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「焼きたてパンの大学」の続報ではありませんが,関連したことで追記です

マニュアル化した授業はヤバい,っていう話


前回の記事は,学生の満足度を高めるための戦略を「焼きたてパン」に見出したヤバい大学組織の報告でした.
続報が入ったらまた記事にします,っていうことでしたが,今回はその続報ではありません.


その話のついでに(むしろこっちがメイン)フェイスタイム対談した件です.

そのテーマを名付けるなら,
「大学の授業のマニュアル化」

このコロナ禍において,大学はオンライン授業が主体になりました.
その際,授業をマニュアル化し,課題解決作業型にすることも多かったようです.
なぜなら,その方がオンライン授業をするのに簡単だからです.
点数の付け方が明確になるし,学生の側としても,これが出来さえすれば単位の目処がつく,っていう安心感と納得感もあります.
まさに,コロナ禍のオンライン授業にもってこいの方式なのです.

でも,これがかなりヤバいよ,っていうこと.


断っておきますが,これは,教員が授業を構築するにあたって,大学当局から「実施マニュアル」が出ていることを指しているわけではありません.
また,「課題解決作業型」というのは,いわゆる「課題解決型」の授業を指しているのでもありません.

マニュアル化というのは,学生に授業の単位をとらせるにあたって,なにをすれば点数が出るのか,といった「マニュアル」が,教員側から学生に対してあることを指しています.
そして,課題解決作業型というのは,課題解決についてアレコレ考えさせるのではなく,クイズ形式の如く,課題解決作業をさせる授業のことです.
すなわち,
「この問題で10点を獲得したければ,○○を□□させておきましょう.9点は××,8点は△△・・(以下省略」
っていう感じで課題を課し,その出来栄えで評価するもの.


冒頭,こうした形式の授業が,このコロナ禍におけるオンライン授業で散見されるようになった,と述べましたが,こうした授業自体は以前からみられるものでした.

で,このマニュアル化した授業をガンガン展開しているのが,前回の記事でもある「焼きたてパンの大学」なのです.

そこに所属している教員曰く(って言うか,かつて私もその一員で取り組ませていたが),こうしたマニュアル化した授業で,学生を課題解決作業に従事させる授業の典型が,あの悪名高き,
「クソ演習」
です.

すみません,正式名称は「基礎演習」と言います.
私たちは憎しみを込めて,上記のように呼称しています.
大学によっては,「初年次ゼミ」「基礎ゼミ」「大学入門」などといった名称です.


全国津々浦々に大学はありますが,この授業を喜んでやらせている教員は少数派だと思います.
もちろん,この授業に意義を見出している教員もいるでしょうし,これで助かっている学生も一部には存在していることでしょう.

しかし,大方の学生はこの授業を「無意味」「つまらない」「無駄」と感じていますし,教員側もその教育効果を疑問視しています.

「教員であるお前らがダメだと思っているものを,なんで学生にやらせてんだよ!」
って思われるかもしれませんが,そうしろって文部科学省から指示が出ているんで仕方ありません.
やらないと注意を受けるし,運営費がもらえなくなる可能性もあります.


私が学生だった頃(2000年初頭)までは,初年次教育や「基礎演習」というのはかなりいい加減でした.
否,「良い加減」だったんです.
しかも,その授業内容も担当する教員が自由にやっていて,私がいたクラスでは,非常勤講師として来ていた旧帝大の名誉教授が受け持ってくれていました.
ご専門である「ブラックホール」について1年間延々と語ってくれたのですが,全く理解できずにほぼ全員が寝ている感じ.
でも,私を含む一部の学生は面白く聞いてましたけどね.

全国的に,どこもそんな感じだったようですね.

なお,世間知らずな私たちは後で知ったのですが,この名誉教授,世界的に著名な天体物理学の研究者でした.


ところがその後,こうした教育効果が見えない「基礎演習」はダメだということになったんです.
どうせなら,1年生が皆ちゃんとキャンパスライフを送れるようにしよう,ということで,
「授業のねらい・目的を明確」
にして,
「達成目標」
を用意して,
「評価基準を公開」
した状態でやりましょう,ってことに.

それもこれも,
「大学の授業についていけない学生がいる」
「初年次につまづいてしまった学生は,その後もずっと引きずる」
「やったこともないのに,いきなりレポートを書けとか,図書館で調べろとか,パソコンを使え,っていうのは可哀想」
という問題意識から出てきたものです.


当初は,大学も適当にやっていたようです.
しかし,「教員によって取り組む内容が違う」ということが問題視されました.
A先生はレポート指導に加えて図書館の使い方や検索方法,プレゼン技法まで教えてくれるのに,B先生はレポートの書き方と,あとはクラスで卓球しかやっていない,っていう感じで.

その一方で,B先生がやっていた卓球が意外にも「仲間づくり」とか「大学慣れ」に効果的で,中長期的に見ると実はそっちの方が大学教育に対する貢献度が高いって話になると,A先生みたいに根詰めて指導するだけが良いわけじゃない,ってことになってきます.


そんなわけで,だったら本学における「基礎演習」は,全クラス同じ内容にして,教員間で差が出ないようにしましょう,ってことになった大学が多いのです.
つまり,レポート作成にまつわる文章技法や引用方法,発表資料づくりとプレゼン技法,図書館利用法,スポーツ大会,キャンパスツアーなどなど.
そんな「1年生に効果がありそうな教育コンテンツ」の諸々を,全てのクラスが同じ内容で行ない,しかもその評価方法にも差がつかないようにマニュアル化したのです.

その結果,教員のオリジナリティや独自指導の入る余地はどんどん減っていき,学生に与える課題も「作業」のようなものになってしまいます.

さらに誤解を恐れずに言えば,もともと教員はこの「初年次教育」や「基礎演習」などの授業には積極的ではありませんでしたから,まさに「やらされている感」の強い,指導意欲の低い授業になってしまうわけです.


もっと誤解を恐れずに言ってしまえば,私が聞き及んでいる限りでは,「低偏差値」な大学ほど,初年次教育における,教員のオリジナリティや独自指導を嫌う傾向にあります.

なぜなら,そういう大学ほど「初年次教育委員」みたいなことを担当している教員が,
「本学のような大学の学生は,ゼロから教えないと出来ない奴が多いから」
ということで,全ての学生に対し「必須コンテンツ」を一律指導するよう各教員に要求するからです.
それぞれの教員のオリジナリティを出されると,「ついていけない学生」からのクレームが出てくると恐れているんです.

そういう考えに至る気持ちも分からないでもないのですが,それはちょっと学生をバカにし過ぎではないかと思うんです.
もしくは,ややニヒリスティックな感情から授業計画を立案しているのではないかと考えてしまいます.

案の定,そういう「学生をリスペクトしていない」「ニヒリスティック」な視点で考案された授業は,それはそれはつまらない授業になるのです.
実際,こういう授業を考案する担当は,授業評価アンケートで低評価されている教員がやっていたりします.

せめて,授業評価アンケートで高評価されている教員を集めて,そこで議論してもらうべきではないでしょうか?
そしたら,高評価されている教員の授業展開やエッセンスが,学内の全教員にも共有できるはずなのに.


さらに言えば,低偏差値だとされる(だいたい偏差値50以下だろうか)大学には,実はその中に結構優秀な学生が紛れ込んでいたりします.
優秀というのは,学力偏差値ではなく,教養レベルとか,基礎的知能レベルのことです.

そんな「落差の大きな学生集団」を相手に,「ゼロから教えないといけない」というスタイルで授業を展開すると,将来有望な学生の芽を摘むことになりかねません,っていうか摘んでます.
こういう学生たちこそ,自分たちが「バカにされている」ことを感じ取るからです.


だったら,基礎演習をやめろとは言わないから,せめて「ついていけない学生用セミナー」を,放課後とか早朝,昼休み等に開催すればいいのではないか? と思います.
実際,やっている大学もありますからね.
そこで,個別・ケース別に研修会を開いて,確実にできるようになるまで,そして,本人も納得できるようになるまで指導してあげればいいじゃないですか.

けど,それこそ低偏差値な大学ほどこれをやりたがりません.

なぜか?
できないはずの学生が,そういうセミナーや研修会に参加してこないからです.

どうして参加しないのか?
できなくても大丈夫だ(もしくは気にしない)からです.

なんでそうなるのか?
他の授業科目の単位取得基準が,「ついていけない学生」がギリギリ合格できる仕組みになってしまっているからです.

ところが,そういう部分を「担当委員」である教職員さんたちは無視します.
その代わりに,
「せっかくセミナーを開いても,こなきゃいけない奴ほど参加しないから,基礎演習を使って全員にやらせよう」
などと言います.

こういう学生の行動心理に無頓着で,自己欺瞞を抱えていることこそが,この人達の「授業評価アンケートが低い」ことの原因だったりするんですけどね.

ちなみに私は「授業評価アンケート」それ自体は不要だとも思っています.


今日,「焼きたてパンの大学」の先生から,この基礎演習についてこんなメールをもらいました.
ちなみにクソ演習のレポートについても○○学科(この先生が所属している学科)に限っては確実に質が低下しています.これは文章が上手とか下手の問題ではありません.読んでて3行で読む気が失せます.それだけ魅力がないのです.おそらくですが,マニュアルを忠実に行うクソ演習の目的が影響していると思います.そういう意味ではしっかりと教育効果が出ているのですよ.この演習担当の教員が皆口をそろえて言っているので恐らく間違いないでしょう.特に去年はひどかった.コクもなければキレもない,しかもほとんどの学生がその調子ですので,三島由紀夫が予想した未来とは実にこの事だったのかと思わざるを得ません.

つまり,学生が基礎演習を通して学んでいるのは,「どうすれば効率よく点数を獲得できるか」ということなんですよ.
なぜなら,基礎演習の学習目標と評価基準が,「全クラス一律」になっているから,まるでテレビゲームをやるが如く「スコア獲得課題」になっちゃうんです.

100点満点の上に,120点があることを想像できないし,500点とか800点を目指そうっていう学生は出てきません.
授業を「コスパ」で判断するようになるんです.

しかしそれは,大学教育で身に着けさせたい能力でしょうか?

そうした大学授業における課題が,このコロナ禍において如実に現れたとも言えます.
これはコロナ禍が終息すれば終わる話ではありません.
今後,さらに深刻なものとして表顕してくると考えられます.

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