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39:2013年2月8日

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2013年2月8日(金)17時20分

 結局、西崎祐実の父親からのクレーム事件は、岩崎学長代行による、学生及び家族への謝罪にまで発展した。

 西崎祐実の父親の訴えによれば、娘を学費全学免除でテニス部に預けるという話で入学を決めたとのこと。
 もともと、西崎祐実はジュニアテニス時代から注目されていた選手で、本人とその家族としては大学では選手活動をせず、高校からそのままプロ活動をする予定だった。
 実際、多くのプロテニス選手はそのパターンである。
 それを藤堂道雄が、「青葉大学なら学費が全学免除になる。授業もほとんど受けなくても大丈夫」とうそぶいて西崎本人と保護者を勧誘した。
 兵藤学長体制になった今年度には、その学費、総額およそ500万円をどこかから調達するよう交渉していたのである。
 しかし、そうした予算は現在の青葉大学には無い、というのが当時の学長・兵藤からの回答だった。

 そもそも、スポーツや文化活動などによる学費免除の制度が青葉大学には存在しないため、それを教授会などで成立させる必要もある。
 どこの大学にもそういう制度があると勘違いしていた藤堂が、勝手に言っていたことだった。

 大学としては、もともと藤堂と西崎の父親との間だけで交わされた口約束だったこともあり、学費免除の要求をそのまま飲むことはできないという見解で通した。
 最終的には西崎の父親も、この点については自身の確認不足だったということで納得している。
 しかし、西崎祐実がテニス部として活動したこの4年間で、顕著な成績を挙げたこと。
 そして、その成績により大学の知名度アップにも一定の貢献があったことを考慮し、非公式・非公開での奨励金として、250万円を西崎祐実に授与することで決着をみた。


「藤堂先生、以後、このような軽率な学生募集はしないよう、厳重に注意しておきます。よろしいですね。これは本学理事会からの戒告として受け取ってください」
 学長室で岩崎貴将が厳粛に言う。

 会議用の長テーブルの一角に座っている藤堂は、岩崎の言葉に対し照れ笑いをしているように見える。
「へへへ、岩崎先生、大変ご迷惑おかけしました。まさか西崎の親がね、こんなに偏屈な人やとは思いませんでした。しっかしまぁ、えらい目にあいましたよねぇ」

「ちょっと藤堂先生、笑い事ではないんですよ」
 岩崎は真顔で藤堂を叱りつける。

 岩崎の隣には、事務局長の菅沼幹浩、学生課長の高石昇もいた。
 その2人も笑っていない。
 藤堂は、事態の深刻さをここで知った。

 藤堂は口を真一文字に結んで、頭を下げたが、その空気に耐えきれずに笑ってしまう。

 この藤堂への戒告処分は、教授会などで公表はされなかった。
 しかし、大学におけるペナルティとして記録には残っている。




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