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体育学的映画論「デスノート Light up the new world」

雨雲レーダーを見る必要もないほどの快晴.
朝一番.体育の授業をするため非常勤講師先の大学に到着したら,その大学,今日は全学休講日でした.

たまにこういうことをやらかします.あまりスケジュールを管理しない質なのです.

でも,午後からその大学の近くで研究会がありまして,今から一度帰るってのも面倒だと思いましたので,なんとか時間つぶしをしなければいけません.
その大学の近くの駅前に映画館があったので入ることにしました.

ゼミの学生たちが『君の名は』っていうアニメ映画の話をしていました.かなり繁盛している作品のようで,この際,せっかくなのでそれを見たかったのですが,なんせ “時間つぶし” のためにと思って見る映画です.選ぶこと自体が面倒なので,適当に入ったところでやっていた『デスノート Light up the new world』のチケットを買いました.
でもこれ,先週末から上映が始まった新作らしい.

原作である漫画は,大学院の頃に友人から勧められて読んだことがあります.実写ドラマだった『デスノート』も,去年Huluで見たことがあります.知ってる作品の続編を選択するのが吉だと思ったわけです.
そして平日の朝一.全然お客さんがいない中で見れました.

【以降,盛大にネタバレしますので,楽しみにしている人は要注意】

事前知識もなく,期待もせず,時間つぶしに見た映画です.
健康診断の日に,朝飯を食ってコーヒーもガブ飲みした血液検査の結果みたいなものと思って読んで下さい.

まずは総評.
とっても面白くありませんでした.

でも,私はただケチをつけるだけの評価で終わらしたくはありません.どんな作品であろうと,何かしら良いところや考察すべき点があるはずだと思って見るものです.
心の底から不快感を禁じ得なかった映画は,ハリウッド版『ドラゴンボール』くらいのものです.
スポーツとニーチェとドラゴンボール

ところで,卒論発表会とか修論発表会の場で「質問」をしてあげることが多い私ですが,聞くところによると,以前助手をしていた大学の学生同士では「発表会で◯◯(私)さんの手が挙がると戦慄」ということになっていたそうです.

私は怖がらせるつもりは全くありませんでした.せっかく学生が研究と発表を頑張ったんですから,少しでも実りあるディスカッションを起こしたほうが良いし,大学最後の記念にもなると思い,精一杯の優しさを振り絞ってあげていたつもりでした.いや,ホントに.
どんなに杜撰な研究であろうと,そこから何かしらの意義や価値を見出そうとすることに使命感を,否,天命感をもって臨んでいます.
というのも,私の時の卒論発表会では,ほとんど質問が出なかったんですよ.それがちょっぴり切なくて.

ですから,『デスノート Light up the new world』も「面白くない」で済ますのもかわいそうです.
せめて私なりの本作の楽しみ方をネタバレしながら考えてみたいと思います.

でもまずは,面白くない,つまらないと感じる理由から.
(1)クライマックスの大ドンデン返しが予測可能
実は物語の主人公・彼自身が「キラ」なのですけど,それが容易に想定できる状態でストーリーが進んでいます.バレバレってことではありません.なんたって “デスノート” ですから.こちらも「もしかするとそうじゃないか」と構えて見てるわけで.
なので,「へぇ〜,そうなんだぁ」っていうリアクションしか起こせません.とても困ります.

(2)説明が多い
デスノートって複雑で膨大な設定が用意されています.その続編なのだから仕方ありませんが,物語全体を通して「デスノート」におけるルールや掟に関する説明が多いです.
映画にする題材ではなかったのかもしれません.連続ドラマとかの方が良かったかも.

(3)デスノートらしさがない
いわゆる頭脳戦っていうんですか.裏の裏をかくような策略合戦が見せ場のデスノートだったと思っていたのですが,それが全く出てきません.
ひたすらデスノートを使った殺人事件と,それにまつわる脅迫事件が展開されているだけの印象です.

(4)世界が震撼していない
「デスノート型犯罪」とでも呼ぶのでしょうか.そういう犯罪が「あれから10年経って」また始まったというのに,まるで世界が震撼していません.
秋葉原通り魔事件よりも小規模な扱いのようです.これならまだ地下鉄サリン事件の方が世界を震撼させました.
警察の対応もいい加減.もっと真剣に取り組むべきです.

(5)L・竜崎がイタい
これは役者さんか演出家か監督か,誰に責任があるのか分かりませんが,とにかく竜崎のキャラが空回りしています.一見,たんなるアホです.
大学にも,こういう意味不明な意識高い系の男子学生が必ずいます.そういうのに見えました.

(6)海砂の存在が雑
この映画のキーマンだと思っていたのに,えらく雑な扱いです.
もうちょっとエピソードに絡んでほしかった.


この作品,普通に見ていたら駄作です.午後11時以降に見ると眠くなります.
ですが,何度も言うようにどんな作品にも見るべきところがあるはずで,「ここを掘り下げれば感慨深く見れたかも」と考えられるところがあると思うんです.
週末のデートで勇んで見て2人してガッカリするよりも,以下を参考に話を盛り上げた方が有益かもしれません.

すなわち,
『デスノート Light up the new world』は,ここに着目して脳内補完しろ!
(1)竜崎は真性のアホだった
彼は天才的な頭脳を持った探偵ではない.ただのアホだった.アホだけど「ひらめき」とか「ノリの良さ」とかで運良くのし上がってきてしまい,でもそれが社会的害悪を及ぼすようになる,っていう存在のメタファーではないか.
そう考えると辻褄が合います.
クライマックスにて,全てのデスノートが揃ったところに日本政府の命令を受けた(?)強襲部隊が突入してくるんですけど,それを見て彼は,「国がノートを欲しがっている」と吐き捨てます.
当たり前です.終始,徹頭徹尾,この映画は「日本国とその警察がノートを確保するため必死で捜査している物語」だったはずです.いまさら何を言ってんだこのモジャモジャ頭は.
っていうか,なんでお前はそこから逃げてんだ? せっかくの騎兵隊の到着じゃないか.一刻も早くノートを突入部隊に渡すべきシーンのはずです.
つまり,彼は自分が何のためにそこに存在しているのか理解できていない.会社や組織にいると一番困る奴の典型です.
会議の場で激しく責め立てられたら,グレて誰の利益にもならないメチャクチャな事言いだす奴がいます.あれです.
TPP問題や,豊洲移転問題の暗喩として描かれているのかもしれない.
そういう象徴として彼は描かれているのではないか,そう思えば合点がいきます.

(2)海砂の性格の変容
20歳くらいの頃にキャピキャピ(←死語!?)していた女が,30近くになったら途端に地に足の着いた言動をするようになることがあります.
今作の戸田恵梨香さん演じる弥海砂は,それを厳然と見せつける存在だったのだと思うのです.
あんまり詳細は覚えていませんが,前作で彼女は(ある意味)かなり厳しいキャラでした.それがどうでしょう.今作で彼女はすっかり様変わりです.
ブリッ子だったかと思いきや,今じゃクールビューティーを演じている.そんな女性,私の身の回りにもいます.あれって女性は意識的にやってるんですかね.怖いですね.

(3)ロシア人医師のこと,時々でいいから,思い出してください
映画の冒頭に出てきたロシア人医師.名前は知りませんが,このオッサンの行動に「もしかしてこの映画,良作かも」って期待させられました.
デスノートの1冊がロシア人医師の手に落ちるんです.彼は患者である死にかけの爺さんを前に,思わずデスノートに爺さんの名前と,彼の静かなる死を書き込んでみる.すると病気に苦しむ爺さんは,安らかな眠りについたのです.
彼はその後,多くの自殺願望者に安らかな眠りを提供しました.これはデスノートでしかできないこと.ある意味,デスノートの正しい使い方です.
「人は人生をどのようにして終わらせるか」という考察が,本作の裏テーマではないでしょうか.デスノートは人の死に際を操れるわけですからね.これはノートの非常に重大な機能です.
実際,海砂はデスノートに自分の名前と,不可能だと分かっていながらも「夜神月の腕の中で死ぬ」と書いた.自己の死の演出.とても感慨深い話です.でも,上述しましたが,彼女の扱いが全般的に雑でした.
昔,『王様のレストラン』というドラマがありました.そこで松本幸四郎さん演じる一流のギャルソンと呼ばれる人物がこんなことを言います.
「一流のレストランには,超一流のパティシエがいる.料理の最後に登場するデザートが,客にそのレストランの印象を決めさせるからだ」
私はこの言葉が子供ながらに強烈な印象として残っています.
今作でも死神の一人が「人間を助ける」というルール違反を犯して消滅,砂になってしまいます.過酷な掟のようですが,実はそうではない.
死神にとっての死とは,すなわち自らが納得した行動によるものに限られることを意味します.これは,考えようによっては最も幸せな最後だと思います.