注目の投稿

大学教育も民族・国家も「第2ファウンデーション」が大事

アイザック・アシモフの『ファウンデーション』シリーズ


タイトルで意味不明だと思われたかもしれません.
今回は,ここ7年くらいずっと書きたいと思っていたのに放置していた話をします.
7年というと結構長いですが,なかなかタイミングがなくて.

アイザック・アシモフ著『ファウンデーション』シリーズです.
これについては,先日の記事でもちょっと取り上げたのですが,せっかくなので,この機会に詳細を書いておこうと思い立ちました.

先日の記事はこれ↓


タイトルにあるように,この「ファウンデーション」は大学教育を考える上で有益な示唆を得られます.
そしてそれは,民族や国家といった政治についても通じるのです.


なお,「ファウンデーション」シリーズは,早川文庫のSFで刊行されています.
   

SF小説としては「超」がつくほどの有名作品で,銀河をまたいだ宇宙もののはしりです.
「ファウンデーション」以外にも,「銀河帝国の興亡」「銀河帝国興亡史」というタイトルで知っている人も多いでしょう.


長編小説ですので,あらすじを解説するのが難しいのですが,この小説で特に重要なのは「ハリ・セルダン」という科学者と,そのハリ・セルダンが提唱する「心理歴史学」です.

この「設定」について理解してしまえば,ファウンデーションシリーズの魅力を半分は堪能したことになります.

最近,このファウンデーションと「ハリ・セルダン」「心理歴史学」の解説をしているYouTube動画を見つけました.
ファウンデーションの重要設定について,サクサクっと理解したい人はこちらをどうぞ.

この動画内でも紹介されていますが,実は「ファウンデーション」をApple社がドラマシリーズとして製作していることが発表されたようです.
このニュースは,「噂」の段階では2年前からありました.
本当かなぁ,ホントだったらいいなぁ,と思いながら今に至りましたが,どうやらAppleは本気のようです.
ドラマの完成がとても楽しみです.


動画を見るのが面倒だという人のために,簡単に「ファウンデーション」を解説しておくと・・・,


人類が宇宙へと進出し,銀河帝国を築き上げて1万2千年が経過した時代が舞台です.
その繁栄の頂点を極めた時代に,ハリ・セルダンという一人の研究者が現れ,「心理歴史学」という研究分野を開拓.
心理歴史学による推定で,「92.5%の確率で,5世紀以内に銀河帝国は崩壊する」ということが判明します.

さらに,この銀河帝国が崩壊すると人類の文明も完全に失われてしまうため,もう一度人類が文明を興すまでに3万年かかることも判明します.

しかし,人類が作り上げてきた文明を「百科辞典」のように記録・保存しておけば,3万年かかるところを千年に短縮することが出来るとハリ・セルダンは言います.

そこでハリ・セルダンは,この「銀河百科辞典」の編纂業務をするための財団(ファウンデーション)を設立することを提案し,実行に移します.
ファウンデーションは2つ設置され,それは「銀河の両端」にあるとされています.
これが「セルダン計画」として,その後の人類の,世代をまたいだ事業となるのです.

当然,こうしたファウンデーション事業を快く思わない人たちがいます.
それは,ファウンデーションそれ自体を,自分たちの脅威と見做す銀河帝国.
ファウンデーションが金儲けの種になると考える野蛮人.
酷いルサンチマンを抱えた破壊者などなど.

2つあるうちの第1ファウンデーションは,帝国や野蛮人の攻撃を振り払うことができましたが,人の精神を操る能力を持った突然変異体(ミュータント)の「ミュール」によって征服されてしまいます.

しかし,もう一つの第2ファウンデーションの所在は不明なまま.
ミュールは,第2ファウンデーションが脅威だと考え,その捜索をはじめます.

そうこうするうち,ミュールは突如として破壊活動を停止して,普通の政治家として治世し,最後は穏やかに死んでいきます.
そしてその後は,第1ファウンデーションもその活動を再開したのでした.

実は,ミュールが破壊活動を停止したのは,第2ファウンデーションの介入があったからです.
第2ファウンデーションは,破壊者ミュールと似たような,人の精神を操る能力を持った人々によって構成されていたのです.
これによって,ミュールは自分でも気づかないまま「排除」されます.

ハリ・セルダンは,第1ファウンデーションで「物理的な文明」の記録と保存を司らせ,第2ファウンデーションで「精神的な文明」の記録と保存を司らせていたのです.


・・・というのが「ファウンデーション」という物語の設定と簡単なあらすじです.


「ファウンデーション」は,大学や高等教育の役割と似ている


このファウンデーションの物語,昔に読んだ時は気づかなかったのですが,大学教員になってみると,アイザック・アシモフの意図するところが読めるようになってきました.

つまり,人類文明が復活するためには,知識・技術といったテクノロジーそのものの記録・保存だけでなく,その知識や技術を作り出すに至った根源である「精神」が大事だということです.

この精神が病んでいると,自分たちの脅威になるのではないかと不安になって否定したり,逆にビジネスのネタとして金儲けに使おうとしたり,妬み嫉みをはらすための破壊対象となったりするのです.

なんのことはない,現在の大学教育現場を取り巻く状況そのものです.


大学教員(学校の教師も)が,学生たちに習得してもらいたいと考えているのは,具体的な知識や技術だけではありません.
その知識や技術を解釈したり,新たに生み出すための「モノの考え方」です.

「モノの考え方の習得こそが,大学教育で最も大事なこと」については,このブログでも過去記事で繰り返し述べてきています.
そして昨今は,この「モノの考え方」よりも,具体的な知識や技術の習得を重視したがる傾向にあることへ警鐘をならしています.


もちろん,知識や技術が大事であることはたしかです.
ファウンデーションにおいても,第1ファウンデーションとして,これらを記録・保存する事業はあったのですから.
しかし,これらは卑しい思惑や意図によって,簡単に崩壊してしまいますし,強力な憎悪感情の前では為す術もなく屈服してしまいます.

ちょうど,「教育現場」に対する憎悪に似た感情を伴って進行している「大学改革」「教育改革」を彷彿させますね.


これに対抗するためには,第2ファウンデーションがミュールに対しそうしたように,「学術活動の尊さ」を世間にふりかけるしかありません.
精神的な方面から,高等教育の重要性や魅力を伝えるしかないのです.

そして,この重要性や魅力が伝われば,きっと多くの方々が「心穏やか」になることができるのです.
なんだか宗教じみた話になっていますが,実際ホントにそうなんですから.


それに,これは民族や国家を考える上でも同じことが言えると思うんです.
具体的なものよりも,その言動,振る舞い,文化を形作るに至った精神を残すことが,その国の在り方として重要だということです.

そうでなくて,ただたんに「伝統工芸だから」「伝統行事だから」「国家として重要な位置づけだから」ということで保存したがる傾向がありますが,それらに国や民族の「精神」が伴っているのか考える必要があります.

逆に,伝統と言っておけばビジネスになるとか,伝統だから・国産だから好きといったミーハーな精神で取り組んでいると,ライフスタイルや利便性から離れて独り歩きした,なんとも滑稽な「コンテンツ」として存在することになります.

あくまでも,その言動,振る舞い,文化は,「必要だから」「便利だから」「あると楽だから」といったように,生活に密着した精神から惹起されていることが大事だと思うのです.

コメント