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ウイルスによる文明崩壊を楽しめる方法

この世界が消えたあとの科学文明のつくりかた


今,世界が新型コロナに湧いています.
秘境の地である私の自宅では,完全に対岸の火事状態ですが.


そうは言いましても,人との接触が完全にゼロなわけではありません.
頑張って感染しようと思えば可能です.

統計学的に考えれば,そのうち近所(半径1kmの距離になっちゃうのだが)でも何名か新型コロナにかかったと言い出してもおかしくないはず.
気長に待ちましょう.


さて,今回は「ウイルス性の文明崩壊」が発生したことを妄想して楽しむ本を紹介します.

ルイス・ダートネル 著『この世界が消えたあとの科学文明のつくりかた』.


まだ東京にいた頃,池袋のジュンク堂で思わず購入してしまった本です.

どっかのSF作家がエンタメ色をつけて書いたものじゃなくて,実際に起こり得る文明崩壊からの生き残り方と,そこから科学文明を再興する方法について,本職が科学者である著者がシミュレーションしています.


実はこうした分野において「きちんと科学的かつ現実的にシミュレーション」したものってあまりないんです.
映画や小説であれば,どこかでご都合主義的な設定があったり,科学考証が行き届いているわけじゃないから,どうしても矛盾した設定が散見されるもの.

そんな「設定」について,本書では敢えて最初から「文明崩壊する上で最も都合のいい大破局」が選ばれています.

世界的自然災害とか,隕石衝突とか,核戦争なんてものが起きたとしても,それらは人類にとって「再起不能の大破局」です.

もっと都合のいい破局はないか?

本書ではそれを,
「世界の最善の終わり方」
と称して定義しています.

人類にとって最善の大破局は,ダートネル氏によればズバリ,
「パンデミック」
です.

感染率が高く,潜伏期間が長く,猛毒性のウイルスがパンデミックを起こせば,人類は都合良く大量死するものの,これまた都合よく僅かな人数は必ず生き残ります.
しかも,現在のインフラをある程度残したままで.

これこそが,生き残った人々が「文明再興」を楽しめる条件なのです.
そして,本書はそういったケースを想定した「文明再興の書」として書かれています.

では,以下にその内容をかいつまんでご紹介しましょう.




文明再興・第1段階:都市を捨てて,田舎に引っ越せ


人類がパンデミックによって猛スピードで大量死する状況において,都市にいることは自殺行為です.

高い人口密度による感染機会,パニックや暴動,社会サービス(警察,消防,医療など)の崩壊による危険が待っています.
特に,消防が機能しなくなった都市は非常に脆いと考えられます.
あっという間に街は火の海になり,まるで絨毯爆撃を受けた都市のよう.
とてもじゃないですが住める場所ではありません.

もちろん,火災が収まってからも危険です.
都市は,定期的なメンテナンスを受けているからあの状態が保てています.
もしメンテナンスをせずに2〜3年もすると,誰も管理しないのでビルのバランスは崩れ,植物による侵食を受けることで風化・劣化は超速で進みます.
そこら中で崩落の危機です.

例えば東京都心であれば,あの土地は地下水を常にポンプを使って排水することで,あのコンディションを保っています.
もし「大破局」によってその管理人がいなくなれば,あの土地は繰り返される小さな地震によって見るも無惨なものになるでしょう.

とりあえず都市は捨てる.
これが文明再興の第一歩です.


文明再興・第2段階:食料・衣服・医療品・燃料をかき集める


本書が想定している「人類にとって都合の良い大破局=パンデミック」では,猛スピードで大量の人が病死します.
そのため,実は食料,衣服,医療品,燃料(エネルギー)といったものに困ることはありません.

生き残った人類が,その寿命を終えるだけの期間分の量は確保できているのです.
例えば食料であれば,缶詰めなら人の一生分の保存がききますし,衣服は街を探せば落ちています.
医療品も使い切っているわけないので,街が崩壊する前にこれらをかき集めておきましょう.

都市部からそれほど遠くない田舎に居住地を構えれば,あなたの毎日の仕事は,
「都市へ備品をあさりに行く」
になります.

間違っても,田畑を耕して,薪を割るような日々にはなりません.
それはSF映画の見過ぎです.


文明再興・第3段階:科学的方法の保存


科学文明の再興なのですから,人類がこれまでに培ってきた「科学」を保存しておくことが重要です.

第1段階と第2段階は,所詮は「生き残り方」に過ぎません.
それでも十分に楽しめるとは思いますが,これだけだと「人類」としては行き詰まります.

生き残った人類の世代はよくても,その後の世代は「科学」を知らないし,そもそも缶詰めがなぜ出来ているのか,抗生物質がどうやって作られているのか知りません.
具体的に言えば,「教育」ですね.

でも,こうした科学的方法を「パンデミックを生き残った人類」が全て知っているわけがありません.
科学はそれぞれに専門家がいて,その専門家にしたって本人が持っている知識や研究情報の量はしれています.

ですから,科学的方法にアクセスするための媒体を確保しておかねばなりません.
すぐに考えつくのは「図書館」
電子メディアを再起動させることができる技術を持っている人がいるなら,最優先で取り掛かりましょう.

しかし,これだけでは不十分です.
科学的方法には,「知識」や「理論」だけでなく,もっと重要な要素が必要なのです.

それは「議論」です.
その議論をするためにも,以下のことが大事です.



文明再興・第4段階:人口を増やす


これが科学文明の再興にとって最も重要です.
科学は人口が増えなければ発達しません.

「三人寄れば文殊の知恵」と言いますが,これは言い得て妙.
科学の発達には,適度に多い人口と,社会経済的構造が必要とのこと.

つまり,科学の事を考える人間の数と,より発達した科学を使うことで経済が成り立つ社会が存在して,初めて人は科学を発達させようという気になるからです.

もし「科学文明を再興しよう」という気があるのなら,人口を増やすためのアプローチを生き残った人同士で考えなければなりません.

人口が増えるわけですから,より多くの食料,衣服,医療品,燃料が必要になります.
必然的に,これらを生み出す科学とテクノロジーの確保も必要になってくるのです.


逆に,そんな気がそれほどないのであれば,実は人類はここからSFファンタジーな世界に突入します.
生き残った人類の世代が死に絶え,そこから何十年か経てば,そこはまさに「スチームパンク」と言われる世界観.

ガソリンや軽油を使い切ったあと,内燃機関に代わって蒸気機関が主力で使われている一方で,電気を起こす技術はあるのだから電子製品も活躍中.
蒸気機関で作った電気で充電したiPhoneを,電卓,ライト,カメラ機能だけ使っているのがその世界かもしれません.
そんな時代では,DVDやMP4で保存されている動画データを探し回る仕事もあるかもしれませんね.


  


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