢になりますけど,私にそういう判断をさせたら,たいてい「当たる」ことが多かったんです.
他の先生方が「あの学生はいいよ」と言っても,「いや,それは違うだろう」って思ってたら,やっぱりそういう状態になったり.
逆に,「あの学生はダメだな」っていうのでも,「いや,結構良いと思うけどなぁ」って思ってたら,のちのち「ほれ見ろ,やっぱり大成したじゃないか」っていうことになりやすい.


以前,入試か何かのとき,他の先生達と休憩時間中にそんな話題になったことがありました.
そしたらその先生方,結構普通な勢いで,
「◯◯高校出身なのにダメだ」
とか,
「その学生はセンター利用だからいいよ」
とか,
「あの子はこっちの言うことを聞かないからダメだね」
などと言ってるんです.

当時20代と若かった私は,そこで変に意固地になってしまい,
「そういう学生の評価方法って,まったくアテにならないと思いますけどねぇ」
などと生意気な口を叩いておりました.

当時はなんとも思ってなかったけど,今になって思えば,そりゃその大学を辞めることになるわな,って感じです.
だって,28歳くらいの男が,50代や60代の大学教員に向かって,
「貴方たちの人間に対する評価は間違っている」
って面と向かって言ってたんですから.

異様だよね,やっぱり.
まあ,後悔はしてないけど.

今回は,そういう「学生評価」のなかでも,「ダメな学生」とレッテルを貼られがちなものを取り上げます.

「生意気な学生」は泳がせてあげよう


生意気であることと,無礼であることは違います.
少なくない大学教員は,この両者を混同しています.

学生の言っていることを,今一度しっかり聞いてあげましょう.
それは,たんなる無礼な物言いですか?
それとも,あなたに対して議論を仕掛けているのですか?
もしあなたに議論を仕掛けているのであれば,それは無礼に聞こえたとしても我慢してあげましょう.
その学生は「生意気」なだけです.

ちなみに,私としては,たんなる無礼者は厳罰に処すべきだと思っています.

自分自身が生意気だったから,というわけではないのですが,少なくない大学教員が受ける「この学生,生意気だ」という評価は,放置して問題ありません.
むしろ,こういう学生はそのまま大学で泳がせてあげれば,かなり高い確率で大化けします.

生意気な学生は,本人には自分が生意気である自覚はありません.
その学生は,大学という場で求められる「学術的な議論」をしようと必死なのです.
その成長過程にあると言っていいでしょう.
不十分な論理から断定的な物言いをしがちであり,だから生意気な口をきいているように聞こえてしまうわけ.

泳がせるといっても,身がしまって脂ののった学生にするためには,対峙する大学教員としてはその学生を論理的に叩きのめしてあげましょう.

決して「お前は生意気だ」などと,そういう側面から叱ってはいけません.
そんなことすると,コミュニケーション能力の高い,なんともつまらない人間になってしまいます.

学生が意を決して「学術的な議論」という土俵にのってきたのですから,そこで大学教員がやるべきことは,豪快に上手投げをかましてやるか,はたき込んで実力差をみせつけるべきです.



「ノリが悪い学生」は普通に接しよう


昨今の大学では,「高校化している」と称されるほど,学生たちを集団の輪の中にいれて機嫌を伺い,そして仲良しこよしで協調させたがります.
そこで好まれるのは,集団の結束力を高める能力を持った「スクールカースト上位」のノリの良い学生でして,まさに高校化というのは的を射ています.
そんな風潮ですから,勢い,大学教員側も「ノリ」を大事にしたがる人が現れます.

そんな中で「ノリが悪い学生」がいると,大学教員たちは,
「あの学生はこちらの指示を聞かない」
「主体性や積極性がない」
などと評価したがるのです.

一昔前のオッサンたちが,
「最近の若いもんは指示を出さないと動かない.指示待ち族だ」
などと言ってたのと類似しています.

でも,よくよくそういう学生と話をしてみると,実は結構しっかり「大学生」をやりたがっていることが多いのです.
むしろ,この高校然とした大学の状態に,「コレジャナイ感」を感じていたりする.

そんな典型的な学生とのやり取りについて,以前記事にしたこともありました.

どんな大学にも,こういうちゃんとした学生がいます.
教員としてそんな学生のためにできることは,普段の授業や会話を通して,しっかりアカデミックな考え方を見せてあげることです.
教員自身の専門を介して,モノの考え方を実演してあげることなのです.
見ている学生はちゃんと見ています.


「変な学生」はツッコミを入れてあげよう


まあ,これはちょっと難しい対応方法かもしれませんけどね.

たまに,学内でもちょっと浮いている学生がいます.
大学教職員はもとより,学生同士でも「あいつヤバイよ」「おかしくない?」って陰口を叩かれてる奴です.

私が受け持った2年次ゼミ(初年次ゼミの延長みたいやつ)にも,そんな「変な学生」がいました.

2限目の授業なのに,いつも寝坊してくる.
長い髪は金髪に染め上げ,モヒカンに似たなにかの髪型.
常に革ジャンと革パンというファッションで,ピアスも開けまくっている.
パッと見は,どっかのビジュアル系ロックバンド.
そんな男子学生がいたんです.

まあ,たいていの先生方が「こいつダメだな」と言ってました.
その大学って,結構「ハイソ」で「硬派」な学生が入学する傾向にあったので,なおさら浮いてました.

でも,私はこいつのことが好きだったんです.
だって,考えてることが面白いから.

だから,私はいつも彼に対して寝坊やファッションのことでツッコミを入れていました.
彼自身,自分が浮いている自覚があったようだし,それでも自分のスタイルを曲げたくないってことで悶々としたところがあったのでしょう.

こういう学生には,笑いを提供することが大事です.
決して「バカにする」わけではなくて,あくまでもツッコミです.
「今日のそのレザーは何革なんだよ」
とか,
「その髪,セットに何時間かかった? だから遅刻したんだろ」
とか.
それにより,彼の特殊性を認めた上で,居場所ができるからです.


ある時,そのゼミの企画で,自分が将来やりたいことと,専門ゼミ選びについてプレゼン形式の発表会をすることがありました.

で,その彼もやったんですけど,全然ダメでしたね,プレゼン技術は.
でもね,言ってることは面白いんです.
やりたいことも明確で,そのことについて並々ならぬ情熱を持っていることは伝わりました.

で,3年次からのゼミ選びをする時期になったんですけど.
こいつ,希望日提出の日程を間違えてまして.間抜けですね.
んで,締切後に慌てて担任である私に「なんとかできないですか」と相談に来ました.

私は,彼が希望するゼミの先生のところに一緒に行って,
「締切後ですが,なんとかこいつをゼミに入れてやってください! 決して悪いことにはなりませんから!」
と懇願しました.
土下座まではいかないけど,それに近いことした感じです.

その先生は,彼の風貌の特殊性もあって快く思ってなかったですけど,評価は1年後から一変したんです.
「先生,あの彼,素晴らしいですよ!」って報告してくれました.

でしょ?(ニンマリ)
って感じです.

こういう学生を伸ばさないのは,日本の悪いところだと思います.
ちなみに,残念ながら,彼を受け入れてくれたゼミの先生というのは,ヨーロッパ系の外国人教員です.



「指定校推薦の学生」は褒めて伸ばそう


どっか別の記事でも話題にしましたが,大学教員の多くが「指定校推薦の学生」をバカにする傾向があります.
大学の先生方のなかには,学科会議とかでも露骨に,
「この学生は指定校だから期待できません」
などと言ってたりします.

失礼な話です.
自分とこから「そちらの高校で推薦できる学生を出してください」ってお願いしてるくせに,その学生を見下すとは.

高校側が推薦してくる学生を採用・入学させるというシステムですから,
「きっと,校内でも学力が劣る学生を送ってきているに違いない」
っていう思考が働くんでしょう.

たしかにシステム上はそのような傾向が見られるんですが....
私の経験からすれば,これは大学教育においてあまり重要ではありません.

そもそも,入試等で測れる「学力」の高さと,学術性の高さは似て非なるものです.

あ,思い出しました.
この記事で本件について述べたことがあります.

指定校推薦の学生,実はかなり優秀ですよ,っていう話です.

実際のところ,この指定校推薦の学生自身,自分たちが教員から「期待されていない」ことを知っています.
高校と大学の間での取り交わしの結果,自分がその大学に入学できたことを,「自分の実力とは異なるところで決まった話」として受け止めているんです.

しかし,高校の先生もバカではありません.
指定校推薦として推薦する生徒は,それなりに魅力のある生徒を選んでいるものです.

以前,授業へ積極的に参加する学生がいて,その彼のおかげで議論や発表が活発になされていました.
とても優秀な学生だなぁと思っていたんですけど,ある時,その学生とサシで話すことがあって,そしたら彼はその時,
「でも僕,指定校ですからね.やっぱり普通に入った皆と違って,授業の点数とか全部低いし,ダメなんすよ」
などと口走っていました.

「S」つけてやりました.

こいう学生には,大学とは何を学ぶところなのか,しっかり伝える必要があります.
そうでないと,もったいない事態になってしまいますので.

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