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それなりの出来だった『ターミネーター:ニュー・フェイト』

体育学的映画論『ターミネーター:ニュー・フェイト』


本日公開の映画,ティム・ミラー監督 『ターミネーター:ニュー・フェイト』を見てきました.
ターミネーター:ニュー・フェイト(公式サイト)

ターミネーター役であるアーノルド・シュワルツェネッガーはもちろんのこと,主人公の一人としてサラ・コナー役にリンダ・ハミルトンが抜擢されたことが話題となっています.


私個人的な感想としては,劇場で見るだけの価値はありました.
つまり,1800円を払って大画面&高音響環境で楽しめる映画です.

「ターミネーター2からの正統な続編」
と銘打って製作されたようですが,あまりそういうことを意識しなくてもいいかと思います.

ただ,これまでの過去3作品である,『ターミネーター3』『ターミネーター4』『ターミネーター:新起動/ジェニシス』は無かったことになっている世界です.
これら3作品のことは忘れて見る必要があります.

日本公開は本日11月8日からですが,アメリカでは11月1日から公開されています.
そのアメリカでの現時点での興行収入について,以下のような映画ニュースも出ているようです.
『ターミネーター』新作、首位デビューも苦戦(シネマトゥディ2019.11.5)
首位は死守したものの、不振に終わったシリーズ5作目『ターミネーター:新起動/ジェニシス』のオープニング興収(2,701万8,486ドル・約30億円)とほとんど変わらない興収しか上げられず、苦戦している。
Varietyによると製作費は1億8,500万ドル(約204億円)であり、ここから驚異的な巻き返しを見せない限り1億ドル(約110億円)の損失になりそうだという。

私がさっき見てきた映画館も,お客さんはほとんど入っていませんでした.
上記のニュースが影響しているのかもしれませんね.

どうして興行収入が振るわないのか?
その理由は後ほど分析してみますが,現時点でのウィキペディア情報によると,アメリカの映画評論家たちからの評価は悪くないようです.
本作は批評家から好意的に評価されている。映画批評集積サイトのRotten Tomatoesには268件レビューがあり、批評家支持率は71%、平均点は10点満点で6.2点となっている。(ターミネーター:ニュー・フェイト Wikipedia)


以降,映画の内容に触れながらの解説になってしまいますが,できるだけ確信的なネタバレにならないようにしたいと思いますし,本作を見る前に読んだとしても,この映画の面白さが変わらないよう気をつけて書きたいと思います.



なんだかんだでマンネリ気味


上述したように,アメリカでは興行収入が期待通りになっていないみたいですね.
まだまだ公開間もない作品ですから,今後その様子も変わってくる可能性はありますが,その低調の原因はやっぱり「ターミネーター」の映画としてマンネリ気味であるところです.


この手の映画を好んで見ている人,ましてターミネーター・ファンであれば,ストーリーがすべて事前に推測できてしまいますし,その予想を全く裏切らない展開になっています.

この「予想を裏切らない」というのを,どのように捉えるかで賛否が分かれます.

なので,
「ターミネーター2と同レベルの感動をもう一度味わいたい」
と思っている人からすると,その期待は裏切られるかもしれません.

しかし,ターミネーターシリーズ6作品のなかでは,『ターミネーター2』に続く出来であると思います.
つまり,「ターミネーター2の正統な続編」であることは確かなようです.

ターミネーターらしさのある映画ならOK,と考えている私のようなタイプであれば,十分に満足できる映画と言えます.



液体金属タイプのターミネーターのアイデア不足


中でも特にマンネリ感と残念感が強いのが,液体金属タイプのターミネーターのアクションです.
いろいろなアイデアや映像技術を駆使して頑張っているんでしょうけど,「ターミネーター2」のロバート・パトリックが演じたT1000型以上の驚きを得ることはできません.

ちょっとSFが得意な人が見てしまうと,あれだけ液体金属で自在に身体を操れるなら,もっと効率よく攻撃する方法があるだろって思っちゃうわけで.
(例えば,100m以上の針を作って遠距離攻撃するとか,辺り一帯に身体の一部を張り巡らせてオールレンジ攻撃するとか)

本作では「スカイネットが阻止された別世界」になっているのですから,そのあたりをリセットした方が良かったんじゃなかいかと思います.
これだと,『ターミネーター3』と『新起動/ジェニシス』の掛け合わせのような敵役にしかなっていませんから.

特に,本作ではアーノルド・シュワルツェネッガー演じるターミネーターが「あぁいう状態」になっているのですから,初代ターミネーターのようにロボット色の強い殺人マシーンを登場させて,その対比を見せてほしかったところです.


映画の冒頭に,若き日のサラ・コナー(リンダ・ハミルトン)と,ジョン・コナー(エドワード・ファーロング)が登場し,ジョンは速攻で射殺される


映画の冒頭に,何かの映像技術を使って,若き日のリンダ・ハミルトンとエドワード・ファーロングが登場します.

「おおぉ,これすげぇ」
って思いました.
それだけですが.

しかも,そのシーンというのがジョンがターミネーターに殺されてしまうというものなんですね.
何かの映像技術やそっくりさんを使って作っているためか,あっさりしたシーンです.

前作(つまり,ターミネーター2)であれだけ必至に逃げ回って戦ったのに,
「審判の日を防ぐことを見届けたら,直ぐにジョンは殺されていました」
という背景が本作にはあります.
この点は,「ターミネーター3」のサラとジョンを入れ替えた設定なのかもしれません.


でですね,本作の賛否が分かれそうなポイントが,このジョンを殺したターミネーターだと思うんです.

状況があまりに現実離れし過ぎているし,ターミネーターが本当にそんな「劇的ビフォーアフター」になるのか怪しむ人も多いのではないでしょうか.

でも,私は帰りの電車のなかで本作を反芻してみて,あのターミネーターの設定は有りなんじゃないかと思ったんです.

本作のアーノルド・シュワルツェネッガーのターミネーターは,目立つように脚を組んでイスに座っていたり,首や目線をしきりに人間らしく動かします.
これまでのシュワちゃんは,ターミネーターを演じる際にそのあたりを注意して「やらない」ことで「ロボットらしさ」を演じていたので,今作の演技は明らかに「ワザとそうした」演技だと思われます.





ジョンを殺したターミネーターは,「カーテン屋」を営み,「結婚」していて,「一児の父」


もちろん,ターミネーターに生殖機能はありませんので,女性の連れ子です.

彼はジョンの抹殺に成功した後,やることが無くなったのでカーテン屋を営むようになり,しかも適切な営業をしているようで評判は上々.
彼が熱心に語る「子供部屋にふさわしいカーテン論」は,まるで人工知能が発達した先にあるAmazonとか楽天の「客の嗜好に合わせた商品アドバイス・プログラム」のようにも聞こえます.

さらに彼は,DV男に悩んでいた女性と赤ちゃんを救って,その女性と事実婚.
連れ子である赤ちゃんの面倒もしっかり見て,一人前に育て上げていました.


そんな彼のジョン抹殺後の存在理由は,どうやら「人間に近づきたい」というものだったようです.

印象的なセリフがこちら.
登場人物の一人が,ターミネーターに問いかけます.
「あなたは自分の家族を愛しているの?」
それに彼はこう答える.
「人間ほどには愛せないようだ」

このセリフ,めっちゃ深いと思うんですよ.
なぜなら,「人間ほどには愛せない」と答えている時点で,ターミネーターは「愛(家族愛)」がなんなのかを理解できているわけですよね.

これは『ターミネーター2』のラストに出てくる,
「人間がなぜ泣くのか分かった.私に涙は流すことはできないが」
の続きということでしょう.


この映画は,「特定の人間(ジョン)を抹殺する」というミッションを完了した人工知能が,何もすることが無くなったら何をするのか思考実験したSFと言えます.

ターミネーターが選んだ自主的なミッションは,人間を理解することだったのです.

その後の彼は,抹殺したはずのジョン・コナー(人間)を合言葉にした行動を続けます.
ターミネーターにとって特別な人間は,抹殺対象であったジョンであり,ジョンを愛していたであろう母サラを陰ながら支援することが,人間を理解することにつながると考えたからでしょう.

つまり,ターミネーターは「ジョンを抹殺せよ」というミッションを終えた後,
「なぜジョンを抹殺しなければいけなかったのか?」
という問いを自らにかけてみたのだと思います.

こうして人間への理解を進めたターミネーターは,人間のような口調でしゃべり,人間のようなしぐさをし,人間の「愛」を理解するまでになったのです.


強烈なメキシコ押しは,現政府・トランプ批判か?


本作を見た人が真っ先に思ったはず.

この映画,やたらメキシコ押しが強いなって.

舞台もストーリーも登場人物たちも,なにかとメキシコ由来,メキシコ押し,メキシコ上げなのが今作です.

アーノルド・シュワルツェネッガーはトランプ大統領と同じく共和党です.
あとは個人的な部分で反目している可能性があると思い,シュワルツェネッガーとトランプ大統領の関係をウィキペディアやネットニュースで調べてみたんです.

そしたら,こんな記述がありました.

まずはウィキペディア.
ドナルド・トランプ大統領に、トランプの後任として2017年の1月からシュワルツェネッガー自身がホストを務めるリアリティ番組「アプレンティス セレブたちのビジネス・バトル」について低視聴率を揶揄する発言をされているが、それに対してツイッターで大統領と司会者の職を交代するよう提案(皮肉)している。同年3月、視聴率は低迷し、シュワルツェネッガーの番組からの降板が発表された。■アーノルド・シュワルツェネッガー(Wikipedia)

次にネットニュース.
先日、ドナルド・トランプ米大統領が非白人の民主党女性議員に「国に帰れ」とツイートしたことを挙げ、「私は国に帰らず、この国に留り、より良くしようとしています。私に言わせれば、このような行動こそが、アメリカを偉大なものにしているのです」と発言した。2003~11年にカリフォルニア州の州知事を務め、トランプ大統領の政治姿勢に批判的なことで知られるシュワルツェネッガーが、この場でもジャブを繰り出した格好だ。

あぁ,やっぱりね.


リンダ・ハミルトンがキマってるね


「次回のターミネーターは,ババアのリンダ・ハミルトンが出演する」
と聞いた時,ちょっと不安でした.

ジジイのシュワルツェネッガーは類似作品にたくさん出ているので大丈夫だとしても,リンダ・ハミルトンはターミネーターシリーズの肝である「強い女」を演じられるのか?

そんな不安を一蹴する,完璧なサラ・コナーでしたね.
実際,こんなにカッコいいババアを見たことがない.


逆に,前回作の『ターミネーター:新起動/ジェニシス』のサラ・コナー役だったエミリア・クラークは,あのお嬢様の雰囲気がサラ・コナー感を消していたので残念でした.
これはエミリア・クラークが悪いわけじゃありません.
サラ・コナー役にキャスティングしない方が良かったよねって話です.

気合いの入ったリンダ・ハミルトンを見るだけでも,この映画を見る価値はあると言えるでしょう.


デートムービーに使ったときに彼女に語れる本作の薀蓄集


最後に,本作『ターミネーター:ニュー・フェイト』をデートムービーにしたい男子に送る,鑑賞後のカフェで彼女に語ることができる薀蓄集をご紹介します.

(1)今回のタイムスリップの演出は「凍結」
過去のターミネーターシリーズでは,タイムスリップにおいては周囲が高温に曝されて炎上するものでした.
しかし,今作では一転して「凍結」するのです.

これは,映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のタイムマシンの演出と同じで,エネルギー保存の法則を採用したものです.

エネルギー保存の法則とは,
「力学的、熱、化学、電気、光などのエネルギーは、それぞれの形態に移り変わるが、エネルギーの総和は変化しない(保存される)」
というもの.
一方で高温の状態が作られると,その反対では低温状態が作られるという物理現象のことです.

『バック・トゥ・ザ・フューチャー』では,タイムスリップしたあとのタイムマシン・デロリアンの周囲は凍結し,氷が張り付いている演出がされていました.

本作では,このバック・トゥ・ザ・フューチャーにおけるタイムスリップの演出をオマージュしたものと考えられます.


(2)未来から来た強化兵士グレースの元ネタは「ユニバーサル・ソルジャー」
未来の強化兵士といえば,映画ファンであればすぐに思いつくのが『ユニバーサル・ソルジャー』.
それなりに有名な映画で,ベトナム戦争で死んだ兵士を保存しておき,未来の超技術で強化兵士へと生まれ変わらせるというもの.
主演ジャン・クロード・ヴァンダム,敵役としてドルフ・ラングレンの映画です.

この強化兵士の戦闘能力は高いのですが,定期的なメンテナンスが必要で,放置しておくと体温が高くなってしまい,氷漬けにしなければいけない設定でした.
多分この設定をオマージュしたものと思われます.


(3)シュワちゃんのターミネーターが老け込んでいる理由は前作『新起動/ジェニシス』で説明されている
ターミネーター2と本作だけ見た人は,
「ロボットなのに,なぜ老けているのか?」
と疑問に思う人もいるでしょう.

たしかに,本作ではこの点について説明もなくスルーされるので,
「ちゃんと若作りのための特殊メイクをするべきでは?」
と思ってしまう人が出てくるかもしれません.

しかし,前作の『新起動/ジェニシス』でこの説明がされています.
つまり,ロボットの内部は変わらない(劣化はする)が,体表を覆っている細胞構造は通常通り老化現象を起こすというものです.


(4)テキサスは銃所持のハードルが恐ろしく低い
劇中において,シュワルツェネッガー演じるターミネーターが,「来たるべき時のため」と言って重火器を自宅に所持していたことについて,
「しかも,ここはテキサスだ」
と言います.

これは,テキサス州における銃所持のハードルが低いことを揶揄しているのです.

アメリカにおける「銃乱射事件」と言えば,テキサス州です.
悲惨な銃乱射事件が頻発するのですから,銃の所持に規制がかかるのかというとそうではなく,なんと2019年のテキサス州では「銃所持の規制緩和」が実施されました.

銃乱射事件が続くテキサス州で、規制緩和が進むのはなぜか?(ニューズウィーク 2019.9.3)

理由は簡単.
「相手が強力な銃を持ってくるなら,こっちもそれに対抗できるよう重武装をすればOK」
という理屈が通るのがテキサス州なのです.
その発想についてこれないなら,テキサス州から出ていけばいい,というスタイルです.

ちなみに,本作主演のアーノルド・シュワルツェネッガーは州知事をやっていたこともある政治的な映画俳優ですが,アクションスターであり共和党員であるにも関わらず,なんと珍しく銃規制論者なのです.
「ここはテキサスだ」
のセリフには,銃規制論者であるシュワルツェネッガー氏の想いが込められているのかもしれません.